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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第二部 第四章 北の大地、北の国。
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光れ、闇夜の音石!!!  前編

コトハたちが『船運び』屋に着いてからの話の続きです。

 

♪♪♪


 すごく気持ち悪い。


 目の前には霧なんてもんじゃない、黒くってその⋯⋯なんて言ったらいいんだろう、ぐずぐずに崩した紙粘土に、黒い絵の具を染み込ませたような? そんなザワザワっとした感じの、重たい空気が広がっていたの。私ほどじゃないけど、お父さんもマイヤさんも気持ち悪そうにしていたんだけど、ロンロさんたち騎士隊の人たちはただ顔をしかめている感じだった。もしかして『力持ち』じゃない人には、このまとわりつくような気持ち悪さや、流れてくる悪臭(それも(きたな)らしくって(けが)らわしい)が分からないのかもしれない。


 お師匠様(おじいちゃんって、本人は呼ばれたいみたいだけど)が、私たちに注意するよう声をかけた後、お父さんがポーチさんからタロットカードを取り出した。あ、ポーチさんの色が、とっても危険だって赤くなってる!


『フミアキよ、わしとコトハを除いた者を護るよう地に、残り全ての絵札を撒くのじゃ。心配は要らぬ、()く!』


 お父さんは私とお師匠様から目線を外して、両手に包み込むようにしていたカードを急いでシャッフルしながら、力を込めた声を上げる。


(みち)を創り、(みち)へと導く生命の樹よ。この場にて今、守護結界を形為(かたちな)せ!』


 お父さんの声が辺りに響いて、続けてシャフルされたカードが光っているのが判った。なんだか⋯⋯お父さんすごいよ!? むかあし、お父さんが占いをしていたところに行ったことがあったけど、その時にはこんな風にならなかったし、こんなに神秘的じゃなかった。やっぱりここって魔法の世界なんだって改めて思っちゃった。ま、こっちでは魔法って言わないで、『繋がる力』だけどね。


 自分の身を守るように、カード一枚一枚が薄く、まるで膜を張るように光っている。その色合いは私が作る音石の黄色と違って、少し青みがかった緑色をしていた。


 お父さんは手に持った、その緑色に光るカードを高く放り上げた。


 パアッ! っと空中に放り上げられたカードは、春先の緑みたいな鮮やかな軌跡を描いて、あっちこっちに広がっていった。まるで元々自分の場所が決まってるみたいに、めいめいがぶつからないで飛んでいって、ロンロさんたち騎士隊やフォーヘンド様、ファスタくんの周りを囲むようにして地面に落ちる。汚れたりしないのかな、緑色の光が汚れを防いでくれるといいな。


 みんなの周りを、ぐるっと囲むようにカードたちが場所を決めたのと同時に、青みがかった緑色のオーロラみたいな膜が出来上がるのが判った。みんなにもおんなじように見えてるのかな? どうぞみんなが、危ない目に遭いませんように。


『コトハ。気をそらさずに、これよりわしの言いし(ことわり)に耳を傾けるのじゃ。よいな? そなたも感じておろうが、この禍々しさは尋常ではない。どうやらあ奴めは、救いようのない悪行を犯したようなのじゃ』


 お師匠様は、カードの中に描かれているお月様を、とっても辛そうな横顔で見つめながら、そう私に言った。


『かつて……あ奴の本身は、二度と現世に戻れぬよう清浄なる炎にて燃し、灰をも厳重に封印したのじゃ。この現世においてはの、()()()()『力』の行使には、心身のみでは自ずと限界を生じてしまうものでな。であるからしてあ奴には、現世でもう二度とは無体な真似をさせずに済んだはずだったんじゃ』


 気のせいかな、あの気持ち悪いゾーンって人? のことをお師匠様は、今でも気にしてる……ううん、気にかけてるような口っぷりで話していたの。さっきまで辛そうな横顔を見せていたお師匠様。今はキッと、前に広がっている黒い霧をにらみつけている。その霧は、さっきよりも濃さが増してる感じがする。ところどころ人の形みたいに固まりだして……


『じゃがな。その折に奴の心身を取り逃がしてしまっての、今となっては慚愧(ざんき)の念に堪えんことじゃ。その上、そなたのおった国で、あ奴を捕らえらなんだのも深く恥じ入るばかり』


 ここまで話を聞いているうちに、固まりだした霧のいくつかが、私たちの方に向かってぎこちなく進み出した。その動きはものすごおく(いびつ)で苦しげで、お父さんが作った護りのオーロラよりも外にいる、生身の私には堪えきれないくらいの痛みを放っていた。


『……どうやらそなたらの世でわしを封じた()()との繋がりを、あ奴め、深しうしたようじゃな。さもなくば、これほどまで操ることは出来んはずじゃ』


 何のことを言ってるんだろう、お師匠様は、顔つきをさっきよりももっと厳しくさせて言う。


『闇の使いじゃよ。これほどまでに多くを、また、より闇色に染めるのは至難の業。禁忌である以前にあ奴めのみでは造り得なんだ。むう……出てくるぞい、コトハ、心せい!』


 そう言ってお師匠様は、手に持っていた杖を高く持ち上げて声高らかに言葉をつむいだ。


『我が護りの色。光と闇の混ざりし色。紡がれし糸は此処にあり。始原より生れし尊き色よ、抑えよ!』


 お師匠様が描かれているカードから、紫色の光がキラキラと広がりだした。と~っても(きよ)らかで、(きよ)い色だ。そう言えば紫色って、高貴な人が着る服だったりに使われる色だよね。私も何気なく言葉に出して、今となってはもうお馴染みの黄色を使ってる? けど、このいろんな色には意味があるみたいだよね。あのゾーンが言ってた『始原の色』って言い方、なんだか意味深だけどどういうことなのかな。まだまだ全然分からないことだらけ。


 ほんの少しの間気持ちが離れているだけだったのに、黒い影のかたまりたちはずっと人っぽくなっていた。ズズッ、ズズッって霧から引きはがれるように私たちの方に近づいてくる。よおく見てみるとその影の人たちは、手に手におんなじような色の黒い黒い⋯⋯武器だよね、あれ。ロンロさんやフォーヘンド様が構えてる剣みたいな形や、長い棒みたいなものも。あれはたぶん槍ってやつだよね、騎士隊にもおんなじものを持ってる人がいたから。んんっ、って言うことはもしかして? 私がいやあな予感を感じていたら、ロンロさんがとっても辛そうな声で、その影たちにしゃべりかけた。


「お前、サーリか? そうだろ、なあサーリ! 一体どうしたっていうんだ、お前。確か先発して様子を見にきていたはずだよな?」


 他にも見知った隊員の人たちみたいだったのか、ロンロさんは一人一人に声をかけていたんだけど、誰からも返事が帰ってくることはなくって、それどころか私たちの方に持っている武器を構えてきたの!


『呼びかけようが詮無いことじゃ。この者共は、既に死に取り込まれておる。残念じゃがもう戻れぬし、負の面の者がわしらを見逃すべくもなし』


 ギリっと歯ぎしりする音が聞こえてくる。さっきよりももっと実体化した影の人たち、『闇の使い』になってしまった仲間だった人たち。


 まただ。こないだは初めは全然関係のない、知らない人たちだったけど、セントアちゃんのお母さんもいたんだ。はっきり言おう、自分で殺した人たちを、あのゾーンってやつは無理やり悪い形で生き返らせてるんだ。本人の意思も、周りの人たちの悲しみも、いっさいがっさい無視して。踏みにじって。


 許せない。



 お師匠様の放った紫色の『力』に足止めされて、闇の使いになってしまった人たちが近づけないでいる。カードの中のお師匠様は、前に突き出している杖をよっぽど強く握っているのか、ローブから覗く手が震えているのが見て取れた。


 そうしているうちに霧の奥からあいつの、あの気持ち悪い私を心底怒らせているやつの声が聞こえてきた。でも前と違って、その声は少しだけ高く、前よりもいやらしい感じが増してる気がする。


「んぬふふふはああっ!! 良いな良いな、今少しで馴染みそうだわい! どおれ闇の使い共よ、かように細い色に難儀するでないわ。仕方ないのお、此の身が打ち消してくれようほどに」


 そう言って霧の中からにゅって出てきた手が、持っている黒いもの⋯⋯気味の悪い黒いクリスタルみたいな、光る石をさらに突き出してきて、お師匠様の作った紫の膜に触れる。

 その瞬間、ものすごい勢いで黒いクリスタルが紫色の膜を吸い出した。

もう一方の話は、後編の後で繋がってきます。

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