第344話:神獣お使い隊、いざスーパーへ。そして世界は厳戒態勢へ
「めんつゆのない目玉焼きなんて……味のない消しゴム食ってるのと一緒じゃんかよ……」
リビングに残された如月拓也の、魂が抜け落ちたかのような絶望の呟き。
その言葉を背に受け、如月家の玄関を飛び出した「神獣お使い隊」の三匹――ルル、ザイオン、ポチの三者には、もはや一瞬の迷いも許されていなかった。
「行くのにゃーっ! 目指すは、駅前のスーパー『ライフマート』なのにゃ!」
首に三月のがま口財布をキュッとぶら下げたケットシーの少女・ルルが、ザイオンの背中の上で高らかに右手を突き上げた。
その小さな身体には、元は廃棄処分寸前のプロトタイプ生体兵器であった暗い過去など微塵も感じさせない、任務への純粋な熱意がみなぎっている。
「キャンッ!(ルル、振り落とされるなよ! 拓也様の朝食が冷めきる前に帰還せねば、我らの如月家における生存権が剥奪されるぞッ!)」
体積が通常の三倍に膨れ上がり、銀色の巨大な綿飴と化したザイオンが、四肢に力を込めてアスファルトを力強く蹴り出した。
アビスゲート第二十七階層で浴びた柔軟剤の極上のフローラルな香りが、秋風に乗って住宅街の路地へと優雅に拡散していく。
その背中の毛並みは、一歩跳ねるごとにボヨンボヨンと上質なスプリングのように弾み、上に乗るルルに一切の衝撃を与えない。
かつて小国を単体で滅ぼすために造られた「生体兵器の最高傑作」の超絶的な肉体制御は、今や「要人を乗せる高級リムジン機能」として遺憾なく発揮されていた。
「キュピィィッ!(ザ、ザイオン先輩! 空カラノ索敵ハ我ニオ任セ下サイ! 前方二叉路、人影ナシ! 直進可能デスッ!)」
ザイオンの頭の毛並みにちょこんと爪を立て、必死で風圧に耐えながら翼を羽ばたかせているのは、手のひらサイズのミニドラゴン・ポチである。
数万年の時を生き、神代の天空を支配していた誇り高き古竜。
それが今や、アビスゲートで三月の理不尽な怪力スワイプによって三十センチのトカゲサイズに縮められ、先ほどは目玉焼きのために「弱火専用ガスコンロ」として滅びの劫火を〇・〇〇〇一パーセントに絞り込むという極限の精密作業を強いられたばかりであった。
しかし、ポチの瞳にもまた、かつてない覚悟の炎が宿っていた。
なぜなら彼らは知っているのだ。
もし、この任務に失敗し、あの気だるげな少年指揮官が完全に機嫌を損ねてしまえば――。
待っているのは、あの笑顔で山を砕く怪力姉による、無慈悲な『手動ゴミ圧縮プレス』。
アビス・コアのように、角のピシッと立った十センチ四方の「燃えないゴミキューブ」にされてしまうという、絶対的な死の恐怖であった。
「(生き残るのだ……! 我は古竜の誇りを捨ててでも、この温かな毛布と、極上の半熟目玉焼きのある日常を勝ち取ってみせる……ッ!)」
ポチは竜の視界を研ぎ澄まし、住宅街の電柱や屋根の配置を瞬時にスキャンしながら、最短ルートをナビゲートしていく。
こうして、猫耳の少女を乗せた巨大なモフモフ狼と、その頭上でナビをする白銀のトカゲという、絵本の世界から飛び出してきたような奇妙な一団が、日曜日の朝の住宅街を猛スピードで駆け抜けていった。
だが――。
当の本人たちが「ただの調味料のお使い」として必死になっているその瞬間。
彼らの周囲を取り巻く世界は、人類史上かつてないレベルの『超厳戒態勢』へと突入していた。
「……各班、応答せよ! 第七目標(眷属部隊)、如月邸を出門! 繰り返す、神使たちが外界へと進発したッ!!」
住宅街の電柱の陰、民家の屋根の隙間、そして遥か上空三千メートルを旋回する迷彩仕様の監視ドローンから、緊迫した暗号通信が飛び交っていた。
通信の発信源は、日本探索者協会の最高戦力――神宮寺蒼太率いる、極秘護衛部隊である。
さらにその後方、ビルの屋上には、アメリカ最強のSランク探索者「雷帝」レオン・カーターが、双眼鏡を構えて仁王立ちしていた。
「おいおい、冗談だろ……!?」
レオンが、双眼鏡越しにザイオンたちの姿を捉え、息を呑んで戦慄した。
「見ろ、あの銀狼の歩法を……! アスファルトに爪痕一つ残しちゃいねぇ! あれだけの巨躯でありながら、足音も振動も完全にゼロだ! まるで空間そのものを滑るように移動してやがる……! さすがはアビスゲートの深淵を踏破した神の眷属だぜ!」
「感心している場合ではないぞ、レオン殿!」
神宮寺が、無線機越しに鋭い声を張り上げた。
神宮寺の額には、びっしりと冷たい脂汗が浮かんでいる。
「先ほどの通信傍受を忘れたか!? 指揮官様は『味のない消しゴム』と仰せられたのだぞ! 神が……この地上を救い給うた至高の調律者たる拓也様が、捧げられるべき神饌の欠如に対し、深淵の底のような絶望と怒りを滲ませておられたのだ!」
神宮寺の脳裏には、先ほどインカムから漏れ聞こえてきた拓也の重いため息が、世界の終焉を告げる鐘の音のように響いていた。
「めんつゆという名の『深淵の琥珀雫』……! それが手に入らぬだけで、指揮官様はこの世界を『味気のない、消去すべきゴミ(消しゴム)』と見なし、全宇宙を白紙に戻しかねん! だからこそ、あのお優しい神獣たちが、主の怒りを鎮めるために自ら下界へと降り立ち、触媒の回収に動かれたのだッ!」
「オ、オウ……! つまり、あの眷属たちのお使いが失敗したら、文字通り地球が消滅するってわけだな!?」
レオンが、己の巨大な魔剣の柄を握りしめ、青筋を立てて絶叫した。
「全米軍特殊部隊、並びに極星の遊撃隊に告ぐ! 神使たちの進行ルート上にあるすべての障害を排除しろ! 赤信号? そんなもんは全部青に変えろ! 野良猫の一匹、小石の一個すら、あのモフモフの足元に踏ませるんじゃねぇぞッ!!」
「協会の交通管制班へ通達!」
神宮寺もまた、無線機に向かって怒号を飛ばす。
「如月邸から『ライフマート』に至る全区画を、即時【特級神聖回廊】に指定! 一般車両はすべて迂回させろ! ただし、住民にパニックを起こさせて指揮官様の安眠を妨害してはならん! 極めて自然に、何気なく、あたかも工事中であるかのように道を空けろッ!!」
新宿で世界を救ったはずの英雄たちが、今やただの住宅街の路地裏で、血相を変えて「猫と犬とトカゲの安全な歩行空間」を確保するために国家予算規模の戦力を注ぎ込んでいた。
角を曲がろうとした軽トラックが、突如として現れた黒服の屈強な探索者たちによって音もなく持ち上げられ、脇道へと静かに撤去される。
道路の真ん中に転がっていた空き缶は、不可視の氷の刃によってミリ単位で細断され、側溝へと消え去った。
ルルたちが一歩進むごとに、その前方数十メートルでは、人知れず超一流の探索者たちによる「神速の道路清掃と障害物排除」が完璧に遂行されていたのである。
そんな周囲の命懸けの隠密工作など、ルルたちは知る由もない。
「にゃはは! 今日の道路は、車が全然いなくて走りやすいのにゃー!」
ルルが、ザイオンの背中の上で楽しそうに尻尾を振った。
「キャン……(妙だな。日曜の朝だというのに、やけに静かすぎる。それに、街の空気から漂うこの異様な緊張感は何だ……?)」
生体兵器としての警戒システムが、周囲の空間に張り巡らされた無数の気配を感知し、ザイオンの耳がピクピクと動く。
しかし、殺気はない。
むしろ、自分たちを神棚の上の御神体でも拝むかのような、異常なまでの崇拝と畏怖の視線が四方八方から注がれていた。
「キュピィ(先輩、気ニシテイル時間ハアリマセン! 見エテキマシタ、アレガ目標ノ『スーパー』デス!)」
ポチが、短い前足で前方を指さした。
住宅街を抜けた大通りの向こう側。
緑色の看板に四つ葉のクローバーが描かれた、地元住民に愛される庶民の味方――スーパー『ライフマート』の店舗が、朝の光を浴びて堂々と佇んでいた。
「とうちゃくなのにゃーっ!」
ルルがザイオンの背中から軽やかに飛び降り、トコトコと自動ドアの前へと駆け寄る。
ザイオンもまた、体積三倍の巨体をわずかに縮こまらせ、周囲のガラスや棚を壊さないように慎重に足音を忍ばせながら、ルルの後ろへと続いた。
ウィーーン。
自動ドアが開き、エアコンの涼しい風と、朝のスーパー特有の揚げ物の香ばしい匂いが漂ってくる。
店内には、開店直後のタイムセールを目当てに訪れた、数人の近所の主婦や高齢者たちが、買い物カゴを手に陳列棚の間を歩いていた。
「……キャン(……潜入成功だ。ルル、ポチ、油断するなよ。ここは人間の補給基地だ。騒ぎを起こせば、指揮官様に迷惑がかかる)」
ザイオンが、低い声で念話を送る。
かつて戦場を蹂躙した銀狼の姿はそこになく、ただの「行儀の良い、少し大きすぎるモフモフの大型犬」として、静かにルルの足元に寄り添っていた。
「わかってるのにゃ! ルルはお買い物できる賢い猫なのにゃ!」
ルルは、首のがま口財布をパチンと開けた。
中には、三月が持たせてくれた千円札が一枚と、百円玉が三枚入っている。
「えーっと……三月お姉ちゃんが言ってたのは……『きっこうまん』の、青いラベルの『ほんつゆ』……もしくは、黄色いフタの『めんつゆ』なのにゃ!」
「キュピィ(調味料コーナーハ、アチラノ列デス! 案内イタシマス!)」
ポチがルルの肩に乗り、小さな翼で案内する。
三匹は、一般の買い物客の邪魔にならないよう、壁際をトコトコと小走りで調味料コーナーへと向かった。
しかし。
その平和なスーパーの店内に、不穏な影が忍び寄っていた。
「……おい、見たか?」
「あぁ、間違いない……。あの銀毛、そしてあの頭部の骨格構造……」
醤油やみりんが並ぶ陳列棚の向こう側。
作業着風の服を着て、キャップを目深に被った二人の男が、棚の隙間からルルとザイオンを鋭い眼光で監視していた。
彼らは、一般の買い物客ではない。
ルルとザイオンを造り出し、そして逃げられた裏社会の多国籍生体兵器カルテル――『アンダー・キメラ研究所』が放った、極秘回収部隊の工作員たちであった。
「信じられん……! 研究所の最高傑作である【検体コード:フェンリル(ザイオン)】と、初期廃棄型【検体コード:キャット(ルル)】が、なぜこんな極東の安スーパーで買い物をしているんだ!?」
「逃走後、行方を眩ませていたと思えば……あんな小娘に飼い慣らされて、首にがま口など下げおって……! 兵器としての誇りは微塵もないのか!」
工作員の一人が、懐の特殊通信機を握りしめ、低い声で本部に報告を入れ始めた。
「こちら回収班アルファ。目標を視界内に捕捉した。両検体とも、戦闘態勢にはない。どうやら、調味料の物色に夢中になっているようだ」
『……即時、回収せよ』
通信機の向こうから、冷酷な研究主任の声が響く。
『フェンリルは我が組織の数十兆円の投資の結晶だ。体内に埋め込まれた【絶対隷属コード:オメガ】を外部パルスで強制起動しろ。自我を焼き切り、遠隔操作で研究所へと送還させるのだ。邪魔が入るなら、周囲の民間人ごとスーパーを毒ガスで沈めろ』
「了解。作戦を開始する」
二人の工作員が、懐から黒い小型の電磁パルス送信機を取り出し、冷たい笑みを浮かべた。
その送信機から放たれる特殊な魔力周波数は、ホムンクルスの脳内に埋め込まれた制御チップを強制的にハッキングし、痛覚神経を焼き尽くしながら、絶対服従の人形へと変貌させる悪魔の兵器であった。
「ふはは……哀れな失敗作どもめ。お前たちのような人造の化け物に、安らかな日常など許されるはずがないのだ……!」
工作員が、棚の陰からルルとザイオンの背中に向けて、パルス送信機の照射スイッチに指をかけた。
その、刹那であった。
「……おい」
背後から、低く、地獄の底から響くような声が降ってきた。
「ひっ……!?」
工作員たちが、ギョッとして振り返る。
そこには――いつの間にか、長身に黒いスーツを纏い、片手に長刀を下げた白髪交じりの男――神宮寺蒼太が、音もなく立っていた。
さらに、その横の冷凍食品コーナーのガラスには、パチパチと青白い雷撃を帯びた巨大な影――レオン・カーターが、凄まじい殺気を押し殺しながら腕を組んで立っていたのだ。
「貴様ら……何者だ……!?」
工作員が、恐怖に顔を引き攣らせて後ずさる。
「それはこちらの台詞だ、不届き者共が」
神宮寺の瞳の奥に、氷点下の冷酷な光が宿った。
その切っ先が、工作員たちの首元へと、呼吸の隙間すら与えずにピタリと突きつけられる。
「貴様らの懐にあるその薄汚い機械……。あのお方の大切な眷属たちに向け、何を企んでいた?」
「な、何を……!? 邪魔をするな! 我らは国際生体兵器カルテルの――」
「知ったことかァァァッ!!」
ドゴォッ!! と、レオンの雷を纏った拳が、工作員の鳩尾へと深々と突き刺さった。
あまりの神速と精密な打撃により、声すら出せずに工作員がくの字に折れ曲がる。
スーパーの陳列棚のポテトチップス一袋すら揺らさない、完全無音の神技的制圧であった。
「てめぇらの薄汚い事情なんざ、ミジンコほども興味ねぇんだよ!」
レオンが、白目を剥いて泡を吹く工作員の胸ぐらを掴み、耳元で低く唸った。
「今……あのお方(神使たち)が、世界を救うための至高の調味料を選定しておられる最中なんだよ! その神聖なる儀式を、てめぇらのチンケな機械で邪魔しようだなんてなぁ……万死に値するどころの騒ぎじゃねぇぞッ!!」
「連行しろ」
神宮寺が、冷たく背後の影に向かって告げる。
「八咫烏の部隊に引き渡せ。この者たちの背後関係、研究所の位置、出資者……すべてを洗い出し、日の出を迎える前に地上から消去(更地)にしろ。指揮官様の平穏な朝を脅かす塵芥など、一粒たりともこの星に残してはならん」
「はっ!」
影の中から現れた不知火凛配下の暗殺者たちが、気絶した工作員たちを絨毯のように丸め、換気口の隙間から音もなく回収していった。
わずか数秒の出来事。
スーパーの調味料コーナーの裏で、世界を揺るがす軍事カルテルの暗殺計画は、誰にも気づかれることなく完全に消滅したのである。
そんな裏での血生臭い暗闘など、ルルたちは露ほども知らなかった。
「うにゃにゃ……! ザイオン、ポチ、大変なのにゃ!」
ルルは、調味料棚の前に立ち尽くし、頭を抱えていた。
その視線の先には――。
『特選・昆布つゆ(三倍濃縮)』
『超特選・極みかつおつゆ(二倍濃縮)』
『無添加・本枯節あごだしつゆ(ストレート)』
多種多様なメーカーの、多種多様な濃縮率のめんつゆが、ズラリと何十本も並んでいたのだ。
「ど、どれが本物の『めんつゆ』なのかにゃ!? 二倍とか三倍とか、数字がいっぱい書いてあって、ルルには難しすぎるのにゃーっ!」
「キャンッ!(な、何だと!? 二倍濃縮……三倍濃縮だと……!?)」
ザイオンもまた、棚の前に前足を揃えて座り込み、鋭い眼光でラベルを凝視した。
生体兵器としての高度な演算知能が、フル回転を始める。
(二倍濃縮……それはすなわち、魔力密度が二倍に圧縮されているということか!? いや、待て! こちらの三倍濃縮は、さらに空間密度を濃縮し、極小の体積で最大の破壊力を発揮する戦術兵器仕様……!?)
「キュピィィッ!(ザ、ザイオン先輩! アチラニ『ストレート』ト書カレタモノガアリマス! コレハ、圧縮ヲ介サズ、原初ノ純粋ナル力ヲ直接流シ込ム【直接打撃型】デハナイデショウカ!?)」
「キャン……!(馬鹿言えポチ! 指揮官様は『ちょっと垂らしたい』と仰せられたのだぞ! ストレートでは質量が多すぎて、目玉焼きの純白の結界が濁ってしまう! 狙うは……極小の一滴で至高の調律をもたらす、高密度圧縮型だッ!)」
神話級の獣たちが、真剣な顔で「つゆの濃縮率」を軍事演習のレベルで議論し合っていた。
「うーん、うーん……あ! これにするのにゃ!」
ルルが、ピピッときたように一本の瓶を指さした。
それは、オレンジ色のキャップに、大きく『追いがつおつゆ・二倍濃縮』と書かれた、一番売れ筋のド定番商品であった。
お値段、税込み二百九十八円。
「これなら、三月お姉ちゃんからもらったお金でピッタリ買えるのにゃ!」
「キャンッ!(よし、決まりだ! ルル、それをカゴに入れろ!)」
ルルは、両手で大事そうにめんつゆの瓶を抱え上げると、レジへと向かった。
レジカウンターには、突然現れた「巨大なフワフワ犬と猫耳の女の子」に目を白黒とさせている、若い女性店員が立っていた。
「あ、あの……い、いらっしゃいませ……?」
「これ、くださいなのにゃ!」
ルルは、一生懸命背伸びをして、レジカウンターの上にめんつゆの瓶と、首のがま口財布をコトンと置いた。
そして、がま口から千円札を一枚、小さな手で丁寧に差し出したのだ。
「これで、おねがいしますなのにゃ!」
「は、はいっ! えーっと、二百九十八円になりますので……お釣りは七百二円です……!」
店員さんは、ルルの愛らしさに思わず頬を緩め、お釣りとレシートをがま口の中にそっと戻してあげた。
そして、めんつゆの瓶を小さなビニール袋に入れ、ルルへと手渡す。
「ありがとうございました、気をつけて持って帰ってね」
「ありがとにゃーっ!」
ルルは満面の笑みでビニール袋をギュッと抱きしめると、ザイオンの背中へと軽やかに飛び乗った。
「任務完了なのにゃ! ザイオン、ポチ、拓也のところに帰るのにゃーっ!」
「キャンッ!(総員、全速前進! 神饌を指揮官様の食卓へッ!)」
「キュピィィッ!(急グノデスッ! 目玉焼キガ冷メテシマイマスッ!)」
ザイオンは、背中のルルとめんつゆの瓶に一切の衝撃を与えぬよう、完璧な重心制御を保ちながら、秋晴れの空の下へと駆け出した。
その姿を、電柱の陰から、ビルの屋上から、涙を流しながら見送る神宮寺とレオン。
「見事だ……。神使たちの手によって、無事に『深淵の琥珀雫』が確保された……!」
「あぁ……これで地球は救われたんだな……!」
彼らが胸を撫で下ろしていることなど、三匹には知る由もない。
手に入れたのは、一本のめんつゆ。
しかしそれは、愛を知らなかった人造の兵器たちが、生まれて初めて自らの足で掴み取った、「温かな我が家」を守るための、何よりも尊い勝利の証であった。
風を切り、フローラルの香りを撒き散らしながら、神獣お使い隊は、大好きな家族が待つ木造の我が家へと、一直線に駆け戻っていくのであった。
(第345話へ続く)
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
お姉ちゃん(三月)の理不尽なまでの弟愛と、
周囲の全力すぎる深読み(アンジャッシュ)に振り回される拓也たちの日常、
少しでもクスッと笑っていただけたり、楽しんでいただけましたら幸いです!
「このテンポ感が好き!」「続きが気になる!」「ペットたちの明日はどっちだ!?」
と少しでも思っていただけましたら、
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