第一話:優しくしても、支配はやめない
目を覚ました瞬間、理解した。
――詰んでる。
「……なんだこの天井」
石造りの豪奢な部屋。
鏡に映るのは、見知らぬ男の顔。
流れ込んでくる記憶。
「レアル・アルフォンス……領主……?」
そして、すぐに確信する。
「最悪のポジションだな」
重税、暴力、処刑。
民を搾取し尽くす悪徳領主。
反乱寸前。外敵だらけ。
詰みかけの盤面。
――だが。
視界に、異様な表示が浮かぶ。
【ステータス】
レベル:1
HP:100
武力:77
知力:65
スキル:なし
特性:《成長加速》《支配者適性》
《この世界ではレベルは上がらない》
《あなたは例外です》
「……なるほど」
この世界の人間は固定値。
強さは生まれつきで決まる。
だが自分だけは違う。
「成長できるなら――勝てるな」
その瞬間、扉が叩き開けられる。
「領主様!」
やせ細った男が飛び込んできた。
「税を……もう村が限界で……!」
記憶が教える。
この男は何度も直訴し、そのたびに殴られている。
レアルは無言で見下ろした。
(ここで優しくするか?)
(それとも締め上げるか?)
その時、視界に別の表示。
【統治システム 起動】
統治度:12 / 100(極めて低い)
忠誠:5
恐怖:78
(崩壊寸前だな)
恐怖で抑えているだけの支配。
長くは持たない。
(だが甘くすれば、外に食われる)
結論は一つ。
「顔を上げろ」
低く言う。
「税は下げる」
「……え?」
「今年は三割減だ」
男の顔が完全に止まる。
「た、助かります……!」
その反応を見て、確信する。
(効くな)
そして――三日後。
あの直訴から三日後。
領地の広場に、全住民が集められていた。
ざわめき。
不安。恐怖。
「また税か……」
「今度こそ終わりだ……」
誰もがそう思っていた。
――だが。
「静まれ」
レアルが一言発した瞬間、空気が凍る。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「税を下げる」
――一瞬、静寂。
次の瞬間。
「……え?」
「い、今なんて……?」
ざわめきが広がる。
「今年の税は三割減だ」
空気が変わる。
歓声になりかけて――止まる。
誰も信じていない。
当然だ。
この領主は今まで、真逆のことしかしてこなかった。
「ただし」
その一言で、再び緊張が走る。
【統治システム】
統治度:12 → 18
忠誠:5 → 9
恐怖:78 → 70
「税は下げる」
「その代わり――」
一拍置く。
「労働と訓練を義務化する」
「……は?」
「全住民だ」
空気が凍る。
「農民も、商人も、子供も例外はない」
「一日二時間、戦闘訓練に参加しろ」
「拒否した場合――」
静かに言い放つ。
「領地から追放する」
どよめき。
だが、レアルは止まらない。
「さらに」
「成果を出した者には報酬を与える」
「食料、装備、住居――すべてだ」
希望と恐怖が混ざる。
完全な地獄ではない。
だが楽園でもない。
(これでいい)
人は、
完全な絶望では動かない。
完全な幸福でも腐る。
半端な希望が、一番支配しやすい。
「最後に」
レアルは全員を見渡す。
「この領地は――」
わずかに笑った。
「“最強”になる」
【クエスト発生】
・統治度を30まで上げろ
・民兵化率50%達成
報酬:レベルアップ
統治度:18(上昇中)
「安心しろ」
レアルは静かに言う。
「ここは地獄のままだ」
そして、視線を落とす。
「ただし――」
「勝てる地獄にしてやる」
その日。
領民たちはまだ気づいていなかった。
税は確かに軽くなった。
だが代わりに――
逃げ場そのものが消えたことに。




