015 兄と弟~天才と凡才~
今回は溜め回です。
「くそッ!! ムカつくムカつく、むかつくぜぇええ~~ッ!」
「……落ち着け、美しくないものよ」
「ああ!? 喧嘩売ってんのか、ゲインズ!?」
「ちょっとぉ、喧嘩は止めてよねー♪」
宿泊部屋へと戻ってきた七聖剣・アーサー=フィレモントは荒れていた。同じく七聖剣のゲインズへと掴み掛ろうとした所を、傍で見ていたマチュアに制止される。
「……同室のガフ君は?」
「知らねぇよ、あんな奴。どっか遊びにでも行ってんじゃね?」
「ふーん……ま、こっちとしては好都合だけど……」
言いながら、マチュアは近くのベッドへと腰を下ろす。
膝を抱え、親指の爪を齧るのは彼女の思考する際の癖であった。
「ハインリヒ=セイファート……アイツはヤバいかもね」
「はぁ!? 何怖気付いてんだ、テメエ!?」
「昼間、ハイン君の仲間を見たのよ」
「ふむ、仲間とは……?」
「我神団っていう傭兵」
「あぁ? んな連中、聞いた事ねぇぞ?」
「そりゃ、結成は最近らしいからねー」
言いながら、マチュアは二人に我神団の事を説明する。
「ハイン君を団長として結成した傭兵団。今は人員も少ないし、規模も大した事は無いけれど……中にいる面子は粒ぞろいね」
凄腕傭兵のルーシー=スカイバーン。
城塞都市襲撃犯。黒銀狼ファング=コードレス。
そして――
「――天災・レイド=レヴァノフ」
『!?』
その名を聞いた瞬間、二人の顔が驚愕に固まる。
「……マジか?」
「マジ♪」
「――キルツは、どういう反応をするだろうか……?」
「うお、怖えぇッ!!冗談でも想像させんな!」
狼狽える二人に「はいはい」と手を叩いて話を戻すマチュア。
「とにかく、あの連中を相手に下手な策は無意味ってこと」
「じゃあ……例の計画は?」
「それはそれとして――勿論、やるわ」
「準備もしちゃったし」と、マチュアは舌で唇を舐めつつ、言う。
「楽しみぃ……あの王子、どんな顔をするかしら? 功名心に焦った挙句の大失態♪ マチュア、ゾクゾクしちゃうなぁ♪」
「俺も大概だけどよ……やっぱお前、一番性格悪りぃわ……」
くすくすと笑うマチュアと、若干引き気味なアーサー。
「黒い薔薇……これもまた美か……」
懐から手鏡を取り出し、自身の顔を見詰めながら呟くゲインズに、アーサーは一人「駄目だこりゃ」と呟くのだった。
◆
「良くやったぞ、ハインリヒ! 今回ばかりは貴様を見直した!」
「凄いよハイン君! あの中で1位だなんて……ッ!!」
「ははは」
総合成績が発表された後、周囲に揉みくちゃにされながら、俺とクルスとルディンは宿泊部屋へと戻ってきていた。
道中、褒め殺しに合っていた俺だが、二人は無言を貫いていた。
どうやら、部屋に戻るまで我慢をしていたらしい。
――全く、困ってしまうぜ。
神童である俺が一位を取るのなんて、当たり前なのにな。
「貴様、なんか感動が薄いなッ!? 自分がやった事の大きさを理解しているのか!?」
「あー分かってる分かってる」
「まぁハイン君らしいって言えばらしいけどね……」
適当に相槌を打つ俺と、呆れるルディン。
そんな俺の様子が気に入らないのか、クルスの奴は懇切丁寧に総合成績1位という偉業の凄さを俺に語ってくる。
……正直、殆ど聞き流した。
◆
――翌朝。
俺は我神団の皆と合流する為に、水着姿で砂浜を歩いていた。
思わず、眠気に大きな欠伸をしてしまう。
昨日アレから、随分遅くまでクルスの話が続いてしまった。内容は一切覚えていないが、奴の暑苦しい説明の所為で、安眠を妨害されたのは確かだ。
そして、それは今も続いている。
「どうでも良いが、お前……いつまで付いてくる気だ?」
「無論、貴様が理解するまでだ」
「理解って……」
呆れる俺に、クルスは鼻を鳴らして言葉を続ける。
「折角の人の話を聞き流しおって……ッ! 成績が優秀でも、その態度は是正しなければいかんだろう!!」
「……あー」
昨日一日で上がったクルスからの俺の好感度は、どうやら朝には下がっていたみたいだ。
面倒くさ。
せめてルディンの奴が入れば、少しは助け船が貰えたかも知れないが、生憎とあいつは今日、別の友人と先約があるらしい。
流石、友達が多い奴は違うよな。
目の前の軍人男にも見習わせてやりたい。
「お! やっと来たか、団長さん。……そいつは?」
俺を待っていたのだろう。
砂浜のパラソルの下、白いベンチに腰掛けたルーシーが、俺へと声を掛けてくる。
「――ッ!」
ルーシーの姿を見るに、身体を固まらせるクルス。
何やってんだコイツ? ……まぁいいや。
「同じクラスの生徒だ。おい、自己紹介を――」
「――か、可憐だ……」
『へ?』
クルス=オーグメントの呟きに、俺とルーシーは思わず顔を見合わせてしまう。
っていうか、コイツ……前も似た様な事をやっていたよな?
それも教師相手に。
もしかして――かなり惚れっぽい?
「――おーい、クルス?」
「ほわッ!? ――何だハインリヒ!? お、俺は元気だぞ!?」
「……」
「何か、随分と愉快な友達みたいだな……?」
呆れた様に笑うルーシー。
まぁ一つ、弱味を握れたという事で良しとしようか。
「……クルス=オーグメント。見た通りの男だ。何か付いて来ちまったから、よろしく頼む」
「おい、ハインリヒ……何だその雑な紹介は……?」
文句があるなら、自分で話せというに。
やれやれと溜息を吐くと、手に串焼きを持ったキッチェ達が此方へと合流してくる。
「おはよーハイン! その人は? お友達?」
「友達? ……いや、俺とハインリヒは――」
「まぁそんなとこ」
「!」
「ほぉ? 随分鍛えた身体してるじゃねぇか……」
「ファングさん。相手は学生ですよ?」
「わーってるよ、グエン。――全く、お堅い奴だぜ」
クルスへと絡もうとするファングと、それを注意するグエン。
ファングの奴……どうやら暑さにも大分慣れたみたいだな。
昨日よりは幾分マシな顔をしている。
「――っ」
自身と同等の体格を誇る獣人の登場に、流石のクルスも気圧されたのか、目を白黒させ、俺と仲間達の姿を見比べている。
「ハインリヒ、彼等は一体……? 貴様の仲間とは……?」
「あー。やっぱそこ説明しないと駄目か……」
面倒臭いなぁ。
俺がそう渋っていると、少し遅れて、最後の団員が到着する。
「……おや? 何処かで見た顔ですね?」
「――ッ!?」
首にタオルを巻き、左手に団扇・右手に焼きモロコシを持った、夏をエンジョイした出で立ちの眼鏡のハーフエルフ――レイド=レヴァノフが、その場で声を出した。
「貴様、レイド!? ――何故此処にッ!?」
「覚えておくと良い、クルス。先生のいる所に――レイド在りとな」
「意味が分からん!?」
驚愕した表情で問い返すクルス。
うん、大丈夫。――俺も意味分からん。
っていうかそうか。……クルスのこの反応。
「お前ら、知り合いだったんだな?」
「……ッ!」
苦虫を潰した様な表情をするクルス。
否定しない所を見るに、間違いは無さそうだ。
「まぁ一応、同じ金章組でしたね」
俺の問いに、レイドの奴が横から答える。
クルスと違って、レイドの奴はいつも通りの様子。
「同じクラスなら、知っていても当然か……」
「それだけじゃない……」
「ん?」
意を決した様にレイドを睨み、クルスの奴は俺に説明をする。
「レイド=レヴァノフの名は、学院に通う生徒なら誰もが知っている。コイツはな、ハインリヒ。一年の時からずっと総合成績の1位に君臨していた男なんだ。その実力は、圧倒的だった……」
「へぇ?」
首席だとは聞いていたけど、一年からずっとか。
結構やるじゃん。
「先生の順位、昨日見させて頂きましたよ」
「まぁ順当だっただろう?」
「えぇ。決まり切っていた結果でした」
「……」
俺とレイドのやり取りを見ながら、クルスは何かを言おうとして――やめた。
「貴様が何故学院を退学したのか、理由は聞かん。元々学院に留まる様な才能では無かったからな……」
言いながら、クルスはチラリと俺に視線をやる。
「しかし、新たな居場所がハインリヒの仲間とはな。どういう集団かは知らんが、これで貴様は益々キルツ=レヴァノフに目を付けられるぞ?」
キルツ……?
ああ、昨日の優等生面した黒髪眼鏡か。
「アイツがどうしたって?」
「僕の弟ですよ、先生」
――え?
「マジか……」
そういや苗字一緒だっけ?
全く興味無かったから、気付かなかった。
「キルツが煩わしいのなら、僕が潰しておきましょうか?」
「……」
平然と怖い事を言う奴だなぁ、コイツ……。
「いや、いらん」
俺がそう言うと、レイドは分かってましたとばかりに頷く。
「先生ならそう言うと思っていましたよ。実際、僕と違ってアイツは大した事がない……取るに足らない弟ですからね」
「……」
いやぁ、毒吐くねぇレイド君。
ちょっと引いてるぞ、俺。
――というか、キッチェ以外の全員が引いている。
本人、無自覚そうなのが余計である。
……少しばかり、キルツに同情してしまった。
「天才と凡才か……無常だな」
クルスの小さな呟きは、我神団の全員に響くのだった。




