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それは、巨大な魔装甲冑だった。単純に大きさだけなら、あの虎楼閣に匹敵するだろう。
見た目は鱗甲冑に似て、全身に鱗状の甲殻があり、頭部は巨大な古代の肉食甲冑魚のようだ。
右手には、それぞれが捻れ、鋭利に伸びた三本の刃を備えた三叉槍も所持している。
『ふふふ、どうです? 我が最高の魔装甲冑、海王機ダゴンの勇姿は』
両腕を広げ余裕を見せつけるダゴン。その巨体をディマイズが押しのけた。
『リグナン、お前はコスモをやれ! こいつは俺の獲物だ!』
『いいえ、混沌卿。まず打倒すべきは、最大の障害である、このイオス・ドラグーンです。そうやって、あまりワガママが過ぎますと、教主様に仕置きしてもらいますよ』
『くっ……ちっ! 仕方ない、遊びはお終いだ、イオス・ドラグーン!!』
舌打ちし、ディマイズが踏み込んでくる。振り上げられる右上段蹴りを屈んで躱す。
しかし、そこを狙ったように、今度はダゴンが脇から三叉槍を突き立ててきた。
咄嗟に身体を捻りながら、バク転で躱す。俺の脇すれすれを、三叉槍が風切り音をたてながら通過した。
『くっ、イスミルッ!』
「いつでもいけます、マスター!」
『よしっ! 《メテオライトスプラッシュ》!!』
ディマイズとダゴンに向けた両手の先から、召喚した隕石群が光の矢となって放たれる。
『ぬぅぅっ! この程度では私達を倒せませんよっ!』
『小賢しいぞっ! イオス・ドラグーンッ!!』
先の戦いで、白騎士達の装甲を易々と貫き穴だらけにした、このメテオライトスプラッシュも、ダゴンとディマイズの堅牢な甲殻の前では効果が薄いようだ。
しかし、たとえ貫通出来なくとも、今放っているのは、腐っても超超高速の隕石だ。
十分な足止めにはなっている証拠に、二体とも腕でガードしたまま動けない。
『イスミル、行くぞっ!』
『はいっ!』
イスミルの返事と共に、地中から巨大化した黒水龍が現れ、サイズは異なるが、あの時と同じように、構えた俺の右腕にグルグルと巻き付いた。
『喰らえっ! ドラグ・インパクトッ!!』
『がぁっ!』
メテオライトで動けないダゴンの腹部に、俺の拳が深々と刺さる。その瞬間、解き放たれた黒水龍がダゴンの腹を大きく食い破って突き抜けた。
『よしっ! 次はディマイズ、お前だっ!』
『ふんっ、今のでリグナンが本当に終わったと?』
『何っ!? くっ!』
混沌卿の言葉に慌てて振り向くと、裂けた腹部をそのままに、ダゴンが俺へ三叉槍を突き立ててきた。
間一髪、横ステップで回避するも、槍の動きが突きから横薙ぎへ瞬時に変化し、俺の体を大きく吹き飛ばす。
「うっ、……油断しては駄目です、マスター! あのダゴンとかいう魔装甲冑、我等に匹敵する力を持っていますっ!」
「すまない、イスミル! ……どうやら、そうらしいな」
既にグニグニと塞がり始めた、ダゴンの腹部の傷を見て唸る。冗談のような再生能力を持つコスモ・ドラグーンには遠く及ばないが、少なくとも並みの魔装甲冑が見せる回復速度では無かった。
『やれやれ、困りましたな、混沌卿。せっっかくの好機でしたのに、敵にヒントをやるなんて……』
やんわりと責めるようなリグナンの言葉に、混沌卿は鼻を鳴らし答える。
『ふんっ、あれで仕留められないお前が間抜けなのさ』
『まったく……ふう、仕方ないお人ですね。では、続きといきますかな』
再び二体同時に迫るディマイズとダゴン。俺は、餓龍剣を構え意識を集中させると、思考を最高速へと加速させ迎え撃つ。
『シィィッ!!』
打ち込まれるディマイズの右拳撃を、餓龍剣の柄で叩き逸らす。同時にダゴンから突き出された三叉槍は、振り上げた脚先で絡め、踏み付けて抑えつけた。
『ハァァッッ!!』
下から擦り上げるように、餓狼剣で体勢の崩れたディマイズの首を狙う。
しかし、刃は背後に大きく体を逸らしたディマイズによって躱され、わずかに甲殻の一部を削るに留まった。
ーーガゴンッ!ーー
その時、頭部に強い衝撃が走る。
ダゴンによって蹴り上げられたのだと理解するより前に、追撃するディマイズの右上段蹴りを腕でガードした。
『くっっ!!』
ガード越しに伝わる衝撃に耐えながら、ズザザと数歩分横に滑る。
俺はそのまま、後ろに飛び退くと、一旦ディマイズとダゴンから距離を取った。
「……まずいな……やはり、あのレベルの相手を二体同時というのは分が悪い……」
「確かにそうですね。でも、数の不利が無ければどうでしょうか、マスター」
「えっ……?」
その時、ヒラヒラと白い物が舞い落ちる。見れば、それは大きな白い羽だった。
そして、その羽の持ち主が、上空より降下し着地すると、俺を庇うようにその腕を大きく広げる。
『お兄ちゃん、お待たせしましたっ! お兄ちゃんがこいつ達を抑えてくれた間に、鱗甲冑はもうだいぶやっつけましたよ! ここからは、私もお兄ちゃんと一緒に戦いますっ!!』




