008 青春ハインは王子とピヤノでデュエる
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「……聖女神杯?」
「そう、夏に行われる一大行事よ」
競馬か何かか?
胡散臭そうにする俺に向かって、アルマナが説明する。
「王立学院の創立当初から行われていた、クラス対抗の競い合いと言えば良いかしら? 魔術・剣術・学術・軍術。様々な分野で競い、一位を目指す行事の事よ」
「はえー」
気のない返事をする俺に、アルマナの細い眉がピクリと跳ねる。
だってなぁ?
「競い合いって言っても、もう既に俺達はトップのクラスにいるんだろう? 意味あるのか、それ?」
「それが、一応あるみたいだよ」
横から話題に入ってきたルディンが、俺に補足する。
学院のクラスコースは大きく三つに分かれている。
金章、銀章、銅章と。
それぞれ個人の総合成績によって、クラス分けが成されている。
成績上位が金賞クラス。下位が銅賞だ。
クラス内の生徒数も金賞とそれ以下では大きく変わってくる。
金章組……40人(一クラス)
銀章組……80人(二クラス)
銅章組……120人(三クラス)
内訳で言えば、こんな感じだ。
学年別だから一学年が六クラスに割り振られるという事だ。
四年制学院だから、つまり俺達がいるクラスは正確には四年一組という事になるらしい。
今更だが、気にした事がなかったので助かる説明だ。
「で、ここからが問題なんだけど――金章クラスは二つあるんだ」
「……前に聞いたな。教団組という奴等の事か?」
俺の問いに、ルディンは頷く。
四女神教団から推薦された子供達。
彼等のみで構成された金賞クラスの事を、教団組と呼ぶらしい。
「聖女神杯というのは、僕ら王国組と教団組の対決みたいなものなんだよ。王様達や偉い人達も見に来るし、実質的には王国内部の代理戦争みたいなものなんだって」
「……成程」
貴族の子供と教団の子供が競い合う行事なのだから、政治的にも関わり合いがあるのか……。
大人というのも、良い身分だな。
「クラスでの優勝は勿論、個人でも優秀な成績を残した生徒は、王様から直々に表彰されたりもするんだ」
「ふーん、それって何か良い事あるのか?」
「少なくとも、良い就職先に就けたりはするんじゃないかな?」
「……ふむ」
俺には全く旨味は無いな。
だが――
「お前はソレに優勝したいと」
「優秀な成績を残せれば、それだけ王位に近付くわ」
決意を秘めた真剣な表情で、アルマナは言った。
「貪欲だな。まぁ分かった」
一応、ちゃんと契約も交わしているしな。
「――俺が、お前を表彰台に立たせてやるよ」
◆
一日の授業を終え、寮へと帰宅する前に、俺は借りていた本を返しに図書室へと足を運んでいた。
「ん……?」
その道中、別の校舎から綺麗な旋律が耳に届いた。
……ピヤノの音色? 誰かが弾いているのか。
……随分、悲しい音色だな。
「……」
気になった俺は、歩く方向を変える。
ピヤノの旋律に導かれる様に音楽室へと辿り着いた俺は、静かにその扉を開け、室内へと入っていった。
そうして音の主へと視線を向け、俺は少し驚く。
――クロード=ディ=リアネス。
ただ一人、音楽室で鍵盤を叩く青年は、この国の王子だった。
一心不乱と言った言葉が一番ピンと来るな。
演奏に集中する彼は、音楽室に入ってきた俺にも気が付かない。
自分の中の何かを追い払う様に、必死に鍵盤を叩いている様だ。
激しさの中に脆さを感じる。
美しい音色だ。
俺は壁に寄り掛かりながら、彼の演奏を静かに聴く。
しっかし、デカいピヤノだなぁ。
実家にあったのはもっと小さい奴だったぞ。
何か、久しぶりに弾いてみたいな。
指がうずうずしてきたぞ。
そんな事を考えながら、王子の演奏を聴く俺。
クロードが演奏し終えたタイミングで、俺は後ろから拍手を送る。
「……ッ!?」
あ、驚いてる。驚いてる。
顔に笑みを浮かべながら、俺は構わずに彼へと近付いた。
「良い演奏だったな。ピヤノは結構弾くのか?」
「……ハインリヒ、セイファート……ッ」
「ん?」
何だ? 妙に身構えているな。
まぁ今まで大して絡んだ事は無かったし、当然か。
「ちょっと触って良いか?」
「さ、触る?」
困惑する彼に構わず、俺は伸ばした右手で軽く鍵盤を弾く。
軽い演奏だ。
試してみたが、指先はまだピヤノを覚えているみたいだな。
ちょっと楽しくなってきた。
「なぁ、一緒に弾いてみないか?」
「は? え、ちょっ――」
「良いから良いから」
クロードの隣に腰掛け、俺は鍵盤を弾いていく。
慌てながらも、俺の演奏に追従し、鍵盤を弾くクロード。
良い反応だ。
なら、これはどうかな?
「ッ!?」
突然曲調を変えた俺に、目を白黒させるクロード。
何処まで付いて来れるかなっと!
クロードの奴を振り回すかの様な演奏は、音楽としては落第なのかも知れないが、演者としては子供の頃の遊びをしている様で、思わず楽しんでしまった。
最初の方は険しい顔をしていたクロードも、段々とその表情を綻ばせ、最後には笑っていたから良しとしよう。
肩で息をしながら、突っ伏すクロードに向けて、
「面白かっただろう?」と、言う俺。
「強引過ぎるよ、君は……ッ」
「にやけ面で言われてもなー」
「!」
「……何だ、気付いてなかったのか?」
驚いた様な顔で口元を抑え、続いて赤面する王子。
俺はソレに呆れながら、椅子から立ち上がる。
「君は――」
「ん?」
「君は、アルマナの味方なんだろう?」
「そうだな」
「なら、僕の敵だ」
「……そうなのか?」
「……」
「いや、冗談冗談」
椅子から崩れ落ちそうになるクロード。
いやぁ良い反応をするなぁ、コイツ。
「……ッ、大体、僕はこの国の王子だぞ! 何でそんな軽い口調で話せる!? 僕を舐めているのかッ!?」
「いや、舐めてるっていうか、一応俺、アルマナとかガルシアにもタメ口で話してるしなぁ。お前だけ敬語ってのも仲間外れみたいで駄目だろ?」
「何だその理屈!?」
これでも結構気を使っているんだが、クロードには今一理解出来ないらしい。面倒臭い。
「何だ? 何が納得いかないんだ? 俺はピヤノが弾きたいからピヤノを弾いた。一人より二人の方が面白そうだから一緒に弾いた。それの何が悪い? 大体、お前も楽しんでただろうが」
「楽しんでなんか……ッ!」
「嘘つけ! 俺が来るまでは悩んでそうな音色だったぞ!」
「音色……?」
「今はどうやら、吹っ切れたみたいだがな」
「……」
俺がそう言うと、クロードは考え込みながら口を出す。
「敵に塩を送ったつもりか? 僕を懐柔しようとしても無駄だぞ」
「……てい」
「あたッ!」
キメ顔でそう言うクロードに、俺は思わずデコピンを食らわす。
「な、何を……ッ!?」
「あのなぁ……」
ガシガシと頭を掻きながら、俺は勘違いの酷い王子へ言ってやる。
「お前を懐柔してどうする? 友達になって王位をアルマナに恵んでくれと? そんな事を言うってのか? 俺が?」
「さぁね。ただ、僕が思いも付かない手を打ってくる可能性はあるだろう? 敵なんだから、用心して当然だよ」
クロードの言い様を、俺は「ハッ」と軽く笑い捨てる。
「――敵って何だよ?」
「え?」
「お前、兄貴なんだろう?」
「……」
「兄貴が弟妹を敵なんて呼ぶなよ。もっとシャンとしろ!」
「――ッ」
言われた王子は顔をびっくりとさせ、その後に俺の事を睨み付けた。
「君は何も分かっていない!!」
「ああ」
「たった一つの椅子に着こうと、争っているんだぞ!?」
「ああ」
「兄だから? そんな甘い事を言える世界じゃないんだよッ!!」
「……」
叫び、肩で息をしながら此方を睨むクロード。
「――だが、国民はお前を見ているぞ」
「……!?」
「はき違えるなよ。王とは手段で、目的じゃない。王子という立場を持ってはいるが、お前はクロード=ディ=リアネスという一個の人間なんだ」
だからまぁ、何が良いたいのかと言うと。
「もっと余裕を持てよ。そんなツンケンしてたんじゃ、学院生活もつまらないだろう?」
言って、俺は笑い掛けながら奴の肩をポンポン叩く。
「君は――僕を見ているのか……?」
「ん? ……今だってそうだろ?」
「……」
何が言いたいのか理解できず、俺は首を傾げてしまう。
「ま、クラスメイトだしな。悩んでたら気晴らしぐらいは付き合うさ。俺も楽しかったし、お前も楽しかった。つまりはwinwinという奴だ。――ほれ、誰も損していない」
「素晴らしいだろう?」と言って、笑う俺。
クロードの奴も、ようやく僅かだが顔を綻ばせる。
「――だが、ハインリヒ。僕は決して君達に負けないよ」
「アルマナに言えと、言ってやりたいが……」
拳をクロードへと突き出し、俺は宣言してやる。
「――受け立つぞ、クロード!」
経過日数100日。
ハインリヒ――人心掌握率75%




