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【完結】くだらないので、さっさと婚約破棄したらどうです?  作者: 逆立ちハムスター


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「ユリウス殿下は、エレナ嬢が王妃教育で缶詰状態になり、ご自身と過ごす時間が極端に減ったことに不満を抱かれているようです。そして……ここ数日、学園にて、別の令嬢たちと頻繁にお茶会を開き、親しくされているとのことです」


「……まあ!」


「特に、新興貴族であるクロエ子爵令嬢と懇意にされているようで。学園の庭園で、周囲の目も憚らず『君と一緒にいると心が安らぐ』などと口説いている姿が多数目撃されております」


私はお茶を吹き出しそうになるのを必死に堪え、そして、盛大に天を仰いだ。


(あのバカ王子、『真実の愛』とやらを誓ってからまだ1ヶ月も経ってないわよ!? もう別の女に手を出してんの!? 真実の愛の契約期間短すぎない!?)


呆れを通り越して、もはや清々しいほどのクズっぷりである。

どうやらユリウスにとっての「真実の愛」とは、「自分をチヤホヤしてくれて、都合よくいつでも構ってくれる、自分より格下の女」というだけのことらしい。

エレナが勉強で相手をしてくれなくなった途端、寂しさに耐えきれず、すぐに次のイエスマン(新しいおバカ令嬢)を見つけてしまったのだ。


「セリア様……」


「きっと、一時の気の迷いよ。殿下も少し、お寂しいのでしょう」


(ユリウスが誰と浮気しようが、私にはもう1ミリも関係のないことだ。私は既に高額の退職金(補償金)をもらって退社した身なんだから。それに、エレナが苦労して王妃教育を受けているのに、当の王子が他の女と遊んでいるなんて……知ったことではない。もう婚約を解くのは困難だろう)


「御二人がとても心配だから、引き続き王都の監視は続けるよう伝えて」

「かしこまりました。セリア様の慈悲深きご判断、感服いたします」


乗馬を楽しんだ後、私は護衛に命じてクロスボウと的を用意させた。

少しやってみたい気はしていたのだ。何でも思いついたものは挑戦して楽しんでいく。私は極上のソロ活へと戻っていった。


────


それから数週間後。

私は王都へと戻ってきていた。

勉学を済ませ、私はさっさと学園の庭園の奥にある、お気に入りの東屋へと避難していた。


ここは私が最初、「誰も近づくなオーラ」を全力で発して確保した私専用のソロ活スペースである。それは今も不変のようだ。

アンナが完璧な手際で淹れてくれた最高級のダージリンティーと、王都で一番人気のパティシエが作った特製マカロン。

静かな木漏れ日の中、私はパンフレットを開き、至福のティータイムを始めた。


このゼリュキア帝国のラグジュアリー船での、クルーズ旅行いいわね。最上階のVIPラウンジなら、煩わしさとは無縁そうね。

価格は数十万金貨から、最上級は権利費だけ一桁異なる。

ユニコーンが一頭数千、貴族用の馬車が一台一万ほどと考えると、かなりの額だ。しかし。


(いいわね〜。世界最高の贅沢を、味わってみようじゃないの!)


でも専属バトラーは鬱陶しいわね。アンナに変えましょ。護衛も、気心しれた者を連れて行かなくてはいけないわね。


期間は6ヶ月。約半年なのね。えーっと、それでいつから……。


――その時だった。


「いい加減になさってください、ユリウス殿下!!」


ヒステリックな、しかし妙にドスの利いた女性の怒鳴り声が、庭園の向こうから聞こえてきた。


(なんだか聞き覚えのある声だけど……エレナ?)


私は手に持っていたマカロンを置き、声のする方へと視線を向けた。

そこには、信じられない光景が広がっていた。


かつて、ふわふわの桃色の髪と庇護欲をそそる甘い声で「ユリウス様〜」と媚を売っていたエレナ・マロン。

彼女の姿は、見る影もなくなっていた。


髪はきっちりと夜会巻きにされ、化粧は隙のない冷たいものに。何より、彼女の目の下には、コンシーラーでも隠しきれないほどの深いクマが刻まれている。その顔つきは、どこか前世の私のような、殺伐とした疲労と怒りに満ちていた。


「私が毎日、貴方の為に睡眠時間3時間で、マダム・ローザの地獄の特訓を受けて、国家予算の算出方法と貴族の派閥関係図を暗記しているというのに! なぜ殿下は、そのような頭の空っぽな小娘と平昼間からお茶会などしているのですか!!」


エレナが鬼のような形相で、ユリウスに詰め寄っている。

その言葉選びやロジックが、かつての「お花畑」から完全に「実務家」寄りになっている。どうやら、マダム・ローザの教育は、彼女の性格の根幹すら「冷徹な女」へと作り変えてしまったらしい。


対するユリウスは、明らかにエレナの迫力に怯え、一歩後ずさっていた。


「エ、エレナ……お前、一体、どうしてしまったんだ。以前はもっと、俺を敬い、優しく微笑みかけてくれたじゃないか! 今の君は、まるで……そう、まるでセリアのように冷たくて、可愛げがないぞ!」


「可愛げで国が回るもんですか!!」


エレナが、ついに公衆の面前で王太子に向かってブチギレた。


「あのセリア嬢が、どれほどのプレッシャーと激務をこなしていたか、私が身をもって知ったからです!! ただ座ってニコニコしていればいいと思っていた!? 冗談じゃない! 王族の書類決済の量を見たことがありますか!? あなたのお父様(国王)がどれだけ各省庁の予算折衝で胃を痛めているか知っていますか!? あなた、何も知らないで『真実の愛』とかほざいてたんですか!!」


(あらあら、言ってる言ってる。いいわねエレナ、完全にこちらの世界(激務の社畜)の住人になったわね。ウェルカム・トゥ・アンダーグラウンド。その通りよ、王族なんてブラック企業も真っ青の超絶激務なのよ。暗殺もありそうだし)


私は茂みの向こうでウンウンと頷きながら、紅茶を一口啜った。美味しい。他人の修羅場を見ながら飲む紅茶は、まるで格別のスパイスが効いているようだ。

ドラマを見るのが恋しくなる。


圧倒的な正論(と日々のストレス)をぶつけるエレナに対し、ユリウスは完全にプライドを粉々にされていた。

かつて自分が「私の事を可愛げがない」と切り捨てた理由を、今度は自分が選んだはずの「真実の愛の相手」からロジカルに全否定されているのだ。


「俺はただ、俺を癒してくれる存在が欲しかっただけだ! 変わるお前が悪い!」


すると、ユリウスの腕に、しなだれかかるように抱きついている新しい女――クロエ子爵令嬢? が、かつてのエレナと全く同じ「甘ったるい声」で口を開いた。


「ユリウス様が、かわいそうです。エレナ様、少し言い過ぎじゃありませんか? 王太子殿下に向かって、そんな可愛げのない態度をとるなんて……女性として失格です。ねえ、ユリウス様? 私なら、殿下のことをいつまでも優しく癒して差し上げますよ?」


クロエは、エレナに向かって露骨な目つきで微笑んだ。


「泥棒猫め!!」

「ひゃあっ! ユリウス様、助けて!」


エレナが狂乱してクロエに飛びかかろうとし、ユリウスが「やめろエレナ! お前は狂ってしまったのか!」とそれを止めに入る。

庭園のド真ん中で繰り広げられる、王太子と婚約者と新しい愛人による、三つ巴の醜悪な取っ組み合い。


周囲の貴族たちは、もはや止めることもできず、ドン引きして遠巻きに見守るしかできていなかった。

王太子の威厳は完全に地に落ちた。

エレナは「悲劇のヒロイン」から「嫉妬に狂う女」にランクダウンし。

ユリウスは「真実の愛を貫く王子」から「ただの女たらしのバカ王子」に。


彼らの未来には、地獄のような政治闘争と、お互いを罵り合うだけの冷え切った家庭しか待っていないだろう。


(……ふぅ)


私はそっと視線を外し、元の体勢に戻った。

手元のティーカップから立ち上る、芳醇な紅茶の香り。

口の中に広がる、甘く繊細なマカロンの味。


「セリア様。大丈夫ですか……」


アンナが顔をしかめて提案してくる。

私は静かに首を振った。


「いいのよ、アンナ。放っておきなさい。あれは、彼らが自分で選んだ道の果てにたどり着いた『結果』なのだから。私にはもう、手に負えないことなのかもしれないわ。悲しいけれど……」


「……セリア様がそう仰るのなら」


私は背もたれに深く寄りかかり、東屋の屋根の隙間から、高く澄み切った青空を見上げた。

王都の空は、別荘のオーロラが見える空には敵わない。それでも、今の私の目には、この世界が信じられないほど輝いて見えた。


遠くから聞こえてくる、エレナの金切り声と、ユリウスの身勝手な言い訳。

前世の私なら、あの中に交ざって、ストレスで胃に穴を開けながら尻拭いをさせられていたかもしれない。

でも、今の私は違う。

私は安全圏にいる。誰にも邪魔されず、ただ自分のためだけに時間を使えるのだ。


「……あぁ」


私は目を細め、頬杖をついて、心からの声でポツリと呟いた。


「平和だわ」


風が吹き抜け、庭園の木々がサワサワと揺れる。

誰にも縛られない、完璧な公爵令嬢の悠々自適なソロ活ライフは、まだまだ始まったばかりだ。

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― 新着の感想 ―
何かありましたか?by最近拾われた主人公の飼い猫(ゴロゴロ) 猫「にゃ〜ん♡」(あ、まだ何か飲んでる。もうちょっと待つかにゃ♡)(⌒-⌒; )
昼下がりのティータイムを行うに何ら問題のない平穏な一幕だぁ……
面白かった。 盆とか年末年始とか、休み四日目過ぎると何となく不安感ある準社畜の身としては「休む(暇を楽しめる)才能」あってうらやましい。
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