最後のおまけです。
すぐ上の姉の墓参りに行くと、姉の親友、彩子さんがすでに手を合わせていた。
もう十年も経つのに毎年来てくれる。さすがに家には来なくなったが、どこかで会えば必ず声をかけられた。
「こんにちは彩子さん」
「あら卓也くん、こんにちは。久しぶりね」
「あれ、眼鏡かけたんすか?」
「そうなの。作業するのにしんどくて、とうとう作っちゃった」
ニカッと笑う姿は、姉に似ている。
「老眼じゃないからね」
ドスのきいた声で先に冗談を封じられたので、大人しく持参した線香に火をつけることにした。
このやり取りに、ホッとする。
だが、墓前に置かれたそぐわない物に一瞬思考が止まる。
『魔法学園アーライル2 ~今度は魔王を倒します~』
…………マジか。
「怒らないでよ? そのゲームね、昔私が大好きで、コミケで爆買いした同人誌を里美も好きだったのよ。人気が偏ったゲームだったからそれきりだったんだけど、十年経ってから続編が出たの。今年はこれを墓前に供えなきゃと思ってさ」
里美……久しぶりに家族以外から姉の名前を聞いた。
彩子さんは変わらず、会えば屈託なく姉を話題にする。
ホッとする。
「知ってますよ。姉ちゃんがやりもしないのに唯一はまったゲームだったから」
そっか卓也くん知ってたっけ、と彩子さんは笑う。
変わらないなぁ。
変わらないといえば……
「彩子さんはまだオタクなんすか?」
「は?まだってなによ私は一生オタクよ! 死ぬまで独りだろうとこれだけは譲らないわ!」
……変わらないなぁ。
「何よその残念な子を見るような目は。ちゃんと働いて税金も納めてるんだから文句はないはずなのよ」
あれ。
「彼氏いないんすか」
「うわっ!断定で来た! いないんじゃないのよ!作らないのよ!」
その必死さに思わず噴いた。
「笑うとこじゃないわよ!?」
と目を剥いて言ったくせに、彩子さんはすぐに笑った。……なーんだ。
「自分で笑ってるし」
「自虐ネタなんて旬な時に使うものよ」
子供のような素振りと大人の顔と。いまだ豊かな人だ。
「今日は有給っすか?」
「そ!有給消化も兼ねて三日とったから、このゲームをクリアして次のイベントへのプロットを立てるんだ~」
「相変わらず休みの方が忙しいっすね。でもそのゲーム、三日でクリアできるような簡単なヤツなんです?」
ストーリー重視のゲームは段取りを間違えるとプレイヤーの希望通りにクリアできない。けっこう時間がかかる。
「あと半分だからクリアはできるんじゃないかなぁとは思って。今回のラスボスね、前回主人公の恋路の邪魔をするしょぼい悪役令嬢の隠された弟だったのよ。奴隷に売られたり色々と何だかんだで凄く祖国を恨んでるんだって。これがまた憂いをおびた超イケメンなんだけど、魔法最強だわでラスボス対決が前作より時間がかかるらしいんだよねー」
どうにも煮詰まった彩子さんを何度か手伝ったことがあるけれど、ゲームをしてる時間なんて無いんだよなぁ。
やつれた彩子さんはゾンビかと思うほどだ。
「俺、今日明日で有給取ったんで、日当五千円で手伝いますよ?」
「マジで!?」
キラリンと彩子さんの眼鏡が光る。
「なんなら別途材料費プラスでご飯も作りますけど?」
「オタクに一台欲しいヤツ!」
三十路の女が叫んだ。ほんとオタクって大変。ちゃんと食ってんのかな? 料理上手なのは知ってるけど。
「イベントの方がメインなんでしょ?」
「さすが分かっていらっしゃる! ついでに卓也大明神、コスプレをお願いしたいキャラがあるんですが……?」
上目遣いをされて平気な女って、彩子さんだけだけど……頼み事がなぁ……
「えー、俺28歳っすよ? 日当二万別途弁当交通費付きなら受けましょう」
「即断!しかし高い! えー、弁当交通費込み一万五千円でどうでしょう?二日間で!」
チョキをどんと出されても、だいぶに値下げされた日当よりも当日の俺の羞恥心がもたないです。
「無理。一日」
「駄目か~。じゃあしょうがない。でも一日だけでも潤う~。ありがとね!」
墓参りで何をやってんだと毎回思うけど。
楽しい。
姉ちゃん、俺らも、元気にやってるよ。
この二人でシめましたー!(笑)
これにて『贅沢三昧したいのです!』完結となります。
ここまでお読みくださったあなたのおかげで、ここまでやってこられました。
こんな長い話にお付き合いいただきまして、まことにありがとうございます。
最初は十話十万字で終わる予定だったこの話。終わってみれば総話数七十(おまけ含む)、630,214文字となりました。……よくまあ……(笑)
いただいた感想からだいぶネタをくすねたからですね(笑) 優しい読者さまたちで助かりました! イラストもいただけましたし、【番外編】もできましたし、こんなにもキャラを好きになってもらえて嬉しいです。
途中何度も投稿期間が空いてしまい、申し訳ありませんでした。ですが、その分、自分でも納得できた筋もありました。
読んでもらえなくても作品として残そうと書き始めた話で、転生悪役令嬢がそろそろ廃れてきた?というところでの投下。流行には乗り遅れたのですが(笑)、思いがけずたくさんのお方に読んでいただけました。
拙作に出会っていただけたこと、さらにはブックマーク、評価、感想、レビューまでいただけたこと、とてもとても嬉しく思います。
本当に、ありがとうございました。
みわかず




