30話 アイトさん、湯上がりの定番はコーヒー牛乳ですよー
「……キサマらの女王は誰だ?」
「はっ! ナナ女王様であります!」
ナナさんの前にひれ伏しているサラマンダーたちが一斉に声を上げる。
彼らはみんな全身びしょ濡れだ。
「よし、キサマらも大分真っ当な妖精になったようだな」
ナナさんが満足そうに頷いている。
彼女が言うところの教育によってサラマンダーたちは従順になっていた。
「ナナしゃん、すご~い。いつの間に女王様になったのー?」
ミミが間の抜けた声で尋ねる。
「今よ!」
「おぉー、すごーい。いいなぁ。ミミも女王になりたいなー」
「それは無理! 女王は1人、このわらわよ」
ナナさんが胸を張って言う。
「でもそうね。ミミは大臣に任命しましょう」
「わーい! ありがと、ナナしゃん……で、大臣って何するの?」
「とりあえず偉そうにしてればいいんじゃない?」
「なるほどー」
ミミは腕を組んでサラマンダーたちを見下ろす。で、そのまま動かなくなった。
僕はとりあえず山の下の街に目を向けた。あっちも雪が溶けているだろうかと気になったからだ。
「あ! ナナさん見て! 街から湯気が出ているよ!」
街の至るところから白いモクモクとした湯気が立ち昇っている。
「おぉ! アレは紛れもなく温泉! アイトさん、行ってみましょう!」
「うん!」
僕らはキャンピングカーに乗って急いで山を駆け下りた。
街には雪は一切残っていなかった。
最初来た時とはまったく正反対といっていい。
「さてと。今すぐにでも入りたいところですが、荒れ果ててますからね。出番だぞ、サラマンダーども!!」
ナナさんの呼び声と共に火の妖精たちがササッとやって来た。
「この温泉街を綺麗にしろ。チリ1つとて許さん!」
「かしこまりましたナナ女王様!」
サラマンダーたちは機敏な動きで街に散っていった。
◆
「いやぁ、極楽ですねぇー」
温泉に浸かっているナナさんの顔が綻んでいる。
彼女は髪を結び、あのビキニとか言うとても目のやり場に困る水着を着ている。
「ミミはこれでも泳ぎが得意なのだー」
バシャバシャと泳ぎ回るミミ。
彼女は布面積の多い水着を着ている。
「こら! 温泉で泳ぎ回るな!」
「うぃー」
ナナさんに叱られてミミは温泉の中に沈んでいった。
ちなみにミミの解放者である黒猫は温泉が好きではないらしく、どこかに行ってしまった。
「アイトさん、くつろげていますかぁ?」
ナナさんが覗き込んでくる。
「え、あぁ、うん! くつろげているよ!」
ホントは水着のナナさんが気になりすぎてそれどころではない。
僕としては男湯、女湯で分けられているのかと思っていた。しかし、ナナさんがここは混浴だと言い張った。本当かどうかちょっと怪しい。
「アイトさん、ここの温泉には魔力を高める効能もあるんですよ!」
「え、そうなんだ」
確かに体の芯から魔力が湧き出るような感覚がある。
「ふふん、アイトさん、順調に魔力回路が発達しているようですね。さすがです!」
ナナさんの言葉僕は気を良くした。
◆
温泉から上がった僕らはソファに座ってまったりしていた。
ナナさんから貰ったコーヒー牛乳なる瓶入りの飲み物を飲む。
「プハァ! 湯上がりはやっぱりコーヒー牛乳が定番ですね!」
一気に飲み干したナナさんが言う。
定番かどうかはわからないけど、確かに美味しい。
「ナナ女王様、これが落ちておりました」
サラマンダーがナナさんの元に何か持ってきた。
見ると、それは賢者の石モドキだった。
「ナナさん、それって百年王の?」
「そうですよー。それとは別にこんなモノもあったみたいです」
ナナさんはペンダントを僕に見せてきた。
黒い石が嵌め込まれている。
「誰のだろう?」
「もしかしたら女吸血鬼の物かもですね」
受け取ったペンダントの裏を見てみると、そこに名前が刻まれていた。
『アルゴン・クリプトン』
この名前、どこかで……?




