地の賢者
時間は少しさかのぼり、ししょうーー里実ーーは、地の賢者の住むログハウスを訪れていた。
(建物はバージョンアップ前と変わっていない。賢者もバグのままだと、無駄足になってしまうな…)
旧スピリットクラスタでは、物語の背景などを解説する「地の賢者」というNPCが設定されていた。
しかし、当時はプレイヤーの応答に対して、ちんぷんかんぷんな答えを伝えるというバグがあり、ほとんどプレイヤーが訪れる事はなかった。
ししょうは、このゲームについて、実は危険な要素があるのでは?と考えていた。
それを調べるために、運営や、開発者を探したり、色々なことを試したが、大きな情報を得る事が出来なかった。そして、思い出したのが「地の賢者」だった。
ししょうがギギギギギという音でドアを開けると、陳腐なロッキングチェアーに黒猫が寝ていた。
黒猫は来訪者にあくびで出迎えると、毛づくろいを始めた。
「やっぱり、君が一番だったね」
「黒猫の黒ノ信、2度目まして」
「だから、僕の名前は神だってば……まあ、いいけどね…」
黒猫は猫特有の伸びをして、ロッキングチェアーを降りた。スタスタと部屋にあるソファーに飛び乗ると、ししょうに「まあ座りなよ」と席を勧めた。
「色々と質問があると思うけど、ここではルールがあってね」
「ルール?」
ししょうは黒猫に勧められたまま、向かいのソファーに腰掛けた。
初めてスピリットクラスタのゲームにログインした後、こうとりょうの二人と同じように、ししょうも黒猫と出会っていた。黒猫はししょうにもオススメスキルは「賢さ」だと教え、ししょうはそのまま賢さのスキルを集め続けた。
その結果、ししょうのスキルは賢さで埋め尽くされている。
ししょう
賢さ+3
賢さ+3
賢さ+3
「まさか、こんな短時間で賢さ+9にするなんてね。君にはビックリするよ…」
黒猫はビックリというよりは、呆れた表情をしている。
「いやな予感がするので、先にルールをどうぞ」
「ふふ、さすが賢さ上限値。やりにくいなあ…」
(やっぱり、9が上限値だったか…)
「まず、この家にたどり着けるのは賢さが+3以上が条件になっているんだ。そして、+3毎に1つ質問ができるよ」
「なるほど、それでオススメを賢さだと言ったのね。これは個人の感想だから、質問じゃないよ」
「そんな言葉のあやをとる事はしないよ…僕は神だからね…まあいいや。それでは質問をどうぞ!神の名に誓って正しい解答をしよう」
(+9なので、3つまで質問が出来る。ここは慎重に選択しなければ、必死に集めたのだから…)
ししょうは数秒間の後、静かなトーンで質問を始めた。
「質問1まずはプレイヤーの絶命について、危険性を正しく説明してほしい。現実に戻った場合、何かしらのペナルティーがあるのでは?」
「ない。このシステムに適合できる魂は非常に少ない。君たちは瞬き光を放つ、希少な宝石にも等しい。むしろ、リアル側で死亡する危険が発生した場合、こちらで肉体を含めて全力で保護する」
黒猫は間髪を入れずに、ししょうに説明する。感情が読み取りにくい、事務的な返答だった。
(1つ目の質問で、このゲームがデスゲームではなく、安全である事が確認できた。あと2回の質問で、このゲームの全貌を聞き出さなければならない)
ししょうの考える最も最悪なゲームではないようだ。黒猫からは神をロールプレイするだけではなく、プライドの高さが感じられる。賢さの件も嘘は言っていないし、1つ目の解答も信じられる物だろう。
「質問2、このゲームの目的は何なのか?プレイヤーを宝石に例えていたが、それらで利益をもたらしているのか」
「このゲームの目的はスピリットクラスタ生成の実地検証だ。君たちにはデータを集めてもらうために、参加してもらっている。この世界における貢献は、計り知れない。私個人の利益という意味では違うが、今後、全ての生命にとって有益である」
(スピリットクラスタ生成?これを聞くべきなのか。しかし…)
「質問3、データを集めるのが目的と言ったが、集め終わったらどうなるのか?」
「このゲームはデータを集める対価として、プレイヤーに与えた物であり、データを集め終えても、自由に使ってもらって構わない。ログインしたく無ければ、ブラウザから設定できる」
「は?ブラウザ?設定画面?なにそれ?」
「いやいやいや、ホームページにログインボタンあるでしょうが!」
「えええええ、TOPページにサービス停止のお知らせが……、でも、ログインできたのね…」
「う、うん…そこに説明もあったんだよ…今の3つ……」
(それで、事務的な口調だったのか…)
「ずるい、もう1回。質問させて」
「ダメ」
ししょうは腹いせに、わしゃわしゃと黒猫を撫で回して、その日はログアウトした。
「ふわわわわ、閃きはセンスだからね。賢さスキルは影響しないか…」
黒猫は呟くと、再びあくびをして眠りについた。
ちょっと早いですが、メリークリスマス!




