031 戦いの後
俺――ファング=コードレスは、その戦いを見ていた。
ジェミナ=シンジケート。
幼馴染として育った親友の、見た事も無い姿。
感情なんて無い様な奴だと思ってた。
ずっと一緒だったのに、だ。
思えば、俺はアイツの事を何も知らなかったのかも知れねえ。
『一緒に遊ぼうぜ! ジェミナ!!』
『族長の息子の君と、僕が?』
『何だよ? 生まれなんて関係ねぇだろう?』
『……』
『いずれは俺が族長なんだ! そしたら村の連中は皆、仲間だ!』
『仲間……? 白い毛皮の僕もかい……?』
『あったりまえだろう!』
へへん、と。その時の俺は馬鹿みたいに恰好付けて笑っていた。
ジェミナの奴は、どう思っていたんだろう……?
『――絶対に、こんな事をする奴を……許しちゃ駄目だよ?』
両親が殺された日。
ジェミナは俺に向かってそう言った。
俺にはソレが、奴の罪の意識から出た言葉の様に思えてしまう。
だからって――許せるとは限らねえがな……。
「アイツ――ジェミナはどうなった……?」
「さぁ、何処か遠くに行ったんじゃないか?」
「……死んだのか?」
「いや、そういう比喩的な事ではなく……本当に遠くに飛ばした」
「……」
「本当だって」
「行先は分からないけど」と、人間――ハインリヒは言葉を返す。
ハインリヒ=セイファート。
俺を負かした男。
馬鹿みてぇに強かったジェミナでさえ、この扱いだ。
まさしく、格が違う。
どういう技を使ったのかは知らねぇが、ジェミナを飛ばしたこの技。コイツを使えば、無駄な戦闘なんてしないで勝てたんじゃねぇのか? ――つまり、完全に遊んでいた訳だ。
腹立つ気持ちが無い訳じゃねぇ。
ただ今は――それよりも、呆れちまう気持ちの方が強い。
「負けちまったんだな……本当に、俺達は……」
倒れたまま、俺は呟く。
これから自分が――皆がどうなるのかは分からない。
不安が無いとは言えないが、先の事を嘆いても始まらねぇだろう。
「まぁ、罪は罪として償って貰うとして――お前らの処遇については、余り悲観しすぎるな」
「……何だ、口でも利いてくれるのかよ?」
「条件次第……だがな?」
「あぁ?」
ハインリヒの奴が、笑いながら、俺へと提案を口にする。
それ、絶対に今思い付いただろう?
しかも、内容がありえねぇ。
馬鹿だ馬鹿だと思っていたが――やっぱコイツ、スケールが違う。
諦めた様に、俺は両手を上げる。
「もう、好きにしろ……」
意味が分かんねぇ。
こんな面白い奴、亜人にも人間にも、見た事がなかった。
「――傭兵団だろうが、なんだろうが――入ってやらぁッ!」
◆
城塞都市ポンペイを襲った亜人の襲撃は――失敗に終わった。
暴動を扇動した亜人の首領、ジェミナ=シンジケートは取り逃がしてしまったが、それ以外の亜人達は全て捕縛された。
領主であるデネッブ=アノンドロワが死んだ事により、その地位は息子のスネップ=アノンドロワへと受け継がれる。
とは言え、未だ若輩であるスネップだ。
補佐として、王国騎士団から数名の人員が派遣される事となる。
死んだデネッブの地下から出てきた、拷問された亜人の亡骸。
これを問題視して声を上げたのは、アルマナ=ディ=リアネス姫だ。
彼女は平等を謳う四女神教の教えと逸脱する行為だと、これを糾弾。速やかな亜人の待遇改善を声高にした。
それに呼応したのは、自らの父を殺されたスネップだ。
彼自身が亜人差別を撤廃する考えを見せると、都市内部の貴族や商人は反発を見せる。
時を同じくして、捕まえた亜人達による都市復興作業が開始される。
アルマナの応援の元、少しづつではあるが、街の人間と亜人は打ち解け合っていく。
元々、四女神教の教えが根強い国であったという事もあるだろう。
直接的な街の死者が少ないというのも理由の一つだ。
徐々に街の世論は差別撤廃へと傾いていき、それに反発する貴族の汚職が発覚するといった事が出てきた辺りで、その力関係は一変する。
そうして――現在。
◆
「もう行くのかい?」
「あぁ、色々と坊ちゃんには世話になったよ」
アタシ、ルーシー=スカイバーンは、自身の主へと目をやりながら、そう言ってやる。
「ま、暫くは教会……じゃ、ねぇか。傭兵団本部にいると思うから、会いたくなったら適当に暇な時間を見繕って来いよ」
言って、アタシはスネップの腰に引っ付く亜人の少女へと目をやる。
「アンタがいれば、坊ちゃんは大丈夫さ。……任せたよ、ベリー」
「うん、任された!」
「ははは!」
元気良く言う少女に、思わず笑いが零れてしまう。
「――所で、その恰好はそのままで良いのか?」
「ああ? ――これ?」
坊ちゃんはアタシの着ている服を指しながら、今更な事を聞く。
何だよ。
一年間一緒だったのに、気付かなかったのか?
「アタシ――この服、気に入ってたんだぜ?」
ひらりと。その場で一回転。
身に着けたメイド服のスカートを翻し、アタシは領主の館を出て行った。
◆
俺――グエン=ドウェンは、その日……自警団を退職した。
一週間。
家族と話し合って決めた事だった。
一週間とは言ったが、家族が了解したのは退職を説明した一日中である。残りの六日間は俺の気持ちの整理に使われていたと思う。
小さい頃から、自警団に入るのは夢だったんだ。
退職を決めた今でも、それは変わらない。
なら何故――?
と、きっと周りの奴らは言うだろう。
「――よし」
緊張した面持ちを隠せぬまま、改装された元教会。
今は傭兵団本部へと姿を変えた建物へ、足を近づける。
玄関までやってきて、一呼吸。
扉をノックしようとする手が――止まる。
――自警団に入ったのは、格好良かったからだ。
――街を守る兵隊さん。
――その甲冑姿に憧れた。
その言葉に――嘘はない。
「ふふ……」
俺は思わず笑みを浮かべながら、扉をそのまま開け放つ。
――傭兵団に入りたいと思ったのは、格好良かったからだ。
――街を守る隊長の姿が。
――その姿に、憧れを抱いた。
何だ。つまり俺は――今も昔もその本質は変わっていない……。
――正義の味方に憧れる、ただの少年なのだ。




