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寄稿作品  作者: 采火
同人誌寄稿
23/23

おしゃれデュラハンの二足のわらじ

うねらむ企画主催

「お仕事アンソロジー -WORK WORKS-」

2025/12/1

 デュラハンとして生まれて良かったことの一つは、こうして掛け持ちで仕事ができるってこと。


「それじゃ頭、置いていくね〜」

「はーい。身体のほう、いってらっしゃい」


 私は持ち歩いていた頭をいつもの定位置である台の上に置くと、身体を慣れた調子で出かけさせた。


 目指すはお向かいの洋裁店。私の身体はそこのショーウインドウでマネキンのバイトをしているのだ!


 馬車道を危なげなく渡る身体を見送っていると、私の頭上に影が差す。


「ゼリー、お待たせ。さぁ、始めるぞ」

「待ってましたバルバラー! 今日はどんな髪型にしてくれるの」


 親友でもあり、このヘアサロンの店主でもあるエルフのバルバラが、櫛とリボンを両手に私のところへやって来た。


「今日のテーマはそうだな~」


 くるくると指先で櫛を弄びながら、バルバラは窓の向こうの洋裁店のショーウインドウへと視線を向ける。ちょうどそのタイミングでショーウインドウのロールスクリーンが上がって、モデルポーズを決めた私がお披露目された。


 本日の私のお衣装は白いワンピース。パステルブルーの糸でスカートに雪の結晶が刺繍されている。もこもこ綿毛のポンチョが温かい。首から炎のように放出されているデュラハン印の超エネルギーは、金属製のおしゃれな蓋を使って切断面を閉じることで隠しちゃう。服よりもそっちに目が行ったら意味がないからね!


 そんな私の服装を見たバルバラが、よしっと私の髪へと櫛を通し始めた。


「雪ん子イメージでいこうか。ふわふわもっこもこヘアーにしてやんよっ」

「やっほーい!」


 バルバラが流れるような手捌きで私の髪をまとめ上げていく。窓の向こうで、歩いていたお姉さんが興味深そうにこちらを見てきた。私はにっこり笑顔。


 これが私のもう一つのアルバイト。


 バルバラのヘアサロンの髪型見本として、通りに面した窓辺で通行人に愛想を振りまくのがお仕事です。


 通りのあっちでは洋裁店でマネキンしてる私。

 通りのこっちではヘアサロンのマネキンしてる私。


 そう私こそが、二足のわらじを器用にこなすおしゃれデュラハンなのです!


 この仕事の何が良いってね、着飾って愛想を振りまくだけだからとっても楽ちんだってこと。頭はにこにこ笑顔でいればいいし、身体は小道具持ってきて寸劇みたいなことしたり、見てくれる通行人に手を振ったりするだけ。これでお給料がもらえるんだから、まさに天職なんだよね!


 ただ一つだけ欠点を挙げるとしたら、たかが動くマネキンなので、薄給なことだけ。でも掛け持ちしたら生活できるくらいにはあるから充分!


 バルバラによってもっこもこヘアーにされた私は、窓の向こうを通りがかった女の子に素敵な笑顔を向けられた。私もにこにこ笑顔を振りまく。女の子は小さな手で握りこぶしを作ると、頭の上にちょこんと乗せた。わーい、おそろいだね!






 冬のわずかな日差しが窓に差し込むと、私はうとうとと眠くなってしまう。昼寝してもいいんだけど、通行人に涎を垂らした顔面を見せたくはないのでぐっと堪える。


 夏は夏で直射日光で目が焼けたり、日焼けの心配が尽きない特等席。顔だけこんがりブラウニー、身体はお向かいで日焼け対策バッチリ雪白の肌になった初めての夏は未だに笑い種だ。


 そんなヘアサロンのショーウインドウ。雪ん子ヘアスタイルの私がぼーっと通りを眺めていると、お向かいの洋裁店のショーウインドウ前で立ち止まった人を見つけた。


 ずんぐりむっくりとした、まんまる体型の女の子。髪の量が多くて猫っ毛で、パイナップルのような髪型をしている。


 じっと私の身体を見上げてくれるから、私はその子に向けてファンサする。


「可愛い? 可愛い? この服可愛いよね! 貴女も着てみてごらんよ! 試着するだけならタダ! お店の中に入っておいでー!」

「ここはヘアサロンでーす」


 私の大きな独り言にバルバラが突っ込んで、お客さんから微笑ましそうな笑い声が上がった。今日もバルバラのヘアサロンは平和です。


 しばらく洋裁店のショーウインドウを見つめていた女の子は、コートのポケットに手を突っ込むとのそのそと歩き去って行った。残念、ご縁がなかったらしい。


 洋裁店にいる私の身体はまたね〜と手を振った。手を振りながらくるりと一回転して、今度は別の通行人へとお店においでよアピールをする。手をふりふりしていたら、気になったらしい女性の二人組が洋裁店へと入っていくのが見えた。二名様、ご案なーい!


 自分の素晴らしい仕事っぷりに満足していると、窓ガラスへにっこり笑顔のバルバラが映った。


「ゼリー、お仕事の時間だ」

「はいはい、どうぞどうぞ」 

「洋裁店の仕事もいいが、こっちの仕事も忘れてもらっちゃあ困る」


 ひょいっとバルバラは私の頭を抱っこすると、お客さんの前へと運んだ。


 お客様は金色の髪が魅力的な美人さん。なんでも今日はお友達の結婚式があるから、ドレスに似合う髪型にしてほしいのだとか。


 バルバラはお客さんの要望を聞いて、髪の毛を編み編みする。出来上がると私の後頭部をお客さんへと見せて、仕上がりイメージを伝えた。


 お客さんから問題なしと言われたら、私はまた窓辺に置かれる。そうして通行人ウォッチングを再開し、目が合ったら愛嬌を振りまくのだ。


 ほんと、楽な仕事だよね!






 ここ最近、洋裁店側のショーウインドウに常連さんができた。パイナップルのような髪型をした、ずんぐりむっくりとした体型の女の子だ。


 毎日通りがかるわけではないけど、数日に一回の頻度でショーウインドウを見上げにくる。個性的な髪型だから、すぐに分かっちゃうんだよねぇ。


 パイナップルヘアーの女の子はいつもショーウインドウを見上げるだけでお店には入らない。今日こそは、と意気込んで私は身振り手振りで女の子がお店に入ってくれるように促すけど、あんまり伝わっていない気がして、今日も駄目か〜とヘアサロンの窓越しに溜め息をついた。


「ちょっと、溜め息をつかないでよ。景気が悪くなるじゃんか」

「だって〜」


 バルバラに注意されてしまった。

 また一人、お客さんを可愛く仕上げて見送ったバルバラは、床に散らばってる髪を箒で掃き始める。私はそれを窓越しに見て、やれやれともう一つおまけに溜め息をついてやった。


「バルバラだってさ? 毎日毎日、頑張っても頑張っても、やりたかったことが実らなかったらさ? 溜め息の一つや二つ、つきたくなるでしょ?」

「だからって看板マネキンが溜め息をついていたら、不景気になりそうで縁起でもないでしょーが」


 さもありなん、ごもっともで。

 仕方なく私は、愛嬌を八割増しで振りまいてやる。


「うさんくさい」

「ひどーい!」


 ああしてもこうしてもだめなんて、手のひらくるりは嫌われるんだぞー!


 ぷんすこと頬を膨らませていると、バルバラが「あっ」と声を上げた。


「ゼリー、見てみ。今あの子、お店に入っていったよ」

「えっ、うそっ! 世紀の瞬間を見逃した!」

「大げさ」


 ここ最近ずっと張り込んでいたんだよ! あの子がお店に入ってくれないかな〜って手招きしてたんだよ! バルバラには分かんないかなぁ、この気持ち!


 でもこれで、念願叶ったり! あんなに熱心にお洋服を見てくれる子だもの。きっと自分に似合う服を買ってくれるでしょう。


 これで洋裁店のマネキンとして私は達成感を得た。あとで店主に自慢してやろう。


 うきうきした気持ちでいたら、バルバラがやれやれと肩を竦めて店の奥へと消えていった。床掃除が終わったのかな。


 私の身体は誇らしそうに胸を張っている。街ゆく人たちが「何か良いことあったのかなぁ」と動くマネキンに微笑ましそうにしながら通り過ぎていく。


 そんな中。


「あるぇ? バルバラー! バルバラー!」

「なにー! お客さんがいないからって騒ぐんじゃない!」

「ラビがパイナップル女子連れてこっち来てる!」

「はぁ?」


 バルバラが店の奥から出てくるけど、同じタイミングでヘアサロンのドアベルが鳴った。


「こんにちは〜。ゼリーいる〜?」


 入ってきたのは洋裁店の店主ラビ。エプロンドレスに三角巾を頭に被っているお針子姿。三角巾から自慢の真っ白うさ耳が飛び出している。洋服は作るのが好きであって、自分で着るのは恥ずかしいタイプのうさぎ獣人だ。


 その後ろに、ちょこんとしているパイナップルヘアー女子。癖っ毛みたいでよく見たらくるんくるんと髪が跳ねている。お鼻がぷっくりしていて、手のひらが大きい。近くで見たらよく分かる、ドワーフの女の子だ。


「ラビ、どうしたんだ。ゼリーに何か用か?」

「そうなのよ〜。この子がね、ゼリーにプレゼントって」


 ラビが後ろにいたドワーフの女の子の背中を押して私たちのほうに出してきた。あの、バルバラ、窓越しに見えてはいるんですけど、私の頭も話しやすいように動かしてくれませんかねぇ……!?


 私の気持ちが通じたのか、バルバラが私の頭を百八十度回転させてくれた。よし、これでちゃんとご挨拶できるね!


「はじめまして! 私、デュラハンのゼリー! よろしくね!」

「あ、わ……っ! はじめまして……っ! ドワーフの、ナタリーです……!」


 恥ずかしそうにしながら、ナタリーが私の目の前にやって来てくれる。それからもじもじしながらも、そっと私に箱を差し出してくれた。


 なんだろう?


「これ、その……あたしが作ったんです……! 首、赤くなっていたから……」


 首?


 私はびっくりして箱の中身に視線を落とす。ナタリーが箱の蓋を開けてくれると、中にはティーポットの蓋のようなものが鎮座していた。


 表面は滑らかな乳白色で、陶器のようにつるりとしている。ナタリーがそれをひっくり返すと、裏は柔らかい布で覆われていた。


 これはまさしく、デュラハン専用の首蓋!

 しかも金属製のやつよりお肌にいいヤツ!


「わぁあああ! いいの!? 私に!?」

「その、いつも、サイズが合わなさそうで、首が痛そうだったから……」

「えー! すごいすごい! よく気づいたねー! すごいー!」


 私はばんざーい! ばんざーい! と両手をあげる。たぶん今、洋裁店のほうを見れば、ショーウインドウの内側で私の身体が一人で万歳してると思う! でも、それくらい嬉しい!


 デュラハンの首専用の蓋は市販の汎用性の高いものを使うと、私のようにサイズが合わなかったり、素材が合わなかったりで肌が荒れてしまったりすることがある。


 それなら首蓋なんてしなければいいじゃんと思うでしょう?


 でもさ、首から噴出する超エネルギーを迷惑に思う場面や人がいることも、しばしばあるわけで。


 たとえば映画館。暗くなった劇場で首から超エネルギー噴出してたら、明るくて迷惑だ。マネキンの仕事だって、首の上から超エネルギーが噴出してたら、服よりもそっちのほうに目がいっちゃうからね。


 だからやっぱり首蓋って必要で。


 市販が首に合わないなら、オーダーメイドすればいいじゃんとも思うじゃん。でも、このデュラハンにしか分からない気苦労を理解して作ってくれる小間物屋ってあんまりなくて。


 だから、まさかこんなものをプレゼントされるなんて、思っていなくて。


「嬉しい! すごく嬉しい! でも、どうしよう、私、これを貰う理由がないよっ」


 私、なんにもしていない。ナタリーに毎日お店に入って〜ってアピールしかしていない。なのにこんな素敵なもの、もらっていいの?


 申し訳なくて眉をへにょりとさせていれば、ナタリーがこくこくとすごい勢いで首を縦に振る。


「もらって、ほしいんです……! あたし、まだ駆け出しで……だからまだ無名だし、下手なモンかもしんねぇけど……」

「そんなことないと思うけどなぁ」

「ゼリーが気にしてるのは、どうしてここまでしてくれるの、ってとこだと思うよ〜」


 バルバラ、ラビ、ナイスアシスト〜!

 それ! そこです!


 私の首が痛そうだなぁって気づいてくれたことは嬉しい。だから私に痛くないような首蓋を作ってくれたのも嬉しい。でも、私とナタリーは別に知り合いでもなんでもなかった。だから貰う理由はなくて。


 ナタリーは箱を私の横に置くと、もじもじと手をすり合わせて恥ずかしそうに俯いた。


「その……ちょっと、打算もある、から」

「打算?」

「あたし、ドワーフだから。こんな、可愛い服、似合わんと思ってて……でもこれ渡したら、デュラハンさんと友達なって、可愛い服、選んでもらえるかなって……」


 ラビとバルバラと、目配せし合う。

 三人の心は一つになった。

 いじらしい〜!


「そんなこと言わなくても、私のお店来たら、いつだって選んであげるのに〜」

「髪型も可愛くしてやろうか。それだけでも印象変わるぞ」

「じゃあ私、感想言う係ー!」


 ナタリーが目を白黒させている間にも、じゃあまずはとバルバラが彼女の手を引いて行く。鏡前の椅子に座らせると、ふぁさぁっとヘアカット用ケープを被せた。


「だいぶ癖が強いね。髪の量も多いし、ちょっと漉いちゃってもいいかい?」

「へ? え? で、でも、あたし、お金なくて……!」

「ゼリーの給料から天引きしとくからいいよ」

「うむ。是非もなし」


 素敵な首蓋をくれたナタリーのためだ。ヘアカット代なんていくらでも出してあげよう!


「ふむ。紐を解くとこの長さか……先にシャンプーしようか」


 そう言うと、バルバラはごくごく自然に手のひらの上に大きな水の玉を生み出した。とっても便利、エルフの魔法だー。


「よーし、濡らすよー」

「えっ、わあ……っ」


 バルバラが水の玉を帽子のようにナタリーの頭に被せてしまう。そこに腕を突っ込んで、バルバラはナタリーの髪を洗い始めた。


「コシが強いね。ストレートにしてみる?」

「え、でも……ドワーフのあたしに、似合うとは……」


 今、こっそりとラビがヘアサロンを出ていった。


 何をしに行ったんだろうと思っている間にも、バルバラは水の玉の中にシャンプーをふりかけて、ナタリーの髪を泡々もこもこにしている。


「似合う似合わないじゃないよ。髪型は自分が好きなように選びな。似合うように仕上げるのが、私たち美容師の仕事さ」


 その通り! バルバラ、良いこと言った!


 ナタリーもそんなバルバラに後押しされたのか、ストレートパーマをかけることを選んだ。もちろん、料金は私の給料から天引きです。私のお仕事はカモられること〜。


 シャンプーが終わって綺麗に泡を落とすと、バルバラは風魔法で軽くナタリーの髪を乾かした。生乾きのままで、ナタリーの毛量を少しずつ漉いていく。


「こんなもんか。それじゃ、ストレートかけてくよ」


 バルバラが特殊な器具を手に持つ。癖っ毛を真っ直ぐにしてくれる、特殊な道具だ。魔法で器具が熱くなっているそうで、この熱で髪に圧をかけて、真っ直ぐにさせるのだとか。


 バルバラはそれをナタリーの髪の根本に少しずつ当てながら、今回の施術についてぺらぺらと語る。


「一応説明しとくけど、普通はパーマをする時、髪に薬剤をかけたりシャンプートリートメントに時間がかかるものだ。だけどうちはエルフ調合のシャンプーを使ってるもんで、時間がかからない。手抜きとかじゃないから安心しな」


 ほぇー、とナタリーが目をぱちくりしながら聞いている。エルフの特殊な調合で面倒くさい手順をすっ飛ばしていると思ってくれればいいよ。


 種族によっては時間がかからないっていうのは死活問題だ。うさぎ獣人のラビとかね。寿命が短いからね。種族的に、時間にルーズになりがちなエルフであるバルバラがこんなにも便利なものを作ったのは、友人のラビのためでもあったり。


「毛先はちょっと巻こうか。癖っ毛と巻きはよく同じだと思ってる奴もいるけど、全然違うからな。知っておくといい。おしゃれの幅が広がるぞ」


 バルバラは巧みの腕前で、ナタリーの髪の毛先を軽くウェーブさせる。それだけでもパイナップルヘアー女子だった時とは随分雰囲気が変わったけど、バルバラの腕はこれだけじゃ終わらない。


 上半分の髪をすくい取り、編み込んで、ゆるくお団子にしてしまう。すごいよ。お団子の形が薔薇のようになってるの。おっしゃれ〜!


「まだ時間があるな。これはサービスだ。化粧の仕方も教えてやろう」


 バルバラはヘアカットやパーマの道具を片付けると、今度は大きなケースに入ったメイク道具を持ってきた。もうナタリーが恐縮しっぱなしで、しどろもどろになってるけど、そんなことお構いなし。


「ドワーフって日焼けしてると思っていたんだが、ナタリーは肌が白いよな。屋内仕事だからか?」

「あ、あたしは、そう……です。粘土とかの手仕事ばかり、してて……採掘場も年中日陰で、じめってしてるから……」

「そかそか。なら、メイクはこんな感じで……」


 メイク下地だってオール・イン・ワン。エルフ調合の美容液はすごく肌にイイ。一回使ったら、もう前の化粧水とか使えない。私のお給料、この美容液にいくらつぎ込んでいることか!


「ファンデーションの色は小麦色のこれ。メイクはナチュラルにしとこうか。血色を良く見せるだけでも健康そうに見えて、第一印象は良くなる」


 あっという間にナタリーの顔が一段とトーンアップした。


 ナチュラルと言いながら、お目々はぱっちり、頬はうっすらと色づいている。唇はマットなオレンジ系のルージュを使い、はつらつと愛らしい仕上がりに。


「お待たせ〜。似合いそうな服を持ってきたよ〜」


 ドアベルを派手に鳴らしながら、ラビが帰ってきた。その腕には小花柄の布の塊がある。バルバラがヘアカット用ケープを外して、ナタリーの背中を押した。


「部屋、借りるね〜」

「どうぞー」

「あ、お店はお昼休憩に入るから、ゼリーもこっちにおいで〜」


 ラビがそう言い残して、奥の部屋に消えていく。そういうことなら、と私は身体を呼び寄せることにした。


 よっこらせっと洋裁店のショーウインドウから降りる。他のスタッフが残ってるはずだから、私の身体はそのままバルバラのヘアサロンに向かってまっすぐ歩いてくる。


 ヘアサロンのドアベルが鳴る。やぁおかえり、私の身体!


 同時に、着替えさせ終わったラビがひょっこりと部屋の奥から顔を覗かせた。


「見てみて〜、すごく可愛いの!」


 ラビがご満悦の表情で戻って来る。

 その後ろからもじもじしながらやって来たナタリーは、見違えたように可愛くなっていた。


 小花柄のロングワンピースはオフショルダーで、胸の下のところをきゅっと絞っている。体形がでにくくて、でも絞りの効果で足が長めに、スレンダーにも見える。インナーにタートルネックを着ているから、寒さもへっちゃらだね!


「やだ、可愛い〜! すごく似合ってるよ!」

「いい感じじゃねぇか。さすが私。髪型もメイクもばっちり」

「私のお洋服も可愛いでしょ〜」


 私は自分の身体に頭を持たせて、ナタリーに駆け寄る。バルバラとラビと、三人でナタリーを囲んで可愛い可愛いと持て囃した。


 ナタリーは顔から汗のエフェクトをぴっぴって出してるような感じであわあわしてる。それも可愛い。おしゃれに慣れていない初々しさがあって、見ていて楽しい。


「こ、こんな可愛いお洋服まで、いただけないて……!」

「ゼリー、天引きしてもいい〜?」

「是非もなし!」


 だろうねと思いましたよ! いいよ! 私のお金をじゃぶじゃぶ使ってよ!


「そんな、ゼリーさんに悪いで……」


 申し訳無さそうにするナタリーに、私は自分の頭を小脇に抱えて、ちっちっと指を振る。


「ナタリーのくれたプレゼントにはそれくらいの価値があるんだよ」


 オーダーメイドのデュラハン専用の首蓋は地味に高い。なぜなら、着け心地や素材、サイズにこだわると、際限がないからだ。


 それに、デュラハンの首に蓋をするなんてマニアックな小物を作ってくれる職人自体が珍しい。デュラハン界隈ではわりと深刻な話なんだけど、他の種族にはなかなか理解されなくて、酷い話だと「ティーポットの蓋でも被せておけ」とか言われることもある。


 そんなデュラハンの首蓋。それを優しさだけで作ってくれたナタリーの心に比べたら、これくらいなんて安いものだよ!


「見てみて、ナタリー。あなたが作ってくれた首蓋、ジャストフィット!」


 着け心地もバツグン! 今まで汎用のやつを適当に使っていたけど、これはもう元のに戻せなくなっちゃうね!


 にこにこ笑顔で首蓋を着用した姿をナタリーに見せれば、彼女はちょっと照れくさそうに眉をへにょりとさせていて。


「気に入ってくれたなら、嬉しい……」

「めっちゃ気に入ったよ! それでね、ナタリー。おしゃれは気に入ってくれた? ヘアメイクもお洋服も、マネキン業している私の御用達なの。もし気に入ってくれたなら、また来てくれると嬉しいな」


 ナタリーにお願いすれば、ちょっと恥ずかしそうに頷いてくれる。


「うん……また、来るで」


 よぉし、顧客ゲットだぜ!

 そして私も。


「ねぇねぇ、ナタリー。あなたの工房も教えて? ナタリーさえ良ければ、また首蓋を作って欲しいの。もちろん、今度は適正価格で! 私みたいに首蓋おしゃれに悩むデュラハンの女の子たちにも教えてあげたいの!」

「うぇえ……! でもあたし、まだ半人前で……」

「じゃあ予約しちゃう! 一人前になったら、また私に首蓋作って? そうしたら私、ナタリーのマネキンになって、首蓋の宣伝してあげるから!」


 名案でしょって言えば、ナタリーは鳩が豆鉄砲食らったようにぽかんとした。


 それから、くすくすと肩を震わせて笑って。


「こんなのにマネキンつくなんて、もったいないんね……っ」

「え〜、良いと思うけど。ラビのお店に小物の一つとして置いてもらえれば、成立すると思うんだけどな〜。どう? ラビ?」

「そこは商売だから〜。一人前になった時に、また交渉しにおいで〜。質の良いもの、需要のあるものなら歓迎だよ〜」

「需要ならいっぱいある! マネキンとして、デュラハンたちにいっぱい宣伝してあげる!」

「別に首蓋だけじゃなくても良いだろ」


 盛り上がってテンションぶち上がりかけていた私を、バルバラが止めた。私はちょっとクールダウンして、こほんと咳払いする。


 何はともあれ。


「ナタリー、私、あなたの仕事に惚れたの! だから早く一人前になってね。あなたの素敵なものを宣伝することができる日を、楽しみにしているわ!」


 素敵なものを通りがかる人に教えてあげるのが、マネキンとして働く私のお仕事。今はバルバラの素敵なヘアメイクと、ラビの素敵なお洋服だけだけど。


 いつか、首蓋だけじゃない。ナタリーの作る素敵なアクセサリーを宣伝できるようになったら、それはもっともっと素敵なことだと思うの。


 だから。


「ナタリー、自分にもっと自信を持ってね!」


 マネキンをしているとね、気がつくこともあるの。


 私を見上げても、お店に入れないような人たちは、自分に自信がないんだって。自分に自信がないから、「私になんか似合わない」と思ってお店に入れず、通り過ぎていく。


 そういう人たちこそ、お店に入ってほしい。その人に足りない自信を、私たちお店側が提供できるから。


 バルバラも、ラビも、私だって、自分に自信を持っている。自分に自信があるから、誇りを持って仕事ができるの。


「ナタリー、頑張れ。きっとすぐに一人前になれるよ。私、待ってるから。だから、一人前になったら、一緒に仕事をしようね」


 ナタリーは恥ずかしそうに頷く。

 そんなナタリーを、バルバラもラビも囲む。


「うちもドワーフの髪にあったシャンプーの開発を進めるか」

「ドワーフ向けのお洋服、もう少し種類を増やしたいかも〜」


 ほら、バルバラもラビもやる気満々!

 だから私は。


「宣伝は私に任せてよ! ドワーフのものだって着こなしてみせるから!」

「無茶言うなよ」

「さすがにねぇ」


 バルバラとラビに呆れたような顔をされるけど、私はしょげないよ! これが私の仕事の誇りだからね!


 そう言って頭を頭上に掲げて宣言したら、ナタリーが楽しそうに笑ってくれた。


「さ、そろそろ昼休憩の時間が終わる。はよランチ食べないと、食いっぱぐれるぞー」

「はっ、それは駄目ー! 食べるー!」

「ナタリーも一緒に食べよ〜。ゼリーの奢りで〜」

「えぇっ、でも」

「いーの、いーの! みんなで食べたほうがおいしいから!」


 せっかく繋がった御縁だもの。

 ナタリーの勇気と優しさに乾杯しなきゃ!


 マネキンデュラハン・ゼリー。

 午後からも元気に、お仕事頑張るよ!



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