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01-5

「死」とは何かを知らぬとは、


「暇だなー…」

ルカは机の傍に置いてあったクッションに腰かけ、体を左右にのんびりと揺らしながら呟いた。

元々自分たちの住んでいた家だ。ついつい気が緩んでしまう。

「(兄さん、今日はいつにも増して機嫌悪かったし)」

記石の光に包まれている兄を見つめながら、ルカはその理由を考えてみる。


元々「慎一郎」と呼んでいたにも関わらず、兄はある日を境に、自分と同じ「おっさん」呼びをするようになった。

「(慎一郎って呼ぶのが恥ずかしくなったとか?それなら面白いかも!()()()()()()()()()()()目の前で問い詰めてやろう!)」

そうこう考えているうちに、セオを包んでいた光が消える。

どうやら一通りの作業を終えたようだ。


「おかえり兄さん!どうだっ…た…」

セオは黙りこくったまま、その場を動かないでいる。俯き、前髪で隠れているせいで、顔がよく見えない。

「え、どうしたの?どこか痛いの?」

そう言いながら触れようとするルカの手を、セオは軽くあしらう。

「…っ何でもない…大丈夫だから…」

「!」


―――いいかいルカ。セオが「大丈夫」と呟いたら、それは―――


振り払ってきたセオの手を、ルカはもう一度掴む。

「それ、『ダイジョウブ』じゃないときに言うやつだよね?おっさんが言ってた」

「…」

「ねえ兄さん、何を見たのさ?僕にも」

「…ま」

「え、」


今度は強くルカの手を振り払い、セオは叫ぶ。

「今!!あいつのことを話すなよ!!!!!」

涙。セオの顔は、これでもかというほどの大量の涙で濡れていた。セオのそんな姿を初めて見たルカは思わず固まってしまう。

「え、えっどうしたの兄さん…?」

「うるさい!!!どうして…どうしてっ…!!」

セオには、これがルカへの八つ当たりだと分かっていた。慎一郎への、何より自分への怒りを、ただルカにぶつけているだけだと。

ルカには何が何だかさっぱりだったものの、しばらく話しかけない方がいい気がして、セオが落ち着くまで、ただ彼の手を軽く握り続けた。


昔、転んで膝を擦りむいて泣くルカに、慎一郎がそうしたように。



「…何を見たか分かんないけどさ、そんなに悪い物だったの…?」

ようやく落ち着いたセオに、ルカが恐る恐る尋ねる。

「…いや、そんなんじゃないさ。ただの海の記憶だった」

鼻をすすりながらセオは答える。

「…え?」

あまりにも意外な返答に、ルカは目を見開き気の抜けた声を出した。

「てっきりショッキングなものでも見たのかと思った…なんでそれで泣いたの?海が綺麗だったから??」

「それは…」

どう答えれば良いか、どこから伝えればいいのか、セオは考える。

今まで自らの胸中などルカに話したことはなかったから。


「…てっきり俺たちの記憶だと思ったんだ」

「僕たちの?」

「ああ…きっと、()()()は俺たちのことが邪魔で、その記憶を消そうとするんじゃないかって、そう…思って…」

「えー!そんなわけないじゃん!なんでそんなこと考えちゃうかなー?」

「…だって、海に行けって俺たちのこと追い出して…」

「あれは追い出したんじゃなくて、行ってきなみたいな感じだったじゃん!兄さん考えすぎー!」

あはは!と言って笑うルカに純粋に疑問を感じ、セオは問いかける。

「…なんでお前は、そんなにあっけらかんとしてるんだよ…」

「え?なんで?」

「なんでって…!慎一郎はもう死んだんだぞ…もう会えないんだ…!なのに、」

「だから、なんで?」

「……は?」

あまりにも会話が嚙み合わず、セオはただただ困惑する。

「だっておっさんが昔言ってたよ?『死ぬ』っていうのは遠くに行っちゃうって意味だって。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

ね!と笑うルカに、ルカは絶句し、そして気づく。


「(そうか…こいつには、()()()()()()()()()()()()()())」


死生観というものは、生きていく上で身に着いていくものである。

そもそもの気質もあるだろうが、セオはそれが身に着くのが常人よりも早く、ルカは遅かった。

それだけの違いではある。しかし、ことこの場面において、それはある種の残酷さを引き立てているように、セオには感じられた。


ルカには「死」が分からない。


「(今まで気づかなかった。…じゃあ、ルカが記石を回収できないのも、ひょっとして…)」

「それより兄さん、記石、早く回収しよ!」

「え、……ああ」

色々言いたいことはあったが、今伝えたところで、きっとルカには分からない。

そう判断し、ひとまず諸々の感情を飲み込み深く息を整えてから、セオは再び記石に目を向ける。

記石は変わらずそこに存在していたが、色が抜け、透明なガラスの石のようなものに変化している。これが作業が完了した証なのだ。

あとはこれを持ち帰るだけである。


「あれ?石の横になんか置いてあるね」

「あ?本当だな」

先ほどは石にしか目が行っていなかったが、その横に、くたびれた青い封筒が置いてあることにルカが気づく。いつも見ている茶封筒ではないので、恐らく慎一郎が残したものだろうと二人は判断する。

セオが手に取り、中身を確認する。

「これって…」

「なに?何が入ってるの兄さん??」

封筒の中身を見たままなんともいえない顔をするセオを不思議に思い、ルカも中身を確認する。

「お金??」

そう、入っていたのはお金である。しかも…

「多分、ここの家賃だろうな…」

「それって、おばさんが言ってたやつ!」

先ほどの大家の発言からして、払われていなかった家賃二カ月分だろう。わざわざここに置いておくとは。

「(まるで、俺たちがここに戻ってくることを分かってたみたいだな。しかも、自分がいなくなった後に)」

カイキシャについて、セオやルカが知ることは少ない。彼らがどんなタイミングで海に還ることを選ぶのか、そもそも記石をどのように残していくのか、回収装置の存在を知っているのか…任務をこなしているとはいえ、彼らにとってはまだまだ謎の多い領域なのだ。


慎一郎はどこまで理解していたのだろうか。

ふとそんなことをセオは考える。もう考えたって仕方がないのに。

「あれ?」

「どうしたの兄さん?」

「金とは別に、なんか紙が入ってる」

セオはお札を取り出し、折られた紙を手に取る。


「…ははっ!」

いきなり笑い出すセオに、ルカは驚き、訝しげに見つめる。

「え…どうしたのさ兄さん、怖いよ…」

「お前も見るか?」

苦笑いをするセオが、ルカに紙を見せる。


『どうか健やかに』


紙には一言、そう書かれていた。

「あはは!もう、おっさんったら僕たちの心配ばっかしてー!」

「いや、大家も入ってるかもだぜ」

「確かにそうかも!!」

下らない映画でも見た後かのように、二人は笑う。普段どこかぼーっとしている不器用な男。でも考えなしではない男。そんな男が、死の直前で願うのが、よりにもよってこちらの健康とは。

もっと伝えておくべきこと、言うべきことはたくさんあるだろうに。


「あーもう本当に…なんで…なんだよもう…」

呆れたように、でもどこか安心したように、セオは頭を抱える。

ぐるぐる考えていた自分が、随分と馬鹿らしく思えた。慎一郎がどう思っていたかなんて、とっくに分かり切っていたはずなのに。

「…慎一郎、俺たちのこと大事すぎんだろ…」

「あったりまえじゃん何言ってんのさ!変な兄さん!!」

そう言ってまた笑う弟を、この時ばかりはどこか羨ましく感じる。


欲しかった答えを、セオはようやっと得られたような気がした。

お疲れ様です。柏田です。

ようやっと一個着地出来たような気がします。

恐らく01は次で終わるので、02の方も楽しみにしていただければと思います。


…はい、セオとルカの容姿出ませんでしたね。お約束通りここに書きます!書いちゃいます!!

出来れば本編に挟みたかったのですが…反省…


セオ

ぽわぽわ髪、ふわっとしてる

黒髪

きりっとした目元。深い青色

気だるげ


ルカ

黒髪(気持ち茶色?)日に当たると茶色っぽくみえる

柔らかさを感じる目。深い青色

可愛い自覚ありそう(偏見)


二人とも全身黒の服(軍服や学生服のようなイメージ)

黒に近い灰色の外套

白手袋

帽子(学生帽っぽい)は被ったり被らなかったり気分 


…ざっとこんな感じです。これ容姿の説明って言えるのか…?

何となくのイメージだけでも掴んでいただけると嬉しいです。


いつも見てくださっている皆様本当にありがとうございます。

本当に励みになっております。

引き続き見て頂けますと幸いです。


次回へ続く。

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