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最終話アイトさん、大好きです!

 暖かな光に僕は包まれる。


「……トさん……」


 それは寝起きのまどろみのような感覚だ。


「……イトさん……」


 誰かが僕を呼ぶ声が聞こえる。

 そう、それは僕にとって、とても大切な人の声。


「アイトさんッ!!」


 ナナさんの呼び声に僕は目を覚ました。


「……ナナさん?」


 目の前にナナさんの顔がある。その顔は、封印される直前に見たモノとは対照的に晴れやかな笑顔だった。


「ナナさん、どうして……?」

「ごめんなさい、アイトさん。封印解いちゃいました!」


 テヘッと舌を出すナナさん。

 可愛い……じゃない。


「ちょっと待って! 僕が開放されたらまた世界がーー」

「その心配は無用だよ」


 ナナさんの背後から聞き覚えのある声がする。


「イルヴァーナ……さん?」


 その声の主は確かにイルヴァーナだったが、少し歳を取っているように見える。


「やぁ、久しぶりだねアイトくん」

「お久しぶりですわ、アイトさん」


 イルヴァーナの後ろにはシシーがいた。彼女の姿はナナさん同様変わっていない。


「口で説明するよりも実際に見てもらったほうが早いと思う。立てるかい?」


 僕は頷きつつ、立ち上がった。意外とすんなり立ち上がれる。

 と、僕は慌てて自分の身体を見回した。

 人間だった頃と特に変わった所はない。

 良かった……


「悪趣味な金ピカじゃなくて良かったですね!」


 ナナさんが僕の考えを見透かしたようにニヤニヤしている。


 いや、でもホントそうだよ。

 僕は安堵のため息を吐いた。


 ◆


 僕が目覚めた場所は、封印された時と同じ王城だった。ただし、今はナナさん所有の建物になっているらしい。

 僕らは外テラスへとやって来た。


 ここからは王都の街並みが見渡せるはずだが……


「え?」


 僕は自分の目を疑った。


 そこに広がっている光景はかつての街の面影はなく、天使の国のように高層建築物がいくつもそびえ立っていた。おまけに空飛ぶ自動車もあちこちを飛んでいる。


「君が封印されてから7年が経ったんだよ」


 イルヴァーナが静かにそう言った。


 7年。

 そうか、それはイルヴァーナも歳を取るわけだ。だけど、この街並みの変化は激しすぎないか?


「この国に魔力は溜めない方法として、私達は魔術の独占をやめたんだよ。世界中にその知識や道具を広めていった。魔術師が世界中に分散すれば、消費される魔力も増えるし、濃度も薄くなる。そして天使たちも世界中に自分たちの科学技術を広めた。もちろん、このアナフィリア王国にもね」


 あの天使たちがアナフィリア王国に。


「彼らは魔力のストッパーとして千年王よりも安全な方法を作り出してくれたんだ。だから、魔力が異常に増えることはなくなったんだ」

「だけど、僕がいれば魔力は……」

「それは君が一つの場所に長く留まり続けた場合だよ。天使の国とアナフィリアが技術提供するにあたり、各国にある条件を提示したんだ」


 イルヴァーナは僕を指差す。


「それは君が世界中のどこにでも入国できるようにすること。そして決して危害を加えないことだ。それについての世界共通の法も定められた。アイト法というんだけどね」


 いや、できればその名称はやめて欲しい……


「つまりアイトさんはどこにでも好きな時に旅をすることができるんですよ!」


 ナナさんがにこやかに言う。

 あぁ、やっぱりナナさんは笑っている方がいい。


「できるんです、じゃなくてしなくちゃならないでしょ」


 シシーがボソリと言った。ナナさんがギロリと睨みつける。この二人の仲の悪さは相変わらずらしい。


「まぁ、とにかくだ。もう君のせいで世界が崩壊するなんてことはないんだ。それにいずれこの世界は魔力に対して耐性もできるらしい。君が封印されていてくれたお陰で私たちはここまで準備できたんだ。だから、もう自分を犠牲にするような真似はしないでくれよ」


 イルヴァーナは真剣な眼差しでそう言った。


「はい」


 僕も迷いなく返事をした。

 それに満足したのか、イルヴァーナは伸びをした。


「さてと。私たちもこれまで世界の為に働き詰めだったし、そろそろのんびりしようかな」


 僕は気になっていることを尋ねた。


「他のみんなはどうしているんですか?」

「ん? あぁ、亜人王とクイーナは元の住処に戻って行ったよ。それとミミは古代樹が気に入ったらしく、そこで暮らしている。で、あの黒猫なんだが、しばらくこの世界にいたんだが、いつの間にか消えていた。ニニアリアと一緒にね。彼と最後に話した時、アルゴン・クリプトンにけじめをつけさせると言っていたが、それがどんなことなのかよくわからなかったな」


 いや、僕にはわかる。

 黒猫ヴァーレがアルゴン……いや、アーティに僕らのことを話してくれたんだ。

 だから、アーティは僕の意識と接触できた。


 ありがとう、ヴァーレ。


 僕は心の中で黒猫に感謝を述べた。


「それじゃ、私たちはもういくよ。あとはお二人で」


 イルヴァーナとシシーは立ち去っていった。


 あとに残った僕とナナさん。

 僕はあるお願いを彼女にしようとしたのだか、腕を引っ張られて庭まで歩かされた。  


 そこにはあのキャンピングカーが停められてあった。


「無事だったんだ!?」


 僕は車を眺め回した後、ナナさんに向き直った。


「あのナナさん、お願いがーー」

「ダメです!」


 えぇ!?


 まだ何も言っていないのに、断られてしまった。


「アイトさん、忘れてませんか? 魔神の解放者は願いを叶えてもらう権利があることを。つまり、解放者であるわらわの願いをアイトさんは叶える義務があるんです!」


 ナナさんは胸をのけぞらせてそう言った。けど、彼女は過去の解放者たちの願いを叶えずにボコボコにしていたんだけどな。けど、とても指摘できそうにない。


「じゃあ、ナナさん。願いを教えて」


 すると彼女は少し顔を伏せ、そして上目遣いで僕を見上げる。


「アイトさん、大好きです! ずっと一緒にいて下さい」


 先に言われてしまった。でも、ま、いっか。


 僕の答えは決まっている。


「もちろん、喜んで!」


 僕はナナさんを抱きしめた。


 これから先のことなんてわからない。


 だけど、これだけは言える。


 僕らの旅は再び始まったんだ。


 どこにだって自由に行ける、この愛しきナナさんと共に……

 最後までアイトとナナさんの物語を読んで下さった皆様、本当にありがとうございました。彼らのハッピーエンドを書くことができて良かったです。

 ちなみにこの物語に出てきたアルゴン・クリプトンことアーティは、僕の別の作品である「異世界侵略」の主人公だったりします。



そして、新作の投稿を始めました。良ければ読んでみてください。


「お前、船降りろ」と置き去りにされた召喚士、覚醒して【Z級シャーク・サモナー】となる 〜今更俺を敵に回したことを後悔すんな。最強サメ軍団で喰い付くしてやる〜

https://ncode.syosetu.com/n5521hb/


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