第98話【旅立ちの前の一仕事(9)】
冒険者ギルドでは魔物や魔獣の解体をお願いする場合もあるが、解体技術さえ持っていれば解体手数料を取られずに取り引きができるために血抜き用のナイフもあるそうだが、高価であり普通の冒険者では持っているパーティーはそう多くはないという。
そして、高階級の魔物や魔獣になると、それなりの強度のある素材を元に作られたそうだ。
特に飛行能力のあるタイプは討伐自体も難しい上に頑丈な毛や鱗で覆われている事が多い為にそう簡単に解体が出来ないというのだ。
地竜はそのうちの一種でありかなり貴重な魔物であり並大抵の刃物では傷を着けることは出来ない。
素の身体が頑丈である為に特殊な鉱石で作られた解体道具がどうしても必要になるがそう言った鉱石が取れる場所にはそういった物を好む魔物や魔獣が棲み着いている為に出回りが極わずかであるのが現状である。
フェンナト王国の冒険者ギルドでは滅多に魔物や魔獣の解体はされないかった為に道具も一般的な冒険者が扱うものが多かった。
ポートフォリオンにも鍛冶スキルを持った職人はいるがそういった類いの製造は他国よりも劣っている。魔物や魔獣の解体に重要性が無ければ、製造技術の発展はないだろう。
見せて貰った解体道具はハッキリいって粗悪品も良いところであった。
「これじゃまともに切れないだろう。粗悪品過ぎるぞ?」
「まぁ、元から粗悪品で手入れをして何とか使えるレベルだったからな。ジャイアント・トードなら俺の力だけで何とかなるが鱗がしっかりしてる地竜と黒い蛇は難しいだろうな」
実際に手入れをされてギリギリ道具としての役割を全う出来ている所はある。取りあえずは最初にポートフォリオンの鍛冶職人に道具の新調が可能か相談するのが良いだろう。
ポートフォリオンの街外れ西側にある大きな小屋にこの街に唯一、欲しい鍛冶スキルを持った職人がいるというのでオルティガンとともに交渉に向かった。
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街外れに寂しく立っていた小屋は意外に大きな煉瓦作りの煙突と分かりやすい剣と盾の看板が屋根に乗っていた。
オルティガンが声を掛けると褐色肌で白い髪を束ねた筋肉質な美女が煙草を咥えて姿を見せた。
「なんだ、オルティガンかよ?セルマ放置して浮気でもしに来たのかい?」
「そんな訳あるか!仕事だ!!この解体道具の新調できるか相談に来たんだよ!リゼット」
オルティガンに軽口を叩くとこちらに気が付いてじっと視線を向けてきた。
何事かと思ったが、どうにも戦斧を見せていたようだ。
丁度いいかも知れない。鍛冶スキル持ちの人間目線からの評価を聞いてみたいと思っていた所だ。ついでに良かったら俺の戦斧の手入れを依頼できるか訊ねて見ると驚いた声を出して「マジで!? んで、そっちの要件は?」と訊ねてきた為にオルティガンが返答した。
「解体道具だよ。ミックスが持ってる地竜と黒い蛇を解体できる強度の刃物や解体道具類を揃えたいんだよ 」
「あー、飲み屋で噂になってたミノタウロスが持ってきた地竜と黒い蛇の話は聞いてたけど要するに解体する道具の強度が弱いって事かい?」
「あぁ、元々フェンナト王国や他の冒険者ギルドでも魔物や魔獣の解体はしてないんだろう?だが、今後は強い魔物や魔獣が出現しやすくなるから解体道具は必要になる。それに武具屋を営んでいるアンタにも悪い話ではない筈だぞ?」
「まぁ、確かに強い魔物や魔獣が現れるなら武具屋の品は良いものじゃないとねぇ。それに手入れもしないと駄目だろうから稼ぎやすくなるって事かい?」
リゼットのいう通り、ドラッグらが再調査しなければならないと判断するほど魔素濃度が濃くなりより強い魔物や魔獣が集まってきている可能性が高いのだ。
旧・フェンナト王国やエデンの街跡地には既に豊富な魔素によって植物が根付いており、それを求めてくる魔物や魔獣とそれを追う形で強い魔物や魔獣が集まってきている可能性がある。
ポートフォリオンで唯一の武具屋であるなら街の護衛団や騎士団の装備品の発注や冒険者ギルドから大量受注があるかも知れない為に普段は余り稼げないリゼットからすれば棚から牡丹餅であった。
だが、当然問題もある。素材なる魔物や魔獣の牙や爪、鱗等が不足している事と鉄が資金難で余り買えていないというのだ。
そういえば、魔核収納に魔鉱石とか色々と鉄の塊があったのを思い出した。
「んじゃ、俺も鍛冶スキルを使えるから商品を提供させてもう。残りの鉄や魔鉱石もリゼットの店に提供させて貰うってのはどうだ?後は地竜と黒い蛇の解体が済めばそれを元に武器や防具を作るのはどうだ?」
「おぉ!目茶苦茶気前の良いヤツだな!ミノタウロスはやっぱり女好きなのかい?」
「ウチのパーティーは俺以外全員女だけどな。変な官能小説が出回ってて誤解はされやすいがな・・・」
「ほほぅ、確かにタンクトップ姿の薄手のアタイを見ても襲ってこない辺りそうだろうね!」
アハハハと豪快に笑うリゼットは俺を気に入ったらしく、快く工房に案内してくれた。
オルティガンが持ってきてくれた解体道具を手本に鍛冶スキルで細かい作業をしているとリゼットは戦斧をマジマジと見つめていた。
今後の事を考えたら地竜と黒い蛇等を捌ける様になっておいた方が良いだろう。
と、なるとオルティガンら解体する一般人間用とミノタウロスサイズを作る必要がある。
血とか需要がある魔物や魔獣ならナイフに吸わせて瓶に移すとかできる方が楽だろうか。
「うーん【鍛冶スキルの極み】で創造したいものを作り出す為に必用な素材があれば作り出す事が出来るからな。それなら血を吸えるナイフと魔力を込めたら切れるナイフを・・・・」
「ちょっ、ちょ、ちょっと待った!?なんだい!?その出鱈目な鍛冶スキルは!?」
「あー【鍛冶スキルの極み】で作りたい物の素材を産み出す事が出きるんだ。多分、人間にできるかはわからんが・・・」
「そ、それなら旅に出るまでウチにいなよ!鍛冶スキルの極みに興味があるし!アタイも覚えられるなら覚えたいよ!」
リゼットは【鍛冶スキルの極み】に興味を持ち習得したいと思ているようだが、実際の所はアステリオスにしかわからない。
アステリオスに訊ねて見ると、リゼットは鍛冶スキルレベルが高いから後は加治としての腕を磨けば習得できる可能性は高いというのだ。
エレーナがまだ戻ってきてなかったりメルディアとは向かう先は決まっているが、何かと問題事が多く残っている為に俺もメルディアも作業を分担して当たっている所だ。
ポートフォリオンの今後を考えたらリゼットの腕は必要だろうし、オルティガンからある程度の解体知識を教えて貰う必要はあるだろう。
エレーナとメルディア達が戻ってくる間はオルティガンに解体の知識をリゼットとは鍛冶スキルを極めるために修行をする事を約束したのであった。




