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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第二章:少年の探索者編

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第118話:魂の証明、穿たれる天稟(てんぴん)

最初の実戦訓練を終え、防魔隔壁をくぐって新宿の地下から地上へと帰還した時、拓也の身体は鉛のように重かった。

鉄山が仕立ててくれたインナースーツは汗まみれで、初めて本物の魔獣を屠った短剣の柄には、消えない緊張の感触がこびりついている。

だが、肉体の疲弊とは裏腹に、拓也の脳はかつてないほどに澄み渡っていた。

「お疲れ様、拓也殿。初めての魔力曝露ばくろだ、急激に体力を消費している。無理に歩かず、私の肩を借りるといい」

神宮寺蒼太が、大盾を収めた背中で静かに微笑みながら、拓也の細い肩を支えた。

「ありがとうございます、神宮寺さん。でも、大丈夫です……不思議と、足は前に動きます」

「へっ、大した根性じゃねえか。並のガキなら、アラクネの糸を見た時点でショックで過換気症候群を起こしてひっくり返ってるところだぜ」

風間蓮が長槍を器用に回しながら、感心したように笑う。

その隣では、瀬戸玲奈が拓也の顔色をじっと見つめ、その魔力循環の安定ぶりに小さく目を見開いていた。

四人が向かったのは、新宿の喧騒から隠されるように佇む鍛冶場――鉄山厳の営む『黒鉄堂』だった。

重厚な鉄の扉を押し開けると、不夜城の熱気とは異なる、炉の爆熱と鉄粉の匂いが拓也たちの鼻腔を突いた。

「戻ったか、坊主ども」

奥から現れた鉄山は、手にした巨大な槌を作業台に置き、拓也の全身を鋭い眼差しで値踏みするように見つめた。

ただ一度の迷宮探索。しかし、その死線をくぐり抜けた少年の瞳には、受験生だった頃の脆さは微塵も残っていない。職人の老練な目は、拓也の魂の輪郭が、迷宮の魔力を吸って明確に変質しているのを瞬時に見抜いていた。

「鉄山さん、言われた通り、第1層のウルフとイレギュラーのアラクネを相手に、拓也殿に実戦を踏ませました。……素晴らしい適応力です。ただ守られるだけの器ではありませんでした」

神宮寺の報告を聴き、鉄山はフンと鼻を鳴らした。

「当たり前だ、如月の血を引くガキだからな。……だが、本番はここからだ。神宮寺、蓮、玲奈。お前たちの目で見て、この坊主の魔力波形はどうだった?」

その問いに、アタッカーの風間が真剣な表情を浮かべて顎に手を当てた。

「間違いない。ただの魔力身体強化の受け入れじゃない。ウルフの動きを先読みした時、アラクネの急所を突いた時、コイツの周囲の魔力圧が明確に『指向性』を持って変化してた。……完全に、魂の奥が開きかけてるぜ」

「やはり、そうですか……」

瀬戸が調律杖を胸元に抱き締め、拓也を見つめる。

拓也は、プロたちの会話の意味を、秀才の迷宮学徒として正確に理解していた。

この世界における、探索者たちの「能力スキル」の絶対的なルール。

一般の人間が、世界で唯一の迷宮が放つ濃密な魔力に初めて曝露し、実戦の死線をくぐった際、その人間の本質や魂の形に応じて、世界から唯一無二の能力が『先天的覚醒』として発現する。

神宮寺の『プロテクション』も、風間の槍術を極限まで引き上げる『神速』も、すべては最初に魂に刻まれた天稟てんぴんだ。

基本として、この最初に覚醒したスキルが後から増えることはほぼない。一般の探索者は、一生をかけてその一つか二つの先天的能力の練度を磨き上げるしかないのだ。

それ以外のサブスキルを得るには、血の滲むような反復訓練を何年も繰り返し、後天的に魂へ技術を物理的に刻み込むしかない。それほどまでに、この世界の「能力」の獲得は不自由で、過酷だった。

対して、姉の三月が持つ『魂喰い(ソウルイーター)』は、そんな生易しいルールに則ったものではない。

彼女はFランク探索者として無謀な探索を続け、迷宮の奥深くで文字通り『死の淵』に立たされた極限状態の中で、ようやくその理外の能力を異常覚醒させたのだ。最初から全てを蹂躙できたわけではない。血反吐を吐き、死の恐怖に直面し、それでも家族を守るという狂気的な執念があったからこそ掴み取った力。

だが、その死にかけた真実の地獄を、拓也は知らない。

彼は姉を「最初から完璧だった別次元の天才」だと神格化しており、だからこそ、凡人である自分がその背中に追いつくためには、自分の最初の『手札』が何なのかを一秒でも早く知り、戦場で研ぎ澄ませていく必要があった。

鉄山は、そんな拓也の焦燥の混じった強い瞳を見つめ、静かに作業台の引き出しを開けた。

取り出されたのは、複雑な幾何学模様の魔導術式が刻印された、鈍く青い光を放つ透明な結晶石――『魔導刻印石』だった。探索者協会が厳重に管理している、魂の先天的スキルを測定するための超高額な魔導具だ。

「坊主。迷宮の魔力を浴びて、初めて実戦で命を奪った今、お前の魂の形は完全に定まったはずだ。……その石に、右手をかざしてみろ。お前が生まれ持った、世界に一つだけの天稟が何なのか、ハッキリする」

鉄山の言葉に、病室で眠る姉の姿が、父・昭雄の毅然とした背中が、母・由美子の涙が、拓也の脳裏を駆け巡った。

家族を現世の平穏に連れ戻す。そのための、最初の武器。

「……はい」

拓也は一歩前に出ると、震える右手を静かに伸ばし、青い結晶石の表面へと触れた。

瞬間、氷室を思わせる冷たい魔力の波動が結晶から吹き荒れ、拓也の体内を逆流するように駆け抜けた。

キィィィン、と鼓膜を刺すような高い共鳴音が鍛冶場に響き渡る。結晶石の内部で、拓也の魂の波形が急速に解析され、虚空へと一条の光の文字を紡ぎ出していく。

神宮寺たちが息を呑み、鉄山が鋭く目を細める中、現れた文字は――プロたちの予想を、そして迷宮学の常識を大きく覆すものだった。

『固有スキル:【深層言語・限定解析ディープ・アナライズ】』

「なっ……解析、だと……!?」

風間が驚愕の声を漏らした。

「おいおい、戦闘系のスキルじゃねえのかよ!? 身体強化や武器の専門スキルじゃなくて、純粋な『知覚・解析系』だと……?」

神宮寺もまた、その表示された文字を見て、信じられないといった面持ちで呟いた。

「浅層の探索者が発現させる解析スキルは、せいぜい敵のステータスや魔力残量を薄く見通す『鑑定』の類が限界だ。だが、これは……『深層言語』の解析? 迷宮の最深部でしか観測されない、世界のことわりのコードを読み解く能力ということか……?」

迷宮学徒である拓也は、そのスキルの名を見た瞬間、身体が内側から激しく震えるのを自覚した。

(戦闘スキルじゃない……。だけど、これなら見える。魔獣の動く数秒先の魔力波形も、迷宮の構造が持つ歪みも、姉ちゃんの魂がどこに囚われているのかの『座標』さえも……全部、俺の頭脳データと同期して、戦場を完全に支配できる!)

それは、魔獣の命を喰らい武力で全てを蹂躙する姉・三月の『魂喰い』とは、完全に対極に位置する能力。

戦うための刃(前衛)を日本の最高峰のプロたちに委ね、自身は完璧な盤面を構築してプロの力を何倍、何十倍にも跳ね上げる、まさにパーティの『絶対的司令塔』にふさわしい、秀才の学徒ならではの先天的覚醒だった。

鉄山はその文字をじっと見つめ、それからニヤリと、獣のような不敵な笑みを浮かべた。

「……ククク、やはり如月の血筋だ。ただの秀才で終わるタマじゃねえな。戦闘能力が皆無の代わりに、迷宮そのものの情報を毟り取る特化型か。坊主、お前がそのクソ忌々しい頭脳とこのスキルを使ってプロの盾と矛を導けば、浅層どころか、中層の化け物相手でも完全にノーダメージの盤面を作れるぞ」

鉄山の言葉に、拓也は短剣を強く握り締め、虚空の光の文字を真っ直ぐに見据えた。

「はい。……俺には姉ちゃんのような絶対的な武力はありません。でも、この目と頭があれば、神宮寺さんたちの盾と矛を最も完璧なタイミングで動かせる。……鉄山さん、俺をすぐに次の階層へ行かせてください。この手札の使い方を、死線の中で完全に身体に叩き込みます」

姉の背中に追いつくため、凡人としての執念と覚悟を燃やす少年の瞳。

本人はまだ気づいていない。最初から完璧だった天才などではなく、Fランクの絶望から死に物狂いで強くなった姉の「家族を守るための狂気的なまでの執念」と、今の自分の姿が、どれほど深く、残酷に酷似しているのかを。

「よし、お前の最初の武器は決まったな。蓮、玲奈、神宮寺。コイツの解析能力を前提にした、新しい陣形フォーメーションを叩き込むぞ。明日からは、第2層へ突入だ」

「へっ、面白くなってきたじゃねえか。最高の盾と矛の動かし方、お前のその頭で見せてみろよ、指揮官殿!」

風間が槍を担ぎ直し、最大級の期待を込めて笑った。

ただの受験生から、パーティを統べる『絶対の頭脳』へ。

如月拓也の、真の探索者としての歩みは、自身の魂の証明を経て、いよいよ世界の裏側へと深く、深く加速していくのだった。

第118話をお読みいただきありがとうございました!

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