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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
魂喰いの少女編

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107/113

第107話:完璧な朝餐と、硝子の箱庭

柔らかな朝陽が、薄手のリネンカーテン越しにリビングへと差し込んでいた。

「おはよう、三月。ほら、お父さんが並んで買ってきてくれた例の食パンよ。いい匂いでしょう?」

キッチンに立つ由美子が、トースターからふわりと立ち昇る小麦とバターの香りを手で扇ぐようにして微笑んだ。

ダイニングテーブルには、厚切りにされてこんがりと黄金色に焼き上がったトーストが並べられている。

「おはよう、お母さん、お父さん。……うん、すっごく美味しそう! 早速いただいてもいい?」

三月は完璧な愛らしい笑顔でそう答えると、席へとついた。

向かいの席では、弟の拓也がテレビのニュース番組を見ながら白米を掻き込んでいる。

「姉ちゃん、お疲れ! なあ、今日のニュース見たか? 迷宮の中層でスタンピードがあったらしいんだけど、トップクランの連中があっさり鎮圧したんだってさ」

拓也の言葉に、三月はトーストを口へと運ぶ。サクッ、モチッとした食感は今日も最高だった。

だが、その穏やかな空気は、拓也の次の言葉で一変する。

「でもさ、東雲先生がさっき顔見せてくれてさ。ニュース見て『あり得ない』って頭抱えてたんだよね。先生のあの徹底したデータ至上主義、姉ちゃんも知ってるだろ?」

三月はコーヒーカップを口元に運ぶ手を止めた。

(……東雲先生が? なんでわざわざ自宅にまで……)

「先生さ、探索者協会が公開した第5層の微弱な魔力波形の残滓データを解析したらしいんだ。銀の剣の攻撃データとは全く別の、とんでもない重力波形が見つかったって」

拓也はトーストを飲み込み、少しだけ声を潜めた。

「先生が言うにはさ。『この迷宮都市には、数万の魔獣の動きをミリ単位で支配し、巨大な変異種の顎を物理的に捻り潰せるほどの、人間の規格から外れた化物が潜んでいる』って。先生、鉄山さんと何か怪しい密談してたみたいだし、最近ピリピリしてるんだよね」

三月の冷徹な演算回路が、一瞬で状況を再構築する。

(鉄山さんに、東雲先生……。私の秘密を共有している二人が、私の正体を巡って密談。……私を信じて守るための防衛策か、それとも、化物を飼い慣らすための計算か)

「本当に怖い話ね。でも、そんな化物がいたとしても、きっと強い探索者の人たちがなんとかしてくれるわ」

三月は完璧な姉の笑顔を作り、拓也を安心させるように微笑んだ。

だが内心では、冷酷なリスクマネジメントが始まっていた。

(東雲先生は私の秘密の『理解者』であり、一番の頭脳。けれど、私の制御が外れたと判断した瞬間に、鉄山さんと組んで私を『無力化』しようとする可能性もある。……近いうちに、直接釘を刺しに行かないといけないわね)

食事を終え、食器を洗うためキッチンに立った三月。

母の手に触れた瞬間、彼女の身体が異様に冷え切っていることに由美子が気づいた。

「……三月、あなた、手が氷みたいに冷たいわよ?」

「……ごめんね、ちょっと冷え性になっちゃったみたい」

三月は焦りを隠し、体内深くに眠る「爆熱(微)」の魔力をミリ単位で循環させ、体温を偽装する。

昨夜の戦闘で魔力回路が変質し、もはや人間の体温を維持することすら魔力制御なしでは不可能になりつつある。

(……人間の身体から、確実に逸脱している。これ以上、この箱庭に留まれる時間はどれくらい?)

由美子の温かな手に包まれながら、三月は誰にも見せない冷酷な瞳で、窓の外に広がる「平和な街」を見つめた。

家族を守るために人間をやめ、化物の道を突き進む。

その選択を、彼女は一度も後悔していない。

その日の夕方。

三月は「協会への報告書提出」という名目で、鉄山の店「黒鉄堂」の地下にある、東雲との密会場所へ足を運んだ。

重い鉄扉を開くと、そこには機材に囲まれた東雲と、腕組みをして立つ鉄山の姿があった。

「……来たか、三月」

鉄山が低く呟く。東雲は、解析結果が表示されたモニターから視線を外さず、冷静に告げた。

「波形解析の結果、昨夜のスタンピードで起きた重力異常は、君の『重力操作(微)』によるものだと確信した。……三月、君は人間の限界を突破しすぎた。今の君は、この迷宮都市の『防衛装置』であると同時に、最大の『破壊因子』でもある」

東雲はモニターを指差し、三月の魔力波形が人間とは別次元に変質しているデータを見せた。

「私は君を信じているし、君の秘密を鉄山と守り続ける。だが、君の力が強まるほどに、君の肉体は人間という器から溢れ出し、周囲を異質な魔力で汚染し始めている。……そろそろ、君の『人間としての生活』にも、終わりが近いかもしれない」

東雲の言葉は、三月にとって最も聞きたくない宣告だった。

だが、彼女は怯えなかった。

「終わりが近いのなら、その時まで何千回でも嘘を塗り固めるだけ。……東雲先生、鉄山さん。あなたたちが私を守り、制御しようとするその計算通りにはさせないわ。私の『日常』を脅かすものは、たとえあなたたちであっても、迷宮の主だろうと等しく排除する」

三月は、絶対零度の殺意を隠すこともなく、二人の協力者を冷徹に見つめた。

共犯者たちとの間に、ピリリとした緊張が走る。

秘密を共有する仲でありながら、彼らは三月という怪物を制御しきれないことに焦りを感じ、三月は彼らが自分を「管理」しようとすることに苛立ちを覚える。

硝子の箱庭は、脆く、危うい均衡の上で成り立っている。

彼女が守りたかった平穏は、実は彼ら協力者との高度な権力争いの上で維持されていたのであった。

三月の肉体が確実に人間離れしていく描写や、拓也の無邪気な言葉が三月を追い詰めるような展開など、物語が一段と深く、危うくなっています。

次回、この「協力者たち」との歪な均衡が、どのような形で動くのか?

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