1.ハラルトという男
「ハラルト特務、王宮から先日の結果の説明を
求められました。午後ですが…出席お願いします」
資料を受け取りつつ、大切な用件を伝える。
ロゼッタの目線は特務の切れ長の美しい瞳に
釘付けだ。
「……。いつも通りコンラートに行かせる」
「いえ、今回はぜひ特務に…と仰せ使っておりますが…」
「手が離せない」
王宮の呼び出しよりも研究。食事よりも研究。
何を差し置いても……研究。
仕事に取り組む姿勢も超絶素敵だ。
このゼルダリア帝国は、周りを魔術師の国で
囲まれていた。この国は誰一人として魔術を
使う事が出来ないのに…。
「今回の魔術の侵入レベルは?」
「通常です」
「なら…コンラートで十分だ。」
「か、畏まりました」
自然と流れ込む魔術の微弱なバランスと、
国家への影響についての分析。
「ハラルト!新しく届いた資料だ。全くここまで細やか
な分析、よくやるよホント」
コンラート研究員は既に王宮へ向かう準備を
しながら、急な代替の文句も忘れない。
「お陰様で、王宮で多少顔が利くようになったよ
ああ、ロゼッタ。今度は僕の研究室の資料も、頼みた
いな。」
ロゼッタの手には抱えるほどの資料。
「そ、そうですね。ハラルト特務の資料が落ち着いた
ら…」
「ロゼッタ。それは…来ない未来だね」
コンラートは貪るように仕事に取り組むハラルトを
チラリと見てため息と諦め顔で退出した。
ロゼッタ·ヘートヴィヒは、この上級研究室全体の補助職員として、資料の作成や管理、研究員の補助を担っていた。
ハラルト·フェルドは研究員の一人であり、
さらに特務という立場だ。
「——それから、ロゼッタ。以前頼んでおいた
資料の準備が出来次第、持ってきてくれ」
「はい!ハラルト特務」
ハラルトは仕事中に、机の資料から一度も目を離すこともなければ、ロゼッタに微笑むこともない。
多分、ロゼッタの顔もちゃんと覚えてもいないはず。
ただ脇目も振らずに仕事をする一日を過ごしている。
ロゼッタがひそかに想いを寄せていることも
もちろん知らない。




