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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026


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第十八話:見えない糸と、新たな景色

クリスタル・レギオンの残骸が光の粒子となって消え去った後、第三層の深淵には静寂が戻っていた。

三月は、その場にへたり込むこともなく、ただ自身の掌をじっと見つめていた。

捕食によって得た『磁力操作(微)』。

意識を集中させると、指先と掌の間に、これまでにはなかった「感覚」が生まれる。

(……これが、磁力)

試しに、足元に散らばっていたレギオンの残骸――その中心部でひときわ強い光を放つ、巨大な魔石に意識を向ける。

掌をわずかに動かすと、数十万円の価値がある重厚な魔石が、意思を持ったかのようにフワリと浮き上がり、そのまま彼女の掌へと吸い寄せられた。

三月は息を呑んだ。

これまでのスキルは、あくまで自分の肉体を強化するものばかりだった。だが、この『磁力操作』は違う。自分の身体から離れた外部の物体に、物理的な触れずして干渉する力だ。

(応用すれば、剣の軌道をわずかに変えたり、敵の動きを阻害したり……。魔石を回収するのにも、いちいち拾い歩かなくて済むね)

しかし、高揚感と共に、すぐに理性のブレーキが働いた。

まただ。新しい力を得た途端、内なる怪物が「もっと喰らえ、もっと試せ」と甘い囁きを上げてくる。

三月は強く拳を握りしめ、自分を落ち着かせるように深呼吸をした。

今の彼女にとって重要なのは、この新しい力を派手に使うことではない。身体能力の時と同じように、この目に見えない「糸」を自分の手足のように操れるようになることだ。

彼女は、拾い上げた巨大な魔石を黒いインナースーツのポケットに丁寧にしまった。

まだ体内に残る魔力の残滓が、神経を刺激する。レギオンという強大な集合体の魂を喰らった代償は小さくない。全身が熱く、脈動している。まるで、自身の肉体が「器」としての限界を更新しようとしているかのようだ。

「……さて、帰ろうか」

ボスを退けたことで、第三層の守護者は消滅した。人類の最高到達点が三十層であることを思えば、まだ入り口のようなものだ。だが、Fランクの自分がここまで踏み込んできた事実は、間違いなく今の彼女にとっての小さな「達成」だった。

地上への長い道のりを歩きながら、三月はポケットの中の魔石の感触を確かめる。

帰り道、三月の気配察知には、相変わらず森の各所に潜む魔獣たちの存在が映っている。

以前なら、それらすべてを「食料」として認識し、喉を鳴らして飛びついていたはずだ。しかし今の彼女は、あえてそれらを無視して歩く。

(今は、戦う時じゃない。この新しい感覚を、自分のものにする時間だ)

歩くたびに、地面の岩石や微細な鉱物から放たれる微弱な磁場が、脳裏に立体的な地図として浮かび上がる。

これは面白い。気配察知が「生命の熱」を感じ取るレーダーなら、この磁力操作は「無機質な世界の歪み」を見抜く眼だ。これがあれば、暗闇の中での不意打ちも、これまで以上に容易く回避できる。

だが、同時に不安もよぎる。

これほど便利で強力な力を手に入れてしまったら、もう元の「ただの探索者」には戻れないのではないか、という根源的な問いだ。

もし、この力が人間としての自分を完全に飲み込んでしまったら?

迷宮の帰り道、ふと三月は足を止めた。

以前、名も無きDランクパーティを救った際、彼らが自分に向けていた「恐怖の眼差し」を思い出したからだ。

彼らは、三月の捕食する姿を見て、彼女を人間ではなく「化け物」として扱った。その時の悲しみは、今も心のどこかに突き刺さっている。

(私は、化け物になんてならない。お父さんの薬代を稼いで、お母さんの美味しいハンバーグを食べて、拓也の受験勉強を応援する。そんな、当たり前の生活を守るために、私は探索者になったんだから)

ポケットの中の魔石は、少しだけ温かかった。

この魔石が、家族の未来を少しずつ変えていく。

その事実に、三月は安堵のため息を吐いた。

地上へと続く縦穴を見上げると、そこには遥か遠く、微かな出口の明かりが見えている。

迷宮の闇に染まりかけながらも、彼女は確かな人間としての意志を持って、その光へと手を伸ばした。

地上に出ると、夕暮れ時の新宿の街並みが広がっていた。

迷宮の硬質な空気とは違う、人の営みの匂い。排気ガスと、どこかの店から漂ってくる料理の湯気。その匂いが、三月の冷え切った心に溶け込んでいく。

「ただいま」

もちろん、そこに家族はいない。だが、彼女は誰に聞かせるでもなく、そう呟いた。

家に帰れば、自動洗浄トイレがあり、暖かいシャワーがあり、父の咳の音がある。

それだけで十分だ。

彼女は漆黒のコートの襟を立て、新宿の雑踏へと溶け込んでいった。

背後に残した第三層の深淵のことは、今はもう考えない。

今はただ、家族の待つ家へと続く道を、軽やかな足取りで進むだけだ。

道行く人々は、漆黒のコートを着た少女が、つい先ほどまで迷宮の深層で命のやり取りをしていたなどとは思いもしないだろう。

彼女は、ただの女子高生探索者。

そう自分に言い聞かせることで、三月は今日も自分の理性を守り抜いている。

迷宮という怪物に、決して魂を売り渡さないために。

彼女は家路を急いだ。

明日になれば、また新しい朝が来る。

そして、その朝食の温かさが、彼女を人として繋ぎ止めてくれるのだと信じて。

第十八話をお読みいただき、ありがとうございました!

今回は、ボス討伐後の帰り道の心情描写を重点的に描き込みました。力を手に入れてもなお、「化け物」にならないよう必死に踏み留まろうとする三月の葛藤が、少しでも伝われば幸いです。

磁力という新しい力をどう扱うか、そしてそれが彼女の日常と探索者活動にどう影響していくのか。物語は、彼女の人間性と強さがせめぎ合う局面に差し掛かっています。

この話が面白いと感じていただけましたら、ぜひブックマークや**評価(↓の☆☆☆☆☆)**で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

それでは、第十九話でお会いしましょう!

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