↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハインソード・サーガ  作者: 威風
第1章 ~邪神降臨編~
11/185

010 血の覚醒~嘲笑う邪神~


 この世界には、明確に神と呼ばれる者が存在する。

 聖書・アズワルド創世記には、初めの頁にこう記されている。


 創造の女神カレルが、この世界と生命を作り――

 慈愛の女神アルフロアが、その愛でもって育み――

 試練の女神ククゥリエが、正しさを導き――

 天杯の女神ローディアンが、裁定する――と。


 世界は四柱の女神により創造され、我らは常に導かれている。


 しかし、それでも争いは存在する。


 人間と亜人と魔族。……種族の違いによる不和。

 富と貧困。……貧富による格差。

 性質の不一致。……正しさ故の曲げられぬ争い。


 これらは決して無くならない。何故なら、争いは自然の摂理だからだ。


 けれど――その火種を。


 敢えて大きくし、娯楽として消費する悪魔の様な存在が――この世界には、いる。



 ――七大邪神。



 狡知の邪神トゥールスレイ

 暴虐の邪神アルバルヴァ

 哀願の邪神マーケスタ

 色欲の邪神ペンティアム

 狂奔の邪神フィアテレッサ

 反転の邪神オルケイン

 終焉の邪神アンセム



 聖書に示され。

 更に実際に歴史書に記され。


 今もなお時代の節目に存在を認知されるもの――邪神。



 それが今――カレル暦204年。

 山羊の月、黒土の曜日。


 アーランド大陸西部に位置する大国リアネス。その南部の片田舎、テランにて――


 ――降臨する。




◆




「はぁああああああッ!!!」



 裂帛の気合と共に空を駆け、邪神トゥールスレイへと突撃するリィン。

 両手には無詠唱『エア・クリエイト』により作られた魔術の双剣を顕現し、振っていく。



「はははは! あはははははははは!!」



 馬鹿にした様に両手を広げ、背後へ飛んでいく邪神。

 追い縋るリィンの姿は閃光の様で、傍目には赤い線が走っている様にしか見えない。



 だが――それでも当たらない。



 上下左右と縦横無尽に走る両者。

 あまりにも力量の違う争いに、俺とライディは立ち尽くす事しか出来なかった。



 魔王の力に目覚めたリィンの実力は――俺達を遥かに超えていた。


 だが――そんなリィンでも、邪神トゥールスレイを相手に掠り傷すら負わせられない。



「リィン……」



 下唇を噛み、悔しそうに目の前の光景を見詰めるライディ。


 気持ちは――分かる。


 だがどうすれば良い?

 相手は教科書にも載る様な化物だ。


 地方によっては子供を寝かしつけるのに『トゥールスレイが来るよ』と唄があるくらいだ。


 狡知の邪神トゥールスレイ。

 直接戦闘するタイプではなく、その狡猾な智謀でもって人々を操り、破滅させるという。

 かの邪神に滅ぼされた国は数知れず。

 帝国地方の亜人の部族はその全てを灰にされたと聞く。



 人間・魔族・亜人・魔物・龍族・妖精属・精霊……。


 この世界に存在する、生きとし生ける生命の――天敵。



 それが――邪神。



「リィンが負けたら……俺達も終わりか……」



 弱気な声が、ポツリと出てしまう。


 聞こえてくる戦闘の音で、その言葉はライディの耳には聞こえなかった様だ。




◆




「やるねぇ!やるねぇ! ほら、もうちょっとだよぉ? ほれほれほれぇぇえ??」


「――ッ、ふざけてッ!」



 苛立ちながら、私は剣を振るう。

 忌避していた化物の力。

 お父さんの力。


 だけど――今だけは私に力を貸してほしい。



「おしいいい――ッ!!」


「――ッ!」



 完全に入ったと思った斬撃を、文字通り首を折って回避する化物。



「強くなってるねぇえ? ……戦いの中で、血が昂ってるのかなぁ??」


「……」



 息を切らしながら、私は一旦攻撃の手を止める。

 魔法剣……ハインから教わった魔法……だけど、こいつを倒すにはソレだけじゃ駄目だ。



「何でそんなに必死なのぉ? ボクは君に用があるんだよぉ?」



 目の前の空間が、揺らぐ。



「君がボクの言う事を聞いてくれたらぁ……お兄ちゃんは見逃してあげてもいいよぉ??」



 ――耳元で、道化師が囁く。



「くッ!!」


 

 鋭く変異した爪で、道化師を切り裂こうとするも――躱される。



「それともハイン君の方が良いかなぁ?? でも駄目駄目。二人は欲張りだぁ」



 陽気な態度を一変させ――邪神は囁く。



「助かるのは一人だけ。――もう片方は無残に殺す」



 脅す様に、弄ぶように、道化師は言った。



「……それを――私に選ばせたいのね……」



 最低な趣味。

 けれど、私は分かっていた。


 こいつの本質を。――やり口を。



「――私達の家に、火を付けたのはあなたでしょう?」


「うふ?」


「――人を操って、殺させた」


「分かってんならいいやぁ……そだよ? 傑作だったなぁ、君もあそこでスッキリ――」



「六(・)年(・)前(・)も(・)――そうだよね?」



「……へぇぇえ??」



 トゥールスレイの声色が変わる。

 あまりにも似ていた。似すぎていたのだ。


 それこそ、同一のものが企てた犯行だと――今になって気が付いた。


 そしてその想像は――間違って、ない!



「お前……母さんを殺したな? 人間だった母さんを……焼き殺したな?」


「……」


「父さんを……優しくなっていた父さんを――狂わせたな?」


「……」


「……許さない。絶対に」



 ――許さない。



「許さないって――具体的にどうするのかなぁぁああああ???」



 空間が歪み、再び背後へと回り込む邪神。

 その手には大鎌を持ち、此方へとその凶刃を振りかざしてくる。



「――リィン!!」



 地上にいるお兄ちゃんが、悲痛な声を上げる。



 ――大丈夫。

 ――絶対に――仇は討つから――。



「――あ?」



 刃が触れる寸前――振り返ったリィンの髪は――赤く、紅く、朱く――




 空間転移により、離れた場所へと出現する邪神。


 その姿にはあるべきものがなかった。



 元より異形である邪神。

 その身体に流れるのは黒い血であることを――この日、ハインリヒは初めて知った。



「……腕を、取ったのか?」



 あの一瞬で。

 ……リィンが?



「あの髪、父さんと同じ色をしている……」



 呆然としたまま、ライディは変貌した妹の姿を見て、そう呟く。



「完全に目覚めたのか――リィン」



 ――そこからの展開は早かった。


 魔王の血に目覚めたリィンは、その圧倒的身体スペックにより、邪神トゥールスレイを追撃し、疲弊させていく。


 繰り返される空間転移。


 だが、時を止めたかの様なリィンの速度には到底敵わず、邪神は徐々に追い詰められていった。



「はは、ハハハハハ! 何だこれ? なぁんだこれぇ???」



 両手と右足を失い、仮面の下から黒い血を吐き出しながら、邪神は狂笑する。



「こんなに強くなっちゃさぁ……もう人並みの生活なんて、完っ全に無理だよねぇ??」


「……」


「理解者なんていないよぉ? 君は枠から外れたぁ! 生命の枠からだぁ!!」


「……」


「父親より強いよぉ……誇って良い。――君は、化物だ」



「……滅べ」



 リィンが呟くと、邪神の身体から黒い炎が上がっていく。


 魔術……ではないだろう。

 あれほど強力な炎は――火属性の位階には存在しない。



「あ! あああ! ああああああああああああ!!?」



 消える。消えていく。

 あれほど恐ろしかった邪神が。トゥールスレイが――リィンの手によって消えていく。



「……」



 やがて炎は消え――邪神は完全に消滅する。



「勝った……のか?」


「リィン……」



 呟く俺達を、リィンは悲しい瞳で見つめていた。


 ……おい、何だよその表情。

 ……トゥールスレイの奴の言葉を気にしているのか……?



「……リィン」


 

 ライディにも、その空気が伝わったのか、妹の姿を固唾を飲んで見守っている。


 ……おいおい。

 ……もう全部終わったんだ。


 ……もう良いじゃないか、そのまま帰ってきてくれれば――



「――ッ! まだだ! リィン――ッ!!」



 舞い上がった黒い粒子が――リィン=アークスの首を掴む。



「な――ッ!?」



 丸まった粒子は蛾となり、リィンの手足を包み、彼女の口内にまで侵入する。



「!!」



 突然の異物感に、涙目になりながら身を捩るリィン。

 だが、彼女の拘束は解けない。



「――位相を、ずらしたんだよぉお??」



 聞きたくもない声が、その場から響く。

 集合した蛾は、やがて形を変え――姿を変え――邪神トゥールスレイへと変貌する。



「邪神を滅ぼしたいならぁ、――位相を固定しなきゃぁ駄目だよぉ??」


「――」



「幾ら巨大な力を持っていても、意味はない……。とはいえ、位相の固定なんて、古代のアーティファクトでも無い限り、無理だけどねぇえ??」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
アズワルド世界地図↓
html>
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。