表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハインソード・サーガ  作者: 威風
第1章 幕間 ~それぞれの道~
16/185

002 その日、ライディは旅をする

カレル暦204年。


国鯨の月、深樹の曜日にて――国境の要塞都市へと続くヘレゲン街道を一台の馬車が走っていた。


中規模程度の大きさの馬車は、旅客馬車と呼ばれる。

人を乗せ、人を運び、運賃を頂く商いである。


馬車の中には貴族風の家族連れが三人。内――小さい子供は七つの少女である様だ。

他にも、新天地で商いを開こうとする商人。

里帰りをする婦人等――十人程度の乗客が座っている。



フレイ=ガトリンガーは冒険者である。


駆け出しの。

という頭文字は、そろそろ外しても良いだろうと思う程度のキャリアはある。


ブラウンの髪を一本に結い、肩口から垂らした髪型をした彼女。


その装備は基本的なレンジャーの装いで、軽装。

獲物は太ももに差した短剣と、右手の自動洋弓である。


そばかすのかかった頬を指で掻きながら、彼女は一人嘆息する。


……一日がかりの馬車の護衛が、一万イラかぁ。

……これじゃあ命の危険がない分、日雇い労働の方がマシなんじゃないのかな?


尤も、大した実績の無い冒険者というのは、日雇い労働者と変わらない。


結果を残し――組合に評価されたものだけが、華々しい扱いを受けるのだ。



フレイ=ガトリンガーも、その事は分かっている。

重々承知だ。



分かった上で――現実と理想のギャップに苦しんでいた。



……二十歳になって、田舎を出れば何か変わると思ったのになぁ……。


……現実は、魔物の一匹も出ない街道の馬車護衛。


……実績の薄い冒険者にやらせる任務なんて、そう多くはない――か。



「……ふぅ」



息を吐いて、気持ちを切り替える。


いいわ、楽しい事を考えよう。

仕事が終わったら、久しぶりに報酬でお酒を飲もう。


前行った酒場は、むさいおじさんばっかりだったけど、今度はイケメンの冒険者にも会えるかもしれない。


会えなかったとしても、豪遊してやるんだ。

自分へのご褒美って奴ね。



「……ん?」



私がそんな事を考えていると、突然、一人の乗客が立ち上がり、御者の方――つまりは、私の立っている方へとやってくる。



「……どうしました?」



問い掛けながら、私はその人をよく見る。

暑い時期であるのに関わらず、フード付きの黒い外套を目深にした男。


いや――少年か。


歳の方は分からないけれど、恐らくは自分よりは年下。

美しい金色の髪に、鋭い眼光。

肌の色は病的な程に白く――もしかして日に弱いから、外套を着ているんじゃないかと想像してしまう。


酷く分かりやすく、身も蓋もない言い方をすれば――かなりタイプなイケメンであった。



「一旦、馬車を止めた方が良い」

「……え?」

「ボアの大群が移動している――このままだと標的にされるぞ」

「……こんな場所で? そんなことって……ッ!?」


少年の言葉を否定しようと、外の風景を見る私。


そうして確かに――いた。


素人目には遠く離れており、御者も注意しなければ見えない場所。


「……馬車と並行して走っているな。少し気付くのが遅かった」

「……追跡されてるってこと?」


私の言葉に、静かに頷く少年。


やばい。どうしよう。

ボアの一匹や二匹なら私一人でも何とか出来る。


けれど――並走するあの大群は数十匹といった数ではない。


とてもではないが、手が足りない。

太刀打ちが出来ない。


しかも奴ら――徐々に此方へと近付いて来ているじゃないか。


馬の脚よりも、ボアの足の方が速いのだろうか?

いやでも、人を乗せているんだからソレもそうか。


――ああ、駄目だ。

――頭が混乱する。


――何で私、こんな日に馬車の護衛なんて引き受けちゃったんだろう……ッ!?



様子のおかしさに、他の馬車の乗客達も俄かに騒ぎ出す。



「おい! あれ魔物じゃないのかッ!?」

「何だあの大群……!?」

「嘘! こっちに向かって来ているじゃない!!」

「何とか振り切れんのかね? ――おい!?」

「護衛は何してたんだよッ!!」



馬車内は騒然としてしまう。

どうすれば良いのか……冷や汗を掻きながら、私へと視線をやる御者。


呼吸が荒くなり、指先が震えるのを自覚する。


どうすれば良いかなんて、私には分からない。

経験が足りないのだ。

何もできない。


此処にきてようやく――私は自身の非力さを認識した。


――日雇い労働者がどうしたって?

――報酬に不満?


――ふざけるな。

――分相応じゃないか、私には。


この人達が死んだならば、それは私の責任だ。


私が――甘ったれていた、せいだ。



どうしようもない現実に、顔を覆いたくなった時――女の子の声が聞こえた。

乗客にいた、七つの子供の声だ。



「……怖いよぉ」



ぬいぐるみを片手に、泣き出す少女。

両親は気が動転しているのか、少女に構わず何故か互いを中傷しあっていた。



一人取り残され、べそを掻く少女。



「――大丈夫だ」



少女の目線へと腰を下ろし、涙を拭いながら――フードを被った少年は、声を出す。


それは何とも――芯のある声であった。


動転する車内で、思えば彼だけは――落ち着いていた。

横で見ているだけなのに、掛けられた声は私に向けられたものでもないのに――



――何故か、心が落ち着く。



「お兄ちゃんに――任せておけ」







少女を落ち着かせた後――少年は一人、馬車から飛び出しボアの大群を迎え撃った。

禍々しい黒い魔剣を携えながら、雷属性の魔法を駆使し――次々とボアを討伐していく。



その姿は――まるで御伽噺の英雄の様だった。



「ゼァ――ッ!!」

「!!!」


飛び掛かるボアの最後の一頭を、横薙ぎに両断する少年。

短い断末魔と共に、地へと転がる魔物。



数にして――百近く存在したボアの大群を、彼は一人で片付けてしまった。



「は……はははは。――何よそれ」



呆れる様な強さだった。


それだけに魅入られてしまった。

私も――馬車の中にいる皆も。その場の全員――彼に。




「――う、うおおおおおおおおおおお!!!」




その場の誰かが雄叫びを上げた。

声を皮切りに、歓喜を分かち合う乗客達。



私は溜まらず馬車を降り、彼の元へと走り出す。



「――あの!! ――ありがとう! 私……護衛なのに何も役に立てなくて――ッ!」

「……別に。気にする事じゃないよ」

「それでも!! それでも言いたかったのよ!! あなたに! あなた……その――」


相対すると、頬が赤く染まってしまう。

私の方が年上なのに――恥ずかしい。



でも――これだけは、絶対に聞かなければ。



「名前は――なんて言うんですか?」







「――」


女性に名を聞かれ、少年は一瞬――戸惑った。

人間からこうして関心を向けられるのに、慣れていなかったからだ。



成長したのだろう。

成長させてもらったのだろう。


あの村に。――あの親友に。



『――神童って呼ばれていたのか?』


『げ。……何だそれ、誰から聞いた?』

『誰かは知らない。歩いていたらそう聞こえて来たんだ』

『よし、陰口叩いてる奴は殴ってこよう。それはそれとして――今は違うからな?』

『違くは――ないんじゃないですか? ハインは凄いですし』

『良いんだよ、リィン。……俺は現実を知ったんだ。神童なんて馬鹿馬鹿しい!』



回想する。――懐かしい日々を、優しい日々を。




『神童ハインリヒ=セイファートに!!! 扱えないと誰が言ったァッ!!!!』




邪神へと向けて、切った啖呵。

真っ暗な意識の中、それでも聞こえたアイツの声に、俺は自然と笑みを浮かべていた。



なんだよ――やっぱそうなんじゃないか。――と。




「あのう……」

「――あ」


つい、考え込んでしまい、女性へと名乗るのが遅れてしまった。

にやつく顔を見られ、おかしく思われただろうか。


いいや、それならそれで開き直る。



「俺の名前だろう? 俺の名は――」



あいつが【神童】ならば――俺は――



「――【雷神】雷神ライディ=アークスだ。……よろしくな?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
アズワルド世界地図↓
html>
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ