瓶詰作り
「ようし……! 瓶詰、作っちゃおう!」
瓶詰めとは、この世界では生活に欠かせないもの。そしてその瓶詰を作る人は、瓶詰職人と呼ばれている。
火を灯す瓶詰め、綺麗な水が入っている瓶詰めなどの生活用品瓶詰。魔物と戦うために魔法を封じ込めた瓶詰めや、使い魔の家にしている瓶詰などの戦闘用瓶詰。その種類は多岐に渡り、職人の腕によって質が左右される。
そんな瓶詰作りだが、システィナには才能がある――と、嫌われ蔑まれながらもそれだけは認められていた。
(でも、わたしはそれが楽しくて仕方がなかった)
困ったことは、食事の量が少なかったことぐらいだろうか。
「ここでは自分でご飯の用意をしないといけないけれど、好きなだけ食べられます! お腹いっぱい食べてみるのが夢だったので、あとで実行しましょう」
システィナは顔がにやけるのを手で押さえながら、行動を開始した。
「よーし!」
システィナはふんすと気合いを入れて、家の外に出た。
「……騎士様は、もういないよね?」
思わず家の周囲を確認してしまったのも仕方がないだろう。システィナは今まで、誰かしら見張りのいる生活を強いられていたから。
「ん、大丈夫そう。これなら、どんな瓶詰を作っても怒鳴られることもなさそうだし……んふふ、たくさん作っちゃおうっと!」
思わずシスティナの頬が緩んでしまったのも仕方がないだろう。
瓶詰め職人の仕事は、瓶を作るところから始まる。
一番簡単な瓶の材料は、そこら辺にある土だ。質のいい瓶を作ろうと思えば土にこだわらなければいけないけれど、単純な日用品として使う瓶であれば、その辺にある土で何ら問題はない。
「家の前が森って、瓶詰作りに最高じゃないかしら……?」
システィナはしゃがみ込んで、さっそく家の前の土を掘ってみた。
「わ、柔らかい!」
小さなシスティナの手でも簡単に土を掘れてしまった。手は土まみれになってしまい、あまり効率的ではないが――自分の好きにできることが、システィナには嬉しかった。そのまま、自分の膝丈くらいの山になるまで土を掘り返す。
「あ、どうしよう……何か入れ物があった方がいいよね」
焦りながら周囲を見ると、井戸の横に木桶があった。
「これに土を入れておこう!」
木桶に山盛りの土を入れ、システィナはまじまじと見つめる。土の匂いを吸い込んでみると、思わずうっとりしてしまった。
「ここの土、いつも使っていたものより質がいい! これなら、いつもよりいい瓶を作れるかも……!」
自然豊かなこの森にある土はとても状態がよく、瓶にするのに丁度よかったようだ。
「ここで瓶詰を作っていいなんて、どうしましょう。王城から追放されてしまったのに……わくわくしちゃう。それどころか、ここの方がずっといい……! ここに住みたい……! ………………あ、住むんだった!」
システィナはテンションを上げて熱くなってしまった頬を手で押さえる。と、手が土まみれだったので頬も土まみれになってしまった。
「あ……」
つい服の袖口で拭ってしまい、今度はそっちも土汚れがついてしまう。それを見て、システィナはつい笑ってしまった。
だって、今までこんなに楽しいことはなかったから。塔の狭い部屋に閉じこもっていた生活を考えたら、外はとっても不思議で、こんな些細なことでも笑えるほど魅力なのだ。
「まあ、いっか!」
なので、システィナも今は自分の気持ちを優先させることにした。このワクワクした気持ちは、きっと大切にした方がいいものだから。
システィナはさっそく集めた土を持って、地下の工房へと降りた。
地下工房は、奥の壁が一面棚になっていて、そこに素材や道具を置いておくことができる。量が多いものは、木箱に入れて床に積んであった。
これらは、システィナが来た際に一緒に運び込まれたものだ。木箱を覗いて、素材を確認してみる。
「……素材の質は、以前使っていたのと同じか……それより少し低いくらいかな?」
作業工程で限界まで質を維持できるよう努力はするが、これでは質の低い瓶詰しか作ることができないかもしれない。
次にシスティナが見たものは、作業机と、奥にある瓶詰窯。作業机は広々していて、ペンや紙の束が準備されていた。
瓶詰窯は、素材などを入れて瓶詰を作るために使用するものだ。くるくるかき混ぜて瓶詰を作っていくのだけれど、自身のマナを使うため繊細なコントロールが必要になってくる。ここが瓶詰作りの腕の見せ所だ。
瓶詰窯の前に立って、システィナは目を閉じた。集中して、自分の体の中にあるマナを感じ取る。
そして、そのマナを使って瓶詰窯に炎を灯す。
そうすることによって、瓶詰窯を使うことができるようになるのだ。
瓶詰窯に灯った炎は、自身のマナを炎にしているので熱くない。もし持ち主以外が使おうとした場合は、マナが反発して熱くなる。システィナが使っている瓶詰窯は量産品なのでそこまでの効力はない。けれど、ものによっては使用者以外が使うとそのマナが反射して相手を炎で焼き尽くすこともあると言われている。眉唾ではあるが。
瓶詰窯が温まったところで、システィナは集めてきた土を投入した。
それを長い木の棒でぐるぐるとかき混ぜていく。同時にゆっくり自身のマナを手のひらから瓶詰窯に注いでいく。
こうすることによって土を加工し、瓶詰めの基礎となる『瓶』を作ることができる。
しばらくくるくるかき混ぜていると、土がキラキラと光を帯びてきた。
土の中にあった不純物が取り除かれ、マナによって昇華され、ガラスのような物質ができあがる。
その物質を、自身のマナを使って形を整え、自分だけのオリジナルの瓶を作るのだ。
システィナは出来上がった透明の物質を器に入れて、作業机に移動する。机の上に鉄板を敷いて、その上で粘土遊びをするように瓶の形に整えていく。
「ん~~! この成形作業、好きだなぁ。土だったとは思えないこの感触に、ほんのり温かいのもたまりません! ずっと温かければいいのに、マナが抜けると冷たくなってしまうから……」
いつだか寒い冬の夜、湯たんぽ代わりにできないかと四苦八苦したことがある。残念ながらできなかったけれど、システィナにとっては楽しい実験の思い出の一つだ。
「ずっと作っていたいけど、もうできあがっちゃいますね」
システィナの手に収まる小さな丸みをおびた瓶を、五つ作ることができた。瓶には『システィナ印』として、小さな花の模様も入れてある。
「うん、完成です!」
上手く瓶を作れて、システィナの顔がぱっと輝く。
「すごいすごい! いつもの土よりずっと扱いやすかった……! ここの森、きっとマナが豊富で質がいいですね……! もっと森に行けば、すごい素材があるかもしれないです!」
そんなことを考えるが、もし魔物が出てきたらシスティナでは戦うすべがない。野望として森での素材集めを掲げはするけれど、すぐに行くことは難しいだろう。
「でもでも、使い魔の瓶を育てれば……なんとかなるかもしれません! 使い魔の瓶を作ったことはないけど、早めに用意した方がいいかな?」
これからの生活を考えると、楽しいことがたくさんだ。時間が足りないかもしれない! なんて考えてしまうけれど、あいにく時間はありあまっているほど。
システィナはふんすと気合いを入れ、まずは作る瓶に意識を集中させることにする。せっかく瓶を作ったのだから、このまま作業を続行しようと考えたのだ。
「これはどんな瓶詰にしようかな? 部屋の明かりが心許なかったから、まずは生活用品がいいかな? 明かりを灯す瓶詰にしてみよう」
作る瓶詰を決めてしまえば、あとはあっという間だ。
システィナはスキップする勢いで素材の入った木箱を見て、必要なものを取り出していく。
「火の魔石の欠片と、水の魔石の欠片。それから、空の鉱石」
それらの材料を机の上に置き、鉄やすりを用意する。これで魔石の欠片と鉱石を整えることによって、均一な明かりを生み出すことができるようになるのだ。
システィナは丁寧に丁寧に、やすりがけをしていく。
「火の魔石で明るさを、水の魔石で明かりの停止。光を発する空の鉱石は、どんなかたちに加工しようかしら。オーソドックスな真ん丸もいいけれど、わたしの家の明かりになるんだから……星の形にしてみるのはどうかしら。きっと、すっごく可愛いです! 星の形は作ったことがないけれど、新しいことに挑戦できるのが嬉しすぎます! 王城で作業をしていたときは、言われた通りのもの以外を作ると怒られてしまいましたからね……」
今までは作業が好きだけれど、好きなものを自由に作れているわけではなかった。けれど今は、自分の好きなものを作ることができるのだ。
「作業しているだけでも楽しかったのに、自分の好きなものを作っていいなんて……わたし、どうなっちゃうのかしら」
システィナははわわわわと焦りながらも、「集中しないと!」と気を引き締める。
鉄やすりで形を整えたら、次は鉱石を星の形にしていく作業だ。
形を整えた鉱石は、マナを吸収しやすくなる。システィナは鉱石に少しだけ自分のマナをなじませて、形を変えていく。
「むむむ、いつもの丸より形を作るのが難しいですね……」
すうっと息を吸い込んで、作業をしながら呼吸の仕方をゆっくりにしていく。こうすることで、システィナは集中しやすい。
手の中の鉱石がとげのような形になってきた。最初は難しいかもしれないと思ったけれど、一ヶ所できればあとは同じことを繰り返すだけだ。
(こういう作業は大好きです)
繰り返すことによって、自分の中の技術が上達していくことがわかる。明日は、もっと早く作れるようになるかもしれない。
「……ん、いい感じです!」
システィナの手には、立体的な星になった鉱石がある。
「これを瓶の中に入れて、魔法で蓋をして……完成!」
あとはこれを部屋の天井につければ、明かりとして使うことができる。システィナは自分好みの家にできることが、嬉しくて仕方がない。もちろん、好きなだけ瓶詰を作れることも。
「さっそくつけてみましょう! ……っと、その前に残り四つの瓶も明かりにしちゃいましょう。ほかの部屋にも使いたいですし、予備もあると安心ですからね」
残りの瓶詰もせっせと作った結果、システィナは楽しくなりすぎて、さらに追加で一〇個の灯りの瓶詰を作ってしまった。
瓶詰いっぱい作りたい勢システィナをよろしくお願いします!
(でもまずはご飯とかの確保をしてほしいところ……ままならない)




