42話 発表会です。
「さて、こちらも本題だ」
私の淑女時間は二時間限定宣言でたるんだ空気をシュナイル様が引き締めた。
「と言っても特に新しい事はない。ただ今回、まあ先ほどの事だが、ジーン王子が少し動いたな」
「そうですね。僕らにとっては謎が増えただけですが、今までとは違う様子を知れましたね」
シュナイル様にアンディが返す。
「ハスブナル国に立ちはだかった強大な力とはアーライル国の事でしょうか? 『剣聖ラトルジン』の事でしょうか?」
クリスティアーナ様が疑問を投げる。
「確かに『剣聖ラトルジン』の強さはいまだに伝説として語り継がれていますけど、そういう噂はいつの時代もおとぎ話のようにあります。庶子だったジーン王子がそれを理由にするのは少し違和感があります」
剣聖ことクラウスが「ジャンもそうでしたが強い者は何人かいました。私が目立ったのはたまたまでしょう」と言っていたことがある。ニックさんたちは疑惑の目をクラウスに向けていたけど。
う~ん、アンディはどう?と見れば、小さく頷いた。
「確かに。その違和感はチェンを庇ってから口にしたから、かな・・・」
それぞれに考えこんでしまった。ミシルが、あの、と手をあげる。
「戦の話と変わってすみません。お付きのチェンさんが動揺したのを庇ったのは、主従の間柄だけではないのでしょうか。例えば乳兄弟とか」
乳兄弟・・・無くはない設定だ。ジーン王子が王太子の子なら、父親違いの兄弟の方が有りかも。だけどチェンは王子とは血縁関係の無い貴族らしい。ハスブナルからの情報では。
二人は確かに心を許し合っている感じで、チェンのわりと無礼な振る舞いを王子は気にしてなさそうだ。主従より友達っぽい。
「まあジーンの事はいまだに出生が調べきれていない。俺たちに彼が王子であると通達があったからそれを裏付ける証拠はあるのだろうが、詳しく知らされていない」
ミシルの疑問にシュナイル様は答え、アンディもクリスティアーナ様も頷く。
宰相からの情報もない、と。
ハスブナルとの接点。
確かに私たちはそれを優先させた。
ジーン王子という、相手が用意した餌に飛びついてみせた。
油断を誘うためだったが蓋を開けてみればとにかく情報が少ない。
情報が少ない中での特大の問題が、朱雀。
捕らわれて弱ってはいるが、どう動くか、見た目が小さくてもどれ程の力があるかは分からない。
四神大戦を避けるべく動きたい。が、動けない。
そんな中、ジーン王子がミシルの魔力に興味を示した。
正直、不穏な要素しかない。奴隷やら死刑囚やら集めて何をしてるのかと思うと、ミシルが連れて行かれた場合に何をされるか恐ろし過ぎる。
ミシル自身も不安そうではあるが、それを抜きにしても簡単には拐われない技術は身につけた。仲間もいる。
それでも。
「青龍は? 今ミシルのそばにいる?」
《むろん》
ミシルよりも早く返事をした青いタツノオトシゴがフッと現れた。おおいた!
「ずっと付いていてくれたの?」
ミシルは気づいていなかったのか、思ったよりも驚いた。あれま。
《うむ。今日は魔法の補助をする事になるかもしれんし、ダンス会の終わりには件の少年が寄って来たろう? 離れてはならんと思うてまだ張り付いていた》
グッジョブ!!
「よし、悪いけどそのままこれからもミシルのそばにいて。守りを目一杯掛けて。亀様の守りはもうあるから二重でよろしく」
二重の守り付けはサリオンで無害を実証済みである。
巫女と会って、村長の話を聞いて、『加護の定義』が少し変わった。今まで亀様にしてもらっていたのは正しくは『守り』だ。防御のみ。
亀様の守りはサリオンには出会った時に掛けていたが、白虎がサリオンから分離した時にやらかした。白虎が亀様に習ってる最中にうっかりとサリオンに『白虎の守り』を掛けてしまった。
《ほぉ、守りとはこうするのか・・・あ!!》との声に亀様もびっくり。
白虎の自覚無しの守りには本気でビビったけど、何事もなくて良かった。・・・あの天然さはどうしたものか・・・
置いといて。
《承知した。我とて穏便に済むならばそうなる様、助力する》
タツノオトシゴが凛々しく輝く。と、シュナイル様とクリスティアーナ様に向く。
《おおそうだ。そなたたちと言葉を交わすのは初めてだったな。我は四神の一、青龍である。以後見知りおいてくれ》
礼をするタツノオトシゴに慌てる二人。おぉレア風景。
「こ、こちらこそ挨拶が遅れて申し訳ない。私はシュナイル・アーライル。アンドレイの兄だ。こちらはクリスティアーナ・カドガン。私の婚約者だ」
「クリスティアーナです」
ほんと本物の貴族って立て直しが早いよね。綺麗な所作の二人には偉いわ~と感心するしかない。
《アンドレイの兄か。ふむ、二人にも何か守りを付けるか?》
「そうね、亀様の守りと同程度のものをお願い」
《そうか。承知した》
「え?亀様の守り?」
シュナイル様がポカンとする。
あれ?言ってなかったっけ?
「あぁ、兄上たちには伝えていませんでしたが『玄武の守り』を施してもらっています。お嬢がクッキークリームアイスを持って来た時に会議室にいた全員です」
「・・・はあ!?」
「ちなみに現在は学園の生徒、お付き、教師も事務員、用務員、従業員全員に掛けてもらってます」
「はああっ!?」
アンディの言葉にシュナイル様の目がこれでもかと見開かれた。クリスティアーナ様も手で口を隠す。
「まあ、四神目当てで私が狙われるでしょうから領地に引っ込んで敵を引き付けたいんですけどね~。貴族子弟が通う学園ていうのはやはり色々と狙い易いですし、ジーン王子も来ましたし、何かの時のために学園にいろと領民から言われたんです」
「四神が味方に付くって、とてつもない事ですね・・・」
アンディもちょっと遠い目をする。
ね~。人のいい?亀様を使いまくりなんだけど、亀様はそれを許してくれるし屁でもないと言う(そこまで砕けては言わないけど)。
「『愛し子』となれば、お互いの了承のもとで加護が付くそうです。一応私はまだ付いてませんよ。まあたくさん頼っている自覚はあるのでそれが加護としてもいいと思いますが、加護とは主に能力の追加または増強のようです」
聞こえてます~? シュナイル様の前で手をパタパタとしてみたら、息を吐いた。
「規格外だとは思っていたが、こういう所もか・・・」
・・・四神の事ですよね?
「あ」
ミシルの声に皆で注目すると少し焦ってすみませんと続けた。いいよ、どした?
「チェンさんの魔力感知は亀様の守りには気付かなかったみたいだなと思って・・・」
あ。
「学園全体に掛かっているようなものだから気付かなかったのでしょうか? それとも人限定なんでしょうか?」
「なるほど、見落としてたわ。たぶん学園全体に掛かっているから気付かなかったのじゃない?」
「そうだね。他人の魔力量を計れるなら魔物だって計れるはずだ。気付いたなら何かは言うと思う。学園長たちにも伝えよう」
「そういうものか。俺も魔力はほぼ無いが他人のはさっぱり分からん。学園全体とはな・・・人も魔物も気配なら分かるが。あぁでも、亀様の守りには気付かなかったから訂正しないといけないな」
何をちょっと落ち込んでるんです? 気配を感じるだけでもすげぇと思いますけどっ?
「私は魔力も気配も分かりません・・・サレスティア様、守りの手配を感謝します」
クリスティアーナ様がまた頭を下げる。いいんですよ、女、子供は無条件で守りますよ!
ところが、ジーン王子もチェンもミシルに近づく事はなく、何だかんだとこちらが思うよりも平和に時は過ぎた。




