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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第六章:神獣眷属と歩む日常、あるいは世界を揺るがすペットライフ編

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第343話:如月家サバイバルと、人工兵器たちの『目玉焼きの儀』

ドガァァァァァァンッッッ!!!!

東京都内、秋の陽光が穏やかに降り注ぐ閑静な住宅街の一角。

築三十年を超える木造二階建て、トタン屋根の錆びついた「如月家」の玄関前で、大気中の音の壁が粉々に吹き飛ぶ凄まじい衝撃波が鳴り響いた。

新宿のアビスゲートを脱出してから、わずか数十秒。

音速を軽く置き去りにして東京の空を弾丸のように突き抜けてきた如月三月は、玄関ドアの数センチ手前で、慣性という物理法則を完全に無視してピタッと急停止した。

そのスニーカーの靴底とアスファルトの接地面からは、超高速移動に伴う摩擦熱の白い湯気がシュルシュルと立ち上っている。

「ただいまーっ!! 拓也、いま朝ごはん作るからねーっ!!」

三月は、肩から無骨すぎる漆黒の大剣『魔鉄の塊剣』を外すと、玄関脇に置かれた古びた傘立てにガチャンと豪快に突っ込み、スニーカーを脱ぎ散らかしてそのまま板張りの廊下へ駆け上がった。

その背後で、彼女の首筋やジャージの裾に必死でしがみついていた「同伴者たち」が、ドサドサッと玄関マットの上に崩れ落ちる。

「……ゲホッ、ゲホッ! ……し、死ぬかと思ったのにゃ……。景色が、全部ピュンピュンと光の線になって流れていったのにゃ……」

ケットシーの少女・ルルが、目をぐるぐる回しながら、床にペタリとへたり込んだ。

その隣では、アビスゲート第二十七階層の柔軟剤を全身に浴びたことで体積が通常の三倍に膨れ上がった銀狼――ザイオンが、四本の足をプルプルと生まれたての子鹿のように震わせている。

「……キャン(……三月殿のあの脚力、マッハを超えていたぞ……。曲がり角を曲がるたびに、内臓が背骨にめり込んで押し潰されるかと思った……)」

さらに、ザイオンの極上毛皮の隙間から、手のひらサイズの白銀ミニドラゴン――ポチが、ズルリと力なく這い出してきた。

「……キュピィ(ハイ、先輩……。我ラハかつて、世界ヲ震撼サセタ恐ルベキ存在ダッタハズナノニ……ナゼ、タダノ移動手段(手荷物)トシテ扱ワレテイルノデショウカ……)」

二匹の元・Sランク魔獣たちは、埃っぽい玄関マットの上で虚空を見つめ、揃って遠い目をしていた。

彼ら――特にザイオンとルルには、他者には決して明かせない過酷な出生の秘密がある。

彼らは自然界で生まれた魔獣などではない。

裏社会に君臨する多国籍の軍事研究カルテルによって、非人道的な生体錬金術と遺伝子改造の果てに人工的に造り出された『生体兵器(ホムンクルス)』なのだ。

ルルは、魔力伝達効率と感覚器官を極限まで高めるために設計された初期プロトタイプ。

そしてザイオンは、古代神獣の因子を組み込まれ、単体で小国を灰燼に帰す戦闘力を持たされた「生体兵器の最高傑作」であった。

研究所にいた頃の彼らには、名前すら与えられず、ただ冷たい管理番号で呼ばれ、培養液のカプセルの中で破壊の命令だけを刷り込まれて生きてきた。

魔力回路の劣化と精神崩壊のリスクを常に抱え、使い捨ての道具として扱われていた彼らにとって、「温もり」や「家族」など、夢のまた夢の概念であったはずなのだ。

……それが、どうしてこうなったのか。

アビスゲートでこの理不尽な怪力少女・如月三月にボコボコにされ、柔軟剤をぶっかけられて体積を三倍にされ、今や安アパートのような木造住宅の玄関マットの上で、犬と猫とトカゲとして転がっている。

「……んあ? なんだ、三月。もう帰ってたのか」

その時。

廊下の奥の洗面所から、タオルで顔を拭きながら、一人の少年がパタパタとスリッパを鳴らして歩いてきた。

如月拓也。

ボサボサの黒髪に、首元の伸び切ったヨレヨレのスウェット姿。

魔力測定器にかければ「計測不能(ゼロ)」と表示される、どこからどう見ても平凡極まりない男子高校生である。

しかし――その姿を視界に捉えた瞬間。

ザイオンの全身の銀毛が、バチバチッと逆立った。

(――なっ……!?)

ザイオンの生体兵器としての超高性能センサーが、拓也の姿を捉えた瞬間、警報をけたたましく鳴らし始めたのだ。

魔力はない。威圧感もない。殺気など微塵もない。

だが、その歩き方、呼吸の周期、大気の揺らぎ――そのすべてが、まるで「宇宙の因果律そのものが彼を中心にして回っている」かのような、不気味なほどの絶対的調和を保っていた。

深淵の門の概念神すらも、この少年の「二度寝の寝言」ひとつで四角いゴミキューブに変えられたのだ。

ザイオンの人工頭脳に、強烈な本能的恐怖が叩き込まれる。

「キャンッ!(総員、直立不動ォッ! 『見えざる絶対の指揮官』の御前であるぞッ!)」

「キュピィッ!(ヒィッ、神ガ……現人神ガ歩イテコラレタァァッ!)」

ザイオンは慌てて伏せの姿勢を取り、ポチはペタッと床に平伏した。

ルルもまた、ピンと猫耳を立てて正座をする。

そんな彼らを見下ろし、拓也は眠たそうに目をしばたたかせた。

「……うわ。なんか、玄関にすっごいモフモフしたでかい犬がいる……。あと、猫耳の子と、変な白いトカゲ……?」

拓也は、眉間に深いシワを寄せ、キッチンの前に立つ三月へと視線を向けた。

「おい、三月。これ、なんだよ。まさか、またどっかから勝手に野良犬を拾ってきたんじゃないだろうな? うち、狭いんだぞ。貧乏なんだから、余計なエサ代なんてないんだからな」

その、ひどく現実的で冷淡な少年の声。

それを聞いた瞬間、ザイオンの背筋に、氷柱を突き立てられたかのような戦慄が走った。

(……し、処分される……ッ!?)

ザイオンの脳裏に、かつて自分たちを実験材料として廃棄しようとした研究員たちの冷酷な目がフラッシュバックする。

『役に立たない検体は、直ちに分解・処分せよ』――その冷徹な掟が、この家でも適用されるのだと、ザイオンは戦慄した。

もしここで「不要なゴミ」と判定されれば、あの怪力姉によって、アビス・コアのように手動プレスで四角いキューブに押し固められてしまう!

「……役に立たないなら、保健所に連れてくか、元の場所に置いてこいよ」

拓也が、あくびを噛み殺しながら無慈悲に吐き捨てた。

(ぎゃあああああああっ! やはりだ!! 『保健所』という名の処刑場へ送る気だァァァッ!!)

ザイオンは、必死で頭をフル回転させた。

生き残るためには、この少年に「自分たちは役に立つ存在である」と証明しなければならない!

犬として! ペットとして! いや、この如月家における『生活家電』としてッ!!

「くぅ〜ん……(ま、任せてください指揮官様! 俺は……俺はただの犬ではありません!)」

ザイオンは、フローラルな柔軟剤の香りを撒き散らしながら、拓也の足元へ素早く滑り込んだ。

そして、体積三倍に膨れ上がったフワッフワの背中を、拓也の足元にそっと差し出したのだ。

「……ん? なんだこいつ……。毛並み、やたらフカフカだな……」

拓也が、おそるおそるスリッパを脱ぎ、ザイオンの背中の毛皮に素足を沈める。

その瞬間。

「……うわっ、あったけぇ……! なにこれ、めちゃくちゃ気持ちいい……。高級なムートンカーペットかよ……」

拓也の口元が、ふにゃりと緩んだ。

昨夜の冷え込みで冷たくなっていた足先が、ザイオンの極上の体温と柔軟剤の香りで、じんわりと包み込まれていく。

「キャンッ!(勝った……! まずは『高級足温器兼クッション』としての地位を確保したぞ!)」

ザイオンが、内心でガッツポーズを作った。

しかし、サバイバルはまだ終わっていない。

拓也の視線が、今度はザイオンの頭の上に乗っている、手のひらサイズのミニドラゴン・ポチへと向けられたからだ。

「……で、そのトカゲは何なの? 置物? 虫でも食べるわけ?」

「ヒィッ!?」

ポチの小さな体がビクッと跳ね上がった。

神代の古竜として数万年を生きてきた誇り高き竜王が、今や「ただのトカゲ」として品定めされている。

「キュ、キュピィィッ!(ザ、ザイオン先輩! 我ハ何ヲスレバ良イノデスカ!? 毛皮モアリマセンシ、足温器ニハナレマセンッ!)」

ポチが涙目でテレパシーを送る。

「キャン!(馬鹿野郎、お前には『火』があるだろうがッ! 拓也様が今、何を望んでおられるか思い出せ! 朝食の『目玉焼きとウインナー』だ! お前がコンロになれッ!!)」

「キュピィッ!?(わ、我ガ滅ビノ劫火ヲ、家庭料理ノ熱源ニセヨト……!?)」

「キャンッ!(四の五の言わずにやれ! 焼き加減を間違えて焦がしたら、お前も四角いゴミキューブ行きだぞッ!!)」

「キュピィィィッ!!」

ポチは、必死の形相でキッチンへと羽ばたいた。

ちょうどそこでは、三月がフライパンに油を引き、卵を二個、パカッと割り入れたところであった。

「あ、ポチちゃん! そこ危ないよー、火をつけて――」

「キュピィィィッッッ!!」

ポチは三月の言葉を遮り、ガスコンロのバーナーの真下に飛び込むと、フライパンの底を目掛けて、口から極細の赤い光線をプシューッと放った。

それは、かつて天空の城塞を一撃で灰燼に帰した、神代の神罰レーザー。

しかし今、ポチはその全身の魔力回路を極限まで軋ませながら、威力を【〇・〇〇〇一パーセント】にまで絞り込んでいた。

(コ、コレダ……! 焦ガシテハナラヌ……! シカシ、弱スギレバ白身ガ固まらぬ……! 狙ウハ……白身ハカリッ、黄身ハトロットロノ、神域ノ半熟ッ……!!)

ポチの額から、脂汗がプツプツと吹き出す。

世界を滅ぼすドラゴンの全神経が、「目玉焼きの完璧な火加減」のためだけに研ぎ澄まされていく。

ジュワァァァァァ……ッ!!

フライパンの上で、白身が美しくレース状に広がり、香ばしい匂いが立ち上った。

神の火加減によって焼かれた卵は、一分の狂いもなく、完璧な半熟状態へと仕上がっていく。

「わぁっ! ポチちゃん、すごい! 弱火の調整がめちゃくちゃ上手だねーっ!」

三月が、パチパチと手を叩いて喜んだ。

「キュ、キュピィ……(や、ヤリマシタ……我ハ、生き延びタノデス……!)」

ポチは、コンロの横で真っ白に燃え尽き、カクッと膝をついた。

「にゃはは! ルルはお皿を運ぶ係なのにゃ!」

ルルが、楽しそうに戸棚からお皿を二枚取り出し、テーブルへと並べる。

こうして、世界を滅ぼすはずだった生体兵器と神話の古竜は、如月家に足を踏み入れてわずか五分で、『高級足温器』『超精密とろ火コンロ』『配膳係』という、完璧な家庭内生活家電としてのポジションを獲得したのであった。

しかし――。

如月家の狭いリビングで、そんな涙ぐましい「ペットのサバイバル」が繰り広げられているその瞬間。

アビスゲートの外、東京・新宿の上空、そして世界各国の最高防衛指令室は、かつてない規模の『大恐慌(パニック)』に陥っていた。

「……ハッ!!」

新宿の防衛本部に設置された、超巨大作戦モニターの前。

通信機を握りしめていたクロエ・アーヴィングが、目を見開き、雷に打たれたように叫んだ。

「皆様、お聞きになりましたかッ!? 拓也様の、あの峻厳なる御言葉をッ!!」

防衛本部のフロアにいた、神宮寺蒼太、レオン・カーター、そして各国の特使たちが、息を呑んでクロエに詰め寄った。

スピーカーからは、先ほど拓也が呟いた『……役に立たないなら、保健所に連れてくか、元の場所に置いてこいよ』という音声が、ノイズ混じりに再生されている。

「クロエ殿! 指揮官様は一体、何を仰せられたのだ!?」

神宮寺が、眉根を寄せて問う。

「『保健所』……そして『元の場所』……! これは、全人類に対する最後通告ですッ!!」

クロエが、狂信的な光を宿した瞳で、モニターの地図をバンッと叩いた。

「拓也様は仰せなのです! 門(ゲート)を潜り抜けて現世に降臨した神獣たちすら、己の役割を果たさねば『星の処刑場(保健所)』へと送り返される! ましてや、その恩恵に浴した我ら人類が、怠惰に甘んじて何の役に立とうともせぬならば……世界そのものを『混沌の原初(元の場所)』へと初期化(リセット)してくださる、とッ!!」

「な、なんという……なんという厳格な神の試練……ッ!!」

レオンが、顔面を蒼白にして後ずさった。

「俺たちが新宿で歓喜に酔いしれている間、あのお方はすでに『次の審判』を下そうとしておられたのか……! 役立たずと見なされれば、この地球ごと『保健所』送りにされるだとォ!?」

「ええ、そうです!」

クロエが、全軍に向けてメガホンを構えた。

「拓也様が現在執り行っておられるのは、新世界平定のための【朝食の儀(ブレックファスト・典礼)】! そこに捧げられるべきは、大地の極上なる調味料【深淵の琥珀雫(めんつゆ)】! もし、その神饌が完璧な形で捧げられねば……人類は『不要な検体』として、宇宙から間引きされますッ!!」

「総員、直ちに動けェェェェッ!!」

神宮寺の怒号が、新宿の街に響き渡った。

「日本国内のすべての蔵元、および最高峰の醤油・出汁職人を総動員しろ! 皇室献上品、国宝級の木樽仕込み、樹齢千年の霊木から採取した特級めんつゆ……あらゆる『琥珀雫』をかき集め、如月家へと空輸するのだ! 我らの存在価値を、あの御方に証明してみせよッ!!」

「アメリカ合衆国も支援するぜ!」

レオンが衛星通信のボタンを叩き割らんばかりに押し込んだ。

「大統領直属の第七艦隊、および戦略輸送ヘリ全機を発進させろ! 太平洋を横断して、世界最高峰のオーガニック出汁を日本へ届けるんだ! 一秒でも遅れれば、地球が『保健所』行きになるぞォォォッ!!」

「「「「ウオォォォォォォッ!!!!」」」」

世界中の通信回線がパンクし、各国の特殊部隊、トップ探索者、そして最高級料亭の料理人たちが、血相を変えて東京へと向けて動き出した。

人工衛星の軌道が変更され、各国の輸送機がスクランブル発進し、新宿の防衛軍は「至高のめんつゆ」を求めて空前絶後の国際共同作戦を開始したのである。

もちろん――。

そんな世界滅亡のカウントダウンのような大騒動が起きていることなど、如月家の面々は知る由もない。

「はーい、拓也! お待たせーっ!」

三月が、満面の笑みでリビングのテーブルにフライパンを持ってきた。

そこには、ポチの命懸けのとろ火調整によって焼き上げられた、完璧な半熟の目玉焼きが二つと、パリッと香ばしい焼き目のついたウインナーが二本、美しく並んでいた。

「おぉ……すげぇな、三月。今日の目玉焼き、なんかホテルの朝食みたいに綺麗に焼けてんじゃん」

拓也が、目を丸くして感心したように呟く。

その言葉を聞いた瞬間、テーブルの下で足温器になっていたザイオンと、換気扇の上で息を潜めていたポチが、ガバッと顔を上げて涙を流し合った。

(ほ、褒められた……! 神に……存在を肯定されたぞ……!!)

(ヤリマシタ……! 我ラハ、保健所ヲ回避シタノデスッ……!!)

「えへへ、ポチちゃんが頑張ってくれたんだよー!」

三月が誇らしげに胸を張り、お茶碗にてんこ盛りの炊きたてご飯を置く。

「よし、じゃあ冷めないうちに食べよっか! あ、拓也、味付けはめんつゆだったよね? 冷蔵庫から取ってくるねー!」

三月は、鼻歌を交じりにパタパタと冷蔵庫へと向かった。

拓也は、割り箸をパチンと割り、生唾を飲み込みながら目玉焼きを見つめる。

ほかほかの白米の上に、あのとろっとろの黄身を乗せ、めんつゆをツーッと垂らしてかきこむ――想像しただけで、お腹がグゥと鳴った。

だが。

バタン、と冷蔵庫のドアが閉まる音がして。

キッチンの前から、三月の「あ……」という、凍りついたような声が響いた。

「……三月? どうした?」

拓也が首をかしげる。

三月は、空っぽのペットボトルを両手に持ったまま、サーッと顔から血の気を引かせて振り返った。

「……た、拓也……」

「ん?」

「……めんつゆ……最後の一滴まで……お母さんが昨日の肉じゃがで使い切っちゃってて……一滴も……残ってない……」

「…………え?」

拓也の動きが、ピタリと止まった。

「……一滴も?」

「う、うん……一滴も……。お醤油も……底に数ミリしかなくて……」

静寂が、如月家のリビングを支配した。

「…………。」

拓也の眉間が、スーッと険しく寄っていく。

朝起きて、顔を洗って、完璧な目玉焼きが目の前にある。

あとは、めんつゆを垂らして口にかきこむだけの、至福の瞬間。

そのクライマックスを目前にして、調味料がない。

それは、空腹の男子高校生にとって、あまりにも理不尽で、あまりにも残酷な現実であった。

「……マジかよ……」

拓也の口から、深いため息と共に、地獄の底から響くような怨嗟の呟きが漏れ出た。

「……俺の……俺の半熟目玉焼きが……。めんつゆのない目玉焼きなんて……味のない消しゴム食ってるのと一緒じゃんかよ……」

ヒュオオオオオオオッ……!!

拓也のその激しい落胆のオーラが、部屋の空気を急激に冷え込ませた。

もちろん、ただの「調味料を切らした少年の拗ねた愚痴」である。

しかし――それを目の当たりにしたザイオン、ポチ、そしてルルの三匹の全身に、文字通り『死の宣告』のような絶対の恐怖が突き刺さった。

(しまっ……!? 指揮官様の機嫌が、地の底まで大暴落したァァァッ!!)

ザイオンの毛がボワッと逆立つ。

(琥珀雫ガ……ナイ!? コノママデハ、我ラモロトモ、世界ガ滅ボサレルゥゥゥッ!!)

ポチが白目を剥きかける。

「ど、どうしよう拓也! 私、今すぐスーパーに走って買ってくるからっ!」

三月が半泣きでエプロンを脱ぎ捨てようとする。

だが、その時。

ザイオンの背中に乗っていたケットシーの少女・ルルが、シュタッとテーブルの上に飛び乗った。

その小さな手には、三月がリビングの棚に置いていた『がま口の小銭入れ』がしっかりと握られていた。

「み、三月お姉ちゃん! ここは、ルルたちに任せるのにゃっ!!」

「えっ? ルルちゃん?」

ルルは、がま口財布をキュッと自分の首にぶら下げると、キリッとした顔でザイオンとポチを見下ろした。

研究所で造られ、いつも命令を待つだけだった人工生命体の少女の瞳に、初めて「自分の意志で、この暖かい居場所を守る」という強い光が宿っていた。

「ザイオン! ポチ! 三月お姉ちゃんは、ご飯が冷めないように拓也のそばにいてあげるのにゃ! ルルたちが……ルルたち『神獣お使い隊』が、街のスーパーから最高のめんつゆを買ってくるのにゃーっ!!」

「キャンッ!(よく言ったルル! 行くぞポチ、命懸けの調達任務だッ!)」

「キュピィッ!(我ラノ手デ、指揮官様ニ琥珀雫ヲ捧ゲルノデスッ!)」

「あ、待って、みんな――!」

三月が止める間もなく。

ルルを背中に乗せた体積三倍の巨大綿飴銀狼ザイオンと、その頭にしがみついたミニドラゴンポチは、玄関のドアを鼻先で器用に押し開け、朝の光が差し込む街へとダッシュで飛び出していったのである。

拓也の朝ごはんを救うため。

そして、自分たちの「ペットとしての生存権」を死守するため。

人工生命体の神獣たちによる、前代未聞の『初めてのおつかい』が、今まさに幕を開けようとしていた。


最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!


お姉ちゃん(三月)の理不尽なまでの弟愛と、

周囲の全力すぎる深読み(アンジャッシュ)に振り回される拓也たちの日常、

少しでもクスッと笑っていただけたり、楽しんでいただけましたら幸いです!


「このテンポ感が好き!」「続きが気になる!」「ペットたちの明日はどっちだ!?」

と少しでも思っていただけましたら、

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