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ハインソード・サーガ  作者: 威風
第3章 ~王都炎上、決意のハインリヒ編~
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015 兄と弟~天才と凡才~

今回は溜め回です。


「くそッ!! ムカつくムカつく、むかつくぜぇええ~~ッ!」

「……落ち着け、美しくないものよ」

「ああ!? 喧嘩売ってんのか、ゲインズ!?」

「ちょっとぉ、喧嘩は止めてよねー♪」



宿泊部屋へと戻ってきた七聖剣・アーサー=フィレモントは荒れていた。同じく七聖剣のゲインズへと掴み掛ろうとした所を、傍で見ていたマチュアに制止される。


「……同室のガフ君は?」


「知らねぇよ、あんな奴。どっか遊びにでも行ってんじゃね?」


「ふーん……ま、こっちとしては好都合だけど……」


言いながら、マチュアは近くのベッドへと腰を下ろす。

膝を抱え、親指の爪を齧るのは彼女の思考する際の癖であった。



「ハインリヒ=セイファート……アイツはヤバいかもね」

「はぁ!? 何怖気付いてんだ、テメエ!?」

「昼間、ハイン君の仲間を見たのよ」

「ふむ、仲間とは……?」

「我神団っていう傭兵」

「あぁ? んな連中、聞いた事ねぇぞ?」

「そりゃ、結成は最近らしいからねー」



言いながら、マチュアは二人に我神団の事を説明する。


「ハイン君を団長として結成した傭兵団。今は人員も少ないし、規模も大した事は無いけれど……中にいる面子は粒ぞろいね」


凄腕傭兵のルーシー=スカイバーン。

城塞都市襲撃犯。黒銀狼ファング=コードレス。


そして――


「――天災・レイド=レヴァノフ」


『!?』


その名を聞いた瞬間、二人の顔が驚愕に固まる。



「……マジか?」

「マジ♪」

「――キルツは、どういう反応をするだろうか……?」

「うお、怖えぇッ!!冗談でも想像させんな!」



狼狽える二人に「はいはい」と手を叩いて話を戻すマチュア。



「とにかく、あの連中を相手に下手な策は無意味ってこと」

「じゃあ……例の計画は?」

「それはそれとして――勿論、やるわ」



「準備もしちゃったし」と、マチュアは舌で唇を舐めつつ、言う。



「楽しみぃ……あの王子、どんな顔をするかしら? 功名心に焦った挙句の大失態♪ マチュア、ゾクゾクしちゃうなぁ♪」


「俺も大概だけどよ……やっぱお前、一番性格悪りぃわ……」


くすくすと笑うマチュアと、若干引き気味なアーサー。


「黒い薔薇……これもまた美か……」


懐から手鏡を取り出し、自身の顔を見詰めながら呟くゲインズに、アーサーは一人「駄目だこりゃ」と呟くのだった。




◆




「良くやったぞ、ハインリヒ! 今回ばかりは貴様を見直した!」

「凄いよハイン君! あの中で1位だなんて……ッ!!」


「ははは」


総合成績が発表された後、周囲に揉みくちゃにされながら、俺とクルスとルディンは宿泊部屋へと戻ってきていた。


道中、褒め殺しに合っていた俺だが、二人は無言を貫いていた。

どうやら、部屋に戻るまで我慢をしていたらしい。


――全く、困ってしまうぜ。


神童である俺が一位を取るのなんて、当たり前なのにな。


「貴様、なんか感動が薄いなッ!? 自分がやった事の大きさを理解しているのか!?」


「あー分かってる分かってる」


「まぁハイン君らしいって言えばらしいけどね……」


適当に相槌を打つ俺と、呆れるルディン。


そんな俺の様子が気に入らないのか、クルスの奴は懇切丁寧に総合成績1位という偉業の凄さを俺に語ってくる。



……正直、殆ど聞き流した。




◆




――翌朝。


俺は我神団の皆と合流する為に、水着姿で砂浜を歩いていた。

思わず、眠気に大きな欠伸をしてしまう。


昨日アレから、随分遅くまでクルスの話が続いてしまった。内容は一切覚えていないが、奴の暑苦しい説明の所為で、安眠を妨害されたのは確かだ。


そして、それは今も続いている。


「どうでも良いが、お前……いつまで付いてくる気だ?」


「無論、貴様が理解するまでだ」


「理解って……」


呆れる俺に、クルスは鼻を鳴らして言葉を続ける。


「折角の人の話を聞き流しおって……ッ! 成績が優秀でも、その態度は是正しなければいかんだろう!!」


「……あー」


昨日一日で上がったクルスからの俺の好感度は、どうやら朝には下がっていたみたいだ。


面倒くさ。


せめてルディンの奴が入れば、少しは助け船が貰えたかも知れないが、生憎とあいつは今日、別の友人と先約があるらしい。


流石、友達が多い奴は違うよな。

目の前の軍人男にも見習わせてやりたい。



「お! やっと来たか、団長さん。……そいつは?」



俺を待っていたのだろう。

砂浜のパラソルの下、白いベンチに腰掛けたルーシーが、俺へと声を掛けてくる。


「――ッ!」


ルーシーの姿を見るに、身体を固まらせるクルス。

何やってんだコイツ? ……まぁいいや。


「同じクラスの生徒だ。おい、自己紹介を――」



「――か、可憐だ……」



『へ?』



クルス=オーグメントの呟きに、俺とルーシーは思わず顔を見合わせてしまう。


っていうか、コイツ……前も似た様な事をやっていたよな?

それも教師相手に。


もしかして――かなり惚れっぽい?


「――おーい、クルス?」


「ほわッ!? ――何だハインリヒ!? お、俺は元気だぞ!?」


「……」


「何か、随分と愉快な友達みたいだな……?」



呆れた様に笑うルーシー。

まぁ一つ、弱味を握れたという事で良しとしようか。



「……クルス=オーグメント。見た通りの男だ。何か付いて来ちまったから、よろしく頼む」


「おい、ハインリヒ……何だその雑な紹介は……?」


文句があるなら、自分で話せというに。


やれやれと溜息を吐くと、手に串焼きを持ったキッチェ達が此方へと合流してくる。



「おはよーハイン! その人は? お友達?」

「友達? ……いや、俺とハインリヒは――」

「まぁそんなとこ」

「!」

「ほぉ? 随分鍛えた身体してるじゃねぇか……」

「ファングさん。相手は学生ですよ?」

「わーってるよ、グエン。――全く、お堅い奴だぜ」



クルスへと絡もうとするファングと、それを注意するグエン。


ファングの奴……どうやら暑さにも大分慣れたみたいだな。

昨日よりは幾分マシな顔をしている。


「――っ」


自身と同等の体格を誇る獣人の登場に、流石のクルスも気圧されたのか、目を白黒させ、俺と仲間達の姿を見比べている。


「ハインリヒ、彼等は一体……? 貴様の仲間とは……?」


「あー。やっぱそこ説明しないと駄目か……」


面倒臭いなぁ。

俺がそう渋っていると、少し遅れて、最後の団員が到着する。



「……おや? 何処かで見た顔ですね?」


「――ッ!?」



首にタオルを巻き、左手に団扇・右手に焼きモロコシを持った、夏をエンジョイした出で立ちの眼鏡のハーフエルフ――レイド=レヴァノフが、その場で声を出した。



「貴様、レイド!? ――何故此処にッ!?」


「覚えておくと良い、クルス。先生のいる所に――レイド在りとな」


「意味が分からん!?」



驚愕した表情で問い返すクルス。

うん、大丈夫。――俺も意味分からん。


っていうかそうか。……クルスのこの反応。



「お前ら、知り合いだったんだな?」

「……ッ!」



苦虫を潰した様な表情をするクルス。

否定しない所を見るに、間違いは無さそうだ。



「まぁ一応、同じ金章組でしたね」



俺の問いに、レイドの奴が横から答える。

クルスと違って、レイドの奴はいつも通りの様子。



「同じクラスなら、知っていても当然か……」

「それだけじゃない……」

「ん?」


意を決した様にレイドを睨み、クルスの奴は俺に説明をする。


「レイド=レヴァノフの名は、学院に通う生徒なら誰もが知っている。コイツはな、ハインリヒ。一年の時からずっと総合成績の1位に君臨していた男なんだ。その実力は、圧倒的だった……」


「へぇ?」


首席だとは聞いていたけど、一年からずっとか。

結構やるじゃん。


「先生の順位、昨日見させて頂きましたよ」

「まぁ順当だっただろう?」

「えぇ。決まり切っていた結果でした」

「……」


俺とレイドのやり取りを見ながら、クルスは何かを言おうとして――やめた。



「貴様が何故学院を退学したのか、理由は聞かん。元々学院に留まる様な才能では無かったからな……」


言いながら、クルスはチラリと俺に視線をやる。


「しかし、新たな居場所がハインリヒの仲間とはな。どういう集団かは知らんが、これで貴様は益々キルツ=レヴァノフに目を付けられるぞ?」


キルツ……?

ああ、昨日の優等生面した黒髪眼鏡か。


「アイツがどうしたって?」


「僕の弟ですよ、先生」


――え?


「マジか……」


そういや苗字一緒だっけ?

全く興味無かったから、気付かなかった。


「キルツが煩わしいのなら、僕が潰しておきましょうか?」

「……」


平然と怖い事を言う奴だなぁ、コイツ……。


「いや、いらん」


俺がそう言うと、レイドは分かってましたとばかりに頷く。


「先生ならそう言うと思っていましたよ。実際、僕と違ってアイツは大した事がない……取るに足らない弟ですからね」


「……」


いやぁ、毒吐くねぇレイド君。

ちょっと引いてるぞ、俺。


――というか、キッチェ以外の全員が引いている。


本人、無自覚そうなのが余計である。


……少しばかり、キルツに同情してしまった。



「天才と凡才か……無常だな」



クルスの小さな呟きは、我神団の全員に響くのだった。



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