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神授のアサシン ~ジョブが人生を決める世界で、誰も知らないジョブを授かった~  作者: 茜 南峰


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プロローグ 「世界を救ってください」

初めまして、茜南峰(あかめ なお)と申します。

今作が初めての小説投稿になります。

暇つぶしにでも、のんびり読んでいただけたら嬉しいです。


それでは、本編スタートです。

 死ぬ瞬間って、どんな感じなんだろう。


 そんなことを、俺、赤西凛《あかにしりん》は昔考えたことがある。


 これまでの人生が走馬灯のように蘇るとか、大切な人の顔が最後に浮かぶとか、死にたくないと泣き叫ぶとか。あるいは案外あっさりと、受け入れられるとか。


 考えたところで答えなんて出ないだろう。死んだことがないのだから当然だ。


 だから凛は、いつか自分が死ぬ時になれば、その答えが分かるのだろうと思っていた。

 思っていたんだけどな 。 。 。


 結論から言えば――分からなかった。

 死を理解するより先に、凛の人生は終わったからだ。


 ―✧―◇―✧―


「…………どこだ、ここ」


 凛の前に広がっていたのは、果ての見えない 白 だった。


 足の裏には確かな感触があり、凛は何もない白の上に立っている。身体を確かめてみても、痛みも傷もなかった。


 その違和感をきっかけに、途切れていた記憶がゆっくりと蘇ってきた。


 休日、柳木健太《やなぎけんた》と永川奏馬《ながかわそうま》と三人で出かけていたこと。

 この二人は、いわゆる幼馴染ってやつだ。

 特別な予定がなくても誰かが声をかければ自然と集まる、そんな関係だった。


『三人揃ったら?』

『とりあえず飯』

『そのあと考える』


 子供の頃から何度も繰り返してきた、意味のない合言葉。その日も三人でそんなくだらないやり取りをしながら地下街を歩いていた。


 そこから先は一瞬だった。


 突然の大きな揺れとともに照明が消え、地下街の通路が崩れ始めた。


 地震ーー。


 凛たちは非常灯を頼りに走った。途中で転んだ人を奏馬が起こし、閉まりかけていた防火扉を健太が近くに落ちていた鉄製の棒で固定する。


 凛は薄暗い通路の先から響いてくる音に耳を澄ませながら、進めそうな道を探した。


 なぜかは分からない。ただ、右から聞こえた小さな軋みを耳にした瞬間、そちらへ行ってはいけないという感覚が全身を巡った。


 途中で健太の脚が瓦礫に挟まれた。奏馬が健太を背負い、凛も反対側から肩を貸した。出口へ続く光は見えていたものの、頭上から聞こえる軋みは明らかに普通ではなかった。


 凛一人なら今からでも走れば助かるだろう。それでも、健太と奏馬を置いていくという選択肢は浮かばなかった。


 その時だった。崩落音も悲鳴も、突然遠くなった。暗闇の奥に、誰かが立っていた。


 そこにいたのは、黒い外套をまとったような影。人間なのかどうかさえ分からないその姿の中で、ただ一つの眼だけが、はっきりと凛を見ていた。


『……それでも、三人で行くのか』


 変な感覚、耳から聞こえた声ではないような。それでも、何を問われているのかだけは分かった気がした。


「当たり前だろ。こいつら置いていけるかよ」


 その直後、頭上から巨大な影が落ちてきた。


 ―✧―◇―✧―


「凛?」


 不意に聞き慣れた声がして、凛は勢いよく振り返った。


「健太!?」


 そこには柳木健太が立っていた。瓦礫に挟まれていたはずの脚にも傷はない、服に汚れすら残っていない。


「脚、大丈夫なのか?」

「何ともない。凛も……無事って言っていいのか、これ」

「俺にも分かんない」


 それでも知っている顔がいるだけで、胸の奥に張りついていた不安がわずかに和らいだ。そしてもう一人も、すぐに現れた。


「おーい! 二人とも!」


 遠くから走ってきた奏馬は、凛と健太を見つけるなり大きく息を吐いた。


「良かった……! マジで良かった! っていうか、ここどこ? 俺たち助かったの?」

「それが分からない」

「健太も?」

「何も」

「役に立たないな」

「帰っていい?」

「帰れるなら俺も連れてって」


 こんな場所でも、三人で交わす会話はいつも通りだった。そのことに少しだけ安心した、だが最後の記憶まで戻ってきた今、ただ喜んでいるわけにもいかない。


 凛は二人の顔を見てから、頭の中に浮かんでいた言葉をそのまま口にした。


「……俺たち、死んだんじゃない?」


 奏馬の表情から笑みが消える。


「やっぱ凛もそう思う?」

「俺も同じこと考えてた」


 健太も否定しなかった。あの崩落から三人とも無傷で生還したとは考えにくい。それ以前に、果てまで真っ白なこの空間が現実のどこかだとは、とても思えなかった。


「ようこそ、お越しくださいました」


 突然聞こえた声に、三人は揃って振り返った。つい先ほどまで何もなかったはずの場所に、一人の女性が静かに立っている。


 腰まで届く白銀の髪に、白を基調とした衣。透き通るような肌と整った顔立ちは、現実離れした美しさを感じさせた。けれど凛が最初に目を奪われたのは、その容姿ではない。


 若い女性にしか見えないその姿とは裏腹に、瞳の奥には、遥かに長い時を見続けてきた者だけが持つような静けさが宿っていた。


「……あなたは?」

「あなた方の世界の言葉を借りるのであれば、女神と呼ばれる存在です」


 あまりにも突拍子のない答えだった。だが、この白い空間と自分たちの状態を考えれば、笑い飛ばすこともできない。


「俺たちは、死んだんですか?」


 凛が尋ねると、女神は静かに頷いた。


「はい。あなた方三人は、先ほどの事故で命を落としました」


 予想していた答えだった。それでも、はっきりと言葉にされると胸の奥へ重いものが沈んでいく。もう、元いた世界には帰れない。家族にも、知人にも会えない。その意味を一度に理解することはできなかった。


「……俺たちが助けた人たちは?」

「生きています」

「そっか……」


 それだけ聞くと、奏馬は小さく息を吐いた。健太も少しだけ表情を緩める。凛も同じだった。少なくとも、最後まで三人で動いたことを後悔する必要はないらしい。


「それで、死んだ俺たちをどうしてここに?」


 健太の問いに、女神は三人を順番に見つめた。


「お願いがあります。あなた方には別の世界で新しい生命を与えます。そして、その世界を救っていただきたいのです」

「……異世界転生?」


 奏馬が思わず口にすると、女神は静かに頷いた。


「あなた方の世界では、そのように呼ぶのですね」


 死んだと思えば、今度は別の世界で人生をやり直すという。あまりにも現実離れした話に凛の理解は追いつかなかったが、それ以上に気になる言葉があった。


「世界を救うって、何からですか?」

「……その原因までは、私にも分かりません」


 三人の間に短い沈黙が落ちる。


「分からないのに、救ってほしいんですか?」

「分かっていることは一つだけです。その世界は今、少しずつ悪へ傾き始めています」


 悪へ傾く。魔王が現れたでも、戦争が始まるでもない。妙に曖昧なのに、なぜか耳に残る言葉だった。


「その『悪』が何なのかも?」

「まだ分かりません。それが人なのか、国なのか、思想なのか、それ以外の何かなのか。ただ、このままでは世界の均衡が大きく崩れていく。それだけは確かです」

「神様なのに、自分で見に行けないんですか?」

「神には、神であるがゆえにできないことがあります。私たちは人の世界へ自由に降り、好きなように干渉することができません」


 女神はそこで一度言葉を切り、静かに続けた。


「ですから、まずはあなた方自身の目で、その世界を見ていただきたいのです」


 凛は、その言い方にわずかな違和感を覚えた。世界を救ってほしいと言ったはずなのに、今度は世界を見てほしいと言ったからだ。


「じゃあ、今ここで『絶対に救います』って約束する必要はないんですよね?」

「はい。これは命令ではありません」


 凛は健太と奏馬を見る。知らない世界の正義を、何も知らない自分たちが決めることなどできない。誰が悪いのか、何を救うべきなのかも分からないのなら、まず知るしかない。


「だったら、まず見ます。その世界を見て、そこにいる人たちを知って、それから俺たちなりに考えます」

「……はい。それで構いません」


 女神はほんの少しだけ、安心したように見えた。


「でも、どうして俺たち三人なんです?」


 健太が尋ねると、女神はすぐには答えなかった。


「あなた方三人なら、届く可能性があるからです」

「どこに?」

「今は、それ以上お伝えすることができません。ただ――一人では届かない場所があります」


 凛には、その意味が分からなかった。それでも「三人」という言葉だけが妙に引っかかり、頭の片隅に残った。


「もう一つ。あなた方が向かう世界では、人は十六歳になると神から《ジョブ》を授けられます。その者の資質や可能性に形を与え、成長を助けるものです」

「俺たちにも?」

「ええ」

「何になるかは教えてくれない?」

「それを、私からお伝えすることはできません」


「……私から?」


 凛がその言葉を聞き返した瞬間、三人の足元から白い光が溢れ出した。


「えっ、何これ!?」

「転生の時間です」

「急すぎない!?」


 身体が足元から光へ溶けていく。その時になって、凛は肝心なことを確認していなかったと気づいた。


「三人とも同じ場所に転生するんですよね!?」

「同じ世界へ転生します」

「世界じゃなくて場所!」


 女神から答えは返ってこなかった。


「凛!」


 健太の声に顔を向けると、二人の身体もすでに光に包まれていた。


「向こうで探す!」

「分かった!」

「絶対また会うからな!」

「お前も探せよ!」

「当たり前だろ!」


 視界が白く染まっていく。


「絶対、また三人で会おう!」


 二人の返事が聞こえ、その姿が光の中へ消えていった。


 意識が途切れる直前、凛は白い世界のさらに奥に、一瞬だけ黒いものを見た。事故の最後に見たものと同じ影だった。暗闇の中で、ただ一つの眼が凛を見つめている。


『見てこい』


 低い声が頭の中へ響いた。


『そして――帰ってこい』


 意味を尋ねる暇もなく、凛の意識は完全に途切れた。


 ―✧―◇―✧―


 最初に感じたのは寒さだった。次に眩しさを感じ、身体を動かそうとして違和感に気づく。腕が異様に短く、指にもまともに力が入らない。それどころか、首さえ自分の思い通りには動かなかった。声を出そうと口を開く。


「おぎゃあ! おぎゃあ!」


 自分の口から響いた泣き声に、凛の思考が止まった。もう一度試してみても、聞こえてきたのは言葉ではなく、赤ん坊の泣き声だった。本当に転生したらしい。


 誰かの腕に抱き上げられ、温かな胸元へ抱き寄せられる。まだよく見えない視界の向こうで、女性が涙を浮かべていた。


「……アカメ」


 聞いたことのない名前だった。


「アカメ……私たちの子」


 その隣から、低い男の声が聞こえる。


「ああ。アカメ・オルディンだ」


 赤西凛ではない。アカメ・オルディン。それが、この世界で生きていく自分の新しい名前らしい。


 すぐに健太と奏馬の顔が浮かんだ。どこに生まれたのかは分からない。同じ国なのか、同じ町なのか、それどころか同じ大陸にいるのかさえ分からなかった。


 それでも、探すと約束した。なら、いつか必ず見つける。もう一度三人で会って、この世界を見る。女神の言った『悪』とは何なのか。


 なぜ自分たち三人が選ばれたのか。そして、あの黒い影は何者なのか。


 何も知らないのなら、これから知ればいい。


 この時のアカメは、まだ何も知らなかった。この世界では、十六歳で授かる《ジョブ》が人の可能性を示すだけのものではなく、その名と価値によって周囲の見る目が変わり、ときには人生そのものまで左右されることを。


 そして十六年後、自分自身が誰も知らない《ジョブ》を授かることになるなど、この時はまだ知る由もなかった。

読んでいただき、ありがとうございました! 


ここからアカメたち三人の物語が始まります。


少しでも「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価をしていただけると、とても励みになります!


次話もよろしくお願いいたします。

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