54話 なんだか忙しいです。
うう、しんどい・・・
他人の着付けを見るのは楽しいんだけど、自分でも楽しい気持ちはあるんだけど。
朝一から昼手前まで立ちっぱなしって酷くないですか!?
「夏休みですから時間はたっぷりありますしね。倒れても大丈夫ですから、もう少し頑張って下さい」
・・・にっこにこのカシーナさん。倒れるの前提ですね!イエスマム!
「ホラ、お昼はたらふく用意してあるからもう少し頑張りなお嬢」
洗濯の時間も終わったのでケリーさんたちも服飾棟に来ている。お昼ごは~ん!
「ここにはこのレースを付けたら合うのじゃないかしら?」
騎士団長夫人マミリス様。
「あら素敵、良いわね」
ラトルジン侯爵夫人。
「私はここのフリルを増やしたいわ。フワリとしたのがサレスティアには合うと思う」
ステファニア王妃。
「わかります! できれば髪もまとめずにいたいですわ」
アンディ母、マルディナ様。
・・・・・・おかしくない? いくら王子との結婚が決まっているとはいえ、私のウェディングドレスのデザインをするメンバーがおかしくない!?
王妃までが公務の合間に口出しに来るって、おかしくない!?
「だって王都での王家の結婚式はドレスが選べないのよ。お色直しだってデザインは固定だもの。それが栄華の象徴と言われたら変えるわけにはいかないわ」
お昼休憩。・・・はい。恐ろしい事に、休憩です。午前で終わるはずだったのに!しないはずだったお色直しまで奥方たちの要望でする事になって!
なぜに私の意見は黙殺?
ステファニア様、自分のが選べなかったからって私でする事なくない?
「王都での成婚パレードは第二王子までと決まっているから、シュナイルたちの衣装ももう固定なのよ」
一の側妃パメラ様(シュナイル様母)が苦笑しながら教えてくれる。
シュナイル殿下妃になるクリスティアーナ様はスラリとした方なので、マーメイドドレスとかめっちゃ似合いそうなのに・・・
「私たちは自分たちで選べましたけど、王のデザインはやはり同じなので、あまり華美にはしませんでしたわ」
エリザベス姫母、二の側妃オリビア様が三の側妃マルディナ様(アンディ母)と顔を見合わせ苦笑する。
「「「「 だからもう、結婚式用のドレスをデザインできると思うと楽しくて!! 」」」」
・・・ロイヤルな奥様たちがキャイキャイしてる・・・ウェディングドレスって凄い・・・あ!
「そうだ!エリザベス姫様のドレスをデザインしましょうよ!」
子爵家の三男という庶民に近いところへ嫁ぐけど、「姫」だもん、派手にしたっていいじゃない?
「エリザベスは降嫁先での挙式になるわ。ドレスだけ派手にしたって相手との兼ね合いがあるでしょう」
王妃のカウンター・右ストレート。いやちょっと待ってよ。姫を派手にしないのに私はOKな意味が分からないっての! オリビア様!娘の事だよ!頑張ってーっ!
くっ、何か、私から意識を逸らせる何かを、あ!
「じゃあ、あれですよ、え~と、王妃様なら成婚二十周年祝いとして、ご自身のウェディングドレスを作られたらいかがです?」
「馬鹿ねサレスティア。初々しい年頃に着るから可愛いのよ。こんなおばさんが着てどうするの」
王妃のカウンター・一刀両断。自称おばさんでもいい身体してるじゃん! くそ!まだまだーっ!
「そこはデザインのしどころじゃないですか。夜会用のドレスでも純白になるだけで印象が変わるものがありますよ」
ぽかんとする奥方たちは顔を見合わせた。
うむ、良いこと言った私!このまま自分らのドレスデザインにシフトチェンジしてくだ、
「申し訳ありませんが、製作はお嬢様のドレスを最優先にさせていただきます」
カシーナさーーん!! 早いよーーっ!?
「ならやっぱりサレスティアのドレスを決めてしまわないとね」
うわあああああん!!
・・・・・・ほんと、疲れた・・・あ~・・・
『はは!災難だったね』
「アンディさん、他人事ですか」
執務室です。
よくよく考えれば採寸はもうしてあるんだから、レースやらフリルやらは私がいなくてもいいわけで。
ようやく釈放されたので領主の仕事をしに来ました。あー、インクの匂いになんかホッとするわ~。
そして現在アンディにちょっと愚痴り中。妃たちが皆ドロードラング領に行ったと聞いて連絡をくれたのだ。もちろんアンディは仕事中なのでちょっとだけ。
『だって、母上からお嬢を可愛くしてあげるなんて言われたら任せるしかないよね』
女親には勝てませんか、そーですか。
まあね~、皆が楽しそうだから正直もうどーでもいい感はある。
『ま、僕が一番お嬢を可愛くできると思うけど「ぶふぁっ!?」・・・ふふっ、今回は母上たちに譲るよ』
執務室にいる面々が私を振り返り、そしてニヤリニヤニヤとして仕事に戻る。いや皆には聞かれていないはず。うう、顔が熱い。
「たち」って、カシーナさん始めのドロードラング領のお母さんたちも含んでるのが分かる。アンディめ、今日も良い男だよ!
「書類の書き直しはありますか?」
通信を終えるとルイスさんが聞いてきた。大丈夫だよ!噴いた時に横を向いたから! 書類に唾は飛んでません!
うん、慣れってスゴいね。首が少し太くなった気がするし。誰からも指摘されないから自分で思うよりは太くないんだろうけども。
あ。
「ていうか!一番近い年明けの結婚てシュナイル様じゃん! その後にエリザベス様と私たちじゃん! 今、寸法を計っても着るのは一年後じゃん!無駄じゃん!」
「あははは!今気付いたんですか? 遅っ!」
ルイスさんが大笑い。遠慮ない!
執務室にいる皆の肩が震えてる。サリオン以外の事はだいたいクールなクインさんすら口を手で隠してる!
マジか何で気付かなかった私!?
思わず机に突っ伏した。大事なことじゃん、も~っ、も~~っ!
足をじたばたさせると、とうとう皆が声を出して笑いだした。
「いいじゃないですか、それだけ楽しみにしてるんですよ・・・ぶ!あはははは!」
ルイスさーん!
「そうですよ。皆がお嬢様の晴れの日をいまかいまかと待っているのです・・・ぶふっ!」
クラウスーーっ!?
そしてガサゴソと音のする方をみれば、クインさんが何やら紙を開いている。紙? それを覗き込む面々。
・・・ああ!?
「またか!? 今度は何に賭けて誰が勝った!?」
嘘衣装合わせにいつ気づく?
と題した賭け事の勝者は、昼食後午後イチに賭けていた細工師ネリアさんと薬草班長チムリさんでした。
ちなみにカシーナさんや奥方、お母さんたちは昼食の最中を予想。ルイスさん、クインさんたち執務組は衣装合わせ開始時。
一番ひどいのはマークとタイトとコムジの、学園に戻ってから、だった。
んなわけあるかぁぁぁっ!?
***
合宿最終日は生徒たちを送った後にミシルの村へ。
「あはは! おつかれさま~」
「ほんと笑い事だよ~、自分でびっくりしたわ~」
今年は合宿に参加しないで故郷で過ごしたミシルに話を聞いてもらい、明日の漁で使う網の片付けを手伝ってるところ。
青龍は仕事を終えた子供たちと遊んでいる。
「お嬢自身がそれだけ結婚を楽しみにしてるって事なんじゃない? 私は嬉しいよ」
にっこりミシルにまた恥ずかしくなる。
だってさ、なんか、結婚てさ、いまいち実感が無いんだよね。初心者なんで。
デートはするけど、キ、キスは、おでことか指先だから、なんかプラトニック?な感じで、少しだけ物足りなくて、でもそれ以上にとても安心できる。
恋愛初心者なんで! アンディのグイグイ来ない男前ぶりにいつもとても助かってます!
そうでなくてもアンディは王子だし、私は領主だしで仕事をおろそかにはできない。
「その事でわがままとか言わないの?」
舟に網を置いたミシルが振り向き、私が持っていた網を受け取って同じところに置く。
わがまま?
「仕事してるアンディって格好いいから仕事してもらって全然かまわないなー」
「・・・はいはい」
あれ? なんで呆れ声?
「でもさ、ドロードラング領の皆が今からそんなだったら、結婚記念日とか毎年新しいドレス作っちゃうんじゃない?」
・・・やりそう。
「うわ!そんな無駄なことさせられない!」
「あはは!無駄なんて言ったら怒られるよ~」
「あのドレス一着で何が買えるかと思うと怒られたって止めるよ!」
その年の流行や好みだって取り入れるからお下がりなんてできないし。最後にはどこかに寄付すればいいって言ったって、最初から子供服にしてしまった方がたくさん作れる。もったいない!
その分お客さんのドレスを作って売って利益にした方がいい。
ミシルは苦笑するけど。
「そんな大事なドレス、処分なんかできなくなっちゃうもん!」
それが一番困る。一緒に埋められたってあの世には持って行けないんだよー!
と、ミシルに抱きつかれた。
「お嬢って、時々言葉を間違えるよね!」
え?何?笑ってんの?怒ってんの?どっち?




