025 戦闘終了 サンクト防衛戦
アクション文芸、日間2位になってました!(一瞬)
皆さまありがとうごさいます!
これからも頑張って書いて行きますね(^^)/
※章タイトル、地味に変更してます。
「何だったんだ……? 今のは……魔術で良いのか……?」
「……恐らくは」
突如、虚空へと浮かび上がった魔物の大群。
その全ては空の一点へと吸い集められると、その身を絞られ、潰れていってしまった。
頭上で展開された非現実的な光景に呆けた様に口を開け、嘘の様に快晴な空を見上げるディンハルト。
隣に立つキルツは対照的に、曇り顔をしながら口を開く。
「ハインリヒ=セイファートの仕業でしょうね……」
「――ハインリヒ!」
「うお! びっくりした!?」
名を出した瞬間、パッと顔を明るくするクロード=ディ=リアネス。
突然の彼の声に驚くディンハルト。
「ハインリヒがさっきの現象を起こしたのか!?」
「まぁ……状況的に、彼がやったと見るのが妥当かと……」
丘に陣取ったハインリヒ達の姿を回想しながら、キルツは自身の予想を口に出す。噎せ返りそうなマナをその身に集中させ、自身に言葉を返しながらも無詠唱魔術を次々に展開していく手腕は、魔術の申し子である兄・レイド=レヴァノフが畏敬を持つに足る者だと納得していた。
「凄いな……」
「……」
うっとりとした様な顔で、無邪気な感想を零すクロード。
キルツとしては、彼ほど真っ直ぐにハインリヒを評価する気には成れなかった。幼い頃からの兄との確執。そして、そんな兄に評価されているハインリヒへの嫉妬が、キルツを意固地にさせる。
喜ぶクロードの様子を見たガルシアは、肩を竦めて息を吐いた。
その顔は、自身の背後を歩くアルマナへと振り返る。
「元はお前が連れて来た男だろう? 改めて、どういう人間だ?」
「どう、と言われても……」
問われたアルマナは困り顔で返答に窮する。
ガルシアの問いは余りに大雑把で、形容し難いのだ。
アルマナとしても、ハインリヒとは短くはない付き合いではあるが、その実力を間近にしたのはレシィとの一戦のみ。
他は素人目にも手を抜いていると分かる様なものばかりなので、正直、参考にはならない。
人間としては……主観が入り過ぎてしまう。
此方はハインリヒの問題というよりは、アルマナの問題。
そして、彼女はそんな感想をガルシアに聞かせる趣味は無かった。
だから、アルマナはこう答える。
「見れば分るでしょう?」
「む?」
「只者じゃない男よ」
「……」
言われたガルシアは、前を歩くクロードの様子を見ながら、納得したように深く頷いた。
冷たい兄だと思っていた。兄妹としての接点は余りない。政治的に割り切った性格をした、軟弱な男。それが、クロード=ディ=リアネスの印象。ガルシアはそれを決して勘違いだとは思ってはいない。
だが――全てを見てはいなかったと。
ガルシアは同時に反省もしていた。
『死んで欲しいだなんて、一度だって思った事はないッ!!!』
――そうだな。確かにそうだ。
――兄弟として、家族として歪な関係であったのは事実。王位を競い合う敵であるのも事実。だが、俺達は互いを殺し合いたいと思った事は一度もなかった。それだけが――救いだったのだ。
あの言葉は、クロードが元々持っていたものだと思っている。
それを引き出したのは、ハインリヒで間違いないとガルシアは――否、この場にいる全員は確信していた。
「確かに、只者ではないな」
一人の王子を変えた男。言葉にすればそれだけの事かと思われるかも知れないが、ガルシアとアルマナの二人は己を鑑みて、その難しさを理解していた。
「ん?……何をこそこそとやっているんだか……どうやら、弟妹達は短い時間で随分様子が変わったみたいだな?」
『……』
二人の様子に気が付いたクロードが、そう言って輪の中に入ってくる。呆れた様な表情は一瞬。深く息を吐いたガルシア・アルマナの両名は互いの顔を見合わせながら――
『――お前(貴方)が言うな!』
同時のツッコミを、二人で叫ぶ。
未だ仲良くとまでは行かないまでも、王族達の互いの蟠りは改善されつつある様だった。
「……ディン。後で良いですか?」
「キルツ?」
王族達の注意が逸れている隙に、キルツはさり気なくディンハルトへと近付き、彼へと耳打ちをする。
「今回の件で重要な話がある……」
「……」
キルツの様子にただならぬ気配を感じたディンハルトは、頷きだけを返して会話を打ち切り、前を向いた。
その視線は知らず、予見の王女・アルマナへと向く。
「……あの女」
兄を守る為、魔物の前に飛び出したアルマナ。
その目に怯えは無かった。
あるのは、決意を秘めた瞳のみ。
「……」
――ディンハルト=シーザーは、目が離せなかった。
◆
「よお、お疲れ。どうやら終わったみたいだぜ?」
担いだ大剣を地に刺し降ろしながら、自身を助太刀した女生徒・カルナ=サヴァンへと向き直るルーシー=スカイバーン。
「お前も、ハインリヒの仲間か?」
凍てつく様な眼光で、問い掛ける紫髪のカルナ。第一印象から、悪い奴ではないと感じたルーシーだが、それでも、ハインリヒとの関係性は分からない。
――念の為、ぼかしておくか。
「さぁ……どう見る?」
「どうでも」
その冷たい反応に「ハッ」と笑いながら、ルーシーは胸の谷間から煙草の箱を取り出し、そこから一本を口に咥えた。
「……あ」
スカートのポケットを弄り、硬直。水着に着替えた時に、火種を取り出していたの思い出す。所在無げに指をパタパタと開いていると、何かを察したカルナが仕方ないとばかりに己のポケットを弄った。
「……ほら、使え」
「!」
ルーシーへと、持っていたマッチ箱を投げて渡すカルナ。
「……学生なのに吸うのか?」
若干、呆れを含ませた声色でルーシーは彼女へと問うも「まさか」と言いながら、カルナは首を横に振る。
「冗談。脂ぎった大人を相手に使っているだけだ」
脂ぎった大人。何だかそっちの発言の方が喫煙よりもやばい様な気がしたのだが……面倒臭くなったルーシーは、それには触れず、
「ま、あんがとよ」
軽く礼を言ってマッチ棒を擦り、煙草へと火を着けた。
一息で大きく吸った白煙が、彼女の唇からスーッと吹かれる。
「……ルーシー=スカイバーンだ。お前は?」
「カルナ=サヴァン」
「二本の短剣使い……その名は覚えておくよ」
「……」
「学生にしとくにゃ、惜しい腕だった……」
無言のまま、その場を後にするカルナ。
取り残されたルーシーは、切り刻んだ魔物の残骸に視線を落とす。
「アタシ一人じゃ、守れなかったな……」
ガシガシと頭を掻きながら、一人愚痴る。
己の愛剣ディーパー・エッジに不満がある訳ではない。
だが、多対一の戦いで手数が足りなかった事も事実だと、彼女は殊更に内省していた。今回の戦い、我神団の中で己が役割を果たせなかったのは自分だけだと、ハインリヒの各所への報告で気付いたからだ。
「少し、やり方を考えねぇとな……」
彼女が二本目のマッチに火を着けたのは、呟きと同時であった。
◆
「引力の魔法か……? 凄まじいなハインリヒ=セイファート」
空を見上げながら、ロア=ハーレスは呟く。一体どの様な術理を使ったのか、教員である彼女ですら見当も付かない様だった。
人や物を識別し魔物のみを吸い込む魔術。しかし、その死体は地上に残されているというのだから、頭を捻らずにいられないだろう。
――魔物の出すマナを検知して、引っ張った?
言うは易いが、それを行うには島全域を効果範囲として把握していなければ出来ない芸当だ。それも浅くではなく、深く。島の人口の一人一人。個人を判別出来る程の高度な演算が必要になるだろう。
考えてから、ロアは思わず身震いをしてしまう。
ハインリヒの起こした芸当。その奇跡的な技量にどれほどの者が気が付いているのやらと、彼女は周囲の教員を嘲る様に薄く笑った。
「……」
そんな彼女を、クルス=オーグメントはじっと睨んでいた。
言い訳など無用。
その瞳には、言葉に出さずともそう書かれていた。
――そこいらの教師よりも、ずっと優秀だ。
目の前の愚直な生徒に内心で好意を寄せながら、ロアは向けられた視線へと対応する。
「睨むなよクルス君。教師とは言え、私だって女性なんだ。そう強い目で見られたら――少し傷付く」
「……ッ、お、俺は……ッ!」
「……クッ」
しどろもどろになるクルスの反応を見て、思わず吹き出すロア。
自身が揶揄われた事に気が付くと、クルスは顔を赤面させながら、より一層彼女に対して詰め寄った。
「……何故、学院の教師が聖剣を所持している? 生徒の入学は許しても、教団の王国への直接介入は禁止されている筈だぞ?」
「ああ、政教分離? あんな建前、君は本気で信じているのかい?」
「……ッ!」
馬鹿にされた様に感じたのか、クルスは一瞬、顔を顰める。そんな彼の様子にロアは少し申し訳なく感じてしまう。
彼が悪いのではない。政治が悪いのだ。
神に仕える者が金権主義者を操るとは、それこそ冒涜だろうと彼女としては考えていた。
だから――少し話を変える。
「……熱くなるなよ。君が私に告白してくれた日の事を思い出すじゃないか」
「――な、何をッ!? ……い、いや! その手はもう食わん!!」
戸惑っている時点で食っているのだが……クルスはその事については必死で見ないフリをした。
微笑するロア。
「あの日の返事、今してあげようか?」
「――ッ、や、やめ……」
詰め寄っていた筈が、いつの間にか攻守が逆転してしまったと、クルスは感じた。何処まで言っても自分は手玉かと、惚れた弱味をこうでもかと痛感してしまう。
顔を近付けるロアと、目を背けるクルス。
「――う?」
クルスの耳元で小さく何かを囁き、踵を返してその場から去っていくロア=ハーレス。
「……」
耳元を抑えながら、去っていくロアの後ろ姿を見送るクルス。
暫くソレを呆然と見詰めながら、彼は他の教師と同様に、同級生の待つ施設の方へと戻るのであった。




