014 成績発表~接触、教団七聖剣~
前話の誤字報告ありがとうございました!
本当、アホみたいな誤字で申し訳ない( ;∀;)
いつもめちゃめちゃ助かってます(*ノωノ)
※今週分です。
「――で、何やってんだよ、お前ら?」
「ふみぃ!」
後ろからキッチェの頬っぺたを延ばしながら、立てられたパラソルの下で寛ぐ面々に向かって、俺は言ってやる。
「そりゃ、様子を見に来たに決まってんだろう? 思ったより馴染んでんじゃねぇか。……少し安心したぜ?」
「……安心?」
「隊長は普通とは違いますからね。そういった意味ですよ」
ルーシーの言葉を補足する様に、グエンが横から口を出す。
「学院生活はどうですか、先生? あまりの低レベルさに嫌気が差していませんか?」
「いや、これが案外楽しくてな……」
「そ、そんな……ッ!」
俺の言葉に、がっくりと項垂れるレイド。
例え嫌気が差していたとしても、これも仕事だし、そう簡単にポンペイには戻れないと思うけどなぁ……。
「……へッ、化物みてぇに強えぇ団長さんも、中身は年相応なガキだったって訳だ」
「そういうお前は、何だってそんなにくたびれてるんだ?」
団扇をパタパタと仰ぎながら、シートの上に横たわるファング。
コイツ、一応火属性の獣人だったよな?
何でこんなに暑さに弱いんだよ。
そういった疑問を口にする俺へ、ファングの奴は汗だくのままかったるそうに返答する。
「自分で出した炎は熱くねぇんだよ……」
つまり元々は普通に暑がりだったと。
まぁそういう事らしい。
「ふぇえ、ふぁ、ふぁいん……」
「んん?」
頬っぺたを引っ張ていたキッチェから、何やら抗議の様な声が聞こえたきたので、俺は視線を下に向ける。
「……」
そこには、たわわに実った胸があった。
いつの間にこんなに大きく……。
思わずごくりと生唾を飲み込んでしまった辺りで、キッチェの視線に気付いた俺は、奴の頬から手を離してしまう。
「ううう、酷いよ~ハイン~ッ!」
「う、うるさい! 恥を搔かされた罰だ!!」
言いながら俺は、胸を見ていた事に気付かれぬ様、そっぽを向く。
「イチャイチャしちゃってまぁ……」
背後から投げられる、ルーシーの呆れた声。
くそ、うるさい外野だ。
「ま、丁度良いや……団長」
「うん? ――っと!」
ルーシーから、投げられた硝子瓶を片手で受け取る俺。
これは……日焼け止めの油か?
「そうして突っ立てるのも暇だろう? ちょっと塗ってくれよ」
「は!? ……俺がか!?」
驚愕する俺に構わず、シートの上へゴロリと寝転がるルーシー。
「他に誰がいるんだよ? ファングの奴は雑そうだし、グエンには断られた。レイドは……何か頼みたくない。ほら、残る面子でいったらお前しかいねぇだろう?」
「――キッチェがおるだろうがッ!!」
「?」
俺のツッコミに首を傾げるキッチェ。
大分正論を吐いたつもりではあるのだが、ルーシーの奴は構いやしない。
「いいからいいから……はーやーく!」
「ぐっ、解せん――何だこの扱いッ!?」
頑固なままに自分の都合を押し通そうとするルーシーに、俺は渋々近付いていく。
「……」
しかし、なんつーか……改めてみると大人だよなぁ。
白い肌に、艶めかしい曲線を描く背中を見詰めながら、俺は思わず目が釘付けになってしまう。
硝子瓶を傾け、中身の油を手に出していく。
意外と、ひんやりとしているものだ。
「んっ……」
「……」
腰の部分に油を塗ると、ルーシーは籠った声を上げた。
肌に触れる油の冷気が擽ったいのだろう。
臀部には……触れない方が良いのだろうか?
腰から背中へと手を滑らせて油を塗りながら、気持ちの良い声を上げるルーシーに、何故か内心ドキドキする俺。
「あっ」
「……っ」
やば! 手を滑らせすぎた。
脇の下から横乳へと指が触れてしまい、緊張する俺。
……何だ?
……何も言わない?
……これは、別に触っても大丈夫ってことか?
下手な遠慮はいらぬ邪推を生む事になる……ここは何食わぬ顔で、そのまま油を塗った方が良いのだろうか?
ルーシーの顔は伏せられ、枕にした腕に隠されている。
これでは、表情を窺う事も出来やしない。
「ぐぅ……ッ!」
行くべきか、行かざるべきか。
真剣に悩みつつ、意を決してその手を胸元へと延ばした瞬間――
「何をやっているのかしら……貴方?」
「ハインリヒ……ッ」
顔を引き攣らせて此方を睨む――アルマナとクロードがそこに立っていた。
「……」
何だなんだと近寄ってくる見知った同級生と、面白そうな臭いを嗅ぎ付け、此方へと見物を決め込む我神団の面々。
「?」
キッチェだけは――何やら何も分かってない様子。
コイツは、そのままでいてくれ。
「ハインリヒ……彼等は? それに、その女性は?」
「クロード、コイツらはだな――」
内心のパニックをおくびにも出さぬよう、努めて冷静に状況説明を口にしようとる俺。
「――我神団。ハインリヒの仲間の傭兵団よ」
その説明を、俺よりも先にアルマナが口にする。
「傭兵……?」
「そう、皆で遊びに来たのね……へぇ?」
「……アルマナ?」
訝しむクロードとは別に、アルマナの奴は何処か様子がおかしい。
というか、もしかしなくても――怒ってる?
「――もう、いい」
「あ! おい!?」
踵を返し、その場から去っていくアルマナ。
制止する声も、今の彼女には効きやしない。
「良いのか、ハインリヒ……?」
「……」
気遣う様な声は、クロードからだ。
俺はそれに意外性と少しばかりの嬉しさを抱きながら、そんな自分に苛立ちを覚えるのだった。
◆
夜――我神団の面子と別れた俺は、他の生徒達と共に宿泊施設へと戻っていた。
ちなみに一部の貴族以外の生徒達は、皆三人部屋であったりする。
俺と同室なのは、ルディンとクルスだ。
部屋に帰ってくるなり、暑苦しいクルスの筋トレ場面に出くわし、げんなりとする俺。
「日課だからな」
というのは、クルスの言だ。
そうこうしている内にルディンが部屋へと戻ってくる。
そろそろ飯の時間だしな。
三人で食堂へと出発するかと決めに掛かった時、
「二人共、成績表!! 中間発表が張り出されてる!!」
ルディンの奴が、慌てた口でそんな事を言ってきた。
◆
――何も、学院外の施設で張り出さなくとも良いのに……。
生徒によっては吊し上げじゃないか、コレ。
施設のロビーへと向かうと、そこには大量の学生達と、ソレを見に集まった観光客の姿があった。
王立学院の生徒というのは、外では有力貴族の子供だったりするのが大半だ。
そんな有名人達がどの程度の学力を治めているのか、知りたがっている庶民も多いという事だろう。
完全に娯楽だ、コレ。
……まぁ、別にいいけどさ。
そこに張り出されるのは、一年、二年、三年と。全ての学年を統合した総合実力順位である。
剣術・体術・魔術を総合して評価した戦闘術の点数。
学術・軍術・魔術を総合して評価した知学術の点数。
それらを足した総合点でもって生徒達は評価され、順位付けされる。
……王族にとっては、高ければ高い程次の王位が決まると言われている。
発表は下の順位から順に、梯子に乗った教師達が書き加えていくようだ。
今は――60位ぐらいか。
まだ知り合いの名前は一人もいない。
が、そろそろ――
「あ、32位……」
「……ふん」
「まぁ、このくらいかな?」
「チッ、鍛錬が足りなかったか……ッ!」
32位・ユーリア=マイスティア。
28位・カルナ=サヴァン。
23位・ルディン=シュトラウス。
15位・クルス=オーグメント。
次々と発表されていく、同級生の名前。
「ぬうう……ッ!!」
12位・ガルシア=ディ=リアネス。
ガルシアの奴は12位か……。
キツイな。
せめて一桁圏内には入っておきたかっただろう。
残るはアルマナとクロードとの一騎打ちか……。
「――ッ!」
9位・アルマナ=ディ=リアネス。
先に名を発表されたのは、アルマナの方だった。
今、アイツはどんな思いをしているだろう?
此処からでは後ろ姿しか見えない。
握られた拳は堅く。
その背には、様々な感情が綯交ぜにされているように思えた。
「勝ったか……」
呟きは、クロードのものだった。
気付けば隣にいた。
上を見ていたから気付かなかったぞ。
「え……」
安堵したその声が、今度は戸惑いの感情に変化する。
8位・クロード=ディ=リアネス。
『――ッ!?』
発表されたその名に、周囲がざわつく。
「8位って――まさか、王子が!?」
「早すぎる……」
「じゃ、じゃあ上位は誰なんだよ!?」
どよめく周囲とは別に、その結果が当然であるかのように、此方を見詰める集団がいた。
「――フッ」
「!」
クロードを、アルマナを、ガルシアを。
金章組の俺達を、そいつらは見下すような視線を投げていた。
「あの白いマント――教団組!」
「……ッ!」
アイツらが、そうか……!
そして、その中でも帯剣を許された六人……一人少ないが……成程、奴等がそうか!
――教団七聖剣。
7位・アーサー=フィレモント。
「ぎええええ!! 俺がドべかよ!!」
汚い声を発しながら、品が無さそうな不潔な金髪の男が叫ぶ。腰に差した聖剣を見るに、アイツも七聖剣の一人なのだろう。
6位・ガフ=コフィン。
「にゃはははは!! アーサーに勝ったぜぃッ!!」
灰色のスカーフを首に巻いた、目付きの悪い小さな少年が笑いながら喜ぶ。アレも一応同学年なのか? パっと見は俺より年下にも見えるが……?
5位・ゲインズ=ベパルス。
「美しい……」
手鏡を手に、一直線に切り揃えられた前髪を弄りながら呟く、長身痩躯の青年。何だあのナルシスト? 順位なんて興味無さそうだな。
4位・マチュア=キュベレイ。
「4位か……ま、こーんなもんよね♪」
桃色の髪をした少女がぺろりと舌を出しながら、そう呟く。周囲を見下している様に見えるのは俺だけか? ……何だか、腹黒そうな女だ。
「! 三位……そうか、アイツがそうか……」
呟きながら、俺は七聖剣の中の髪を逆立てた男へと視線をやる。
3位・ディンハルト=シーザー。
「やっぱ、キルツには負けたか……しゃあねぇなぁ……」
緑色の髪を上に逆立てた、負けん気の強そうな青年が、やれやれと言った体で隣に立つ眼鏡の生徒へと話し掛ける。
「それでも流石だ、ディンハルト。七聖剣の中でも、やはり君の優秀さは抜きん出ているな?」
「へッ、俺に勝った奴に褒められてもな……」
ぽりぽりと頬を掻きながら、自嘲した笑みを浮かべるディンハルト。
「キルツ……そして、ディンハルト……」
「……おや?」
ガルシアの呟きが聞こえたのだろう。七聖剣の面々は金章組へと向き直る。
「へへ! 現実見せちゃったかよ、王子様ァ!?」
「おい、やめ! ……あんま煽るなや」
「あら。意外にお利口なのね、ガフ? お友達でもいたぁ?」
「チッ、そんなんじゃねぇわ!」
「ふ~ん♪」
「嘘は、美しくない……美しくないは――悪だ」
「まーまー! 良いじゃねぇか、皆!」
思い思いに喋る七聖剣の面子を、ディンハルトが大きく手を振って仕切り出す。
――王国組へと、目配せをしながら。
「――所詮、王国組なんてこんなモンだ。俺達が相手するまでもねぇ。あんまり言うのも可哀想だし、止めてやろうぜ?」
『――ッ!!』
それは、分かり易い挑発であった。
クスクスと笑う七聖剣の面子。
ガフは苦い表情を浮かべ、キルツは呆れた溜息を吐いた。
「――舐めてくれたわね? 七聖剣第四位【烈火】のディンハルト」
「おや? 俺の事を知ってたかい――王女様?」
金章組を代表するかの様に、先頭に立つアルマナへと、ディンハルトは飄々とした体を崩さずに対応する。
「もしかして……俺のファンだったり?」
「――ッ!」
知覚の出来ぬ素早さでもって、アルマナへと距離を縮めるディンハルト。
キリッとした目が驚愕で見開かれた頃には、ディンハルトの手はアルマナの顎へと差し延ばされ――
「――ッ」
バシン! と、その横顔に靴底がぶち当たる。
……まぁ、言うまでもなく俺の仕業だ。
「……おいおい【輝きの顔】のディンハルトの顔面に、靴を放る馬鹿がいるとはなぁ?」
「俺としては顔面を磨いてやったつもりなんだが……気に入らなかったか? ほら、お前の顔――汗でテカテカしてるだろう?」
「……」
途端に、無言になるディンハルト。
「やめろ、ディン。……挑発に乗るな」
「キルツ……」
「優劣を競うというのならば、もう既に結果は出ている。上位を独占する我ら教団組の優秀さは連中も良く分かった筈だ」
言いながら、キルツは金章組を見回す。
「同時に、自分達の低レベルさもな……」
『!』
言われた生徒達は、皆一堂に視線を下に向けた。
中間とは言え、こうして結果が出てしまっているのだ。
ルディンも。
クルスも。
ユーリアも。
カルナも。
ガルシアも。
クロードも。
そして――アルマナも。
誰もが、キルツの言葉に反論できない。
唇を噛み締め、下を向き、手を震わすのみだ。
「――どうでも良いが」
「ん?」
「まずお前らは――ちゃんと順位を見た方が良いと思うぞ?」
『!?』
張り出された成績順位。
その一番上へと、視線が集中する。
2位・キルツ=レヴァノフ。
「……馬鹿な」
呟きは、彼だけのものではない。
教団組七聖剣、その全員が驚愕する。
王国の金章組、その全員が唖然とする。
観光客が、下級生を含めた生徒達が、全員が――俺を見る。
1位・ハインリヒ=セイファート。
「――まぁ、当然よね」




