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花月演義 ~~花月の乱~~  作者: のわ〜るRion
第5章 南街道の行軍
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41.女子兵たちの初戦闘


名も知らぬ廃村を後にする。


街道とは言え、ここから西も山道がつづき、平坦な道もあれば、ゆるやかに右にそして左に蛇行したり、上ったり下ったりの多少の坂がある。


自分たち以外、人の気配が全くなかった。

聞き慣れない奇妙な鳥の(いなな)きが聞こえ、時々小動物が飛び出してきてはすぐに森に隠れていったりする。


高みに出れば遠くの森が眼下に見えるし、低い場所では両側を森に囲まれながら進むことになる。

ただ少し離れた北側には、ずっと岩山の絶壁が続いている。


地図を見れば、この街道の南側は木が覆っている、深い森の様相が描かれており、その先には切り立った断崖が描かれている。その先は海だ。


街道の北側には岩壁が描かれている。

実際に見える景色のとおりだ。


不思議なのは、その上に湖があるように描かれている事だ。

真偽は定かではない。

エヴェリエの地は、聖なる湖を頂く、という逸話があるにはある…

だけど、あの岩壁の上が湖、というのは、ちょっと信じられない話だ…。


だが今は、北も南も関係ない。この勾配のある湾曲した山道を、ただ進んでいくしかないのだ。


この程度の裏街道は、そもそも石畳などは敷かれていない。

土の地面は均されていはいる…、のだけど、雑草が蔓延(はびこ)っていたり、枯れ葉が散って積もっていたりする…


木の根が侵食してきて凹凸ができていたり、馬でもゆっくりしか進めないところがある。

もし道を防ぐ倒木などがあると、それを片付けなければならず面倒である。


深まった(わだち)(はま)ったりしたら、馬車が動かなくなる。

悪くすると、荷馬車が動かないのに進もうとした馬が横転して怪我をしてしまう事もあるのだ。


そのへんは、慎重に行くしかない…。


この道は、二台の馬車が並んで走るには充分な幅はある。

対向馬車が来ても、すれちがいに何ら問題はない…のだけど、馬車どころか、人っ子ひとり出会わない…。



定期的に休憩を取って、馬を休め、荷車の状態も確認する。

多くの荷物を積む帰路には、もっと慎重に状態を確認しながら進む必要がありそうだ。


アルテミシアは月船を出し、垂直に浮き上がって周囲の様子を伺っている。

特に変哲のない森の山道が続いている…。


今日、襲撃があることは予想がついている。

どこで襲撃されるか、というのも、予想はついていた。





~~ 今朝、出発前の全体ミーティングにて ~~


全員を前にして、クレージュがまず最初に告げた。


「今日、恐らく襲撃があるわ」


その言葉を受けて、六人の女の子に緊張が走った。

フローレン、アルテミシア、ユーミは平常だ。わかっていた様子だ。


この、時には優れた料理人であり、時には才気あふれる商人であり、時には優しい母のようであり、今は冷徹な指揮官であるところの女性は、重たい胸を組んだ両手で抱えるようにしながら、説明を続けた。


襲われる場所には、ある程度の予想がつく。


「まず第一に、二つの廃村の間。つまり今から行く道がそう」


この街道を旅する者は、距離的に考えて、必ず廃村の中で野営をする事になるだろう。

その野営の時には火を(おこ)す。

遠目から見張っていても、日中なら煙でわかるし、夜だと火が目立つ。

だから山賊がその廃村を見張って、エモノを吟味している可能性が高い。



「昨晩あの村で火を焚いてたからね…見に来てたんじゃあない? まあ別にいいけど」

フローレンには、見張られている気配が、なんとなくわかっていた。


「いっぱい、きてたね」

感覚の鋭いユーミは、離れた闇の中から、人が自分たちを(うかが)っていたのに気づいていた。


「様子を見に来ていたのは、正確には、四人、ね♪」

昨晩、アルテミシアは馬車と()き火の周辺に警戒結界を張っていた。

でも実はその外側に、もう一段弱い感知結界を張っていたのだ。

それは…


《領域測量》エリア・サーヴェイング 

  中心点から半径百(メートル)を測量領域に指定、

  人間のみを感知、人数の計数(カウント)のみ施行


人数を数えるくらいしかできない探知魔法だけど、実は使い道がかなり多い。

本来は魔法装置に込めて、人の出入りや人数を探知する使い方が覆い。


この三人の余裕ぶりを見て、女の子たちも少し落ち着いた感はあった。



「そして第二に、きつい上り坂の続く場所」


襲撃するなら、上り勾配の大きい場所を選んで来るだろう。

登り坂で馬車を停止させれば、そこから駆けて上がらせるのは難しい。

馬車で走り抜けて、突破させない為にそうするのだ。

荷を多く積んでいればなおさら、坂を駆け抜けるのは困難になる。


これが平坦な道が続くだけなら、障害物で道を塞ぐ手も考えられるだろう。

だが、これだけ坂の多い地形なら、わざわざそんな手間のかかる事は必要ない。


だから、西行きと東行きでは、襲撃する場所が変わる事になる。

こちらから見て、登り坂に当たる場所だ…





山道をゆっくりと進んでいく…


前の馬車を御するユーミが、ぴくっと何かに反応したような素振りを見せた。


アルテミシアも反応した。

「鳥の声が止んだわね♪」

はるか後ろからは聞こえてくる。鳥の声が聞こえないのは、主に前方からだ。



眼の前には、やや勾配のある登り坂がある。


フローレンが馬の歩をあわせ、後ろの馬車も、横に並んだ。

「いよいよね…」


鳥の()たない森に、伏兵あり。鳥が鳴かないのも同じことだ。

そこには鳥はいない。人が潜んでいるからだ。


《反応感知》センス・リアクション


「えっと…生命反応…前方を中心に…、主に森の中に…三十…」


「多いわね…」

クレージュが少し心配そうに言った。

こなせない数、というわけではない。

女の子や馬が、攻撃を受けるかもしれない事に不安があるのだ。




「あのねー…隠れてないで、出てきたら?」


フローレンが呼びかけた。

感づかれた、と悟った山賊どもが… 左右の木々の間から次々に姿を現す…

その数は…十と五…いや、二十、三十…


アルテミシアが感知した予想人数全員が森から姿を現した様子だった。

という事は…

森の中から弓でこちらを狙う者は、おそらくいない。


物資を奪うのが目的だからだ。

奴らの考える“物資”には、荷物も、馬も、そして女の子たちも含まれている。

だったら、馬や女の子を傷つけないように、弓は使わない、といったところだ。


というような事を、フローレンも、アルテミシアも、クレージュも、一瞬で判断した。

女相手だと、相手が油断してくれているのが、かえってこちらには遣りやすいのだ。


実のところ、往路で山賊をあぶり出しておきたい、という意図がある。

荷の多い帰り道の事を考えると、面倒事は先に片付けておきたい。



ミミア、メメリ、キューチェの三人娘が、恐れ気味に武器を取り出していた。

自分で身を守れるようになりたい、って言って、フローレンの厳しい稽古にもついてきている。

…とは言っても、最近まで村や町の娘だったのが、いきなり実戦に入るのだ。

それは怖い事だろう。


いい武器をもらったと言っても、実際に斬り合いをした事はない訳だし、守りのアクセサリをもらったと言っても、実際に攻撃を受けてみた事もないのだ。

“兵士意識LV1”とやらがなければ、今頃は震えて抱き合っているだろう…


ネージェとディアン、普段から気の強い女の子たちも、恐る恐る、剣を出して構えていた。


どの子も、手が震えている。

一人だけ、ショコールの兵士だった流水髪のチアノだけはまだ冷静な様子だけど、やっぱりここに来てからの実戦は初めてで、緊張は隠せていない。しかも海歌族(セイレーン)は船上や水中の戦いが主で、陸上での戦いはあまり経験がないはずだ。


「自分と、自分たちの身を守れば充分よ。訓練を思い出して。

 倒すのはあたし達がやるから!」

フローレンが言うように、敵の数を順に減らしていく間、女の子たちには自分に来る分だけは()なしてもらわなければならない。

緊張ながらの女の子たちが、みんな頷いた。


「それと、戦いはまだよ。一旦武器はしまって、今はしっかり馬車に(つか)まっていて。あとはクレージュの指揮に従って」

そしてユーミとアルテミシアに目配せをした。

ユーミには下に目線を落とすように、アルテミシアには街道の先を示すように、それぞれ視線を送る。

目のあったクレージュを含め、三人は即座にうなずいた。


このフローレンの声掛けと目配せだけでだけで、他の三人は戦術を理解していた。


ユーミが馬車を下りた。

続いてフローレンも馬車を下りた。

馬車は二台とも、御者がいない状態になっている。すぐには動かせない、ように見える。


坂の中腹に現れた、この中のリーダーらしい下衆(ゲス)な男の前に進み出た。

大きな下衆(ゲス)が、子分の下衆(ゲス)を左右に従え、下衆(ゲス)が三人並んでいる。


「おお! こりゃあまた…!」

「キレーでエロいネーチャンだなぁ~」

「揃ってどこへいくんだ~い? ウヘッ、ウヘッ…」


こいつらは、フローレンたちが馬車を下りたことで、降参したものだと思いこんでいる、哀れな連中だった。


(はぁ…)

フローレンは目を閉じ軽くため息をつく。

フローレンはこういう手合は嫌いだ。大嫌いだ。生理的に嫌いだ。



フローレンは、自分なら一人で全員相手にしても余る、という気がしている。

アルテミシアもユーミも、クレージュですらそう思っているだろう。

つまり、自分たち高レベルな冒険者にとっては、そんな程度の相手だ。


中央のリーダーらしい小汚い下衆(ゲス)大男が、フローレンの前に進み出てきた。

周りの連中に比べると、少しは腕が立つ感じはある。


「ねーちゃん、ええ胸しとるなぁ~ ウヘッ、ウヘッ

 あんたもうちとこ遊びに来ねぇかぁ~? ウヘッ、ウヘッ」


ゲスな男共の中心にいる、一番ゲスな男が、ゲスな笑いを浮かべながら、ゲスな声で、ゲスな事を言っている…。ボサボサの(ヒゲ)、ガタガタな歯、ニオう息…見た目も中身も、すべてが醜い。


可憐な花妖精(フェアリエ)のフローレンは、こういう下衆(ゲス)男がムリだ。

虫酸(ムシズ)が走る。

そのゲスな声音も、ゲスな口調も、ゲスな文言も、耳が聞くことを拒否している。


ただ、次の一言は聞き捨てならなかった。



「昨日も三人捕まえたんだぜぇ? ウヘッ、ウヘッ」

下衆(ゲス)の極み男は、楽しそうにそう言った。


「なんですって!!?」

フローレンは怒りが湧き上がるのを覚えた。


「いやぁ、もう、どれもいい娘でよぉ、ウヘッ、ウヘッ、

 それで俺のゴツいのを入れてやr…」

そう自慢気に話すゲスに、フローレンが音もなくそっと近づいていた。


我慢の限界、というやつだ…

一瞬、(オレンジ)色の花の幻が横一閃、輝いた。


「もう黙って頂戴」


静かになった。

そしてよく喋っていた下衆(ゲス)な首だけが、

ウヘッ?とゲス笑いを残しながら、地面に落ちた。


フローレンはいきなり出した花園の剣(シャンゼリーゼ)で、いきなり()ねた。


裸みたいな格好をした可憐な乙女が、武器も持たずにいたら、まあ普通は油断する。

この下衆のリーダーは、まあまあの腕があったのだけど、この可憐な乙女が凄腕の剣士だという事を想像できなかったのが運の尽きだ…



燃えるような橙色の幻花は、フローレンが怒りの感情にある事を示している。

そのまま同じ橙色の花の軌跡がもう二閃、

両隣にいたゲスな手下(右)とゲスな手下(左)が、同時に崩れて地に伏した。

その突然の光景に、周囲の山賊共のゲスな笑いが凍りついた。


フローレンは汚らわしそうに、花園の剣についた血を振り払う。


それが開戦の合図となった。



それと同時にアルテミシアの魔法が完成している。


<<身体強化>>フィジカルストレングセン

  → 効果時間を三十秒に設定、残り効果時間を威力に還元


馬たちの身体が大きく、屈強になる。

それも、この魔法のいつも以上に。


それと同時にクレージュとアルテミシアが馬を駆けさせた。

いつの間にか、この二人は御者台に乗っていた。


フローレンが素早く横に移動し、道を開けた。

「行って!」


強化された馬が、事もなく坂道を駆け上がる。

馬車は、上りの坂道を物ともせず、一気に駆け上がった。

大きくなった馬は、前に立っていた賊どもを、文字通り蹴散らし、そして駆け抜ける。



戦いはまず、初手で相手の意表を突く事だ。


山賊たちは、馬車を上り坂で足止めできるものと思いこんでいる。

その山賊たちの向こう側に駆け抜ける事は、連中の想定の外だろう。


包囲陣形を取っていたにもかかわらず突破された事で、山賊たちは片側に集まる形になった。完全に動揺が走っているのがわかる。


フローレンが、立ちすくんでいる右手の敵に斬りかかった。

ユーミは既に左で暴れている…。





上り坂を越えた場所で、クレージュとアルテミシアが馬車を止めた。

フローレンやユーミと離れすぎるのも危険だ。あまり先走ると、この先に山賊が控えていた場合、女の子たちを守る事に不安がある。

それに、馬たちの強化魔法はもう切れている。強化の反動で馬たちはちょっと疲れている感じだ。


後方から、十人以上が、こちらを追ってきていた。



クレージュは荷台から飛び降りた。

東方ドレスの(すそ)(ひるがえ)り、生の脚とその中の布地がちょっと見え隠れする。


「いくわよ!」

敵を引き付けるように、クレージュが真ん前に進み出た。

女の子たちも次々に荷台を飛び降りる。


「まず、身を守りなさい! 絶対に、死なないこと! できるわね!?」

「了解!」「ええ!」「もちろん!」 「「「はい! マム!」」」

女の子たちの気合の返事が響いた。


「支援をお願いね、アルテミシア」

「まかせておいて♪」


《防護盾》プロテクションシールド


八人の身体を、光の幕が覆い、そして消える。

アクセサリの守りを含めて、防御力がかなり上がった。

そう大きな傷をもらう事はないだろう。


アルテミシアだけは荷台の上だ。

ここから魔法で支援する。

実は同時に、馬車の前方や左右の森も魔法の感知で警戒しているのだ。

今のところそちらには人の反応はない。



クレージュは敵を迎え撃つように、ゆっくりと剣の鞘を払った。


と、いきなり、向かってくる敵の半数が、転んだ。

土の地面が、いきなり泥濘(ぬかるみ)と化したのだ。


《地面泥濘化》アース・マッドライズ


アルテミシアのよく使う魔法だ。

人間を含め、足で地に立つ生き物は、足元を崩されるとまともに活動できない。

いきなり地面が(ドロ)と化し、膝まで泥に絡まれた山賊たちは、戦うどころか、まともに歩く事すらできない。

当然、クレージュたちの所まで来ることすらできない。

泥濘から抜け出すにも時間がかかるのだ。



半数がドロにハマった。これで人数は等しくなった。


だが、向かってくる山賊たちの中に、二人、強そうなのがいる。

真ん中にいる長身の隻眼の男と、その隣の服装も髪型も派手な男だ。


戦闘終了までは書いたのですが、ちょっと長くなりましたので中断。残りは明日…

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