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邪龍神機 イオス・ドラグーン  作者: 九頭龍
最終章 君と刻む永劫/Nを継ぐ者
86/95

6-1


 ひとしきり拍手をすると、もう一人の混沌卿が腕を広げる。


「いや、お見事お見事。まさか、ドラグーン二体が合体し、あの状態の混沌卿を圧倒するとはね。これは……うん、私もちょっと予想外だったな」


『お前は……いったい?』


「ん? 私が何者か気になるのか? 良いだろう、足掻いて足掻いて、遂にここまで辿り着いた君に、特別に教えてあげるとしようじゃないか」


 愉しそうにそう言うと、奴は自身のツルリとした仮面に手を伸ばす。俯き仮面を外すと、もう不要だと言わんばかりに放り投げ、顔を上げる。


『なっ……』


 その顔を見て、俺は言葉を無くす。瞳こそイオスや混沌卿のように真紅だが、その顔はまさしく……。


『な……なんで貴女がここに居るんだっ! アイナ博士っ!!』


 ここより遥かに時を遡った過去、そこで出会った時のままの、アイナ博士その人だった。


「はははは、驚いてるね、そりゃあ驚くよね、タツヤァ」


 アイナ博士が、グニャリと表情を歪めて笑う。俺が、あの世界で一度も見た事が無い、邪悪さを煮染めたような笑顔だった。


『お前……アイナ博士じゃないな、何者だ?』


「うん? 何だ、もう気付いたのか? その通り、私は君の言うアイナでは無い。私は、俺は、僕は、某は、拙者は、妾は…………」


 そう言いながら、グニグニと表情が変化する。


「我こそは、這い寄る混沌、ナイアルラトホテップなり。……お前達の認識で語るならば……神だ」


 アイナ博士の顔が、まるで生きているように動く影で覆われる。途端に、アイナ博士……ナイアルラトホテップから猛烈な威圧感が発生した。

 その凄まじい力は、ドラグーンを介してさえ、まるで俺達の存在そのものを揺るがす、大嵐のように感じる。

 しかし、それもすぐに止んだ。ナイアルラトホテップは再びあの歪んだ笑顔を見せる。


『くっ、その神様が、一体何してるんだよっ!!』


「ふふん、私が何をしたかだと? はははは、全てさ!」


 ナイアルラトホテップは、笑いながら空中で軽やかにステップを踏み踊る。その姿は何処か道化じみていた。


『全て!?』


「そうだともさ、タツヤ。君をここに召喚したのも、ドミニアスを唆し操ったのも、君の遺伝子情報からクローン体である混沌卿を生み出しディマイズを与えたのも、深きものどもを先導しやらせた今回の襲撃も、全て全て私がやった事さ!」


『お前が……全部の黒幕だったって事なのか!? 何故だっ! 何故そんな事をしたっ!!』


 頭の中で、これまでの事がグルグルと巡る。こいつの言う事が真実ならば、俺達は今までこいつの思惑通りに動いていた事になる。


「ふふん、そこまでは、君に教えてやる必要は無いね。……そうだ、その代わり、懐かしい相手に会わせてやろう」


 ナイアルラトホテップが、顔を掌で覆う。その手を下ろした時、その瞳は真紅ではなくなっていた。


「…………久しぶりだね、タツヤ」


 さっきまでの邪悪さが完全に消え、落ち着いたその態度に、俺は懐かしさを覚える。


『アイナ博士……なんですか?』


「そうだ。今は、だがな」


 アイナ博士は頷くと、話を続けた。


「あの神を自称する、ナイアルラトホテップなる存在に、私の意識は完全に掌握されている。いつまでこうしていられるかわからないが……せっかくだ。あの時以降の話をしようか」


『あの時……?』


「ああ、君が消えた後の話だ。ドラグーンを完成させた我々は、Cを無力化する事に成功した」


『無力化? 倒したんじゃないんですか!?』


 思わず聞き返す俺に、アイナ博士は静かに首を振る。


「いいや、奴等の首魁であり、Cという存在そのものを増殖させる特異個体だけは、その肉体を構成する組織を消し飛ばせても、核だけは壊せなかった。残された核は眠ったように活動を止め、周囲の魔素を吸収し続け、そしてやがて復活する……つまり、Cは死すら超越した存在という訳だ。その為、私達は奴の核を封印する事で一応の結末は迎えた」


『そうだったんですか……あの、ヨウコさんは?』


「……死んだよ、君が消えて間も無く、な。Cの襲撃で崩れた施設の下敷きになって、内臓を損傷した事が原因だ。……最期まで、君との約束を果たせない事を悔やんでいたよ」


 淡々とアイナ博士が答える。


『そんな……そんな事って……』


 どうやったのかは知らないが、ナイアに乗っ取られ今も生きているアイナ博士と違って、ヨウコはさすがに生きていないだろうとは思っていた。けれど、そんな終わり方だったなんて……。


「当時、私もそう思ったさ。少しでもヨウコの願いを叶えてやりたい……そう思った私は、ある細工をした。デザイエンス製造の元となる遺伝子情報に、ヨウコとタツヤ

二人の遺伝子情報が必ず入るように設定したのさ。近親交配による先天性異常を無くす事には苦労したよ」


『……俺とヨウコさんの遺伝子?』


「ああ、その時点で不可能だったとはいえ、私の自己満足で勝手に遺伝子情報を使用した事、二人にはすまないと思う」


『いえ……それは良いんです。でも、それって、つまり……』


「ああ、結果として、極一部を除き、今この世界を生きるデザイエンス、それらは全て君とヨウコの子孫ということになる」


『マスターが我……いいえ、リミル達皆の御先祖様という事ですか?』


「そういう事だ。そしてイオス、君もまたこの話には無関係では無い」

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