第十四話
館山城に戻ったひのは、経丸と凛に丁寧に手当てをしてもらい、深々と頭を下げた。
「本当に……ありがとうございました。では、私はこれで――」
帰ろうとするひのに、士郎が優しい声で呼び止める。
「ねぇ、ひのさん。お腹空いてるでしょ? 皆でご飯食べようよ」
ひのは驚き、そして笑顔になった。
「いいんですか?」
「もちろん!皆で食べた方が美味しいからね。ねぇ、経丸さん」
経丸は柔らかい笑顔で頷く。
「はい。ひのちゃんがよければ、ぜひ一緒に食べましょう」
「うちのばぁやんのご飯はうまいからね。期待していいよ」
凛は呆れたように言う。
「確かに美味しいけど、なんで作りもしない兄貴が期待値上げるねん」
「ばぁやんの料理はそれがしの誇りですから」
「士郎さん、天羽家の誇りですよ」
経丸の言葉に士郎は目を輝かせた。
「経丸さんってホントいい事言うよな‼ 人間出来過ぎだわ‼」
そこへ河野が突然、
「士郎さん、お茶に経丸さんの鼻くそ入れて飲んだ方がいいですね」
皆「は?」となる中、片倉が優しくフォローする。
「惜しい。河野君、それを言うなら“爪の垢を煎じて飲む”だよ」
「あっ!それです‼」
「片倉さん意味知ってましたか?」
「知ってるからフォローしたんだわ‼」
皆、笑った。
◆食堂へ
食堂に入ると、士郎が元気よく叫ぶ。
「ばぁやん、お腹空いた!」
「はいはい」
「あっ、ばぁやん紹介するね。この子ひのちゃん」
「ひのと申します。よろしくお願いします」
「あら可愛いお嬢さんねぇ。食べたいもの遠慮なく言ってね」
「ありがとうございます!」
士郎は熱く語る。
「ひのちゃん、初めてだから教えるけど…… カツオの刺身定食がぶっちぎりで一番美味しい‼ だからカツオ定食がいいよ!」
ひのは圧に押され気味。
「えっ、えっ〜そうなんですか?」
凛が冷静に言う。
「兄貴は“かつおバカ”ってくらいカツオしか食べないから参考にしない方がいいよ」
「士郎さんってそんなにカツオばっかり食べてるんですか?」
「まぁ週五で食べてるかな」
「めっちゃバカですね」
ひのの一言に、全員が固まる。
そして河野が小声で、
「士郎さんって、やっぱバカらしいですよ」
士郎は悲しげに呟く。
「あぁ……空耳かと思ったが、やっぱりバカって言われてたか……」
ひのは慌てて右腕を高く上げ、全力で振りながら叫ぶ。
「違います‼ バカじゃないです‼ “かつおバカ”って言いたかっただけです‼」
士郎は河野に小声で、
「彼女は今、棚の雑巾がけをしているのかい?」
河野は真顔で、
「雑巾?今から大掃除ですか?」
「違うわ‼」
皆、大笑い。
士郎は恥ずかしさで顔を赤くしながら叫ぶ。
「面白くないよ‼ 悪かったな‼ スベったんだよ‼」
河野はフォローしようと、
「ひのちゃん、士郎さんは普段めちゃくちゃ面白いんだよ‼」
「そうなんですか!」
河野は皆に向かって大声で、
「ねぇ、皆さん‼」
皆の反応は薄い。
河野は困って、
「士郎さん、たいしたもんだ‼」
「お前、ごまかしきれてないからな‼」
「士郎さん、たいしたもんだ‼」
「ぶっ飛ばすぞ‼」
「きゃぁぁ‼」
また大笑い。
経丸が優しく言う。
「他の料理も美味しいから、好きな物を頼んでくださいね」
「はい。卵かけごはんにします」
「卵かけごはん⁉ 卵かけごはん⁉」
士郎が大騒ぎ。
「卵かけごはんは料理じゃないぜ‼」
凛が冷たく言う。
「兄貴、うるさい」
経丸が一言。
「士郎さん、人の食べる物にうるさいと嫌われますよ」
士郎は即落ち込む。
片倉が肩を叩く。
「士郎君、今日は早く寝て忘れな」
「片倉さん、まだ夕方の五時ですよ……」
経丸が大皿を持ってくると、ひのは驚く。
「凄い……!」
士郎は誇らしげに言う。
「なぁ、凄い食べるだろ。経丸さん」
「はい‼ 素晴らしいと思います‼」
ひのは経丸に向かって大拍手。
経丸は照れながら、
「ありがとうございます。でも皆さんの方が働いてますよ」
ひのは皆に向かって拍手。
「皆さん偉いです‼」
河野も便乗。
「皆‼ 偉い‼」
士郎は片倉に小声で、
「ねぇ、あの子って河野の弟子?」
「かもしれないな」
士郎が張り切って紹介する。
「ひのちゃん、皆を紹介するね。それがしは安房が産んだ英雄――」
「兄貴、もういいから」
凛が遮る。
経丸、片倉、凛、稲荷、河野と順に紹介が進む。
凛は顔を恥かしさで真っ赤にしながらも吹っ切れながら名乗りをやり切る。
「安房が産んだ天才・外岡凛‼ 兄は安房の人気者・外岡士郎です‼」
皆、拍手喝采。
士郎は感動して凛の手を握るが、
「恥ずかしい、触んないで‼」
と払いのけられると皆が爆笑した。
士郎が質問する。
「ひのちゃん、どうして奴らに捕まってたの?」
経丸が注意する。
「士郎さん、ちょっとぐいぐい行きすぎですよ」
「ひのさんは仲間になるんだからいいじゃん」
「勝手に決めるのは良くないですよ」
ひのは静かに言った。
「皆さんがよければ……仲間に入れてほしいです」
士郎はドヤ顔。
「ほら見ろ‼」
経丸は苦笑い。
「今のは士郎さんの圧が凄かったからですよ」
ひのは首を振る。
「違います。私、経丸さん達が都賀家を滅ぼしたのを知って…… 私も人の役に立つ人生を送りたいと思ったんです」
経丸は驚く。
「私のことを知っていてくれたんですか?」
「もちろんです! 安房の国の英雄・天羽経丸様を知らない人はいません‼」
士郎は期待して聞く。
「じゃあそれがしの事も?」
凛が即ツッコミ。
「知るわけないでしょ‼」
しかしひのは言った。
「士郎さんの事も知ってますよ」
士郎はドヤ顔。
「ほら見ろ‼」
凛は驚愕。
「なんで⁉」
「士郎さんは……安房の国で一番ダサい男で有名ですから」
全員、爆笑。
片倉は涙を流しながら笑う。
「ダサいで有名は嫌だなぁ……そりゃ知名度勝てないよ士郎君(笑)」
士郎は真顔で言う。
「ひのちゃん、やっぱ仲間になる話はなかったことに」
ひのは慌てて頭を下げる。
「すみません‼ つい本当のことを‼」
「追い打ちをかけないでくれ‼」
河野は大きい声で
「士郎さんはダサくないです‼ カッケェです‼」
士郎は感動して河野に抱きつく。
「ありがとう‼ お前だけだ‼ それがしをわかってくれるのは‼」
「ちょっと離れてください‼ 僕、彼女いるので‼」
「嫌だ‼ 彼女いるからこそ離れない‼」
「嫌だぁぁぁ‼」
皆、大爆笑。
こうして――
天羽家に新しい仲間・ひのが加わった。
この出会いが、後に大きな戦いを呼ぶことになるとは、まだ誰も知らなかった。




