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嘘吐き少年の異世界妖怪道~異世界に来た折、出逢ったのは妖麗な狐だった~  作者: 天空宮
第四章「月光に照らされた陰鬱な館」
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39話 人間の病を治す妖しい集団(2)

 佐草は背後に回ると、掌をリルルの背中に当てる。すると、手がエメラルドのように輝き始めた。

 部屋中が翡翠色に染まっている。これもスキルによる影響なのだろう。

 リルルは、力が抜けるようにして前に倒れた。

 気絶したようだ。息はあるし、乱れているわけでもない。スキルに干渉されたのかもしれない。それならばむしろ良い兆候のように思える。

 しかし不安なのは、佐草の表情が険しいところだ。

 スキルとはいえ、なんの代償も無く使用することはできないだろう。しかも、今使っているのは状態異常回復と同等のスキル。その代償が大きい事は事前に予想できたが、そこまで考えが及ばなかった。


「大丈夫か!?」

「あ、あれ……このスキル。こんなに辛かった覚えなかったんだけどな……」

「降魔くん、これ魔力だよ! 魔力が垂れ流しになってる!」


 魔法や魔力に触れる機会は俺にとっては少ない。こちら側からすれば、それよりも妖力に触れる機会の方が多いからだ。ゆえに、これが魔力だと直ぐに気付くことができなかった。しかし、七瀬の言葉にハッとさせられる。


「魔力!? もしかしたら、状態によっては必要魔力量が多くなるのかもしれない……!」

「ど、どうすればいいの!?」


 しまった……佐草の魔力量を事前に計算しておくべきだった。スキルがあればいいとだけ思ってた俺はバカ野郎だ!

 佐草の魔力は……クソ、余裕ないし今から計算してたんじゃ遅い。これだから事前準備怠るのはダメなんだ。つっても、今言ってても仕方ない。

 まずは状況把握だ。早く的確に、それでいて細かい所は端折はしょる!

 まだスキルは継続中。部屋中に見えるこの緑色の光が魔力から、この分の魔力が美鈴から放出されていて……これはかなりの量なんじゃないのか。このままいけばスキルが発動し終わるか美鈴がぶっ倒れるかのチキンレースになる。


「うう……これヤバいかも……」

「一旦やめた方がいいんじゃ……」

「そ、そうだな……」


 時間ならある。美鈴の魔力を向上させる手段を見つけて、それから――


「ううん、大丈夫! あたし、まだいけるから!!」

「佐草!?」

「え、でも……魔力がなくなったらかなり苦しいって聞くよ!」


 佐草から変な汗が滲み出ている。

 魔法を行使するからといって、これは運動じゃない。精神的なものか、あるいはこちらの世界独自の作用が人間の体に及ぼす何か。つまりは未知の領域。この状況を長引かせるのは、佐草にとって圧倒的に酷だ。


「苦しい? そんなんこの子の方が苦しいに決まってるでしょ!

 キミが助けたいって言ったんだよ降魔赤人くん。助けようよ! 今じゃないとあたしはまた殻の中に閉じこもっちゃう気がしてならないんだよね!!」


 佐草……お前、ちゃんと助けたいもんに向き合って……。

 俺はバカかよ。今できるかもしれないんだ。ここで足引っ込めて戻るより、最後まで突き進んだ方がいいに決まってる!


「――ゼラ、来い!!」


 呼んだ瞬間、この部屋の襖が全て開かれた。

 ゼラを中心にクウ、リコ、シノン、ハク、スイレン、キロロ、キリカ、ツジリ、キリリンの十名が集まっていた。


「時は来た、そうじゃなアカヒト」


 これみよがしに不敵に笑うゼラは全てを理解しているようだった。


「え、なにこの中二ちっくな声……じゃな?」

「佐草はそのままスキルを続けていろ。こっちでサポートする。

 ゼラ、妖力を魔力に変えたい。お前ならなんとかできるか?」

「そういうのはクウのお得意技じゃ。のう、クウ?」

「ん、妖力を魔力にするのは意外と簡単。三十秒だけ欲しい」

「それだけでいいのか!?」


 流石ゼラとクウ。たった一言でもう準備してくれてる。頼もしい奴等だ。


「ゼラ、俺と七瀬の魔力をこいつに流してくれ。雀の涙程度かもしれないが、時間稼ぎにはなるはずだ」

「うむ、わかった。儂以外はクウに妖力を譲渡するのじゃ。クウはその妖力を魔力に変え、できたら儂がこの娘に同様に譲渡する」

「はっ!」


 ゼラの命令に息を合わせて答える皆は頼りがいがあった。

 俺と七瀬はゼラの背中に手を当てる。すると、吸い寄せられるようにして体内の魔力がゼラを媒介してその先の佐草へと流れていく。


「わ、なにこれ凄い……ちょっと楽になったかも」

「気を抜くでない。綻び一つで連結が取れなくなるとも限らん、集中を切らすな!!」

「は、はい!」


 ゼラの命令に佐草は反射して応じた。

 それから、俺達の戦いは続いた。

 俺は早々に魔力切れを起こしたが、七瀬はまだまだと熱心に魔力を譲渡し続けた。

 俺が倒れたところで代わるようにクウがゼラの背後に立つ。皆から吸収した妖力を魔力へと変換し、同じ要領で佐草を支援した。









 スキルの発動終了まで十数分掛かった。翡翠色の魔力が霧散し、ぐったりとした佐草が倒れてやっと終わりが告げられた。

 ほっと肩を落とし、胡坐に座り直す。

 七瀬も最後は限界のようで、佐草と一緒に倒れている。

 佐草には想像していたよりも辛い役回りをしてもらうことになった。後で報酬である漫画は用意しておかないといけないだろう。


「うえ……なんか、口から入れたもん即ケツから出したような感覚だった……気持ち悪いよぉ降魔赤人くん……」

「汚い例えすんなよな……つか、こっちもダメだ。後にしてくれ」

「だってえ……」


 まあハク達から抽出した妖力をクウで魔力に変換して、そのままゼラをパイプに突っこんだ魔力を消費してスキル使って貰ったからな。間違ってはいないが……。

 かなり疲れたんだろう。佐草は口を開けたまま寝こけてしまった。


「どうやら成功したみたいじゃな。リルルという女子おなごにはもう肺炎は見当たらん。むしろなりかけだった虫歯も含めて改善され、完全な健康体になったようじゃな」

「ああ……だからこんなに時間掛かったのかもな。肺炎以外のダメなところも治してたってところか」

「これは、ただの状態異常回復魔法よりも高コストじゃが、かなり質のいいスキルのようじゃな。おそらくこのスキル、状態異常だけではなくただの回復魔法としても効果があるのではないかのう」

「……そういえばそうだな。ありのままの姿ってんだから、回復効果があっても不思議はない。まあどちらかといえば治すというよりは無かったことにするって方がニュアンス的には正しいのかもしれないけどな」

「そうじゃな」

「パパ」


 クウが構って欲しそうに俺の膝を枕に横になった。

 俺は、クウの頭を髪に沿って撫でる。


「ありがとうな、クウ。正直できるかどうかわからなかったが、まさかクウが妖力を魔力にするのが得意だとは知らなかった」

「パパに褒められたくて勉強してたから」


 なんって可愛いんだ俺の娘は……!!


「あのレッドさん、わたし達も頑張ったのですが……」

「もうへとへと……人間の為にこんなんなるなんてバカみたい!」


 途中補給で度々クウに妖力を渡すことがあった。初めは心配なさそうだったけれど、こいつ等の疲弊していく姿を見て不安に駆られたが、もしここにいる全員でダメな時は屋敷中の妖怪を呼ぶ算段だった。

 今回は特にハクとリコが頑張ってくれたらしい。リコなんてシノンにしなだれかかるほど疲労しているように思える。

 ハクは妖力が高いしわかるが、リコはあまり妖力に優れているとは言いにくい。どちらかと言えばシノンだろうが、まさか渋ったのか?


「リコがあなたの役に立ちたいと志願したんですよ」


 まるで俺の心を読んだかのようにシノンは言った。

 まさか心を読んで……いや、疑われるのに敏感なだけか。にしてもリコがね……あいつもちょっと変わったかな。


「か、勘違いするんじゃないわよ……空狐くうこ様の為なだけなんだから……。だから、空狐様を大いに労いなさいよ」

「はいはい」


 ツンデレ子ってことですかね。


「お前等もありがとうな。急なお願いに直ぐに対応してくれたのには感謝しかない」

「紅葛様に頼りにされるのは皆嬉しいのですわ!」

「す、スイレンちゃん……今回はなにもしていないからあまり……」

「そ、そうですわね……」

「気を遣うなよキロロ、スイレン。来てくれただけでホント、頼もしかったぞ」

「紅葛様、お優しいのですわ!」

「お兄さんお兄さん、ボクのことも褒めてくれなきゃダメなんだよ」


 今回はキリリンも来てくれたようだ。おそらくゼラが登場するのに映えるように襖を開ける役を担ったんだろうけど、中々上手かった。登場演出の必要性があるかどうかはあれだが……。

 でも、なにか役に立とうとしてくれたその想いは素直に嬉しい。カクシの残した子が優しい子に育っている証拠だからな。


「キリリンもありがとな」


 リクエストにお答えして、キリリンの頭も撫でてあげることにした。


「えへへ~♪」


 上機嫌な声を出し、満足気にキリカの下へと戻った。


「七瀬も、ありがとう。ここには素で魔力を持っているの俺とお前しかいないし、手伝って貰うことになっちまった」

「ううん、役に立てて光栄の至りですよ降魔王くん」

「変な呼び名をつけないでくれよ……お前、佐草の癖が移ったんじゃないか」

「あはは……これだけの人が、ううん妖怪達に信頼されて手を貸してくれる。それってきっととっても凄いことなんだと思います。降魔くんはもうここの王様ですよ」


 ぐったりと倒れながら言い訳を述べるのは珍しい光景だ。笑い方も平坦としているし、余裕はないんだろう。


「そんなんじゃないさ。こいつ等は俺を同類だと思ってくれてるうっかりな妖怪達ってだけだ」

「むっ、その言い方はよくないですよレッドさん!」


 げ……ハクの説教が始まりそうだ。今はちょっと勘弁だ、誤魔化そう。


「り、リルルの様子はどうだ、ゼラ?」

「寝ているようじゃな。スキル発動の最中に眠ってしまったらしい。今は寝かせてやるとよいじゃろう」


 ハクが険しい顔でねめつけているが、ゼラの話に割って入る度胸は無いようだ。このまま押し切ろう。


「そ、そうだな。じゃあ起こさないように一旦解散だ。ツジリは佐草を元の部屋に運ぶのを手伝ってくれ」

「はいっ! 任せてください!」


 これでまた一つ問題が解決された。本意ではないけれど、また王族へ恩が売れるだろう。

 リルルが王族でなければもう少し一緒の時間を作れたのかもしれないが、事は解決した。これ以上リルルをここに留めて、屋敷にいることが他の貴族にバレたら要らぬ誤解を受けかねない。

 相手が妖怪ならまだいいが、人間となると実際守備範囲外だ。貴族の礼儀も知らない俺には身に余る。

 目が覚めたらできるだけ早く城に戻そう。彼等も安心してくれるだろう。

 七瀬と佐草ともお別れになるな。二人はセーリジュリア公国に運んで、皆のところに返すことになる。また別行動だ。

 キリリンが七瀬に懐いていたから寂しくなるだろうけど、あいつもきっと強くなっているさ。

 また時が進む……。俺も本腰を入れてあいつ等を元の世界に返す方法を考えないといけないかもしれない。

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