元最強、不穏な情報を手に入れる
夜の帳が下り、外では月と星の瞬く頃。
色取り取りのご馳走が並んだテーブルの周りを、ソーマ達は囲っていた。
「うーむ……結局はフェリシアに手伝わせることになってしまったであるなぁ……」
「いえ、私が勝手に手伝ったと言いますか、単に何もせずにジッとしていられなかった、というだけのことですから」
「……ん、でも結果的には正解?」
「まあ、そうであるな。正直我輩達だけではどうなっていたか分からないであるし」
その場を見渡せば、リビングはこれからパーティーを行うのに相応しい光景へと変わっていた。
だがその功績はソーマにはない。
途中からはシーラも手伝ってくれたのだが、シーラの功績でもなく、その大半が途中で見かねて手伝い始めたフェリシアの手によるものであった。
結局のところ、そういうことになってしまったのだ。
「……ん、我ながら不甲斐ない」
「まったく以て同感である」
「まあ、人には向き不向きがありますから」
そんなことを話している間に、母が最後の一皿をテーブルの上へと載せた。
あとは料理の完成を待つだけであったので、これで準備は終わりだ。
そのまま母は席に着き、今日は早く戻ってきたらしい父がその場を見渡しながら口を開いた。
「さて、待たせたな」
「遅くなってごめんなさいね。お腹空いたでしょう?」
「いえ、私達はお世話になっている側ですから。それに……今日はこんなことまでしていただいて」
「……ん、文句を言うどころか感謝すべき」
「まあ思っていた以上に飾り付けに時間がかかったであるし、実際にはそれほど待ってないであるしな。ところで……今更と言えば今更なのではあるが、何故パーティーなのである?」
フェリシアの誕生日、ということになっているのは分かっている。
しかし自らの記憶を確認してみたところで、今までは別にこんなことはやっていなかったようなのだ。
誕生日となれば祝うしご馳走を食べることはあったものの、それだけ。
少なくとも飾り付けはやったことがなかったようだし、並んでいるご馳走を見る限りでは、こちらも今までのものよりも豪華であるようだ。
別に文句があるわけではないのだが、まさか気まぐれということもあるまいし、一体どんな理由によるものなのだろうかと気になるのは当然というものだろう。
そしてどうやらそう思っていたのはソーマだけではなかったらしい。
「あ、それは確かに私も気になっていました。いえ、ありがたいことではあるのですけれど……」
「……ん、気になる」
「そうね……まあ確かにそれもそうね。とはいっても、別にそれほど大した理由があるわけではないのだけれど。ほら、去年は出来なかったでしょう? だから今年はその分も、と思っていたら少し張り切りすぎちゃった、ってところかしらね」
「飾り付けをやることは俺も聞いていなかったんだが……まあ、準備をしているうちに気分が乗ったんだろう」
「……そういう余計なことは言わなくていいのだけれど?」
「そうだったか……それはすまなかったな」
そう言った父の口元に笑みが浮かんでいるあたり、明らかにわざとだった。
母もそれを分かっているのか、頬を薄っすらと赤く染めながら、父のことを睨みつけている。
そんな光景を、ソーマはどことなく不思議な気分で眺めていた。
二人がこんな風に軽口を交わす場面を今までに見たことはなかったからだ。
ソーマが見たことのある二人のやり取りは、基本的にどこか硬いものばかりである。
無論それだけではないと思ってはいたし、二人だけの時であれば軽口を叩き合っていても不思議ではないと思ってもいたが……まさか自分達の前で見せるとは。
それも、当たり前のように。
あるいは、昔に自分のことがなければ、現実でもこんなやり取りを目にすることもあったのだろうか……などと思い、一つ息を吐き出す。
考えても意味のないことであるし、それに今は他に考えることがある。
去年はフェリシアの誕生日を祝うことが出来なかった、ということだ。
どういうことだろうかと思い、だがすぐにその疑問は解消されることとなった。
そのままその話題をフェリシア達が話し始めたからだ。
「去年、ですか……正直なところ、あまり実感はないんですよね。まあ、学校に行くたびに実感せざるを得ないのですけれど、それはそれと言いますか」
「……ん、ずっと寝てたから仕方ない?」
「気がついた時には一年が経っていたのでしょう? なら仕方がないと思うわ」
「不思議と筋力なども落ちていなかったからな。かつがれていると思う方が自然だ」
「いえ、そこまでは思いませんけれど……未だに慣れていないのは事実です。そのせいでソーマさんにも迷惑をかけてしまっていますし」
「ふむ? 我輩であるか?」
「私の相手をしてばかりで、自分で好きなことが出来ていないじゃないですか」
「ふむ……」
確かに今日一日を振り返ってみると、大半の時間をフェリシアと過ごしている。
だがそれは、主に状況を把握するためであるし、そういった状況をソーマが知ったのは今だ。
別にそれが理由ではない。
今日以前のことに関しては、文字通りの意味で知ったことではないし……まあ確かに、この状況に完全に順応し、フェリシアの事情を知った上であれば、同じような行動を取ることになる可能性はある。
しかしだとしても、迷惑というのは違うだろう。
「やはり別に我輩は迷惑をかけられてはいないであるぞ?」
「しかし……」
「好きなことが出来ていないと言われても、我輩は十分好きなことをやっているであるしな」
「……えっ? それって……」
瞬きを繰り返すフェリシアに、肩をすくめて返す。
理由が何であれ、自分の意思でしていることであれば、それは自分が好きでしていることに違いはあるまい。
フェリシアの頬が薄っすらと赤く染まり、何故だかシーラからジト目を向けられた。
「何故シーラはそんな目を向けてくるのである?」
「……ん、姉さんがずるいから」
「ず、ずるいって言われましても、その……」
「はいはい、あなた達が微笑ましいやり取りをするのはいいのだけれど、このままでは料理が冷めてしまうわよ?」
「そうだな、まずは食べるとするか」
「ふむ、そうであるな」
「そ、そうですね」
「……ん、分かった。……この話はまた後で」
「……意外と根に持ちますね」
そんなことを話しながら、パーティーは始まった。
もっとも、パーティーとは言っても五人しかいない小規模なものだ。
装いはともかくとして、結局はただの食事と大差ない。
気持ちの上での話はまた別ではあるが、騒がしくなることもなく、ご馳走に舌鼓を打ちながら、賑やかに時間は過ぎていく。
話す内容も日常の延長線上にあるものであり……その話が出たのも、そんな話を続けていた時のことであった。
「そういえば、最近流行っている……というほどではないのだけれど、唐突に昏倒してそのまま目覚めなくなってしまった人が出ているらしいわ。気をつけてどうにかなるか分からないけれど……気をつけてね」
ソーマがその話を聞いて思ったことは、何かたちの悪い病気でも流行り始めているのだろうか、というものだったのだが、他の者達の反応は違った。
特に顕著な反応を見せたのはフェリシアだ。
「それって……昔の私のように、ですか?」
「同じだとは分かっていないけれど、少なくとも私はそう感じたわね」
「……ん、だからさっき心配した?」
「そういうことね」
ここまでの情報から判断すると、フェリシアは原因不明の事が理由で一年ほど寝たきりになっていた、ということであるようだ。
年齢に一年のずれがあるのもそのせいか。
しかも最近似たようなことが起こっているという。
「ふむ……」
明らかに不穏で唐突な話ではあるが、だからこそ現状との間に何らかの繋がりがあるのではないだろうか、と考えてしまうのは考えすぎだろうか。
考えすぎならばそれでいいのだが……念のため調べておいた方がよさそうだ。
とはいえ、今はそのような話をするべき状況ではない。
母達もそう思ったのか、すぐに話は別の話題へと移っていく。
同意を求められても応えようない話を聞きながら、さて関係があった方がいいのかない方がいいのか、どちらの方がいいのだろうかと、その場の光景を眺めつつ、ソーマは目を細めるのであった。




