014 首席少年は目撃する
決闘を終えた俺は、暫しの休憩をザンスに申し入れ、一人で個室の部屋へと入っていく。
窓にソファに机――簡素な休憩部屋だ。
が――今はそれがありがたい。
「……ッ」
扉を背に、ずるずるとその場にへたり込む俺。
【マナ】も【気】も全て出し切った。
半端じゃなく――疲れていた。
そもそも、正気を失ったレシィを相手にしていた段階で体内の【マナ】は尽き掛けていたし【気】だって残り少なかった。
最後の戦いは――半分賭けであった。
レシィ=クリムゾンの厄介な部分は、その攻撃力ではない。
並外れた耐久力にある。
あのまま素手で――体術で戦われては、勝ち目がなかった。
だって、そもそも攻撃が通らない。
火の第八魔法『アグニ』を使って、肌を焦がす程度でしかダメージを与えられなかった段階で――俺はそれに気が付いたのだ。
このままでは不味い。
そう思った俺は、勝利するためのルート。
いかに相手に敗北感を与え、負けたと思わせるかに重きを置いた。
そうして考え付いたのが――レシィに剣を持たせようという事である。
あいつが剣を装備していた事は、四年前に見て知っていた。
基本スペックがもろに出る体術では敵わなかったが――剣術ではどうかと考えたのだ。
ぶっちゃけ、下手そう。
自慢の腕力でのゴリ押し……剣術の『け』の字も知らない戦い方をしそう……。
そんな偏見に塗れた考えで、俺は奴に剣を持たせてみた。
で、実際にやってみたのだが――俺の想像は半分正しかったと言わざるを得ない。
レシィ=クリムゾンの剣の腕は、確かにショボかった。
想定外だったのは、それでも身体スペックでゴリ押しされると、かなり厄介だったという点だろう。
想定よりも遥かにギリギリの戦いを強いられてしまった。
疲労困憊だ……。
「……あーあ」
俺は手に持った剣へと視線をやると――使用していた魔術を解除する。
土魔術により、糊付けされ、剣の形を保っていたものが――粉々に風化する。
……実際は、引き分けだったという訳だ。
さようなら。子供の頃から愛用していた――俺の剣。
◆
「信じられん……」
ザンス=クリムゾンは、折られた巨剣――イグニスを見詰めながら、そう呟く。
アダマンタイトを用いて鍛造された剣が、何の変哲もない市販の量産剣に敗れたのだ。
呟きたくなる気持ちも分かる。
「綺麗に切られたよな……」
「修理出来るかしら?」
「いや、そもそもしねぇ。記念としてとっとくよ」
「記念?」
「ハインリヒと全力出して戦った、記念!」
「……」
ニコニコと笑みを浮かべるレシィに、呆れた表情を向けるアルマナ。
「それに、案外使いやすくなったかも知れねぇしな。頑丈なのは良いが、コイツは私のタッパで扱うにゃ、でか過ぎた」
2メイル程あったイグニスは、現在1.5メイル程の大きさとなっている。
レシィの身長が165セイルなので、それでも取り扱うには大きい位であった。
「名付けて――ソードオフ・イグニス。どうだ? ――イケてね?」
「剣をソードオフってどうなのかしら……?」
――まぁ、気に入っているなら構わないけれど。と、アルマナは内心呟く。
「……もう、大丈夫なのね?」
「あぁ、闘争心も治まった……世話を掛けちまったな?」
「気にしているなら、それは後で剣で返しなさい」
「――だな」
言いながら、レシィは訓練場の周囲を見渡す。
戦闘の余波により、石畳は潰れ、壁には亀裂が入っていたりと、散々な有様だ。
「……酷いな」
「片付けは業者に頼むとして、暫くは訓練場は閉鎖するしかあるまい」
「悪いな、オヤジ」
「お前が化物になるよりは、マシな結果だろう」
「……」
レシィとザンスのやり取りは、未だ何処かぎこちない。
レシィ側の問題が片付いたとは言え、父との問題は――また別である。
「腹、減ったなぁ……」
動き疲れ、自身の腹部を抑えながら、そんな気の抜けた事を言うレシィ。
「折角だから、ハインリヒを誘ってご飯でもどうかしら?」
アルマナの提案に「それ、いいな!」と賛同するレシィ。
時刻は丁度、夕刻を周った頃であった。
◆
その場から解散する騎士団員とザンス。
アルマナとレシィに強制的に連れられ、渋々繁華街へと歩き出す、ハインリヒ。
無人となった訓練場の中で――動く影があった。
「この魔法陣……やはり見た事がない……ッ」
飛び散った石畳の破片。
それを組み合わせ、浮かび上がった紋様を見つつ、影は呟いた。
壊れた壁の隙間から――月の光が差し込む。
露わになった影の正体は、一人の少年であった。
王立学院の制服に身を通し、羽帽子を被った、利発そうな眼鏡の少年。
レイド=レヴァノフは――身を震わせながら、その紋様に手を触れる。
「属性指定無し……無属性……ッ!? そんなやり方があるのか……ッ!?」
それに――あのレシィ=クリムゾンを打倒した実力……。
何処を取っても、只者ではない。
「ハインリヒって呼ばれていたよな……?」
見付けたかも知れない。レイドは思いながら、唾を飲み込む。
「ハインリヒ=セイファート――ハインリヒ、先生ッ!!」
王立学院首席の少年、レイド=レヴァノフはこの日――自身の退学を決意した。
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なるべく少なくしていく努力はしていきますので、今後とも応援よろしくお願いします。
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