030 だからずっと、使わなかったんだってば
俺――ハインリヒ=セイファートは楽しかった。
ジェミナと言ったか?
下の名は何と言うのだろう?
とにかく、俺はコイツの事が気に入った。
何が良いかと言うと、コイツ――丁度良い強さなのだ。
ファング=コードレス?
アレは駄目だ。
俺が相手にするには弱く、弱いもの虐めになってしまう。
レシィ=クリムゾン?
いやいや、もっと駄目だ!
ちょっと強すぎる! 俺が相手にするには余裕が足りない!!
対してコイツは――ジェミナは良い。
程良く強く、程良く――弱い。
戦っていて、自身の技術の高さを再確認させてくれる。
あぁ――何だ、やっぱ俺って強いじゃん、と。
勿論、慢心は命取りだ。
世界は広い。
俺より強い奴なんて、一杯いるだろう。
だが――普段そうやって遜っていると、流石に疲れる。
たまには羽を外して暴れるのも良いだろう。
思いながら――俺はジェミナへと、拳を叩き込む。
「が――ッ!?」
飛んでいくボールの様に、建物の壁へとめり込むジェミナ。
まだまだ【気】のコントロールが甘い。
……不思議な奴だ。
レシィ並みの身体スペックを持っているのにも関わらず、その体捌きは素人丸出し。技術が無い。
一定以下の奴等には脅威かも知れないが……それ以上の奴には全く通用しないぞ。こんなの。
「ふざけッ、ふざけふざけふざけ――ッ!!」
「……」
まぁ、根性だけは認めてやるか。
馬鹿の一つ覚えの様に突進してくるジェミナへ向けて、俺は両手の指を伸ばし、貫手の構えを見せた。
――千手閃天貫手。
「ああ――ッ!?」
ジェミナの身体を貫く、瞬間連続突き。
だが、それだけでは終わらない。
無詠唱・風の第三魔法『エア・クリエイト』
風によって作り出したのは一本の剣だ。
今日はこの剣に――更に強化を重ねていく。
無詠唱多重奏、無属性の誘引を付与。
剣を中心に風属性を一点集中。
顕現するは――暴嵐の剣。
ソレは、空へと浮かぶ雲を巻き込み、強大な竜巻を巻き起こす。
「……ッ!!」
目を見開き、その光景を目撃したジェミナは――叫ぶ。
「ハ、インリヒィ――ッ!!!」
「ハッ」
言えたじぇねぇか。
嬉しいねぇ。
じゃ、またな。
軽く笑いながら、俺はその剣を振り下ろした。
◆
「お、戻ってきた、戻ってきた」
領主の館へと、吹き飛んだジェミナを追って戻ってくる俺。
一応狙ってみたんだが、これがドンピシャ。
「アンタ、何やってんだよ……」
「信じられない事をしますね……本当に……」
ルーシー=スカイバーンと、テレサ=エンフィールから呆れられた反応を頂く。
あらら、見られてたか。
まぁあんだけ派手に戦えば、それも当然か。
まだヘトヘトな感じはするけれど、結構回復したな、この二人。
軽口が叩けるなら上等だ。
「ハインリヒ君、敵はまだ……ッ!」
「あー、分かってる分かってる」
警戒するスネップへと手を振りながら、俺は館の瓦礫へと埋もれたジェミナへ近付いていく。
「さて、どうするか……」
思案する様子を見せると、瓦礫の一部が転がった。
「がああああああッ!!!」
瞬間――飛び上がったジェミナが、俺へと鋭い爪を振り下ろす。
……タフな奴。
考えるまでもなく、身体が自動に対処する。
爪を捌き、足を払い、左腕でジェミナの首元を抑え、俺はコイツを押し倒す。
「くうッ!?」
「もう良いだろう? お前じゃ俺には勝てねぇよ。これ以上は殺すしか無くなっちまう。いい加減お前も観念して――」
言いながら――俺は、右手に感じる柔らかい感触に首を捻る。
「……」
右手はジェミナの胸元に置かれていた。
確かめる様に――俺はソレを揉む。
「あ――ッ」
「……」
柔らかい。男ではありえない感触。
まさか――まさかコイツ。
「お前、もしかして――おん」
「ぐッ!! あああああああ――ッ!!!」
「な――ッ!?」
俺が言い終わる前に、ジェミナの奴は俺の身体を跳ね飛ばす。
火事場の馬鹿力という奴かッ!?
「殺すッ! ハインリヒッ!! 貴様だけは絶対にッ、絶対に!!!」
「――うわ」
そのあまりの剣幕に、思わず俺は顔を青くした。
実力がどうこうとか、そういう問題ではない。
気迫負けだ。
――ぶっちゃけ、怖い。
「ああああああああああああああッ!!!!!」
雄叫びを上げ、俺へと突進してくるジェミナ。
その様子が余りにも怖かった為、俺は思わず禁じ手を使ってしまう。
強すぎて、卑怯すぎるから――封じていた技。
さらば、ジェミナ。
「空間――転移ッ!!」




