☆再び、一九八六年二月九日
「ここは……」
少女が目を覚ますと、さきほど廊下に居た男が、自分が寝ているベッドの横で椅子に座り、心配そうに見守っているのに気付いた。
「目が覚めたようだね、陽子」
「あっ、ひいおじいちゃん。わたし、ねちゃってたのね」
「あぁ。幸子さんが、仏間の座布団の上で丸くなって寝てるのを見つけてね。寒い時期に、あんなところで寝てたら風邪を引くよ」
「ごめんなさい。……そっか。さっきのは、ゆめだったのね」
「ぐっすり眠ってたようだけど、どんな夢を見たんだい?」
「えっとね。いろんないろのガラスがはまったドアのまえにいたのね。そしたら、やさしいおにいさんにあってね。それで、かわのよこをあるいてたら、いきをとめるれんしゅうをしてるひとがいてね。それから」
「飴でも買ってやろうと言われて、大きな欅の樹の下で待ってたのかい?」
男が話を先取りすると、少女は目を丸くして驚く。
「どうして、わかったの?」
「なるほど。長年の謎が、ようやく解けましたよ。ホッホッホ」
「ねぇ、ひいおじいちゃん。どういうことなの? ねぇってば」
袖を引いて不満げに口を尖らせる少女を尻目に、男は納得したように大きく頷いていた。
少女が、この謎を解くのは、きっと二〇六一年の七月二十八日になるだろう。