第三十一話:王都の目――監察官王都監察官・リシア来訪
アルフォンス領が新たな段階へと踏み込んだ、その数日後。
城門前に、一団の騎馬が現れた。
無駄のない装備、統一された紋章。
そして中央に立つ、一人の女。
銀の髪を束ね、鋭い視線を持つその人物――
王都監察官、王都監察官・リシア。
「……来たか」
報告を受けたレアルは、静かに立ち上がった。
ミディアが確認する。
「拒否、あるいは遅延も可能ですが」
「無意味だ」
レアルは即答した。
「王都は“結果”を見に来る。隠しても、いずれ露見する」
若き戦術家・エリオが眉をひそめる。
「……かなり厄介な相手だと聞いています」
老将軍・ヴァルクも頷く。
「情けも忖度もない、“秤”のような女ですな」
レアルは小さく笑った。
「ならちょうどいい」
応接室。
扉が開く。
王都監察官・リシアは、一切の礼儀的な逡巡もなく入室した。
その視線は、まっすぐにレアルへ向けられる。
「アルフォンス領主、レアル・アルフォンス」
「王都監察官王都監察官・リシアか」
短い言葉の応酬。
空気が張り詰める。
「単刀直入に聞きます」
王都監察官・リシアは書類を広げた。
「なぜ、あなたの領は戦争を行い“急拡大”しているのですか?」
沈黙。
だがレアルは、迷わない。
「攻められたからだ」
王都監察官・リシアの眉が、わずかに動く。
「……詳しく」
「周辺貴族による侵攻。複数回」
若き戦術家・エリオが一歩前に出る。
「戦闘記録、損害報告、すべて提出可能です」
老将軍・ヴァルクが続ける。
「正規戦力による侵攻でした。防衛戦としては正当ですな」
王都監察官・リシアは無言で書類をめくる。
「……では、この“領地編入”は?」
視線が鋭く突き刺さる。
「防衛の結果とは思えませんが」
レアルは、静かに答えた。
「崩壊したからだ」
「……何が?」
「敵が」
一瞬、空気が止まる。
ミディアが補足する。
「戦後、敵商業領は経済的に破綻しました」
「我々は、負債の肩代わりと引き換えに統治権を取得」
王都監察官・リシアの視線が、わずかに細まる。
「……武力ではなく、経済で?」
「そうだ」
レアルは頷く。
「血は最小限だ」
数秒の沈黙。
やがて王都監察官・リシアは、書類を閉じた。
「……理屈は通っています」
若き戦術家・エリオがわずかに安堵の息を吐く。
だが――
「ですが」
その一言で、空気が再び張り詰める。
「“急すぎる”」
王都監察官・リシアはレアルを見据える。
「人口増加、資金流入、領土拡張」
「通常ではあり得ない速度です」
レアルは、淡々と返す。
「だから来たんだろう」
王都監察官・リシアは否定しない。
「ええ。確認のために」
「なら見ろ」
レアルは立ち上がる。
「すべてだ」
その日、王都監察官・リシアは領内を視察した。
整備された農地。
機能する市場。
安定した治安。
そして――
「……税が、低い?」
思わず漏れる言葉。
ミディアが答える。
「はい。流通優先の政策です」
「……それで、この規模を維持していると?」
「維持ではありません」
レアルが言う。
「成長だ」
さらに、商業都市。
かつて崩壊した場所。
だが今は――
「……再生している」
商人たちが戻り、
物流が回り、
人が笑っている。
王都監察官・リシアは、言葉を失った。
視察を終えた夜。
再び応接室。
王都監察官・リシアは静かに言った。
「……結論を出します」
全員の視線が集まる。
「現時点において――」
一拍。
「違法性なし」
空気が、緩む。
だが。
「ただし」
再び、鋭くなる。
「“危険性あり”」
「……危険、か」
レアルは小さく呟く。
王都監察官・リシアは頷く。
「あなたのやり方は、秩序を壊しかねない」
「周辺貴族はすでに恐怖しています」
「敵国との戦争は拡大します」
「いずれ、王都も無視できなくなる」
レアルは、静かに笑った。
「ならどうする?」
王都監察官・リシアは答える。
「監視を続けます」
その目は、一切揺れない。
「そして――」
ほんのわずかに、興味の色が混じる。
「見極めます」
「あなたが“敵”か、“必要な存在”かを」
沈黙の後。
レアルは短く言った。
「好きにしろ」
王都監察官・リシアは立ち上がる。
「……一つだけ」
振り返らずに言う。
「あなたは、本当に“悪徳領主”なのですか?」
レアルは答えなかった。
ただ――
「どう見える?」
そう返した。
王都監察官・リシアは、わずかに口元を緩めた。
「……判断は、保留にします」
【統治システム更新】
・統治度:88 → 91(王都承認による安定)
・資金:安定増加
・影響力:さらに上昇(王都監察対象に格上げ)
・人口:85,000 → 85,500
【新規状態】
・王都監察官:継続監視状態
・外圧:増加予兆(王都注視)
・アルフォンス領:準“大領”認定段階
王都は、見始めた。
近隣諸国をはじめとして
レアル・アルフォンスという存在を、
無視できなくなりつつあった。




