食事に招かれて……
「システィナちゃん、本当にいいの? 大丈夫?」
「はい! 瓶詰めの修理ならすぐできますから!」
雑貨屋の店主エルドに食事に誘ってもらったシスティナは、店舗の二階にある居住スペースにお邪魔していた。
ちょうどエルドの妻リルカが昼食を作っているところだった。彼女はシスティナを見て、「いらっしゃい」と喜んでくれた。
ホワイトシチューのいい匂いにシスティナがふらふらと歩いていくと、「可愛らしいお嬢さんね」と微笑んでくれる。
それから自己紹介をして料理をするのを見させてもらって、途中、手の空いた時間に故障した瓶詰めがあると言われたので、システィナが昼食の昼食をご馳走になるお礼にと見てあげているところだった。
壊れてしまったのは小さな灯りの瓶詰めだった。リルカが夜に裁縫などをする際、手元を照らすために使っている瓶詰だという。
「これは中で使っている魔石が欠けてしまってるので、ちょっと補修してあげればすぐに明かりがつくようになります」
システィナは自分の魔力で魔石を包み込んで、欠けた分を綺麗にならしていく。それをまた瓶詰めの中に入れれば、あっという間に修理は完了する。
「これでつきます」
そう言って、システィナは瓶詰めに明かりを灯してみせた。
「まあ、すごいわ! こんな簡単に瓶詰めを修理してしまうなんて。システィナちゃんは腕のいい瓶詰職人なのね」
「いえ、まだまだです」
システィナが首を振りながら答えると、二人の様子を見ていたエルドが「そんなことはない」と口を挟んでくる。
「店で買い取ったが、灯りの瓶詰めもよくできていた。幼いながら、丁寧な仕事をしていると思ったよ。できたら、また売りに来てくれるかい?」
「はい! ありがとうございます!」
システィナは笑顔でお礼を言って、同時に早く家に帰って瓶詰めを作りたいと思ってしまった。こんなに誉められたら、瓶詰を作りたくなるに決まっている。
「瓶詰の話もいいですけれど、もうすぐご飯ができますよ」
「わたし、手伝います!」
「まあ。ありがとう、システィナちゃん。じゃあ……シチューをよそってくれるかしら?」
「はいっ!」
火にかかってグツグツ煮えているシチューの鍋を覗き込み、おたまを使って深皿にシチューをよそっていく。三人分をよそり終わってから、システィナはキッチンをじっと見つめて首を傾げた。
「リルカさん、これってどうして火がついてるんですか?」
「うん? それは調理用の瓶詰が中に組み込んで作られている、コンロという道具なのよ」
「コンロ……。わたし、この瓶詰は使ったことがないんです。家にもあるんですけど、どうなってるのかよくわからないというか」
そのため、家にキッチンはあるが火を使って料理のできない日々が続いている。
「これって瓶詰なんですね」
「そうよ」
リルカは嫌な顔一つせず、コンロの前に来て丁寧に説明をしてくれた。
「これはね、ここを開くと瓶詰が見えるのよ。わかりやすいでしょう?」
コンロ台のドアを開くと、中から火の料理用瓶詰が顔を出した。
瓶詰の上部だけがコンロの天板から出ていて、瓶の胴体部分がキッチンの中に収納されている形だった。そのため、瓶の上部から炎を出してコンロとして使うという仕組みになっている。
「こんな瓶詰めがあったんですね。今まで無縁だったので知らなかったです」
システィナが幼い頃に塔で読んだ瓶詰めの本は、生活瓶詰めも記載されてはいたけれど、こういう大掛かりなものは載っていなかった。ほかは生活用瓶詰ではなく、戦闘用の瓶詰だったり、観賞用の四季の瓶詰めといった少し特殊なものが多く、一般常識範囲の瓶詰めの記載は……今にして思えば少なかった。
(わたし、知らないことばっかりだ。でも、今日は火の料理用瓶詰めを知ることができたから一歩前進かな?)
自ら瓶詰職人を名乗ってはいるけれど、システィナが知らないことはまだまだたくさんあるのだ。
「リルカさん、この瓶詰めって使い方や注意することってありますか? わたしも使ってみたくて」
家にもあるけれど、使い方がわからず放置していたコンロ。しかし、中身が火の料理用瓶詰めだというのであれば話は変わってくる。システィナが使いこなすことだって難しくはないはずだ。
リルカはシスティナの疑問一つ一つに答えてくれる。
「コンロのの手前上段にあるここのスイッチが瓶詰めに繋がっているのよ。横の摘みで、火の強さもちょうせいできるのよ」」
コンロの手前にあるボタンを押して火をつけ、横の摘みで火力を調整するところを披露までしてくれた。瓶詰めと繋がっていて、ちょっとした専門知識が必要なのだという。
設置するにも瓶詰め職人の技術が必要だという。
わたそもできるようになりたい。自分が知らない人の目があったことに驚きつつ、まだまだ出来ることが増えるということに喜んだ。
意欲のあるシスティナを微笑ましく見ながらも、リルカは少し不安そうに尋ねてきた。
コンロや調理用の瓶詰だったら、お母様や周りの大人に教えてもらったらどうかしら?
一緒に作業すれば危ないこともないわよ」
「……いえ」
リルカの言葉に、システィナ笑をしながらゆっくり首を振った。
「わたし、一人で暮らしてるんです。だから聞ける人は誰もいなくて」
「一人!? その歳で一人なんて危ないわ。システィナちゃんはどこに住んでいるの?」
「近くの村でも見たことがない。遠くの村から来たのか?」
リルカとエルドの言葉に、システィナは森で暮らしていることを伝えていいのか悩む。追放され、森の家で暮らすようにと指示されているのだ。町や村に行くなとは言われていないが、きっと行くなんて夢にも思っていないだろう。
それに、物資を止めてシスティナが死ぬのを待っているのかもしれない。
(わたしが詳しいことを話したら、この人たちに危険があるかもしれない……)
システィナはぐっと拳を握り、心配をかけないように笑顔を作る。
「わたし、瓶詰め職人として独り立ちしたんです。だから、まだまだわからないことはあるんですけど……心配しないでください。応援してくれると嬉しいです!」
今口にしたシスティナの気持ちも、心からの本心でもある。
「そう、そうよね。こんなに修理が上手なんだもの」
「初対面であまり踏み込んで話していいものではなかったな、すまない。だが、何かあれば力になるからいつでも声をかけてくれ」
「私も教えられることがあれば何でも聞いてちょうだい」
エルドの言葉にリルカも頷いて、「いつでも頼ってね」と言ってくれた。その心遣いだけで、システィナは胸がいっぱいになるくらい嬉しいのだ。
「ありがとうございます。会ったばっかりなのに、こんなに優しくしてもらえるなんて……驚いちゃいました」
「子供は甘えるのも仕事のうちなのよ」
リルカは微笑んで、優しくシスティナの頭を撫でてくれた。
「さ、冷める前にいただきましょう?」
「はい!」
リルカの作ったシチューに、柔らかな白いパン、にんじんドレッシングのかかったサラダに、鶏肉の香草焼きがテーブルの上に並んだ。
それを一口食べると、システィナはあまりのおいしさに目を見開いた。
「んん〜!」
「そうか、美味いか。たくさん食え」
「遠慮しないでね、おかわりもあるわ」
システィナが美味しそうに食べただけで、エルドもリルカも嬉しそうだ。いや、実際に嬉しいのだろう。
「ありがとうございます!」
先ほどもらったクッキーも美味しかったけれど、リルカが用意してくれた料理は本当に本当に美味しかった。
「わたし、あったかい料理って初めて食べました。こんなにい美味しいなんて」
塔ではいつも冷えた食事――もとい酷い食事ばかりしていたので、温かいものを口にしたことがなかった。それに、関心もなかった。けれど、この美味しさを知ってしまっては、もう冷たい食事で満足はできない。
料理用の瓶詰を知ったシスティナはもう無敵だ。
「瓶詰を作るのが好きですけど、わたし、ご飯を食べるのも好きです! だから、いろいろ作れるように頑張ります」
「ええ。応援してるわね」
それから食後のデザートにとリルカがクッキーとミルクを出してくれたので、システィナはまたほっぺたが落ちるくらいに美味しいを堪能した。
そして帰り際、システィナはそういえばとリルカを見た。
「この前……ジャガイモを食べてお腹が痛くなっちゃったんですけど、火を通せば大丈夫ですか?」
「システィナちゃん、ジャガイモを生で食べちゃったの……?」
「シャキシャキしてて美味しかったです。でも、そのあとすごくお腹が痛くなって……」
お腹が痛くなってしまったので食べられず、実はジャガイモだけまだ倉庫に少し残っている。しかし、あの痛みをまた体験するかもしれないとなると、もう一度食べようとはなかなか思わない
「そうね、ジャガイモは火を通したらいいわ。できるかしら?」
「やっぱり火が大事なんですね! 今日、コンロの使い方を教えてもらったから家でやってみます。ありがとうございます」
システィナはリルカになつき、家でのことを少し相談した。が、それがよりリルカとエルドの心配を加速させていることに本人はイマイチ気付いていない。
「……本当に大丈夫か?」
心配そうなエルドの声に見送られながら、システィナは村を後にした。




