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邪龍神機 イオス・ドラグーン  作者: 九頭龍
第五章 ブエラリカを覆う影/終焉の龍神機現る
74/95

5-7

 グラリと酷い目眩がする。

 混沌卿が俺から離れ、数歩下がるのが辛うじてわかった。

 その瞬間、俺の脳裏に次々と浮かんだのは、これまでの戦いの記憶、その全てだった。


「うぶっ……」


 猛烈な吐き気を覚え、慌てて口を抑える……が、堪えきれずにその場で嘔吐する。

 たくさんの敵を殺した。肉を抉り、斬り裂き、潰し、捩じ切った。その感触と匂いが生々しく蘇り、そしてそこから生じる嫌悪感と不快感、そして何より命を奪う事そのものへの途方も無い罪悪感に、俺の心が悲鳴をあげる。

 とうとう立っている事すら出来なくなって、そのまま地面に倒れてしまった。

 涙が自然と溢れ、手足が震える。それは全身に回り、まるで凍えたようにガタガタと震え続けた。


「はは、わかったか? それが、お前からイオスが取り上げた人間らしい感情ってやつだ。なぁ、イオス。これだけ苦しむこいつを見て、まだ自分は都合の良い道具扱いしていないと言えるのか!」


「くっ……我は……すまない、マスター…………」


「イオス様……」


 涙で滲む視界の先、項垂れるイオスが見える。黒龍の体は涙なんて流せないが、今のイオスは何故だか泣いている……そう思った。

 混沌卿は、そんなイオスの姿を見て勝ち誇ったように、高らかに笑う。


「ハハハハハ! ようやく、自分が人を破滅させる化物だと自覚したか、イオス! 安心しろ、今日でお前のマスターはお前の呪縛から解かれた。後はお前がバグ女と一緒に俺についてくればいい!!」


「ざけ……るな……行かせない……行かせるものか」


 震える脚で何とか立ち上がる。心の痛みも、吐き気も、涙も依然として止まらない。それでも俺は立った。


「ん? まさかこんなに早く立ち上がるとはな……。いいか、よく考えろ。あの化物とバグ女、お前にとって、本当にそこまでする程の存在なのか?」


 まるで理解出来ない……とでも言うように、混沌卿が肩をすくめる。


「……ああ、二人とも大切だね! 俺があてもないこの世界に来て、ここにこうして立っていられるのも全て、イオスとリミル、二人がずっと、俺の隣に居てくれたからだっ!」


「ふんっ、その結果がそうして、反吐の中でのたうちまわる事でもか?」


 馬鹿にしたような混沌卿の問いかけに大きく頷く。


「ああ、構わない。……イオスッ、良く聞けっ!」


 イオスの心に響くように、声を張り上げて叫ぶ。


「奴が、混沌卿が何を言おうと、お前は俺を戦えるように、生き残れるように鍛えてくれた! お前が鍛えたマスターは、こんな事で折れたりはしないっ! だからこれ以上、お前が悔やむ事は無い。命を奪う罪も何もかも……俺が全て背負って、何度だって立ち上がってやるさ!!」


 取り返しがつかない、償いようのない罪ならば、全て背負ってでも生き続ける。その覚悟を今、決めた。

 深呼吸をし、自分の頬を思いっきり殴る。痛みで頭はクラクラとしたが、おかげで心は随分シャキッと冴えた。

 手足の震えもだいぶ治っている。これならまだ戦える。


「やれやれ……もう立ち直ったのか。お前は人間らしさが元々希薄なのかね?」


「別に立ち直ったわけじゃないさ……これは覚悟だ。そして、お前には訂正してもらうぞ、混沌卿っ! イオスとリミルは化物でもバグでもない。俺の大事な相棒だっ!!」


「相変わらず、気合いだけは超人的だな……いいだろう、ならばその気合いで、この力の差をひっくり返してみせろっ!!」


 混沌卿が飛びかかってくる。変わらず速くて重いその攻撃を、俺は必死で防ぎ続けるしか出来ない。


「……イオス様、タツヤさんを助けに行きましょう」


 その様子を見て、檻の中のリミルがポツリと呟く。だが、俯いたままのイオスは、弱々しく首を振った。


「っ! ……しかし、我は……それにここから出る方法も……」


「檻で力の封印がどうとか……イオス様がタツヤさんの頭をどうとか、そんな事はもう、どうでもいいんです」


 リミルがイオスと同じ様に首を振って話す。しかし、その瞳にはかつてない力強い意志があった。


「ただ、私は決めました。私達を信じ、私達の為に心も体もボロボロになって、それでも私達を相棒だと言ってくれたタツヤさんを助けるって! だから、顔を上げて立ってください、イオス様…………立ちなさいっ! 貴女はタツヤさんの相棒でしょう、イオスッ!!」


 突如激しく飛んだリミルの檄に、イオスの肩がピクリと震える。

 顔を上げたイオスの顔には、先程までの陰りは見当たらない。


「……そうだな、我は何を嘆いていたのか……マスターは我等をあんなにも信じてくれている。それだけで、十分ではないか。わかった……行こう、リミル。二人で我等のお人好しなマスターを助けに行こう」


「はい!!」


 二人の伸ばした手が触れ合う。その瞬間、今まで以上の黒い閃光が発生した。


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