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ハインソード・サーガ  作者: 威風
第2章 ~傭兵団結成!城塞都市の攻防編~
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015 ハインリヒの楽しい魔術講座


「――お願いします!! 弟子にして下さい!!」


「……」


リアネス王都、アルマナ達に連れられた庶民派料亭マタタビ亭にて、一人の少年が俺へと頭を下げていた。


熱々のチキンに齧り付こうとした矢先の事だ。

口を開けたまま、俺は声を掛けてきた少年へと視線をやる。


学生さんか何かか……?

少年の身に着けた学生服を見ながら、俺はそう当たりを付ける。


頭に被った羽帽子に隠されてはいるが……注視してみると、耳に尖りが見えた。目元に魔坑線が現れていない事を考えると、彼はエルフなのだろう。


いや、それにしては肌の色が濃い……か?


エルフの肌というのは、本当に真っ白らしい。


透き通る様な肌というのは語弊ではなく、日が通ると本当に透き通る程に白いのだ。


対して彼の肌色は――白いは白いが、俺達人間の肌の濃さである。

珍しいが……ハーフエルフという奴なのだろう。



「……とりあえず、座れば?」



傍で立たれたままじゃ、目立って仕方がない。


俺は隣の席――は、レシィが座っているので、向かいのアルマナの隣――は、不味いか? 近くの別の卓の椅子を指し、着席を促した。


「失礼します!」

「一応、料理も頼んでおけよ?」

「ハイ! ――店主! さば味噌定食を頼む!」

「……」


はきはきとした声で、店主へと注文を頼む少年。

まだ注文取りにも来てないっての。

少年――とは言ったが、その歳は俺より確実に上である。

だと言うに――何だか世間慣れしてないというか……マイペースというか……。



「レイド=レヴァノフ……学院首席の貴方が、何故此処に?」



それまで黙っていたアルマナが、手元にあるハンバーグをナイフで行儀よく切りながら、レイドという少年へと声を掛けた。


「知り合いか?」

「同じ学院の生徒よ。結構有名人」


肩を竦めながら、俺の問いに答えるアルマナ。

……というか。



「アンタ、学校通ってたんだな?」



「当然。王族であるからこそ、普段の教養は重視されるのよ? 私だけじゃない、他の王子達だって学院へと通っているわ」


「他の王子?」


「継承権一位クロード。二位ガルシアの事よ。貴方だって名を聞いた事はあるでしょ?」



クロード=ディ=リアネス。

リアネス王と正室であるレゾネア王妃との間に生まれた青年。

金髪碧眼の典型的なリアネス人。

美形な顔立ちと文武両道の実力。

高いカリスマ性で、将来を有望視されている青年だ。



ガルシア=ディ=リアネス。

リアネス領南部タルシスの姫。カルカサ第二婦人の息子。

褐色の肌に黒い髪は、カルカサ婦人譲りのタルシスの特徴だ。

筋骨隆々。武人としての高い実力。

彼が王位を継げば、リアネスの防備は安泰だと言われている青年だ。



そして――継承権第三位は、アルマナ=ディ=リアネス。



「……まぁ、噂程度なら一応な」



「王位継承の選定は学院への成績も大きく関係するのよ。だからこそ、私はそこでペコペコする彼の事を良く知っている……文字通り人生を掛けて勉学へと励む私達を抑え、王都中の俊才が集まる王立学院で、首席の地位を維持する生徒――レイド=レヴァノフ」



「……」


「魔術の才にて、並ぶもの無しと言われた貴方が――何故ハイン君に弟子入りを?」



「――は、ははははは!」


アルマナの言葉に、突然笑い声をあげるレイド。


黙々と出された料理を平らげ続けていたレシィも、これにはびっくりし「何だ何だ?」と此方へと聞いてくる。



「――これだから素人は」



額に手を当て、ついでにズレた眼鏡を指で直し。

レイドは言葉を続けた。



「ハインリヒ先生」

「え、俺?」


ていうか――先生って何?

君の方が年上じゃん?


「先程訓練場にて、貴方の実力を見させて頂きました」

「あー……」


「四属性を使いこなし、火に至っては第八位階までの魔術を行使。無詠唱魔術を放ちながら、同時に詠唱魔術の準備、発動。率直に言って、素晴らしいと言わざるを得ません」


「それはどうも」


褒められ慣れしているからな。

今更そんな事を言われても、一切心は動かない。


「そうして、何より――あの無属性魔法!!」


「!」


だというのに……。


「基本となる四属性は勿論、複合属性である雷や樹は足し算で行使される。唯一引き算を扱うのは例外属性である闇と光。けれどその先――人によっては魔術の【属性】だとすら気が付かぬものである【無】を先生は新たに発見し、行使しました!」


「なんと素晴らしいッ!!」と――レイドは声を大にして叫ぶ。


……ほほぉ。

……コイツ、そこに気が付くか。

……だが、少し間違っているな。


「一応言っておくが、無属性を発見したのは俺が最初じゃない」

「え!?」

「レイド=レヴァノフ。お前、本は好きか?」

「……好きと言われれば、まぁ……」

「読み込みが足らん」

「!?」


「過去の偉人達。アズワルドに名を遺した賢人・聖人・魔境者と言った先人達は、その逸話から判断にするに、皆、無属性魔術の使い手だったと結論付けられる」


「――そ、その考察の根拠はッ!?」


「俺が無属性の使い手だから――というのは不親切すぎるか」


「……」


ごくりと、唾を飲み込み話の続きを心待ちにするレイド。


「魔術を発動するには、さ。基本的に属性を入れなければいけないというのは分かるよな?」


「己の内から生じるマナ……それに属性で方向性を与えたものを魔術と言いますからね。そこは、まぁ……」


「その方向性を足したものが、複合魔術」


雷属性とは、火と風の属性の混合。

樹属性とは、土と水の属性の混合。


「ただ、例外魔術だけはそのあり方が違う。光属性は全属性を複合し、その成分を光へと傾ける事で発動する。闇属性も同様だ。今まで足し算であったものが、今度は引き算で行使される。なら、その属性を全て取り払ったらどうなるのか? そう言った着想でこの無属性は生まれたんだ」


「本来であれば、属性の入っていない魔術は発動しない」


「ああ。だが、一度全属性を複合し、属性という成分を全て引き抜くと――無属性魔術というのは発動するんだ」


無論。口で言う程、簡単ではない。

魔術の体裁を保ちながら、魔術の根幹を引き抜くのだ。

繊細なマナのコンロトールを要求される。


数億以上存在するマナ粒子の一粒でも、1ミル分操作を誤っただけで、それは失敗するだろう。


無属性をあると信じ、ただひたすらに研鑽したものだけが、その秘術を授かる事が出来るのだ。



「属性を引き抜いて発動する魔術というのはな――力の方向性だ」

「方向性……」

「誘引・反発・誘導・拡散……まぁ代表的なのはこんなものか」


「……」


「無属性魔術というのはな、それ一つ覚えるだけで、全属性の魔術の位階を一段階引き上げると覚えておけば良い」


「なッ!?」


「ある聖人は――不毛の大地に一瞬で広大な森林を生やしたという逸話があるが、それは無属性魔術の拡散を使用している」


ある賢人は――魔物の大群を光の矢で全て撃ち落としたというが、それは誘導。


ある魔境者は――己の修練の為、降り注ぐ雷雨を全てその身に落とし、生還したというが、それは誘引と反発だろう。



彼等の偉業――語られる物語には、全て無属性魔術の存在がある。


「ある一定の力量を持った者は――きっと気が付くんだろうな?」


無属性魔術の存在を。

その有用性を知り――恐らくは秘匿した。


「だから――これは俺のオリジナルじゃない」

「……」


俺のオリジナルと呼べるのは、今の所、一つだけだが――これは秘密。

長々とした説明になっちまったな。

目の前のレイドは、興奮した様に「おおお……ッ!」と震えている。



――分かるな。その気持ち。

――世界が、広がった様な感覚を感じているのだろう?



「弟子は取ってはいないが――今、傭兵団の仲間を募集しててな」

「――ッ!」

「レイドと言ったな? ――お前、来るか?」


「――是非!!」


ぎゅっと。

俺の手を両手で掴みながら、力強く答えるレイド。




「――ところでコイツら、一体何の話をしてるんだ?」

「さぁ、ついて行けないわね」


呆れた様な顔で、此方を見るレシィとアルマナ。


……女共には、好きに言わせておこう。




――レイド=レヴァノフが仲間になった!



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