0 プロローグ
二〇××年、とある地方都市。
芸術大学の近くの住宅街にある、表札に「賽之目探偵事務所」と書かれている建造物。
そこに、彼は居た。
彼は革張りの趣深い椅子に座っており、ヴィンテージ感のある机を挟んであなたと向き合っている。
「賽之目探偵事務所へようこそ」
間接照明だけが照らす薄暗い空間で、どうしてか薄く輝いているように見える金眼を持つ男は柔和な微笑みを浮かべ挨拶をすると、戸惑っているあなたを観察するように見つめた。
ミルクティー色の髪は癖毛っぽく、ウルフカットに近い髪型をしている。年は三十代前後だろうか。顔立ちは全体的に北欧系だが、目元がややモンゴロイドチックだ。
彼の体格にぴったりとフィットしているスーツは既製品っぽさが無く、オーダーメイドなのだろうとあなたは察するだろう。
「おや、ここがどこなのか知らずに来たのかい? ふむ……君はどうやら、偶然こちらに迷い込んでしまったみたいだね」
彼は立ち上がると、革靴の音を立ててあなたに歩み寄る。途中、彼がぱちんと指を鳴らすと、消えていたはずの照明にぱっと光が灯り、室内を明るく照らした。
「ここはあらゆる場所に繋がっている。拠点にしている現代日本から、ここより科学技術が発展した国、魔法の存在する都市。過去、未来を問わない、様々な次元――『異世界』と呼べるような場所にも、ね」
ヴィンテージ感のある机の前、部屋の中央には、応接室に使われているようなテーブルとソファーがある。ソファーは対面するように置かれていて、テーブルの上にはシックな空間には不釣り合いな、どこのスーパーにも売っているようなお菓子が入った籠が置かれていた。
彼はあなたに座るよう仕草で促す。ソファーに座ると、あなたと向き合うように男性は対面のソファーに座った。
「今は抱えている依頼が無くてね、丁度暇をしていたんだ。君がここに来たのも何かの縁だ。少し話をしないかい?」
そう言うと、あなたの返事を待つ。
肯定の意を示すと、彼は変わらぬ微笑みのまま、少しだけ目を細めた。
「自己紹介がまだだったね。私はヘルメス・アンバー。趣味で探偵をやっているんだ」
あなたは自分の名を告げる。
ヘルメスと名乗った探偵は満足そうに「良い名だね」と呟くと、語り始めた。
「そういえばこの間、面白い事件があってね――」
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