新しい家
あけおめ新連載です~!
今年は新作を頑張りたい年です!(とりあえず言うだけはタダ)
どうぞよろしくお願いいたします!
ヒヒンッという馬の鳴き声とともに、馬車が停まった。
乗ったまましばらく待つと、馬車のドアが開かれ、「到着いたしました」という男の声がシスティナの耳に届く。同時に、システィナの視界を塞いでいた布がしゅるりと外された。
「ん、まぶしい……」
眼前に広がったのは、深く、けれど鮮やかな森の色。馬車から降りた足元には柔らかな草に、小さな花。奥の方へ視線をやると、太い幹のどっしりした木、背の高い木、美味しそうな果実を実らせている木と……様々な木々がすさんでいたシスティナの胸をわずかに弾ませる。
一面に広がる美しい自然に、思わずシスティナの頬が緩んだ。
その少し奥に、小さな木造の家があった。
(あれが、わたしの家……?)
玄関の横には、今はもう使われていないらしい古びた井戸。壁には所々ツタがはっていて、まるで絵本で読んだ魔女の家のようだとシスティナは思った。
今は、数人の騎士たちが持ってきた荷物を家の中へ運んでいる。もともと少ない荷物だったが、騎士の手際がいいので片付けはあっという間に終わってしまった。
システィナが家をまじまじと見ていると、自分をここまで連れてきた騎士が忙しない様子でこちらへやってくる。
「では、我々はここで帰らせていただきます。システィナ様は、どうぞこの家で健やかにお過ごしください。一〇日に一度、食料や瓶詰の材料などの物資をお運びします。それ以外に何か入り用なものがあれば、その時お伝えください。次回お持ちいたします」
「わかりました。騎士様、ここまでお送りいただきありがとうございます」
「…………いえ」
システィナが静かに礼をすると、騎士たちは再び来た道を戻っていった。幼い彼女を――六歳のシスティナを一人、森の中に残して。
ギイィ……と音を立てる玄関のドアを開けて家に入ると、最初に靴を脱ぐスペースがあった。これは、家を汚したくなくてシスティナがリクエストしていた通りだ。ほっと胸を撫で下ろし、靴を脱いで家へあがる。
玄関のすぐ正面にキッチン、そしてその横に暖炉。右手側にはダイニング用の丸テーブルと椅子があり、さらにその奥はカーテンで仕切られたヌックベッドが備え付けられている。部屋の一番奥にはトイレと、そのドアを隠すように小物用の棚。その手前には階段があって、地下の作業場と食料などを備蓄していく倉庫がある。
よく言えばこぢんまりとしていて良い家だけれど、王女が暮らす場所と考えるとみすぼらしいとも言えるだろう。
「わたし一人で生活するのには、もったいないくらい……。すごく素敵! わたし、本当にここで暮らしていいの? どうしよう、こんなにわくわくするの……シェラちゃんに会ったとき以来かもしれない」
けれどシスティナは、新しい自分の家に目を輝かせた。
この幼い六歳の少女は、名をシスティナ・リールラルグという。リールラルグ王国の第三王女として生を受けた。
銀色がかった薄水色の髪は肩ほどの長さで、後ろで軽くまとめている。パッチリした瞳は愛らしい桃色で、好奇心旺盛。クリーム色を基調としたエプロンドレスを身にまとっていて、身長は一一〇センチメートルと少し小柄だ。
システィナは今まで、王城の敷地内にある塔で監禁される生活をしていた。
最低限の食事などを運ぶメイドはいたけれど、自分のことは自分で今までもやってきた。場所が変わるだけで、これからの生活も今までとは何ら変わらないだろう。
システィナは家の中をひとつひとつ見ながら、地下へ降りる。ここは倉庫があり、その隣には作業部屋がある。
倉庫には、先ほど騎士が運んできた生活用品や食料等の入った木箱が置かれていた。システィナは、木箱の蓋をそっと開けて中を覗き込む。入っていたのは、ジャガイモだ。
「……すごい! カビてなくて、きれい。これなら皮まで食べれるかもしれないし、お腹もいっぱいになりそう!」
今までシスティナが王城で食べていたものは、カビたパンや残飯に近いものが多かった。ゆえに健康状態もよくなかったが、ここで生活すれば多少はましな暮らしができるかもしれない。
綺麗なジャガイモをぎゅっと抱きしめるようにして、安堵の息をはく。
「ここにいるのは、わたしだけ……」
嫌なことを言ってくれる人もいないし、「綺麗にしてあげてるのよ、掃除よ」といってシスティナや床に水をぶちまけてくる意地悪なメイドもいない。
「それに、大好きな瓶詰をたくさん作ることができる……」
塔に監禁されていたシスティナだが、一つだけ許されていたことがあった。それは、この世界で魔法とも呼ぶべきもの――『瓶詰作り』だ。
「追放だから城から出ていけって言われて落ち込んだけど ……もしかして、その必要はなかったのかもしれない。誰の目も、気にしなくていいんだ。わたし、好きなことをしてもいいんだ」
その事実に気づき、システィナは無意識のうちに瞳が恍惚の色を帯びる。ここはシスティナにとって、とてもとても――――幸せな場所だった。
「どうしよう、さっそく瓶詰を作っちゃう? でも、わたし一人だけだし……使い魔の瓶詰とか、作っちゃう? でも、使い魔の瓶詰は作るのを禁止されてたから……わたしにできるかな? でも、作り方は本を見て覚えてるから……大丈夫な気がする。でもでも、やっぱりまずは普通の瓶詰を作るのがいいよね? 新しく用意してもらった瓶詰作りの道具だって、使い心地とか確認した方がいいだろうし……。攻撃系の瓶詰も危険だから作るのを禁止されてたけど、それもここでなら作ってもいい……?」
自分をここに連れてきた案内――もとい見張りの騎士がいなくなり、システィナは徐々に開放的な気持ちが大きくなっていく。
今まで抑圧されてきた本来の、瓶詰作り大好きなシスティナが顔を出した。




