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ひとしきり拍手をすると、もう一人の混沌卿が腕を広げる。
「いや、お見事お見事。まさか、ドラグーン二体が合体し、あの状態の混沌卿を圧倒するとはね。これは……うん、私もちょっと予想外だったな」
『お前は……いったい?』
「ん? 私が何者か気になるのか? 良いだろう、足掻いて足掻いて、遂にここまで辿り着いた君に、特別に教えてあげるとしようじゃないか」
愉しそうにそう言うと、奴は自身のツルリとした仮面に手を伸ばす。俯き仮面を外すと、もう不要だと言わんばかりに放り投げ、顔を上げる。
『なっ……』
その顔を見て、俺は言葉を無くす。瞳こそイオスや混沌卿のように真紅だが、その顔はまさしく……。
『な……なんで貴女がここに居るんだっ! アイナ博士っ!!』
ここより遥かに時を遡った過去、そこで出会った時のままの、アイナ博士その人だった。
「はははは、驚いてるね、そりゃあ驚くよね、タツヤァ」
アイナ博士が、グニャリと表情を歪めて笑う。俺が、あの世界で一度も見た事が無い、邪悪さを煮染めたような笑顔だった。
『お前……アイナ博士じゃないな、何者だ?』
「うん? 何だ、もう気付いたのか? その通り、私は君の言うアイナでは無い。私は、俺は、僕は、某は、拙者は、妾は…………」
そう言いながら、グニグニと表情が変化する。
「我こそは、這い寄る混沌、ナイアルラトホテップなり。……お前達の認識で語るならば……神だ」
アイナ博士の顔が、まるで生きているように動く影で覆われる。途端に、アイナ博士……ナイアルラトホテップから猛烈な威圧感が発生した。
その凄まじい力は、ドラグーンを介してさえ、まるで俺達の存在そのものを揺るがす、大嵐のように感じる。
しかし、それもすぐに止んだ。ナイアルラトホテップは再びあの歪んだ笑顔を見せる。
『くっ、その神様が、一体何してるんだよっ!!』
「ふふん、私が何をしたかだと? はははは、全てさ!」
ナイアルラトホテップは、笑いながら空中で軽やかにステップを踏み踊る。その姿は何処か道化じみていた。
『全て!?』
「そうだともさ、タツヤ。君をここに召喚したのも、ドミニアスを唆し操ったのも、君の遺伝子情報からクローン体である混沌卿を生み出しディマイズを与えたのも、深きものどもを先導しやらせた今回の襲撃も、全て全て私がやった事さ!」
『お前が……全部の黒幕だったって事なのか!? 何故だっ! 何故そんな事をしたっ!!』
頭の中で、これまでの事がグルグルと巡る。こいつの言う事が真実ならば、俺達は今までこいつの思惑通りに動いていた事になる。
「ふふん、そこまでは、君に教えてやる必要は無いね。……そうだ、その代わり、懐かしい相手に会わせてやろう」
ナイアルラトホテップが、顔を掌で覆う。その手を下ろした時、その瞳は真紅ではなくなっていた。
「…………久しぶりだね、タツヤ」
さっきまでの邪悪さが完全に消え、落ち着いたその態度に、俺は懐かしさを覚える。
『アイナ博士……なんですか?』
「そうだ。今は、だがな」
アイナ博士は頷くと、話を続けた。
「あの神を自称する、ナイアルラトホテップなる存在に、私の意識は完全に掌握されている。いつまでこうしていられるかわからないが……せっかくだ。あの時以降の話をしようか」
『あの時……?』
「ああ、君が消えた後の話だ。ドラグーンを完成させた我々は、Cを無力化する事に成功した」
『無力化? 倒したんじゃないんですか!?』
思わず聞き返す俺に、アイナ博士は静かに首を振る。
「いいや、奴等の首魁であり、Cという存在そのものを増殖させる特異個体だけは、その肉体を構成する組織を消し飛ばせても、核だけは壊せなかった。残された核は眠ったように活動を止め、周囲の魔素を吸収し続け、そしてやがて復活する……つまり、Cは死すら超越した存在という訳だ。その為、私達は奴の核を封印する事で一応の結末は迎えた」
『そうだったんですか……あの、ヨウコさんは?』
「……死んだよ、君が消えて間も無く、な。Cの襲撃で崩れた施設の下敷きになって、内臓を損傷した事が原因だ。……最期まで、君との約束を果たせない事を悔やんでいたよ」
淡々とアイナ博士が答える。
『そんな……そんな事って……』
どうやったのかは知らないが、ナイアに乗っ取られ今も生きているアイナ博士と違って、ヨウコはさすがに生きていないだろうとは思っていた。けれど、そんな終わり方だったなんて……。
「当時、私もそう思ったさ。少しでもヨウコの願いを叶えてやりたい……そう思った私は、ある細工をした。デザイエンス製造の元となる遺伝子情報に、ヨウコとタツヤ
二人の遺伝子情報が必ず入るように設定したのさ。近親交配による先天性異常を無くす事には苦労したよ」
『……俺とヨウコさんの遺伝子?』
「ああ、その時点で不可能だったとはいえ、私の自己満足で勝手に遺伝子情報を使用した事、二人にはすまないと思う」
『いえ……それは良いんです。でも、それって、つまり……』
「ああ、結果として、極一部を除き、今この世界を生きる人、それらは全て君とヨウコの子孫ということになる」
『マスターが我……いいえ、リミル達皆の御先祖様という事ですか?』
「そういう事だ。そしてイオス、君もまたこの話には無関係では無い」




