続続41話 ダンス会です。<謝罪>
私もアンディとミシルと合流し、マークやウォル・スミール君たちを待ってホールを出ようとした時、ジーン王子が私らの前に立った。
何の用かと思えば、ミシルをじっと見ている。
「この学園で一番の魔力持ちはお前か?」
感情の読めない無表情でそんな事を言う。
「そ、それは分かりません。魔力が多いとは言われましたが、一番ではないと思います」
不思議そうな顔ではっきりと答えるミシル。ジーン王子の質問の意味が分からないよね?
ジーン王子はチェンを振り返る。
「先程の回復では彼女の魔力を一番強く感じました。学園長よりも」
チェンの応えに王子がまたこちらを向く。
「チェンは自身の魔力は微量だが個人の魔力量を正確に計る事はできる。嘘をつくなよ」
少し睨んできたのでミシルをそっと庇う。
「なぜその確認をとるのか、お聞きしてもよろしいでしょうか」
ジーン王子が間に入った私を睥睨する。
「お前には関係ない」
「ミシルは私の友人です。意味の分からない質問は不安になりますので」
「純粋に一番かを聞いただけだろう。そんな事に意味など要るのか?」
小さな舌打ちをし、面倒そうに答える。
「質問とは必要な事を知りたいためにするものです。ミシルが一番だと何があるのですか?」
向かい合う私たちに気付いた生徒たちが、何となく足を止めていく。
そして私の前に黒髪とその後ろ姿が立った。
「魔法は個人で得手不得手がある。ミシルは治癒回復なら突出したものがあるが、総合的にはエンプツィー先生が一番だ。この学園では」
アンディの言葉にジーン王子の顔が少し歪む。
「さあ。理由を教えてもらえるんだろう?」
「・・・ふん。理由など無いと言ったはずだが? やれやれ、こんな事で割り込んでくるとは、よほど婚約者殿が大事なようだな?」
ちょっと待て。何でアンディを小馬鹿にする。
「そうだね、とても大事な婚約者だから君にはあまり不用意に近づいて欲しくないね」
アンディさーーん!? なぜそこに反応するー!?
周りの視線が私らに集中したのがわかった。
散れー!散ってー!
ニタリとするジーン王子。・・・うげ。
「何だ? 婚約者殿の心変わりでも心配してるのか? だったら言うが、あんたたちはまだ婚約者だ。これから変更もあり得る。・・・だろ?」
「「 ありえ無い 」」
タイミングがピッタリだったので、思わずアンディと見合って笑ってしまった。
ジーン王子が大きく舌打ちした後に呟く。
「・・・この世にそんな絶対など在りはしない」
お?
「だとしても、それを願う事は無くならない」
アンディが返す。
「何に対して思うかは個人で違うし、それによって起こる事もある。だけど、同じ思いをお互いに向け合える誰かに会えたなら、長く一緒にいたいと思う」
アンディが少し振り返りウィンクをした。
・・・いつからこんなに気障ったらしい事を言うようになったんだろ? 似合うけども。分かっているよ、ジーン王子を煽ろうとしてそう言ったのは。ウィンクがその証拠だもの。
「僕はそれを彼女に会って理解したよ。それが永遠になるならこんな嬉しい事はないとね」
・・・アンディさん・・・もうやめて・・・
分かっていてもむず痒い。だって嬉しく思う自分がいる。
私の赤い顔を確認して微笑んだアンディが、またジーン王子に向く。
「ジーンは?」
その問いに何を思ったのか、ジーン王子がアンディをもの凄く睨んだ。
それを見て困った顔になったチェンが王子の腕にそっと触れる。それを払う事もせず、アンディを睨んだままだ。歯ぎしりまで聞こえそう。
「・・・精神論など強大な力の前には何の意味も無い。永遠など幻想でしかない」
「・・・ジーンは何かあったのか?」
アンディの問いにジーン王子はピクリとしたが、そばのチェンは顔をくしゃりと歪めた。本当に泣くかと思った。
私のチェンへの視線に気づいたジーン王子がサッとチェンに向き、私から彼と表情を隠す。
「・・・昔、我が国は大陸覇王への道を絶たれた・・・」
さっきまで睨んでいたわりには淡々とした声で応える。後ろ姿だからそう感じるのだろうか?
と、こちらを向いた時にはまた癪にさわる顔になってた。
「ま、挫折を知らないお坊っちゃん王子にしか言えない精神論か。そのままお幸せにいられるといいな?」
フンと鼻を鳴らして、すっかり下を向いて顔の見えないチェンの肩を押してホールを出て行った。
・・・何だったんだろう?
「何でお付きのチェンさんの方が泣きそうだったんだろ?」
ミシルがぽつりと呟いた。ほんとにね。
「それをジーンは庇ったな」
「ええ。なぜそうしたのでしょうか・・・」
おお!びっくりした!
ミシルの呟きに続けたのはシュナイル様と、その婚約者クリスティアーナ様だった。いつの間に・・・
「兄上、いつの間に?」
「何がいつの間にだ。俺の姿を確認してからのジーンへの追求だったろう」
「わかりました?」
「・・・まあ荒事にならずに済んで良かった」
「その時は兄上がどうにかしてくれるかと思いまして」
「・・・少しは悪びれろ」
ケロッと笑うアンディに呆れるシュナイル様。クリスティアーナ様もポカンとしてる・・・だろうなという予想。雰囲気はそう感じたけど二人とも表情はしっかり微笑だ。
「アンドレイ、少しいいか?」
そして私たちは何事も無かったようにホールを後にした。
近場で、ということで保健室の予備部屋へ。
なぜか私とミシルも一緒だ。あれ?アンディだけじゃないの?
「ここまで付き合わせてすまない。すぐ済む」
シュナイル様がそう言うと、クリスティアーナ様が私の前に出た。
ん?
「サレスティア・ドロードラング様。貴女への私の不当な振る舞いをお詫び申し上げます」
深々と頭を下げるクリスティアーナ様にプチパニック。あれ?一応和解したよね?
「感情を制御できず手をあげてしまった事もあります。淑女としてあるまじき事。その後、そのまま和解してしまいましたが、謝罪をしていない失態に己を恥じるばかりです」
あ~!
「今更とお思いでしょうが申し訳ございませんでした。私にできる事であれば何でも致します。勝手ながらそれをお詫びとさせて下さい」
まぁ色々とあった、けど。
シュナイル様を見れば軽く頷く。いやいや、うんじゃなくて。
アンディを振り返れば微笑むし。・・・う~ん。
ミシルもプチパニックを起こして目が泳いでいる。体はじっとしてるけど。
ですよね! 宰相の娘で第二王子の婚約者のお嬢様がこんなに頭を低くしてたらビビるよね!
何の罰ゲームだよ・・・はぁ。
「クリスティアーナ様、謝罪を受け取りました。どうぞお直り下さい」
ゆっくりと体を起こしたクリスティアーナ様は毅然としながらも、その目には少しの不安が。
まあ、間が空いたのは確かだけど。
「淑女が何でもなどと口にしてはいけません。貴女はシュナイル殿下の婚約者です。他に誰もいないとはいえ、シュナイル様がそばにいたとしても言ってはなりません」
でもとクリスティアーナ様の口が動く。
「シュナイル様との婚約を解消して下さいなんて言われたらどうなさいます? シュナイル様が保証人になってしまいますよ」
目を丸くする。あら可愛い。
「売り言葉に買い言葉とあります。口は自分で思うよりも案外と軽いものですからね、うっかり言質が取られては何もできなくなってしまいます。交渉は最悪こそを想定して行うんですよ。
これが詫びよとハンカチの一枚で良かったのです。律儀ですね、クリス様は」
クリス様はと言ったらうっすらと頬が色づいた。ヤダ可愛い! ツン美少女が頬染めるって!
「どうしてもと仰るならば、これからクリス様とお呼びしてもよろしいですか?」
おお、我ながら名案じゃない?
「え? そ、そんな事で良いのですか?」
「ええ! 大貴族と仲良しっぽくて成金貴族にはこれ以上ない事ですよ! あ、シュナイル様とかぶってしまうならば、ティア様とお呼びしてもよろしいですか?」
ブッ!とアンディが噴いた。シュナイル様は呆然としているっぽい。でも困ったクリスティアーナ様と目が合うと微笑んだ。クリスティアーナ様はホッとしたよう。
「で、では、慣れている方のクリスと呼んで下さい・・・」
「やったー! ありがとうございます! 私の事はどうぞお好きにお呼びくださいませ!」
「えっ、で、では・・・サ、サレスティア・・・さま?」
ツン美少女が頬をうっすらと染めながらもたどたどしく名前を呼んでくれる件! ありがとうございまっす!!
「お嬢は本当に美人に弱いね」
本当にね! どこで刷り込まれたんだろね!
両手を天に掲げて感謝の格好をしてたらアンディに笑われた。
ミシルも緊張が少し弛んだのか、やっと笑った。
「ならば、俺の詫びも愛称を許す事にするか」
「あ、男は別に」
ビシッと空気にひびが入った。シュナイル様の眉毛が下がる。アンディが小さく噴いた。ミシルは口がヒクヒクしてる。
「・・・そうか。だが謝罪はさせてもらう。噂ばかりを鵜呑みにし、ドロードラング伯を知ろうとしなかった。そのせいで迷惑を掛けた、済まなかった。・・・アンドレイも済まなかった」
まあ時期も悪かったと思うけど。王子の婚約者にまず奴隷王の娘は選ばれないよね普通は。
だから殿下達は普通の反応だったんですよ。兄として。
弟が奴隷王の娘を連れて来たらとりあえず反対はするよ。普通でしょ。
アンディが大事にされている事を知れたからあれはあれで良かったよ?
「はい。兄上がお嬢を分かってくれて良かったです」
「私も謝罪を受け取りました。これで私たちの間には何もなくなりましたね」
シュナイル様とクリスティアーナ様が頷く。
「じゃあついでに丁寧語も無しにしましょう!」
大笑いのアンディに、「それはダメでしょ・・・」とがっくりミシル。
またもポカンとするクリスティアーナ様に、「ついに言ったな」と苦笑いのシュナイル様。
だって私、二時間しか淑女時間がもたないから~。




