村に到着!
「妖精さんは、わたしと一緒にいて大丈夫なの? 具合が悪くなったりは、してない……? たぶん、長時間じゃなければ倒れたりはしないみたいなんだけど……」
システィナは申し訳なさそうに、必死に妖精に体調を尋ねる。けれど、妖精はあっけらかんと笑って答えた。
『それって、あなたがマナを吸い取ってるからでしょ? 私たち妖精は元々マナが多いから大丈夫よ。それに、この森はとってもマナが多いの』
システィナにマナを吸われてるくらいでは、気分が悪くなることはないと妖精は言う。そのことに、システィナはほっと胸を撫でおろして長い安堵の息を吐いた。
『まあ、人間でマナをたくさん持ってるのは珍しいものね。でも、システィナが言った通り、短時間なら大丈夫よ』
「そうだったんですか……」
自分に対して『呪い』と呼ばれていたものが、システィナはどんなものか知らなかった。ゆえに、漠然とした不安はずっとあったのだけれど――妖精の言葉で、それが少しなくなったかもしれない。
『なくなったマナも、寝たら回復するわよ』
「よかった……」
『だから、人間の村に行っても大丈夫』
妖精の言葉に、システィナはドキドキしつつも――大きく頷いた。
***
「準備、よし……!」
大きなリュックはシスティナにはちょっと重たそうだけれど、初めて村に行くのだから、これくらいの荷物は仕方がない。
妖精に瓶詰の報酬として村への近道を教えてもらったシスティナは、いったん家に戻り準備を整えることに専念した。というのも、システィナはお金を持っていないからだ。追放された時に支給されたのは物資のみ。金銭という自由にできるものは生まれてから一度も手にしたことがない。
ただ、その知識だけは塔に住んでいた妖精のシェラードや本から得ることができた。なので、お金という存在は知っているが、実物を触ったことがなければ見たことすらないのだ。
「わたしの作った瓶詰が売れるはずだから、売って、必要なものを村で購入する! ……わたしにできるかな? 本当に村の人たちは倒れたりしないかな? マナを吸い取ってたなんて知らなかったけど、どうして人のマナを吸い取っちゃうんだろう」
止めることができたらいいけど、システィナには止め方が分からない。
瓶詰作りの際にシスティナは自分のマナを使っているけれど、誰かから吸い取っているという認識はないし、そういった制御をすることもしたことがない。練習すればできるようになるのだろうか。
……システィナは自分の中にあるマナに意識を向けてみるけれど、やはりよくわからなかった。
「マナの本もあったらいいな」
そう思いながら、システィナは腰に提げた瓶詰ベルトに装着した使い魔の瓶詰に触れる。これは瓶詰ホルダーというベルトで、複数の瓶詰をベルトにくくりつけておくことができる装飾品だ。
システィナの呼ぶ声で、すぐにスライムと森ネコが瓶詰から出てきた。
「スライムさん、森ネコさん、村に着くまで外に出て私を守ってもらえますか?」
『キュイ!』
『にゃー!』
二匹とも笑顔で了承してくれたので、システィナは軽やかな足取りで妖精に教えてもらった道を使って村に向かった。
到着した村は、木の柵でぐるっと囲まれていた。
入口は一箇所だけで、そこに見張りの自警団の大人と見習いの少年が立っている。どうやらあそこを通らなければ村には入れないらしい。
システィナは緊張しながらも、自警団の二人の元へ歩いて行った。
「見かけない嬢ちゃん。迷子か?」
「子供じゃねえか! 他の村から来たのか?」
男性と少年がそれぞれシスティナを見て、心配そうに口を開いた。二人ともいい人のようで、緊張していたシスティナの気持ちが少し緩む。
「わたしはシスティナといいます。瓶詰職人の、システィナです。わたしの作った瓶詰を買い取ってもらって、そのお金を使ってこの村で買い物をすることはできますか?」
精一杯ここへ来た目的を告げると、男性は「もちろんだ」と頷いた。
「と言っても、村に店は一軒しかないんだ。エルドのやってる雑貨屋があるから……そうだな、セリオ案内してやってくれるか?」
「ああ!」
男性の指示に、セリオと呼ばれた少年が頷いた。
村に入るのに何か取り調べや規則などがあるのかと心配していたが、システィナが子供だったこともあって、警戒されることなく村へ入ることを許可された。しかも、見習いの少年セリオがお店まで案内してくれるのだという。
あまりにとんとん拍子に進んだので、システィナは目をぱちくりさせてしまった。
(こんな風に人と話したのは、初めてかも……)
なんだか胸が温かくなった気がした。
「ありがとうございます」
「いいってことよ!」
こうして、システィナは初めて人間の村へ足を踏み入れた。




