38話 同郷の怪傑(2)
二人のいる和室に戻ってきた。
何故か七瀬の方が慰められる構図になっていた。佐草は、七瀬の頭を撫でながらうんうんと頷いている。
「どうなってんだ……?」
「あはは……」
話すつもりはないらしい。女子の秘め事にちょっかいは出すつもりは無い。
俺は、早速佐草の目の前に用意してきた物を出した。
「こっこれは……これはあ!!? 男禁5の漫画十二冊、だとぉぉぉおおお!!?」
俺が持ってきたのは男禁5の漫画十二巻分だ。ゼラに頼んで俺が読んだことのある巻数だけ記憶から取り出してもらった。
佐草は、漫画に食いつきパラパラとページを捲る。
表紙だけでは、と疑ったようだが、ゼラは記憶から取り出す。全ページちゃんと描かれているはずだ。
「な、何故これを……キミは司様の遣いなのか!?」
「んなわけあるか! ……でも、それなら司成分くらいは味わえるだろ」
「あ、ああ……」
再び彼女の目から涙が零れた。
「漫画に落ちちゃうよ」
「う、う゛ん……。もう嬉し涙なんて枯れたと思ってた。こっちの世界にあたしの好きな世界なんてなくて、それどころか危険で苦しくて。
初めは帰る方法を探すって乗り気だったんだ。でも、予想以上に大変だし糸口も見えなくて何年掛かるかって考えたら気が気でなくなっていく。山賊に襲われて起きたら好きなものを忘れてた。司様の顔も忘れるくらいショックで、覚えているのは感じたことだけ。あたしは自分の推しを忘れたことに嫌気がさして寝込んだんだ」
ただの我儘で寝込んだってのかこいつは……!?
「漸く思い出せた。降魔赤人くん、これは紛れもない男禁5だよ。このあたしが保証するよ! 司様の声が聞こえてくるようだよ……!!」
「流石にアニメとかは電気も電波もないから無理だけどな。それで勘弁してくれ」
「なにを言っているんだキミは! キミはあたしに忘れていた推しへの愛情を思い出させてくれた! あたしは今、キミにプロポーズされようものなら二つ返事でいいねするほどチョロいよ!」
「聞いてねえよ! そういうのは司様にしとけ」
「まだわかっていないようだねキミは!
よく見るんだ! 司様は主人公と、つまりオスとオスが愛し合うからこそ魅力があるというもの! たとえばここに司様がいて、あたしに告白してくれたとしても、あたしは主人公の糸志くんとの絡みを願って断るッ!!」
「な、なんて愛……いや推しなんだ……。いや、妄想の時点で色々とおかしいが」
「ふふふ、キミは勘違いしている。あたしが好きなのは男×男であって、現実を捨てているわけではない。
この世界でこの先生きることになれば、甘んじてキミのプロポーズを受諾しよう! 代わりにあたしにこれと同様の供物を提供してくれると有難い!」
「いや、しないけど……」
「なあに、あたしは大して美人じゃない。だがしかしだ、キミの好みを理解する現役女学生はキミの琴線に触れるのではないかい」
「いや、別に」
佐草はガックリと肩を落とす。
こいつ今、わざと女子高生じゃなくて女学生と言ったな。世界感合わせたつもりかよ。
「そ、そこまで拒否されると傷付くんだけどね……。この後のいい雰囲気作りを一応は気遣っているだけど。
――揉むのだろう、あたしのおっぱいを!!!」
「おい、いい加減俺を理解しろ! プロポーズしないし、胸も揉まない! って、変なこと言わせるな!!」
「え……じゃあキミはどうしてあたしの大切なものを持ってきてくれたんだい?」
「だからさっき言っただろ。お前には俺の言う事を聞いてもらう。勘違いが終わったんなら、まず飯食って着替えろ」
「う……揉まんのか。それはそれで不安だな……」
「逆だろ!?」
「み、美鈴さん! そういうことを自分から言うのは危ないよ……。降魔くんはそういうことしないから大丈夫かもしれないけど」
「……まさか、抱いた?」
「抱くか!!」
「変なこと言わない!」
「すまんすまん。いやー、でもおかげであたしは元気もりもり! ねえ、こういうのって他にも出せるの?」
「……まあ、活躍次第で追加報酬やるよ。その方がやる気出るだろ」
「いやあ、流石にもう少し処女でいたい」
「そういうことじゃねえよ!? って、ええ!?」
「美鈴さん……止まって」
佐草の異常行動に七瀬がお手上げとなっている。そもそも七瀬が抑えられるような器ではないか。
「すまんて。喜びすぎて口が勝手に。これが調子乗った女の子の素なんだよ」
「それは女子全員から反感を買う暴露だぞ」
「うんうん」
「え、そかな? 皆こんなもんだと思うよー」
「美鈴さあん……」
「変なやつ……」
「いやあ……」
「褒めてない!」
照れる美鈴に俺は一喝と手刀を入れた。
「痛いなあ、もう……! 女の子はもっと大切にしなきゃいけないんだよ!」
「だったら女らしくしろよ、俺にツッコミさせるな。もういいから早く飯を食ってくれ。話が一向に前に進まないだろ」
「うぅ……素っ気ない……」
「もうその手には引っ掛からないからな」
「……酷い」
◇◇◇
不完全燃焼となった美鈴を連れ、リビングで飯を食わせた。その際、俺はこっちであったあらましを伝えることとなる。
元は全く話すつもりがなかったが、こんな性格をした奴にならまあいいだろうと許容した。どうせリルルには会って貰う他ないし、説明のつかないことをいちいち誤魔化すのが面倒になったのだ。それもこれもこの能天気で破天荒な佐草節のせいである。
佐草は終始「そっかそっか」と真に受けているのかわからない様子で聞いていた。
俺がここにいるのだ。話半分は聞いてくれたと思うが、信頼度など俺もあまり気にしていない。
必要なのは、佐草の特別なスキル――《ありのままの姿》。
ドラキュラ伯爵が求め、リルルに必要な状態回復魔法と同じ性能を持つであろうスキルだ。これがあれば肺炎も治せるはず。俺が期待しているのはそれだけだ。
食事も話も終わり、茶を啜って落ち着いた頃。俺は待ちわびたかのように話を切り出した。
「さっきの頼み事なんだけど、逢って貰いたい人がいるんだ」
「ほう……しかし、あたしはそれを許さない。まだ娘はやれん!」
「…………ちゃんとやってくれ」
「あたしに男禁5をくれた理由というやつだね。勿論拒む理由はないけど、まさか身売りではないだろうね」
「そこまで俺って信用ないか……?」
「いやなに、最上の喜びを味わったんだ。これからは落とされるのを警戒してしまうものだよ。キミを疑っているわけじゃない」
「安心しろ。俺にクラスメイトを売る根性は無い」
「だろうね。そこは信頼しているし、信用している。あたしの趣味を理解してくれる心の友だからね」
「お前はジャイ男か……」
「では行こうか。どんな娘だ?」
「え……俺、相手が女の子だなんて言ってないぞ」
「ここまでしてあたしに会って欲しいと言われればだいたい想像がつくさ。ずばり、BLに嵌まった子をどうやって惚れさせるかって話だろ!」
いやこいつ全然理解してない……。
七瀬がずっと置いてきぼりになっている。佐草の突拍子もないボケに対処できるのは俺しかいないらしい。が、正直付き合ってやれる状況でもない。というか面倒になってきた。
「ドヤ!」
「ドヤじゃない。はずれてるし」
「まあだけど、男が物で釣るほどだ。相手が女だというのは早々に気付いていたよ。キミも隅に置けない。だからあたしのおっぱいに手を出さなかったんだね」
「関係無いです」
「おふ……キミのその冷え切った瞳には何故だかゾクゾクするよ。キミにはやはりBLの素質がある!」
「やめてください。全く無いです。
てか長い、さっさと行くぞ。お前のせいで一時間以上無駄にしてんだ!」
「うっ……それはすまな――」
俺は佐草を担ぎ上げ、荷物のように運んだ。
本人は、驚きつつも関心するような眼差しを向けてくる。
「キミ、かなりの力持ちになったんじゃないのか。この腕の筋肉……やはり素質がある!」
「やめろ。こっからはそういうの禁止だからな! 小さい子に変なこと教えたらただじゃおかないぞ!」
「ひゃ、ひゃい……すみません」
脅したら謝られた。




