011 キッチェ=ルヴィ
あいつ、今なんて言った……?
「古代の……」
「……アーティファクト?」
思わず、俺とライディは互いを見詰める。
「――ッ!!」
瞬間、俺達は弾かれる様にその場から駆け出した。
――魔王レノ=アークスが残した、あの魔剣!
――あれならば、邪神を討てる!
「何処だ!? お前らの家って何処にあった!?」
「分からないよ! こんな更地になってちゃ、場所も方角も見当が付かない!!」
「だよなッ! ――くそッ!!」
俺は舌打ちをしながら、勘で見つけたそれらしい場所を中心に、土を掘り返す。
「……なにやってるのぉ?」
「――おわぁッ!?」
突然、俺の目の前に現れる邪神トゥールスレイ。
瞬間――雷光が眼前を走り、邪神の影を掻き消す。
「ライ!?」
「俺が引き付けるから、ハインは剣をッ!!」
「く――ッ!?」
俺は歯軋りしながら、剣の捜索を再開する。
「はははぁ? 剣? 剣かぁ?? ――見付かるといいねぇ、そんなものぉ」
嘲笑うトゥールスレイの声と、ライディの雷撃呪文の轟音を背に、俺は土を掘り返す。
時間がない……ッ!
もって1分。
いや……数秒かもしれない!!
ライディが稼いでくれている時間を、俺が何とか生かさなければ……ッ!!
「く、――くう……ッ!!」
魔剣自身が放つマナを頼りに、知覚範囲を広げていく――が。
「くそッ!!」
……駄目だ!
辺りに充満するマナがあまりにも濃過ぎていて、剣の放つマナを塗り潰してしまっている。
これでは――到底見付ける事なんて……出来ないッ!
――剣が見付からなければ、どうなる?
――死ぬ……か?
――背後を振り返るのが怖い。奴とライディとの戦闘音は既に止んだようだ。
――ライディ、リィン――キッチェ。
「……ッ……え?」
諦めかけていたその時、前方から――声が聞こえた。
「――イン」
心臓がドクンと、高鳴る。
聞きなれた声。
ずっとずっと一緒にいた――アイツの。
「ハイン――ッ!!」
キッチェ=ルヴィの――声が聞こえた。
「あ……あ……ッ!」
俺は、あまりの衝撃に何も答えられなかった。
何で此処に?
どうしてアイツが?
青白い顔をしながら、両手に魔剣を抱き――俺の方へと必死に駆け寄るキッチェ。
――剣……魔剣……何故アイツがあれの事を知っている?
いや、分かっているだろう、ハインリヒ=セイファート。
アイツは常に、俺の近くにいた。
四年間――喧嘩をしてもずっと。
ずっとずっとずっと―――――俺の傍にいてくれたんだ!!
「来るな――――ッ!!!! キッチェ――――ッ!!!!!」
叫び、俺はキッチェの元へと全速力で駆け出した。
アイツは馬鹿だから、叫んでも歩みを止めないだろう。
だから――俺が迎えに行くしかないんだ。
ずっとずっと、そうだった!!
「ハイン!――ハイン!!」
俺の声に、死にそうな顔で嬉しそうに笑うキッチェ。
馬鹿が、違う。
そうじゃないだろう――くそッ!!――くそぉッ!!!
「――ッ!!! キッチェ――ッ!!!」
手と手が触れ合う瞬間。
四年振りに――隣に立てたその瞬間。
「――あ」
――キッチェの腹が、赤く染まった。
「あれ……?」
キョトンとした顔をしながら、その場から崩れ落ちるキッチェ。
その腹部には、太い杭の様な物が生えていた。
流れる血が、地面へと広がっていく。
「キッチェ……ッ!? ――キッチェッ!!!」
俺は、倒れる彼女を抱き、傷口へと回復魔術をかける。
――大丈夫だ。
――魔法は効いている。
――絶対に助かる。助けて見せる。
「剣……落としちゃった……」
地面へと転がった魔剣に視線を向けながら、キッチェはそんな事を口にする。
「馬鹿がッ!! 剣なんてどうでも良いんだよ!! ――来るなって言っただろう!!」
――ああ、違う。
――言葉にしたいのは、そんな事じゃない。
「そっか……私馬鹿だから、また間違えちゃった……」
「――ッ」
何でだ?
魔法は効いている。
なのに、何故血が止まらない……?
「でも、嬉しい……またこうして……話す事が出来た……」
「……ッ」
「ハインは……さ。……自分で思ってるよりも、ずっとずっと凄いんだよ……?」
「何を……言ってるんだ……?」
「初めてあった時……魔法でシャボン玉……見せてくれたよね……?」
「……ああ」
「あの日から……ハインはずっと……私の中で……ッ」
「――キッチェ? キッチェッ!?」
咳き込み、口から血を吐き出すキッチェ。
もう止めろ。
言わなくていい。
伝わった。
充分伝わったから。
だから――ッ!!
「――じて」
掠れた声は音にはならず――キッチェ=ルヴィはその場で命を失った。
「……」
「――悲しいねぇ??」
背後の邪神が、嗤いながら声を掛けてきた。
ゆっくりと振り返る俺。
そこには――
腕をあらぬ方向へと曲げられ、気絶したライディ。
両手両足に杭を打たれ、身動きを取れなくされたリィン。
――そう、惨憺たる光景が広がっていた。
「ふぅん?――魔剣ディープセクターかぁ……」
転がる剣へと視線をやりながら、邪神は呟く。
「――ま。知ってたけどねぇ?? レノが持ってた魔剣でしょ? それぇ??」
「……」
「確かにそれなら、ボクを倒せるかもねぇ??」
「……」
「――拾いなよぉ?」
邪神に促されるまま、俺は目の前に転がった魔剣を拾い上げる。
「……ッ」
急速に吸い上げられる体内のマナ。
キッチェはこんなものを持って、俺の所まで走ってきたのか――。
マナ酔いだってあった筈。
それでもずっと、俺を追い掛けて来たのだろう。
いつもの、ように。
「辛いよねぇ? 悲しいよねぇ?? 苦しいよねぇぇ??? 人間じゃ、それは扱えない。この面子でそれを振るえるのは、今倒れている二人だけだぁ??」
「……初めから、こうするつもりだったのか?」
「んん? んふふふふふふ??」
「希望を与え、絶望へと落とす。――お前、そういうのが好みだもんな」
俺の言葉に、邪神がケラケラ嗤う。
上手くいったとばかりに、笑う、嗤う、哂う。
「ハハハ! 当ったり~! 君達の足掻く様は本当に滑稽で――楽しかったよぉ??」
――そうか。
――分かっていた事だ。
……知れてよかった。
「もう一つ聞きたいんだが――いいか?」
「何だい何だい??? 何が聞きたい??」
「……誰が言ったんだ?」
「んん??」
「俺に――この剣が扱えないと」
人間では扱えないのは確かだろう。
マナの貯蔵量が違うから。
持っているだけで木乃伊になって死んでしまう。
だがな――
『――信じて』
俺は、手に持った魔剣――ディープセクターを力強く横へ薙ぐ。刃の軌跡と共に、赤く変色したマナの粒子が飛んでいく。
人間には無理だ。
人間には扱えない。
だが――
だが――ッ!!
「神童ハインリヒ=セイファートに!!! 扱えないと誰が言ったァッ!!!!」
邪神トゥールスレイ……貴様だけは――絶対に許さん!!
「――雑魚がッ!!! ――ぶッッッ殺してやるッ!!!!」




