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元最強、手伝う

 シーラの教室に寄ると、シーラはちょうど帰り支度を終えたところであった。

 日直の仕事はいいのかと思ったが、話を聞いてみると既に終えていたらしい。


「随分と早くないであるか?」

「……ん、少しずつ先に進めてた。……今日は早く帰りたかったから」

「……そうですか。それは……何と言いますか、申し訳ありませんでした」

「……ん、私がそうしたかっただけだから、問題はない」


 シーラがそんなことをしたのは自分のためだということを、フェリシアはしっかり理解しているのだろう。

 フェリシアは少し照れたような顔で謝罪をするも、シーラは当然のような顔をするだけだ。

 むしろその顔はどこか誇らしげにも見え、こんな状況でもこの二人は相変わらず仲のいい姉妹であるようであった。


 妹と言えば、そういえばうちの妹はどうしているのだろうかと思ったものの、どうやら少なくともこの状況のソーマに妹はいないらしい。

 それはいいことであるのかどうかは判別が付かなかったものの……さて、あの妹は今頃何をしているのだろうか。


 姉妹の会話を耳にしながら、最近顔を合わせていないリナのことを考えつつ、帰途につく。

 とはいえ、学校から家までは十分程度の距離だ。


 そうこうしているうちに、あっという間に見慣れた我が家へと到着した。


「ふむ……どうやら母上は既に帰宅しているようであるな」


 前世の母と同じように、この状況でのソフィアがパートをしているというのは把握済みだ。

 本来であるならば帰宅はもう少し後となるはずなのだが、おそらくフェリシアのために早退してきたのだろう。


 少しだけ、フェリシアが申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「……嬉しくはあるのですけれど、申し訳なくも思ってしまいますね。ただでさえいつもお世話になっているというのに……」

「……ん、確かに」

「別に気にする必要はないと思うのであるがな。母上達はそうしたいからそうしているだけなのであろうし」


 その言葉は本心からのものであったが、しかし、そもそもフェリシア達はどうして我が家の世話になっているのだろうか、と思ったら、すぐに答えが頭に浮かんでた。


 どうやら、フェリシア達は幼い頃に両親を亡くしている、ということになっているらしい。

 フェリシアとシーラの姉妹の他に兄が一人いるのだが、その兄は家族を支えるために既に働きに出ているようだ。


 だが未だ歳若い彼が自分も含めた三人を養うのは容易ではなく、そのせいで朝は早く夜は遅くまで仕事をしているのだとか。

 そのため、ソーマの家で朝夜と世話になっている、ということらしかった。


 ちなみに、その兄とやらに関しての詳細は不明である。

 会う機会がないためによく分からない、ということになっており……しかしまあ、おそらくはヨーゼフで間違いあるまい。

 ここで敢えて別人を配役する理由はないはずだ。


 もっとも、関わりになることはなさそうなので、一先ず思考からは除外して問題なさそうである。

 と。


「そうね、私達が好きでやっていることなのだもの。あなた達が気にする必要はないのよ?」


 玄関の扉を開けながら家の中に入ろうとすると、リビングの方から母が姿を見せた。

 しかしその姿に、ソーマは首を傾げる。


「母上? とりあえずただいまと言っておくのではあるが……何故わざわざ出迎えに来たのである?」

「ええ、おかえりなさい、ソーマ、フェリシア、シーラ。それは勿論、私達の息子達が帰ってきたから……と言いたいところなのだけれど、本当はあなた達が……特にフェリシアが心配だったから、ね」

「私が、ですか?」

「……ん、姉さん今朝は体調が悪かった?」

「特にそうは見えなかったであるが……」

「そうですね、私もそんなことはなかったと思うのですけれど……」

「まあ、その話は後でするわ。とりあえず、問題なさそうだもの」

「ふむ……」


 何の話か気にはなったものの、後で話してくれるというのであれば問題はあるまい。

 リビングへと戻っていく母の姿を横目に家に上がると、一先ず荷物を置くため自室へと向かう。


 と、何故だかフェリシア達も付いてきたが、どうやらフェリシア達にも荷物置き場として一室が与えられているようだ。

 ソーマの部屋の真正面の部屋であり、着替えなどもある程度置かれているらしい。


 完全に第二の家であった。


 それにしても、自分の知らない情報を探るのに随分と慣れてきたものだ、などと考えながら、部屋に戻ると荷物を置き、制服を脱いでいく。

 さすがに制服で家の中を歩くのはアレだろうし、正直動きにくい。


 とはいえ、さてどの服を着ればいいのだろうか、と思ったが、記憶を探るまでもなかった。

 服はソーマの記憶の通りの場所に置かれており、入っている服も同様だったからだ。


「……ま、余計なことを考える必要がなくてよかった、と考えるべきであるか」


 呟きながらさっさと着替え、部屋を出る。

 直接話を聞いたわけではないが、まあ間違いなくフェリシアの誕生日を祝うつもりなのだろうし、折角だから何か手伝えることはないかと思ったからだ。


 この状況で何をして暇を潰せば良いのか分からなかったので、暇潰しを兼ねてでもあったが。


「母上、我輩にも何か手伝えることはあるであるか?」

「あら、ソーマ手伝ってくれるの? 珍しいわね」

「そうであったか? ……ふむ、そうだったかもしれんであるな」


 少し記憶を探ってみると、確かに色々な意味であまり手伝いというものはやったことがなかったかもしれない。

 それはやりたくなかったというわけではなく、どちらかと言えばやれることがなかったのではあるが……まあ、それはいいだろう。


「ま、フェリシアの誕生日を祝うのであれば、我輩も何かすべきだろうと思っただけのことである。何か出来る事があれば、の話ではあるが」

「……そう。確かに、そうね。フェリシアの誕生日を、祝えるんですもの。ソーマもそう考えるのは、当然かもしれなかったわね」

「ふむ……?」


 何となく気になる言い方ではあったが、それについてソーマが尋ねることはなかった。

 それよりも先に、母から指示を受けてしまったからだ。


「それじゃあ、そうね、ソーマには飾りつけをしてもらおうかしら。ちょっとそこまで手が回らなくて、このままではフェリシアに頼むことになりそうだったもの」

「それは手伝いを申し出て幸いだったというところであるな。自分の祝いのために自分で飾りつけるとか、さすがにちとアレであるしな」

「まったくね。それじゃあ、任せたわ。ああ、そうそう……飾りつけの方法は、ソーマに完全に任せたわよ? ソーマがどんな風に飾りつけるのか、私も楽しみにしているわね?」

「……ほぅ?」


 正直なところ、そういったセンスには自信がないというか、はっきりと苦手だという自覚があったのだが……頼まれてしまったのであれば仕方があるまい。

 自分から申し出たことであり、何よりもここで断ったら必然的にフェリシアがやることになりかねなかった。

 さすがにそれは阻止するべきだろう。


 人手としてはシーラも残されてはいるが……多分、シーラのセンスもソーマとどっこいどっこいである。

 そんな相手に任せて自分だけは逃げるわけにはいくまい。


 この手のセンスはアイナがそれなりにありそうな気がするのだが、いない人物のことをあてにするわけにはいかなかった。


「折角の祝いの席なのであるから、出来ればしっかりとしたものを用意したいのであるが……ま、それもないものねだりであるか」


 飾りつけるどころか変なことになってしまう可能性もあるが、その時はその時で諦めるしかない。

 それにきっとフェリシアは、それでも喜んでくれるだろう。


 そんな確信と共に、しかし出来ればいいものを作り出したいと思いながら、ソーマは一先ず飾りを手に入れるためにその場から移動するのであった。

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