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ハインソード・サーガ  作者: 威風
第3章 ~王都炎上、決意のハインリヒ編~
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009 暗殺者と百合の花


リアネス王国随一の名門である王立学院では、様々な質の高い授業を受けられるという評判がある。


王立魔術研究所に勤める教師から、最先端の魔術理論を。

騎士団所属の熟練兵士から、戦場仕込みの用兵術や剣術を。

高名な学士達から、高度な学術を。


その他、様々な専門分野を希望すれば、その道のエキスパートが手取り足取り教えてくれるのだ。


しかし、いつの時代になっても、普遍的なものは必ずある。


「健全なる魂は、健全なる肉体に宿る」というのは、古より伝わる言葉らしいが――なんとも言えないな。



「そこ、へばるな! 後十周だ!!」

「ひ、ひぇええ~~!」


筋骨隆々な教師に叫ばれ、悲鳴を上げる生徒達。


本日の授業は校舎の外周周りである。


体力をつけるには最適かも知れないが、何も王立学院でやらなくても……というのが、生徒多数の意見だろう。


「ふん、何とだらしない!! 金章クラスと言えど、弛んでいると言わずにおれんな!」


俺の横で憤りを見せる男は、クルス=オーグメントだ。

肩で風を切りながら、姿勢の良い走りを見せている。


「お前は随分、走り慣れてるな」

「走り込みなぞ、軍隊では基礎中の基礎だ!」

「なら、慣れてない奴の事をとやかく言うのは違うだろ?」


俺の返答に、クルスの奴は不敵な笑みを浮かべる。


「志の違いだな、ハインリヒ。我らは学院のトップ。慣れないのは言い訳にならん!!」


「ふふん」と、俺を言い負かした気でいるクルスは、上機嫌に鼻を鳴らす。


「……どうでも良いが、ガルシアの奴も後ろにいるからな」

「な!? お、王子――ッ!?」


バッテバテな状態で懸命に走るガルシア。


慌ててクルスが逆走し、肩を貸しに走るが、ガルシアはそれを手を振って拒否する。


「……平気か、ガルシア?」


念の為、俺も声を掛けてやる。


「……長距離走は、苦手だ」


ぜぇぜぇと息を切らしながら、そう呟くガルシア。


「まぁ、どうみてもお前は短距離向きだしな……」


取り巻きの生徒達が心配する中、ガルシアはそれでも誰の手を借りずに完走する気であった。


意地だろうな。


そうしている内に、後ろからは貴族派の集団が追い付いてきた。


ガルシアのペースに合わせ、秀才派は速度を落としていたからな。


当然だろう。


貴族派の先頭は――クロード=ディ=リアネスだ。


貴族連中は走り込みなんてしないだろうしな。先を行くクロードに、置いてかれぬようにするのがやっとの様だ。


そのクロードでさえも、大した速力ではないのだが……。


「……どうした? 体力自慢の弟にしては、足が遅いな」


「ぬぐ、クロード……ッ!」


「兄と呼べと言っているだろう? 尤も、頭の中まで筋肉で出来ているお前では、僕の言葉は理解出来ないか」


すれ違い様の応酬。

その軍配はクロードに上がった。


「お先に失礼するよ、腹違いの弟よ」

「――ッ!!」


青い顔をしながら、のろのろと加速するクロード。

追い掛けようとするガルシアだが、足が思うように上がらない。


「あぁ! 待って下さいクロード様ッ!!」


置いてかれる貴族派の生徒達。


……何と言うか、低レベルである。



急ぎ過ぎず、遅過ぎず。

マイペースに走っていると、今度は別の面白そうな光景を目撃する。


「ルディンか? 何やってんだアイツ?」


「……」


校舎の角の部分で、座り込みながら前方を覗くルディン。

俺は気付かれぬよう、ルディンの背後へと忍び寄る。


視線の先には、二人の生徒の姿があった。


……ユーリア=マイスティア?


足を怪我したのか。

貴族出身の麗しい少女の膝に、痛々しい血が流れている。


介抱しているのは……誰だアレ?

紫色の髪を肩口まで伸ばした、目付きの悪い少女。


あんな奴、クラスにいたか?


首を捻る俺だが、その間にも事態は進行していく。


「――これで、良いか?」

「……」

「おい、ユーリア」

「――ッ! あ、ご、ごめん! ありがとうカルナさん!」


慌てて礼を言いながら、ユーリアは自身の膝に巻かれたハンカチに視線を落とす。


「あの、ハンカチ……洗って返すから!」

「いらん。不要になったら捨てろ」

「そんなこと、出来ないよぉ……」

「? おかしな奴だ」

「うー……」

「歩けるようになったのなら、もういいな?」

「え!行っちゃうの……?」

「それが授業だろ?」

「うん……」

「……」


俯くユーリアに、カルナは溜息を吐いて、手を差し出す。


「……一緒に行く。それで良いんだろう?」

「――う、うん!」


元気よく頷き、カルナと呼ばれた少女の手を取るユーリア。


これはあれか……俗に言う、百合という奴か?


ユーリアに片思いしているルディンが、固まる理由が分かるというものだ。


「だが少し待て。――覗き見は趣味が悪いぞ?」


「!?」


俺達の方へと視線をやりながら、声を出すカルナ。


……ルディンの気配を察知されたか。


この距離で良く気付く。


――言っておくが、俺一人なら気付かれてないからな。


諦めて姿を現すルディンと俺。

ちなみにルディンの奴だが、未だに俺の事には気付いていない様だ。


「る、ルディン君!? それに――」

「う、うわーッ!!」

「!?」


叫びながら、走り去っていくルディン。

呆然とする俺達。


「何だ、アイツ?」


皆の疑問を代表して口にするカルナ。

本当、何なんだよアイツ。


ルディンが消えた事により、少女達の注目は俺へと移される。


「えーと……良く分からんが、取り合えずスマン」

「!」


俺の言葉に、分かりやすく顔を赤面させるユーリア。


「ところで、一つ聞きたいんだが――お前、誰?」

「傲慢な男だ……クラスメイトの名前すら知らんとはな」

「む。そこは悪いと思ってる」

「軽いな。まぁいい。カルナ=サヴァンだ」


カルナ=サヴァン。

頭の中で反芻してみるも、やはり知らない。


「俺も自己紹介した方が良いか?」

「いらんよ、有名人」

「……」


何か、随分と棘のある女だな。

余り長居しても仕方ないし、俺も先を行くか。


「邪魔したな、ユーリア。先に行ってるわ」

「あ、うん……頑張ってね、ハイン君」

「おう」


答えながら、カルナの脇を通り抜けようとした瞬間――


「――ッ!」


――俺は、思わずその場から飛び退く。


「……どうかしたか、ハインリヒ?」

「お前……」


――今、何をしようとした?


問い掛ける言葉は音にはならない。


「ハイン君……?」


此方を心配する様な、ユーリアの視線を受けていたからだ。

彼女を巻き込む訳にはいかない。


「いや、足元にデカい虫がいてな」

「ええ!?」

「気のせいだったから大丈夫だ。とにかく、俺は先に行く」

「あ、うん……」

「……」


背後から刺すような視線を受けながら、俺はその場から去っていく。


一瞬受けた、強烈な殺気。

飛び退かなければ、俺は死んでいたかもしれない。


間違いない。


カルナ=サヴァンは――暗殺者だ。



お読み頂き、ありがとうございます。

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