妖精のお礼
「はい!」
システィナは妖精の問いかけに元気いっぱい返事をして、作業部屋に置いてあった妖精のために作った瓶詰の家を持ってきた。
使い魔の瓶詰は少し大きめだけれど、システィナが両手で持つとちょうどいい。
淡い光に照らされた瓶詰はキラキラ光っているように見える。花のベッドに葉っぱのサイドテーブル。床は白とくすみピンクの可愛らしいタイルが敷かれていて、天井には花のランプ。
落ち着いた空間だけれど、いっぱいの可愛いが詰まっている。
『この短時間で、こんな綺麗に作ってくれるなんて。ありがとう』
「あ……、どういたしまして」
妖精からのお礼に、システィナは笑顔で頷く。
自分が好きなように、けれどちゃんと妖精のことも考えて作った家を気に入ってもらえるのは想像以上にとても嬉しかった。
妖精が瓶詰の蓋を開けると、しゅるんとその中に入っていった。
すると妖精のサイズは瓶詰に合わせて小さくなって、その瓶詰の世界で生活できる大きさになった。とはいっても、ベッドとちょっとした家具があるだけなので、家として住むには少し物足りないかもしれないけれど。
『あら、このベッドふわふわだわ。私、こういうの好きよ。それに花のランプが可愛らしいし、柔らかい明かりが降り注いですごく心地いいわ。あと、これはシスティナのマナね。瓶詰にたくさん含まれているから、安心できるのかもしれないわ』
妖精が評価を口にすると、システィナは顔を赤くして照れる。こんなにベタ褒めしてもらえるとは思わなかったからだ。
「ありがとうございます。気に入ってもらえて嬉しいです。その、初めて作ったお家の瓶詰だったから……」
『あなたは、もっと自信を持ったらいいと思うわ。だって私、この家がとっても気に入ったもの』
そう言いながら妖精は瓶詰の中から出てきて、システィナの周りをクルクルと飛んだ。その顔は、どうしようか何かを考えているような表情だ。
『瓶詰のお礼をしなければね。でも、人間が喜ぶものって何かしら』
「い、いえ、瓶詰を作れただけでわたしは満足といいますか!」
システィナが首を振ろうとしたのを見て、妖精はすかさず『駄目よ』と叱咤するような声を出した。
『作った物には、きちんとした対価が必要なのよ。それを忘れては駄目』
妖精は、次に家の中を見回した。
『生活用品で足りないものはある? ……でも、一通りは揃っているかしら。瓶詰の材料になるような珍しい素材をあげることもできるけれど……そういえばあなた、私が見ていた限りずっとこの家にいたわよね? 近くの村に買い物に行ったりはしないの?』
当然の疑問に、システィナはぎくりとする。
『だって、不便でしょ? それに、人間は物を食べないと死んでしまうでしょ。私だって知ってるんだから。まあ、森の中でも果物はあるし、肉も猟をすれば採れるとは思うけど。ねえ、システィナ。あなたきちんとお肉は食べているの?』
詰め寄るような妖精の言葉に、システィナは冷や汗を流しながら観念したように首を振る。
「いえ、持ってきた食料が尽きたので……。林檎を食べてます」
『林檎だけ? あなた、だからそんなに小さいのよ。もっと食べなきゃ。そうだわ。瓶詰を作ってくれたお礼に、村へ行く近道を教えてあげる』
思いがけない報酬にシスティナは戸惑う。まだ村に行く勇気がないし、物理的に遠く、自分では歩いていけないだろうと思っていたから、村のことを考えないようにしていたのに。
『システィナ、こっちに来てごらんなさい』
妖精が森の中へ飛んでいくのを見て、システィナはどうしようと戸惑いつつも、使い魔と一緒に妖精の後を追いかけた。
辿り着いた先は、小さな洞窟だった。入口はシスティナの背丈より少し大きいぐらいだろうか。
中に入ると、洞窟の壁はキラキラと輝いていた。どうやら特殊な鉱石が採れる洞窟のようで、妖精たちはよくここを使っているのだと教えてくれた。
『瓶詰の素材にも使えるはずよ。後で持って帰ったらどうかしら』
「いいんですか?」
『ええ。ただ、この洞窟が真っ暗になってしまうほど取られたら、私たちも困るけど』
「はいっ!」
素材があればあるだけ採ってしまうというのがいけないことなのだなと、システィナはここで学ぶ。
確かに採り尽くしてしまっては、例えば草花などは次に生えてくることがなくなってしまうかもしれない。そう考えると、少しだけ採って、また次の機会に採りに来るというのがいいのだろう。
『ほら、ここを抜けたら人間の村が見えてくるわ』
「え? でも、まだ五分くらいしか歩いてないですけど……あれ? ここって、森の入口?」
洞窟の出口は、森の入口付近にあった。少し歩けば森の外に出て、草原の先にこないだ見た小さな村が見える。
システィナを慌てて、いったいどういうことなのかと妖精へ問いかける。
「だって、私の家からこの村まではすごく距離があったはず。なんで、こんなすぐに着いたんですか?」
『あの洞窟は妖精の洞窟というのよ。強いマナの力で作られているから、少し空間に歪みがあるの。それで、あの洞窟の位置から森の入口まで短時間で来ることができるのよ。きっと普通に歩けば、システィナの足だと数時間はかかるわね』
そう言って妖精はケラケラと笑った。
『ほら、人間の村へ行って買い物をしたらいいわ。お肉をちゃんと買うのよ』
「でも、怖いというか。その。わたし、あまり人に近づきたくなくて。私が近くにいると具合が悪くなって――」
そこでシスティナはハッとして息を飲む。
システィナは呪いの子と呼ばれてきた。それは周囲にいる人が体調を崩し、バタバタと倒れていってしまったことがあるからだ。自分を産んだ母親に至っては、システィナを産むと同時にその命を落としてしまった。
全てシスティナのせいなので、できる限り人に近づきたくないと思い、今まで生きてきた。
そして浮かぶ疑問、不安。
今、目の前にいる妖精は大丈夫なのだろうか――と。




