021 砂浜SIDE:狼と見習い兵士
ジャンル別日間4位記念。自分にしては頑張ったね更新(*'ω'*)
沢山の感想ありがとうございます(*ノωノ)
嬉しくて執筆速度が上がる上がる。
これからも面白い物語が書けるよう頑張っていきます(^^)/
「オラオラッ!! 神童ディンハルトの剣の錆になりやがれッ!!」
砂浜にて――飛び交う中型の羽付き甲蟲の背に飛び乗り、ディンハルト=シーザーは己が聖剣・エシュロンを突き刺していく。
甲蟲型の魔物が息絶え、地に落ち始めた瞬間に、別の標的へと飛び、同じ様に処理していく。
「おお……流石、七聖剣!」
危なげの無い彼の戦闘に、つい先程まで苦戦を強いられていた教師陣は思わず賞賛の声を上げる。
「……ったりめーだろが」
地に降り、蟲に剣を突き刺しながら、ディンハルトは小声で零す。
苛立ちの原因は頼りない大人に対してだろうか? 付着した魔物の血による不快感か? どれもそうと言えば正しいのかも知れないが、ディンハルトは納得しない。
「逃げ遅れてる奴が多すぎる……」
――あれほど時間があったというのに、何をしてやがった?
――余裕をこいて良いのは、強者だけだろうが。
「ディンハルト、後ろだッ!!」
「!」
注意力が散漫になっていた所為か、ディンハルトは魔物の接近に気付くのが遅れてしまう。
愚図な教師共。もっと早く忠告しろと自分勝手な事を思いながら、接近した魔物に振り返ったディンハルトは、その巨体に思わず目を見開いた。
――デカッ、速ッ。
御立派な角を頭部に生やした、五メイル程の巨体を持つ甲蟲。
ヨロイビートルと呼ばれる魔物がディンハルトへと飛び掛かる。
――隙を見せ過ぎた。
――回避不能。
人の倍以上の巨体から繰り出されるぶちかましは、ディンハルトに取っても脅威である。
死にはしなくとも、骨は折れ、身体はひしゃげるだろう。
多数を相手取る戦闘でソレは、致命的であった。
「――」
迫りくる魔物の姿を視認した刹那の世界で、ディンハルトは冷静に平静に思考する。
――あーあ。やらかした。
――このまま大人しくダメージを食う訳にもいかねぇし。
――仕方ねぇ――『抜く』か。
ディンハルトが己が聖剣を握る手に力を入れた瞬間――
――黒銀の影が、彼の目の前へと飛び込んできた。
「なッ!?」
――死にてぇのか、コイツ!?
飛び出したのは、短パンの水着を履いた青いサングラスの火傷顔の男であった。男は不敵に笑みを浮かべると、左手をポケットに突っ込んだまま、突進する魔物に右手を翳した。
「――馬鹿かッ!?」
思わず、ディンハルトは叫ぶ。
その立ち位置、間違いなく自身を庇う意図であった。
自己犠牲か何かか?
どちらにせよ、見ず知らずの者にされても迷惑以外の何物でもない。
――七聖剣のディンハルトを知らないのか?
――こんな不意打ち。俺にとっては危機ですらない。
勘違いした男が勝手に死ぬというのならば、ディンハルトはそれを悔いには思わない。この瞬間――そう決めた。
だが――訪れた現実は、彼の予想の斜め上を行く。
「軽りぃな」
「――」
男は、ヨロイビートルの巨体を片手で受け止めていた。
一歩も動かず、1セイルも押し出されずに、男は顔の火傷から幽鬼の様な蒼い焔を昇らせる。
「燃えろ――エンゲージ・フレア」
焔はヨロイビートルに燃え移り、甲殻の隙間へと蒼い火炎が侵略していく。苦しみに腹を晒し、六本足を踠かせる甲蟲。
焔を纏った男は、その場から大きく跳躍すると、蒼い焔を右拳へと集約させ、螺旋の様に渦巻くソレをヨロイビートルの角へと叩き込む。
直撃した瞬間――爆散する甲蟲。
「うッ!?」
吹き荒ぶ風に視界を覆われながら、ディンハルトは風の勢いが弱まった所で、目を庇った手を退ける。
「……何なんだ、あの野郎」
内実は違うと言い張るだろうが、状況的にディンハルトは助けられた。だと言うのに、男はソレを振り返らず、次々と新しい魔物を標的にし、戦闘を繰り返していた。
「我神団――ハインリヒの仲間の一人だ……それにしても強い。何という戦闘力だ……」
「ハインリヒ……?」
もう安全と見たのだろう。
近付いて来たクロードに聞かされた言葉に、ディンハルトは少し遅れて不快感を抱く。
「皆さん! こっちです!! 早く避難を!!」
声を張り上げ、近付く小型の魔物を切り伏せながら、住民達を誘導する短髪の青年。
目立たないが、手際は良い。こういった魔物の処理を日常的にやってきたという事が、見て取れる振舞いだった。
――奴も、我神団とやらか?
「ここはもう、彼等に任せて平気だろう。先を急ごう」
「……ああ」
我神団――その名を口の中で転がしながら、ディンハルトは先を行くクロードの後を追うのだった。
◆
「ハイン~、エーテル液の御代わり持ってきたよ~♪」
「……。……ああ、助かる……」
魔物がサンクトへと上陸してから、かれこれ三十分は経つ。
学生達の避難誘導は思ったよりも順調だ。
問題は観光客や島の住民達だろう。
避難に難航するとは思っていたが、それぞれバラけたまま逃げ惑うグループがいくつも出ている。
俺自身――常人よりはマナの貯蔵量は多いと自負しているが、それでもやはり他種族には負ける。
無属性魔術を用いて上手くマナを節約しているが、それでも島全体をカバーするとなると全く持って足りない。
「……」
俺は持ち込まれた木のテーブル……そこに置かれた思った以上の大量のエーテル瓶に視線をやりながら、ごくりと唾を飲み込んだ。
――持つのか、俺の胃袋?
これから否応なく行わなければいけない暴飲の予感に、俺は知らず冷たい汗を額から流した。
「ハイン~?」
「どうしたハインリヒ、飲まないのか?」
「……ハインリヒ君?」
「――」
――くッ! ええいままよッ!!
俺はぎゅっと力強く目を瞑り、エーテル瓶の蓋を取り、中のエーテル液をぐいっと喉に流し込む。
やった。
やってしまった。
もう止められんぞ、この流れ。
「おお! 良い飲みっぷり!」
黙れ、くそッ!
ゴクゴクと喉を鳴らしながら液体を飲んでいくと、体内のマナが急速に補充されていく感覚を味わう。
よし、よし、――よし。
体内に充満する『力』の気配に満足を覚えた頃、蟲型の魔物の一匹が此方へと飛んでくるのに気が付く。
「ちょ、あれ!!」
「こっち向かってきてるッ!?」
周囲の生徒が騒ぐ中、レイドの奴が静かに一歩、前に出る。
あの程度、レイドならば造作も無いだろう。
意識を割く必要もない。
俺がそう思ったその時――
煌めく斬撃が魔物を襲い、その体躯を中空で三分割させる。
飛び散る体液が近くへ飛び、悲鳴を漏らす女子生徒。
斬撃の主は昨日見た顔――七聖剣のキルツ=レヴァノフ。
地面へと降り立った彼は此方へと向き直ると、大量に置かれたエーテル瓶を一瞥し、眉を顰める。
「……こんな所で、何をやっている?」
此方へと静かに詰問するキルツ。
「見れば分かるだろう?」
「ん……?」
俺の言葉に、キルツは表情を曇らせる。
何か自身に見落としがあるのだろうかと、思案している顔だ。
「――見物だ」
「……」
言った瞬間、面白いくらいに顔を歪ませるキルツ。
全く、冗談の通じない奴だ。
「うわッ!!」
「――何の光ィッ!?」
俺達がそんなやり取りをしていると、周囲から光の柱が降り注ぐ。
これは、光の第六魔法『ホーリー・アーク』か……。
断末魔を上げながら、柱に貫かれた魔物達が消滅していく。
第五位階よりも上の高度な魔術――振り返らなくとも分かる。
術者はレイドだろう。
マナが多いからと言って、無駄撃ちをしているな。
あの程度の魔物ならば、第三魔法でも余裕で対処出来たろうに。
内心で俺がそう思っていると。
「相変わらずトロい弟ですね……」
「なッ――レイド=レヴァノフッ!?」
「……」
驚くキルツに構わず、レイドは俺の隣にやってくる。
「どうでしたか先生? 今の僕の魔術は?」
「んー、50点」
「ッ! ……ありがとうございます。精進します!」
「うむ」
偉そうに腕を組みながら頷く俺と、生真面目に返答するレイド。
俺達のやり取りを見たキルツは、ますます混乱する。
「……何だこの茶番は? 何故ハインリヒとレイドが一緒にいる? ……此処で何をしているんだ!? 先程からのマナ異常はお前達が原因か!?」
頭を抱えながら、叫ぶキルツ。
「……相変わらず、察しが悪いですねぇ……問えば答えが返ってくるとでも思っているのなら、それは甘えという他ない。そう言った所が万年2位の原因だと、何故分からない?」
「――ッ!」
うわぁ……言い過ぎぃ……。
辛辣なレイドの言葉に、キルツは拳を握りしめて歯噛みする。
最近思ったんだが、レイドの奴は近親者には厳しいのかもな。
可哀想に……ぐうの音も出ないじゃん。キルツ。
「……学院を辞め、お前はハインリヒの所へ行ったのか……?」
「えぇ。先生と共にいるのは、低レベルな連中に混ざるよりも遥かに有意義ですからね」
「……」
言って、ウィンクを飛ばしながら俺へと何かをアピールするレイド。
いや、この状況でヨイショされても全然嬉しくないから。
「ハインリヒ……セイファート……ッ!!」
「――」
――ほら、何か恨まれてるじゃん!?
あーくそッ!!
頭を抱えたくなる欲求を我慢し、俺はキルツへと補足する。
「我神団という傭兵団を作っていてな。レイドはそこの団員だ。で、今俺達は、島全域を監視しながら魔術による住民の避難防衛を進めている。大量のエーテル瓶はその為だ」
「……」
「お前はこんな所で何をやってるんだよ?」
問い返すと、キルツは渋々といった体で俺へと状況を説明する。
「七聖剣のアーサー、マチュア、ゲインズ、ガフの四人の行方が掴めなくなった。今はディンハルトとそれを追っている最中で、不審なマナの流れを感知したから、私だけ此方へと先行した形だ」
「成程。七聖剣がねぇ……」
って言っても、俺は連中とそこまで関わった事は無いんだけどな。
四人が行方不明ねぇ。どうにもキナ臭い。
実は、今回の魔物の異常発生に絡んでたりしてな。
まぁ、憶測だ。
証拠も無しに今考える事でもないか。
……成績発表時に居た連中の、マナの波長を思い出すか。
確か、あの時あそこに居た七聖剣は、っと――
「あ」
「どうした?」
「ルディンの隣に一人いたな」
「何!? ――誰だ!?」
「確か――ガフ=コフィンと言ったか? そいつの居場所だったら分かる。今、地図を見せてやるよ」
「……」
言って、俺は懐から取り出した地図をテーブルに広げ、島の中の一つの施設へと指を差す。
「此処だ。さっき、金章組のルディンと一緒に此処に迎えと指示を出したから、この場所に行けば合流出来るぞ」
「……確かな情報なんだな?」
「先生を疑っているのですか?」
いや、話が拗れるから。レイド、お前は混ざってくるな。
「――こればかりは、信じてくれとしか言えないな」
「……」
言うと、キルツは暫し考えながら、地図から顔を上げた。
完全に信じた訳ではないだろう。
だが、その価値はあるかもしれない。
そういった顔をしているな――分かり易い。
「ディンと合流し、すぐに向かう。君達は――」
「騒ぎが治まるまでは此処にいるさ」
「……そうか。教えられてばかりではフェアじゃない。念の為、私が知った情報も君に渡そう」
「?」
キルツはそう言うと、とんでもない爆弾を落として、この場から立ち去っていった。
「チッ……」
思わず、舌打ちする。
アルマナとガルシアが行方不明だと……?
一体何をやってるんだか……。
「先生……探しに行きますか?」
「……いや」
そんな事をすれば、他の場所で死人が出てしまう。
俺は深く息を吐きながら、マナの探知をより精密にしていく。
現在の島の人口は約8000人。
やってやれない事はない……か?
苦笑いをしながら、地図を睨む俺。
エーテル液、一気飲みは覚悟しないとな……。
次の更新は来週予定。




